東方高次元   作:セロリ

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95話 逃げまくるかなあ……

そりゃあもう全力で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だ…………」

 

「暇だねえ………………」

 

そう言っているのは、もちろん俺。そしていつの間にか入ってきたこいしが隣で寝っ転がりながら呟く。

 

仕事も休み。気温も生ぬるいというかちっと温かいため、なんとも言えない気だるさが体を支配してくるのだ。

 

どうしようもないほどの眠気に襲われる事も無く。かと言ってぱっちりと目が覚めるわけでもないこの感覚は、なんとも面倒くさい。

 

そんな事を思っていると、こいしがこちらにゴロンと向きを変えて微笑んで一言。

 

「春かもねえ~」

 

そう言ってくるのだ。

 

ああ、確かにそう言われてみればそうかもしれない。いや、外の景色などが分かるわけでもないのだが、一応時計の表示では4月中旬であるという事を示しているのでそうなのだろう。

 

随分と地上に行っていないなあと思いつつ、俺はこいしに返事をする。

 

「だろうねえ……道理で眠くなるわけだ……」

 

そんな事を言いながらも、自分はちっとでも疲れないように体勢を変えていく。

 

すると

 

「あ、そうだ……」

 

と、こいしが何かを思い出したような表情で素っ頓狂な声を上げる。

 

そして、こちらの方を見ながらちょっと困ったように苦笑してくる。

 

俺はその言葉よ表情妙に気になってしまい、彼女にちょっとでも良いから情報を聞き出そうと口を開いて質問する。

 

「そうだって、何が?」

 

すると、その苦笑から少々赤味を帯びた恥じらいを含んだ表情へと変わる。

 

「ええとね……春って言ったら~……?」

 

なんとももったいぶった言い方である。

 

これでは本題に入るまでに随分と時間を要してしまいそうだ。だが、今はのんびりとしているため、そこまで彼女をせかす必要もないだろうと思い、俺はうんうんとうなずくだけにする。

 

「つれないなあ……春って言ったら?」

 

と、今度はこいしが答えをせかしてくる。

 

ここは答えなければ彼女の機嫌を損なわせてしまうだろうと思い、素直に答えさせる。

 

「桜ー」

 

そう言うと、彼女は求めていた答えと違ったらしく、ぶーぶー言いながら首をフルフルと振る。

 

「違うってば! いい? 春って言ったら発情期なんだってば!」

 

と、とんでもない事を言ってくるこいし。

 

思わず俺は飲み込もうとしていた唾液を気管支に詰まらせてしまい、ゲホゲホとせき込んでしまう。

 

「ゲッホゲホ! エッホゲホ! …………けほっ………………一体なんてこと言うんだこいしさんや」

 

春を連想するもので、よりにもよって発情期とかアホなんじゃなかろうか?

 

と、そんな事を言うのはさすがに失礼なので心の中にとどめておく。

 

すると、こいしが

 

「だって、欲望に忠実な妖怪らしい考え方だとは思わない?」

 

と、そんな事を言ってくる。

 

たしかに、欲望に忠実だとは思うが、それは色々と変だろと思ってしまうのは俺がおかしいだけなのだろうか?

 

いやいやまてまて。俺の考えは間違ってはいないはずだ。ちょっとこいしが妖怪の中でも特殊なだけなんだ。そのはずなんだ。

 

そう思う事でしか問題の解決の糸口が見つからない。

 

さてさてどう返したものかなと考えてはいるのだが、なかなかいい考えが浮かんでこない。

 

が、そこで1つだけ自分の頭にいい考えが浮かんできた。

 

それは

 

「こいしさん……さとりさんから変態だって思われるよ?」

 

さとりの事を引き合いに出してしまうのだ。そうすると必ずと言っていいほど彼女は狼狽する。

 

この地霊殿では唯一の姉であり、実の家族なのでそう思われる事があまり得意ではないのだ。

 

だから

 

「そ、そんなことないもん! お姉ちゃんが私の事を変態だって言うはずないじゃない?」

 

と、明らかに動揺しているのが見て取れる。

 

そして俺の方を見ながらちょっとだけ怒ったように頬を膨らませて言ってくる。

 

だが、それも束の間。すぐに別の表情へと転換していく。さすが妖怪と言うべきか、楽天家とでも言うべきか。恐らく閉じた目のせいだろう。

 

こいしはそのままの表情でこちらをニマニマと見ながら言ってくる。

 

「でもさあ……この時期の事は耕也だって喜んでるんじゃな~い?」

 

え? と俺が言う暇も無くこいしは立て続けに言葉を放ってくる。

 

「だって、発情期なら俺だってうへへ。とか思ってるんじゃないの~?」

 

なんてこと言うんだこの変態は。

 

発情期ってのは妖獣にあるという事は知っていたが、其れは特別な例を除いて発情期ではないだろう。おまけにその例に当てはまる妖怪がいたとしても、それは妖獣の中でも数十年周期とかのレベルでの一部なんじゃなかろうか?

 

と、真面目にこんな事を考えてはみるものの、身内にちょっとその例外に当てはまらない特殊な妖獣がいるのを思い出し、ちょっとまたそこで考えてしまう。

 

(藍の場合は……いや、あの方はいるだけで反則レベルだから特に気にする必要は無い……のか?)

 

つくづくあの妖獣は例外のその上を突き抜けていくなあと思いながら、俺はこいしの方を見ずに一言。

 

「そうですねーよかったですねー」

 

そう雑に返してやる。自分で言うのもなんだが、なんとも雑な返し方だとは思う。

 

とはいえ、彼女の言う事はそれ相応に俺の嗜好……もとい生物学的な興味を惹かれたのだが、さすがにここはこの返し方でいかなければ拙いだろうと思ったからにすぎないのだが。

 

だが、この返し方はこいしには大した効果を及ぼさなかったらしい。

 

俺の方を見ながら一瞬ぶすっとしたもの、すぐにまた元の顔に戻る。

 

「ふ~ん、そんなこと言ってもいいんだあ……」

 

と、よく分からない事を言ってくる。

 

だが、その言葉の裏にはこちらにも何かしらの準備はあるんだそと言う意思表示の他ならない。

 

とはいえ彼女に妖いいできる対抗手段は一体どんなものがあるのだろうという考えが即座に浮かびあがってくる。

 

(彼女が俺に対して持つ対抗手段……? どんなものがあっただろうか?)

 

が、いっくら考えてもその対抗手段とやらが頭に浮かんでこない。

 

まあ、とりあえずこんなところでゴロリと寝っ転がってる彼女に何かできるわけじゃないか。

 

「あ~あ、せっかくいい情報教えてあげようと思ったのに~」

 

そういいながら、コロコロと反対方向へと転がり、俺から遠ざかっていく。

 

普段ならば負け惜しみにしか思えないような言葉。だが、なんとなく俺は彼女の言葉が気になってしまい、聞き返してしまう。

 

「いい情報って……?」

 

そう聞き返し、こいしがにんまりとこちらに振り返ったと同時に、ものすごい音が玄関から響いてきた。

 

ドンドンバンバンといった何かに激しく玄関がドつかれる乾いた音。

 

そして、同時に何か争うような声も聞こえてくる。

 

「駄目だってば! 耕也に失礼じゃないか!」

 

「ダメ! もう私我慢できない!」

 

どうやら人数は二人で、声があちらこちらで反響しているためか誰の声だかわからない。

 

が、こいしには誰の声だかわかったようで、あっちゃー、と言いながらおでこに手をやって苦笑してる。

 

俺はこの状況がいまいち把握できず、こいしに質問を敢行する。

 

「一体何が起きて―――――っ」

 

言葉を発した瞬間、凄まじい音と共に何かが吹き飛ばされ、ガラスが飛び散る音と金属の乾いた冷たい音が響き渡る。

 

「な、なんだ!?」

 

あんまりにも大きな音のため、俺は思わず大声で叫んでしまう。

 

隣にいたこいしもこの音にはびっくりしたようで

 

「あれ、さすがにこれはまずいかも……」

 

と、小声で言ってくる。

 

何がまずいんだ何が! という感想を持つが、あまりの事態の急変模様に口から言葉が出てこない。

 

そして、ようやくぎゃんぎゃん喚いている玄関付近の二人が誰なのか分かってきた。

 

お燐とお空である。

 

が、お燐は比較的冷静というか、お空を止めようとしているのにも拘わらず、お空は全くもって冷静でない。むしろ邪魔をするお燐を疎ましく思っている節さえある。

 

普段あんなに仲が良い二人がこんなに暴れまわっているのは一体何故だろうか?

 

なんて疑問も頭の中に湧いてきたのだが、次に響いてきた音によって頭の中から吹っ飛んでしまった。

 

ドタドタと激しく廊下を響かせながら、二人がこちらの居間にまで走ってくるのが分かる。

 

「お燐は付いてこないでよ!」

 

「何言ってんだい! 耕也死んじゃうって!」

 

なんだかとんでもなく物騒な声が聞こえてくるのは気のせいだろうか?

 

俺が死ぬ事態ってのは一体どんな事態なのだろうか? と、考えてみようとは思ったものの、その前にこいしを見てしまう。

 

が、こいしは俺の方を見て照れるように、えへへ~、と言いながら顔を赤らめるだけなので何も分からない。

 

そりゃなんじゃらほいと思いながら、こいしから襖に視線を移すとその瞬間、スパンと小気味いい音を立てながら乱暴に開かれる。

 

そして、その開かれた先には、顔を真っ赤にしながらこちらの方を見つめるお空と、必死に連れ戻そうと進行方向と逆に引っ張っているお燐がいた。

 

お空はこちらの顔を見た瞬間、まるで光りものを見つけたカラスのようにパアッと顔が綻び、お燐はなおさら拙いとでも言うかのように顔を歪めて必死に連れ戻そうと頑張る。

 

「見つけたっ!!」

 

そう声を発したのはお空であった。

 

まるでその姿は、風呂上がりの火照りそのままなのではないかと思うほど赤くなっている。

 

ただ、彼女の姿は衣服を着たままなのにもかかわらず、裸でいる時よりも妖艶かつ煽情的であった。

 

思わず心臓が高鳴り、彼女の姿を凝視してしまう。ようは目を離す事が出来なかったのだ。

 

そして、彼女が小さく開いた股からは、粘度の高い液体が大量に滴っている。

 

それを見た瞬間に、俺は顔に火がついたかと思うほどに熱くなる。

 

そう、まるで気化したガソリンに突如引火してしまったかのように、突然である。

 

彼女の股から大量に垂れている液体は一体何なのか? そんな事を確認するまでも無い。もちろんアレだ。

 

ああ、これはまずいという考えが噴水のように湧きあがってくる。

 

そして、この事を何かしらの言葉にしようと思った瞬間にお空が口を開く。

 

「耕也! 私と交尾しよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「は…………?」

 

思わずお空に向かってそんな事を言ってしまう俺。

 

いや、頭の中ではすでに分かっていたのだ。これがお空の発情期、こいしの言っていた通りなのだと。

 

だがこれを素直にそのまま受け入れられるかと言えばそうではない。

 

だから俺はお空に言ってしまったのだ。

 

対するお空は俺の言葉に、不思議そうな顔をしたと思えば、さらに蕩けた表情を浮かべながら近寄ってくる。

 

「だからぁ~……交尾しようって言ってるんだってばあ……」

 

そして、ゴポリという音と共にねたぁっとした液体の塊が垂れて畳を濡らす。

 

もう限界である。

 

一刻も早くこの意味不明な状況から逃げ出そうと、俺はさっさとジャンプへの集中をしようとすると

 

「ほら見てぇ……私のこんなに……」

 

そう言いながらスカートをたくしあげてくるのだ。

 

それは素早い動作ではなく、あくまで雄の情欲を誘うかのような煽情的なしぐさで。

 

もちろん、こんな事をされては男である俺は溜まったものではない。

 

ゴクリと溜まった唾を飲み込んで、その状況の推移を見守ることしかできなくなる。

 

そして、彼女の液体の垂れる元が段々と姿を現そうとしたときに、俺の全ての視界が閉ざされてしまう。

 

「やっぱだめ~!!」

 

そう、聞こえてきたのはこいしの声であった。

 

それはもうなんとも大きな声で。突然視界が切れてしまった挙句に大声で叫ばれてしまってはたまったものではない。

 

「ちょ、ちょっとこいしさん!?」

 

そう俺が叫ぶも、こいしは頑として俺の声を受け付けなかった。

 

「だめったらだめ! やっぱ見ちゃダメー!!」

 

もちろんそれは彼女の言葉が正しいのだろうが、やっぱりちょっともったいない気がするのは俺が男だからだろう。

 

そして、その声に賛同するかのように奥からお燐の声も聞こえてくる。

 

「やっぱ駄目だって言ったでしょお空!このままやったら耕也死んじゃうって!?」

 

「お燐は黙ってて!!」

 

焦ったお燐の声に対して、お空は興奮しながらの大声。

 

見えないから状況はなんとも把握しづらいのだが、とりあえず険悪と言うわけではない様だ。

 

「こいし様! こいし様だって言ったじゃないですか!? お空なら犯っちゃってもいいよって!」

 

お空がそう言うと、やっと手が外され視界が確保される。

 

お空は先程の姿勢から元に戻っており、相変わらず液体が垂れてはいるのだが、表情が先ほどよりも不機嫌になっている。

 

対するこいしはまるで痛いところを突かれたかのように慌て始める。

 

「た、確かに言ったけどさあ~……」

 

「だったら良いじゃないですか! 私に抑制剤入れなかったのもこいし様と決めたことですし!」

 

「う、うん…………良いけどさあ……」

 

抑制剤などと言う危ない言葉が聞こえたが、こいしはお空の言葉に反論できずにいるようだ。

 

とはいえ、俺もこいしに言いたい事がある。お前が関与していたのか。と。だが、そんな当事者である俺の事など気にせず会話は進んでいく。

 

「なら良いですよね!?」

 

そういいながらお空は俺の方へとゆっくりと近づいてくる。

 

少々足がおぼつかないように見えるが、その目は俺の顔から決して離さない。

 

獲物を見つけ、今からかぶりついてみせるとでも言うかのような鋭く強い目つき。

 

いつの間にかお燐は彼女の腕から手を離し、もう諦めたとばかりに苦笑している。もうこの娘を止める術はないとでも言うように。

 

おのずと心拍数が上がってくる。

 

来ないでくれと言いたいが、其れが適う訳も無く。

 

目の前まで迫ってきたお空は、俺に跨る様にしゃがみこんで一言。

 

「ね、しよ?」

 

誘惑するような言葉。雄を確実に堕とし、雌が貪るという事を如実に表す言葉。

 

俺にはお空がもはや唯の雌ではなく、淫魔にさえ見えてしまった。

 

見えてしまったからこそ。俺は彼女から逃げるため、目の前の景色を吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

一瞬でジャンプした俺は、さとりのいる地霊殿に飛んできた俺は、縋るようにドアをノックし始める。

 

「さとりさん! さとりさんいますか!? お願いします開けてください!」

 

そう俺は騒がしく扉をたたく。ガンガンガンガンと凄まじい重厚音を立てながら、ドアノックハンドルを金属板にぶつけまくる。

 

そうする事十秒。

 

ようやく俺の焦燥感が内部に伝わったのか、カチャリという音共にドアが開かれる。

 

「何でしょうか耕也?」

 

そこには、もうすでに貴方の言いたい事は分かっていますよと言わんばかりのため息をしながら口を開くさとりがいた。

 

しかし、その表情はいつもの冷静さとは程遠く、随分と気が沈んでしまっているかのような苦々しい表情。

 

そこから俺は推測する

 

つまり、今回の発情期に関する全ての件を、彼女は把握していると考えてもいいだろう。いや、この表情からはこの事態を苦々しく思っているに違いない、と。

 

もし、さとりも乗り気で拘わっていたとしたら、詰問して全ての事を吐かせるのだが、この表情をされてしまえばさすがにこちらの気勢も削がれてしまう。

 

さてさてどうしたものかなと思いながら、俺は彼女にどう言おうかと思ったのだが、その前に彼女が俺に口を開いた。

 

「耕也さん、今回の事は申し訳なく思ってるわ。普段こいしがご飯に抑制剤を入れているのだけれども、今回はお空の分には入れなかったらしいの。なぜだか理由を聞いても話してくれなかったから、細部まで把握してるわけではないのだけれども……」

 

扉を閉めて玄関で話し合う俺達。さとりが彼女たちを把握しきれていないという事は分かってはいるのだが、今回の事態に対してここまで穴だらけだと正直思わなかった。意外である。

 

さてさて、このままどう動けば彼女の発情を止め、そして円満に解決するのかなと思っていると、1つだけ案が浮かびあがった。

 

「さとりさん、1つだけ考えがあるのですが……さとりさんの協力も必要です」

 

そう俺が彼女に伝えると、彼女はゆっくりと頷き協力を了承した。

 

そして、その返事に俺は返すように案を話し始めていく。

 

「まず、このまま私が逃げおおせたとしましょう。その際、彼女は必ず次の日に備えて地霊殿に帰ってくると思います。さとりさんの事が大切ですからね。そして、その帰ってきた際に、抑制剤とやらを混ぜてください。そうすることによって、なんとか次の日にはあのあっけらかんとした彼女が見られると思うのですが…………いかがでしょう?」

 

ぶっちゃけこの作戦はさとりの協力はほとんど必要ない。抑制剤を食事に混ぜるだけ。

 

恐らく俺が逃げてる途中で食べ物で釣ろうとしても、俺の事ばかりを見て餌には全く興味を示さないだろうから、意味はなくなってしまうだろう。

 

そしてさとりは俺の言葉に対して一定の理解を得たのかコクリと頷き賛成の意思を示してくる。

 

「ありがとうございます」

 

その言葉に安心した時、俺の中に1つの疑問が浮かび上がってきた。

 

それはなんとも単純な事であったが、妙に俺の心の中に残ってしまい、ついつい彼女に聞いてしまう。

 

「あの、1つ聞きたい事があるのですが……。いいですか?」

 

なんとも変な質問かつお空に失礼なのかもしれないが、今後彼女から逃げおおせるためでもあるし、仕方がないかなと自分に言い聞かせながら聞く。

 

「ええ、良いですよ」

 

その言葉に頷くようにしてから彼女に向って口を開いていく。

 

「まずですね、彼女が現在発情期と言う状態であるという事に間違いはないですか?」

 

そうストレートに聞いていく。この案件に関してはもう一度確実に聞いておくのだ。

 

俺の言葉に彼女はごく短い時間で頷き、次の言葉を促してくる。

 

「そこでですね、1つ疑問に思ったのは、他の雄の妖怪に興味を示さないのかなと思ったわけですよ。今発情期ならなおさらだと思うんですよ。其処らへんはどう把握してます?」

 

彼女の行動パターンについて、少々穿った事を聞いてみる。

 

そうすると、さとりは少々困ったように顎に手を当てて、考え込んでしまう。

 

この行動から読み取れるのは、彼女はその話題が上った場面に遭遇した事がないのか、単に把握していないだけなのか。

 

そう俺は予想くしていると、突然背中に衝撃が走り、二つの大きくやわらかい感触がぐにゅりと押しつぶされるのを感じた。そして、同時に

 

「そんな訳ないじゃない」

 

と、妙に艶っぽく、それでいてドロリねっとりとした声がこちらに聞こえてくるのだ。

 

また、その声の持ち主は俺の腹部に両手をしっかりとまわして逃れられない様に拘束し、首筋に息を吹きかけてくる。そして

 

「私が他の雄に興味を示す訳ないでしょう?」

 

と、なんとも大人びた事を言ってくるのだ。

 

「こ、耕也さん……?」

 

突然の闖入者に引きつった表情をしながら声を震わせるさとり。

 

何がいいたのかはよくわかる。俺も怖くて声が出ないんだ。

 

でも、ちょっとは声を出さないといけないなあなんて思いながら、俺は言葉を紡ぎだす。

 

「いやあ、俺より筋肉あってたくましい奴ならほら、商店街にもたくさん……」

 

が、そこでその声も終わってしまう。

 

なぜならお空が俺の口を手で塞いでしまったからだ。

 

目の前にいるさとりは、今までこんなに大人びたお空を見た事がないのか、口をパクパクさせて茫然としてしまっている。

 

うん、俺も同じ気持ちだよ。と、口がきけたらぜひ言ってあげたい言葉である。

 

そして、俺の手を塞いだお空は、流れる水のような滑らかさで言葉を紡ぎだしてくる。

 

「そんなのよりも耕也を私は選ぶよ? だって耕也、私の卵産み……見たいんでしょ?」

 

そうとんでもない事を。言った覚えのない事を言われた気分と言うのは相当びっくりするもので、俺は思わず口を塞いでいる手を首のふりでほどいて反論する。

 

「言ってないってば!」

 

どうやってここに音一つ立てずにこの場に来れたのか、そして何故気配を感じさせずにここへ来れたのか。

 

そんな疑問よりも先に否定の言葉が出てしまった。

 

そして、俺の言葉に非常に不快感を覚えたのか、お空は俺に向かって強い言葉を投げかけてくる。

 

「嘘言わないでよ! 私が持ってきた卵見て顔赤くしてたじゃない! 私の卵ほしかったんでしょ? ね、欲しかったんだよね? じゃなきゃあんな事しないよね?」

 

と、早口で捲し立ててくるお空。その早口、意気込みは俺の反論を一切受け付けないとでも言うかのように強烈な物であった。

 

お空の口からこんな言葉が出てくると思っていなかったのか、さとりは

 

「卵……お空と耕也のたまご…………たまご……」

 

と、言いながら顔を真っ赤にして上を見上げ始める…………俺だって現実逃避してしまいたい。

 

そうこうしている間に、お空の締め付けが段々強くなり、このまま前に押し倒されてしまいそうである。

 

「ね、交尾しよう? 子作りしよう? 耕也と私ならきっと強い子が生まれるって! …………私の卵産みも見られるよ? 1個目はもう殻まで完成しちゃったけど、2個目はまだ準備段階だし、大丈夫だよ? ね? いいよね?」

 

そう言いながら、必死に懇願するように誘惑の言葉を述べてくるお空。もう色々と限界に来てしまっている。俺もお空も。

 

何か言い返そうと思ったのだが、何を言っても彼女の気持ちは変わらないだろうし、第一俺自身がこの急展開さのせいで少々言葉が出せずにいる。

 

が、ソレがいけなかったのか、お空は更に体重をかけ始めたのだ。

 

「沈黙は肯定って事で良いよね? じゃあ、頂きます……」

 

と言ってきたのだ。

 

ついにその時がきたかと思った瞬間、身体が動かせずとも、一気に集中を開始した。

 

「えっ!?」

 

という声が聞こえ

 

そして

 

「だめええええええええ!!」

 

そんな声が聞こえた気がしたが、俺はすでにジャンプを開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

ジャンプした瞬間、何か重いモノが削れ吹き飛ぶ音があたりに木霊す。身体は領域の御蔭で問題は一切なく、そのまま重力に引かれて地面に着地する。

 

そして、着地したと同時にあたりを見回すと、自分のいる場所は洞窟内とみて間違いないようだ。

 

「なんとか来れたか…………」

 

あの状況下でとっさに集中してここまで来れた事にホッとし、そう呟いた瞬間

 

「こぉ~~~らぁ~~~~っ!!」

 

奥から大きく恨めしそうな声が響き渡ってくる。

 

それはこちらが思わず身構えてしまうほどのものであり、なんとも不気味である。

 

が、その声には聞き覚えがあり、姿を現すとともにその声の持ち主を特定することができた。

 

「や、ヤマメさん!」

 

そう、この洞窟の持ち主はヤマメだったのだ。

 

そしてその持ち主のヤマメはとんでもなく不機嫌になっている。

 

眉はつり上がり、少々人間より大きめの犬歯が口からはみ出て、怒りを如実に表している。

 

そしてそのままの顔で

 

「耕也ああああああ!」

 

俺の声に反応せずに怒鳴りつけてくるヤマメ。これは結構……というよりかなり怒っているとみて間違いない。

 

「一体なんてことしてくれたんだい! 私の家が滅茶苦茶じゃないか!」

 

と言って、俺の後方を指さして言い始めるヤマメ。

 

その指に釣られて俺も後ろを見ると

 

「あ、これだったのか……」

 

と、思わず声を上げてしまう。

 

そう、先程何か当たってしまったと思ったが、これだったのかと。

 

そう俺は認識した瞬間、その洞窟が完全な姿である様に脳内で描き、力を込める。

 

すると、すぐさまその効果は表れ、洞窟内に散らばった破片をかき集めて元通りに修復していく

 

と、修復した瞬間に俺はヤマメへと詰め寄って一言要求する。

 

「家を壊してしまったのは謝ります。ごめんなさいヤマメさん! ですがちょっと深い訳がありまして……それでですね、ええと……俺を匿ってください!」

 

俺は誠心誠意彼女に謝罪し、そして何とかお空から匿ってもらえるように頼み込む。

 

無論、全て直したのだからそれで水に流す事にするという意図もないし、そんな訳にはいかないとは思うが、とにかく現時点では急いでいるので、なんとか頼み込む。

 

「ま、まあ良いけど…………って、え……? 喧嘩したの紫達と?」

 

と、俺の言葉をなんとも的外れな事を言ってくる。と言うか突然である。

 

俺はいやいや違うといったジェスチャーをして、彼女に訂正をしていく。

 

「いや、実を言うと――――」

 

そう俺が言った瞬間にである。

 

「耕也見つけたああああああっ!!」

 

どうやって嗅ぎつけたかは分からないのだが、お空がここに詰めかけてきたのだ。

 

もう泣いちゃいそう。

 

ジャンプしたのにもかかわらず、彼女がすぐに追いつくのだ。しかも地霊殿とは真反対方面で距離もかなりあるはずなのにだ。

 

「え、何この状況……」

 

と、ヤマメがポツリと一言言った瞬間、お空がヤマメの方を向いて叫ぶ。

 

「ヤマメ! 耕也押さえて!」

 

あんまりの迫力、剣幕にヤマメがお空の言葉に素直に従ってしまい、俺を後ろから脇をかけるようにして拘束してくる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「ごめん、なんかしなくちゃならない気がしてさ……」

 

と、困ったように言いながらも、その言葉にはなんとも言えない喜びみたいなものが含まれていた。

 

そう、まるでこの状況を楽しんでいるかのような話し方。

 

やっぱ妖怪だよなと思ってしまう。

 

面白い事に関しては、貪欲な妖怪たち。もちろんそれは長い生を歩むために欠かせないカンフル剤の役割を果たしてもいるからだろう。

 

だけれども

 

「無理っ! 逃げる!」

 

抱きついてこようとしたお空から逃れるため、俺はまたもジャンプを開始する。

 

たぶんお空はヤマメに抱きつく形となるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後もお空と俺の追っかけっこは続いた。

 

幽香のところでも

 

「幽香様お願いでございます匿ってください! いや、本当マジで!!」

 

「ちょっと耕也いきなりどうしたのよ!」

 

「そこの筋肉女! 耕也を引き渡して!」

 

「何ですってこの糞鳥が! 焼き鳥にするわよ!!」

 

といって、すぐに見つかって喧嘩になったり。

 

 

 

 

勇儀のところでも

 

「勇儀……頼むからお空が来ても絶対にいないって言ってくれよ?」

 

そう言って、俺は部屋にこもっていたのだ。

 

勇儀はもちろん快く了承してくれるかと思ったんだが

 

「いや、私嘘吐けないし……」

 

と言われて、結局

 

「耕也見つけた! そこの鬼女! さっさと耕也引き渡して!」

 

「いきなり何だお前は! 失礼だろうが!」

 

「うるさい行き遅れ! 売れ残り!」

 

「なんだってこのガキが! ぶっ潰す!」

 

となってしまい、全く話にならなかった。

 

 

 

 

また、幽々子のところでも

 

「ごめん、ちょっと本気でごめん! 申し訳ないけど匿ってください!」

 

と、頼み込むと

 

「あらあら……私の家に永久就職するなら考えてあげないことも無いわ?」

 

なんて事を言い始めて反魂蝶をぶっ放してくるのだ。

 

これにはたまらんと、俺は素直に地底へと退散する羽目になったのだ。

 

 

 

 

 

 

「もう無理。もう無理だ。体力の限界」

 

そういいながら俺は自宅の畳の上に寝っ転がる。

 

たび重なる力の国司により体の心拍数は跳ね上がり、ひどい疲労が体を蝕んでくる。

 

一呼吸するたびに肺がチクチクと痛み、息をすることすら億劫になる。

 

ぜえぜえはあはあと、酸素を送るために呼吸をし、なるべく早く回復させようとするのか、生活支援が勝手に周囲の酸素濃度を高めてくれる。

 

「マシになってきた……」

 

そう思っていると、真上に隙間が発生し始める。

 

「え?」

 

なんて素っ頓狂な声を上げていると、そこからなんとお空が降りてきたのだ。

 

彼女が俺の事を執拗に追いかけてこれたのは、紫が一枚噛んでいたからだったのか。と素直に思う。

 

でも、なぜ紫がこの事について噛んでいるのか今一理解が及ばないが、どうせ面白がっているのだろうと憶測をしてしまう俺がいる。

 

そして、俺に跨るように乗っかっているお空は、先程の上気した赤く妖艶で蕩けた顔ではなく、少々不安そうな顔でもあった。

 

お空はその不安そうな顔をさらにさらにしょんぼりさせながら、両手を胸のあたりでモジモジさせながら口を開いてくる。

 

「ねえ、耕也……?」

 

「どうしたの?」

 

すると、ちょっとだけ顔を赤くさせながら

 

「どうしてもだめ……? 私とするのは嫌……?」

 

と、懇願するように言ってくる。

 

少々真面目な話と受け取ってもいいだろう。だから、俺なりに彼女の事を考えて結論を出していく。

 

まず、お空は滅茶苦茶美人である。それは誰の目から見ても明らかであろう。

 

それがこちらの事をこんなにも求めてくれる。それは確かに男として、雄として非常にうれしい事に違いはないだろう。

 

だが、しかし俺には紫達がいる。もうこれ以上幸せを手に入れれば、そのうち俺が死んでしまいそうである。すでに手遅れだろうが、あまりこれはよろしくない。

 

そして、なによりも彼女の感情が一過性であるという事を気にすべきだろうと俺は思う。

 

確かにb彼女は現在発情期であるため、其れが彼女の気持ちを押し上げここまでにさせているのかもしれないが、いざ収まってみればなんとも思っていなかった。だなんて双方に悪影響であろう。

 

だから、俺は彼女の言葉にこのように返答する。

 

「ごめんねお空……。思ってくれるのは嬉しいけれども、其れは一過性のものであって、本心じゃないんだ。本当に自分のためにはならないんだ……」

 

突き放すのもやさしさと言う言葉があるが、俺にそういった事は出来ない。だから、彼女に対してはやんわりとした返し方をする。

 

すると、この言葉も彼女の中では予想の範囲内であったのか、こちらに身を乗り出して一言。

 

「本当にダメ……?」

 

今にも涙をこぼしてしまいそうである。

 

やんわりと断ったはずなのだが、ここまで悲しそうな顔をされるとこちらの罪悪感の方がドロドロと湧きあがってくる。

 

そして、その罪悪感を払しょくしたいのかよく分からないが、俺は逆質問をしていた。

 

「じゃあ、お空。逆に聞くけれども、どうしてそんな俺に…………?」

 

そう質問すると、耐え切れなくなったのか、お空は顔をくしゃりと歪ませて涙をぼろぼろと流し、こちらへさらに顔を近づける。

 

「だって……だって……抑えきれなかったんだもん。こいし様に抑制剤ぬかれて、体が熱くなって、それでそれで耕也を犯しても良いよって言われて、でもでも何とか我慢しようとしたけど、其れでも我慢できなくって……。他の雄なんて絶対嫌だし……さとり様の事馬鹿にするし。でも耕也なら私の卵の事も話題にしてたし、さとり様の事馬鹿にしないし、私の事も受け入れてくれるかなって……そう思って…………………………思って……」

 

そこまで涙をぼろぼろと流しながら言ってきたお空は、言い終わった途端に俺の胸へと顔を埋め、わあわあ泣き始める。

 

本来なら俺は悪くは無いはずなのに、何故かこの状況だと俺が悪いようにしか見えない。

 

だが、このまま彼女を放っておくのも俺の気持ちが許さないので、ゆっくりと背中をポンポンとたたいてやる。

 

それでも彼女が泣きやむ気配は無い。

 

「ごめんねお空…………」

 

だから、唯謝ることしかできない俺。何とも情けない。さて、どうしたものかと考えるも、中々良い案が浮かんでこない。

 

確かに彼女は今回の被害者とも言うべきだろう。それが此処まで我慢して俺を想ってきてくれたんだ。でも、それに応えるのは拙い。

 

この何とも言えない拮抗した状態が俺を余計にいらだたせる。

 

抱きしめてあやすのも一つの手かなと思った矢先に、再び隙間が上に開いた。

 

そして、その中から見覚えのある顔が出てくる。

 

もちろん、その顔は見慣れた妖怪である紫だった。

 

「女の子を泣かせるものじゃないわよ? ちょっとは相手してあげなさいな」

 

そう言ってるあんたが関わってるというのは自覚してるのかね? と言いたいが、あいにくそんな言い返せる状況じゃないので、渋々頷くだけにする。

 

とはいえ

 

「いや、流石に身体を…………ねえ?」

 

と、わんわん泣くお空を撫でつけながら紫に問う。

 

すると、俺の言いたい事は全て分かっていたかのように、微笑んで一言。

 

「すでに此方は説得してあるわよ。幽香は少し梃子摺ったけど……」

 

そして、その一言を偶々聞いたのか、お空の声が突然途絶える。

 

一瞬疲れて眠ってしまったのかなと思ったが、実はそうではないようだ。

 

思わず撫でつける手を止め、紫から視線を外してお空の方を見ると、歓喜の表情を浮かべ、顔を真っ赤にし、眼を爛々に輝かせながら此方を見てくるお空がそこにいた。

 

「紫、本当!?」

 

と、今まで長い事お預けを食らっていた犬が、漸く良しという言葉を聞いた瞬間のように、凄まじいモノがあった。

 

「ええ、本当よ」

 

俺の意見等一切考慮せず、自分の意見をスラスラとお空に述べてしまう紫。

 

もうこのような振り回され方は何度目だろうか? 数えるのも億劫になってくる。

 

「では、ごゆっくり~」

 

そう言って、俺達を見て微笑み、手を振りながら隙間の中へと潜って行く紫。

 

あっという間にその姿が消えたと思うと、今度は胸に大きな衝撃が来る。

 

勿論その衝撃を与えてきたのは、お空であり、此方に全力で体重を掛けてくるのが分かる。

 

ああ、もうこれ以上は逃げたら駄目だろうなと思いながら、彼女の大きな胸の感触を服越しに味わって行く。

 

「ねえ、いいよね?」

 

最初のころとは違い、焦ったような表情ではなく、ただただ蕩けた表情を前面に押し出している艶やかな女がそこにいた。

 

その言葉に思わず背筋が震えるが、何とかこらえてコクリと頷く。

 

 

 

 

 

 

「ほら、まずは一つ目の卵が邪魔だから、産む所しっかり見て……? 把握して? さわって? ……………………ね?」

 

耕也は彼女の言葉にコクリと頷きながら、恐る恐る目をやる。

 

「ほら、こっちに手を持ってきて。割れない様に受け止めて…………?」

 

耕也の手をグイッと引っ張り、臀部付近にまで手を持って言ってやる空。

 

クチャリという音と共に、空の身体がビクつき、何かに耐えるように小さく溜息を吐く。

 

小さく小さく息を繰り返してから、耕也を見上げるその姿。艶のある唇が震え、そのたびにふるふるとした息が漏れ出る。

 

耕也を快楽に耐えながら必死に見て、ふふっと微かに笑って一言つぶやく。

 

「もうすぐ出てきそうなの…………………分かるでしょ?」

 

確かに耕也の手の感触からすれば、もう少しで出てきそうなのが分かる。すでに人差し指の先に堅い感触があるのだ。

 

ねっとりとした愛液が垂れ落ち、その卵の排出を促そうと必死になっている。

 

「ふぅ…………ん………………んぅ…………!」

 

下腹部に力を込め、更に更に排出を促していく。

 

ソレが彼女にとって快楽を生み出しているのか、何とも悩ましげな声を出しながら、ぶるっと腰が震えるのだ。

 

彼は、空の余りの煽情的な姿に、思わずゴクリと唾を飲み込んで、彼女の手に操られるまま左手を動かされる。

 

クチャリという音がしたと思ったら

 

「うあう……!」

 

と、悲鳴を上げる空。

 

そしてもっともっとと言いながらゆっくり、ゆっくりと排卵を促す。

 

またそのたびに声を震わせながら嬌声を上げて悶えるように腰をゆっくりと振る空。

 

顔はすでに赤くない所は無いほど赤くなっており、汗がだらだらと流れ、服をじっとりと濡らして、たわわに実った胸を透けさせる。

 

また、胸も眼の前の男に弄って欲しいとでも言うかのように、彼女の体勢で自由自在に形を変えて情欲を誘ってくる。

 

そして大凡十分程経ったところだろうか。

 

「ほら……触って? 落ちてくる…………よ?」

 

くちゅりという音、まるでペンキを伸ばす器具が奏でるようなネチャネチャとした音と共に、こぽりと粘液が垂れる。

 

「んっく……うああぁ」

 

そんな快楽にまみれた声と共に、ぬちゃあっと白い楕円球のようなモノが男の掌に落とされる。

 

人並の体温でねっとりとした粘液、いや、最早ゼリーに近いレベルの粘度の液体に塗れ、男の手をじっとりと濡らしていく。

 

彼が卵を受け止めた事に満足したのか、ふふふ、と震えながら笑って消え入るような声で言う。

 

「次は私とね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、漸く彼女の発情期は収まったようだが、ねっとりとした白い液に塗れた空の姿と死んだように眠る耕也を見て、お燐は発狂したように悲鳴を上げ、子供ができなかった事を感じ取ったお空はわあわあと泣いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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