東方高次元   作:セロリ

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17話 さてさてどうすんべ……(上)

やばい、やばいぞこれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今俺の目の前には風見幽香の人形がいる。

 

討伐するにあたってどうするかを考えねばならないからだ。

 

いや~、できれば争い事は避けたいんだよな~。

 

今まで退治した妖怪は人型が皆無だったが、今回は人型。殺すのはちょっと気が引ける。

 

このままバックれても良いのだが、そうすると今度は俺の評判が著しく下がる。それだけは何としても避けたい。

 

だから人形での模索をしているのだ。早い話が予行練習である。

 

そして俺は予行練習第一弾を開始した。

 

ようは風見幽香と断定できればいいのだから何も命を取らなくても、彼女の身につけている服を失敬すればいいのだ。

 

「そ、そこのお嬢ちゃん。こ、この金貨5枚でその赤いチェックの上着をもらえないかね? うへへ。」

 

冗談でやってみたのだが、やった後に猛烈に後悔した。これはやばい、速攻で警察を呼ばれるレベルだ。完全に犯罪者だなオレ。

 

しかも一人で人形にやっている時点で気色悪すぎる。

 

俺は激しい自己嫌悪に陥りながらも次の作戦を決行した。

 

「風見幽香を何とかティータイムに誘う。その後に自分の力で紅茶を出す。そしてその中に臭化水素酸スコポラミンを混入させて、彼女を酩酊状態にする。

そして俺は彼女を介抱するふりをしながら上着をかっぱらう。これならさっきよりは遥かにマシなはずだ。」

 

どのみち犯罪チックなのではあるが。仕方あるまい。なんせ相手は妖怪なのだから。

 

そう意気込みながらシチュエーションを変えつつ案を練っていく。

 

俺はその後の討伐で、これらが全く役に立ちもしないという事を知らないまま、その一日をお人形遊びに費やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、風見幽香の住処はどこにあるのだろうか?

 

話によると、都から50km程離れただだっ広い平原にいるのだそうだ。

 

歩きで2日ぐらいの距離か……飛ぶか。飛ぶという事は本当に不思議な行為だ。

 

時に、飛行をしていると自分は本当に人間なのか疑わしくなる時がある。すでに色々な力を行使できる時点で疑うも何もないのだが

 

元来人間は地に足を踏みしめ、日々の発展に貢献していく。しかし、今自分はそれから逸脱してしまっている。ゲームの世界だからと言ってしまえば簡単なのだが、それでも納得しきれない自分がいる。

 

おそらくきっと。いや絶対、この先納得する事は無いだろう。そう、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなことをボヤボヤ考えていると、目的地に着いてしまった。

 

平原と言うよりは、向日葵だらけの平原ですな。真っ黄色ですよ地面が。上空から見るとより一層際立つ。

 

そしてその中にぽつりと一軒家があるのが見える。あそこに住んでいるのだろうか?

 

どうするか? いきなり空から今日ははやりたくないし、相手も良い気分はしないだろう。

 

仕方が無い。平原の外側にジャンプして、あたかも歩いてきたように見せるとしようかな。

 

そう決めた俺は外側から向日葵の生えていないところを通りながら家を目指す。

 

本当に生きてきた中で、一番の細心の注意を払いながら。

 

万が一にでも向日葵を踏んづけたら、幽香が妖力を撒き散らしながらすっ飛んでくるだろう。おお怖い、くわばらくわばら。

 

実際もし戦う羽目になったら、科学兵器を使用すれば楽勝だろうが環境がなぁ~。

 

至近距離でショットガンとかも味はあるんだけど、そんな簡単に隙は見せないだろうし、何より殺したくはない。

 

どうすんべまじで……。上着くれだなんてどこの変態おやじだよ。

 

そう悩んでいると、突然後ろから声をかけられる。

 

「どうしたのかしら? 旅人さん?」

 

これは、まさか……。身体から冷や汗が一気に出てくる。

 

妙に艶のある声。そして何より身に纏う妖力の強大さ。見なくても分かる。本人だ。

 

そして俺は戦々恐々としながら後ろを振り返ると、やはりそこには妖艶な微笑みを浮かべ、日傘を差した風見幽香がいた。

 

ああ、どうしよう。力云々よりもやっぱり怖い。根本的に妖怪だと言うのが分かる。

 

幽香に対しての第一印象を思っていると

 

「聞こえなかったのかしら? どうしたの? 旅人さん?」

 

と言ってきた。まずい、機嫌を損ねる前に返事をせねば。

 

「ええ、実は少々道に迷ってしまって。それで途方にくれながら歩いていると見事な向日葵畑があったもので、つい見とれてしまいまして。もしや管理人様でらっしゃいますか?」

 

俺の言葉を聞いた幽香はさらに笑みを深くして

 

「ええ、その通り私はここの管理人です。それにしてもうれしいですわ。私のみすぼらしい向日葵を見事、だなんて言ってくださって。」

 

と返してきた。

 

そう、完璧だった。ここまでは。次の言葉を言うまでは。

 

「いえいえ御謙遜を。ここまで見事な向日葵は初めてみました。」

 

そしてこの言葉を言ってしまったのがいけなかった。なぜならこの時代に向日葵なんぞあるわけ無いのだから。

 

俺の向日葵に対する賛辞を聞いた幽香は、途端に笑みに殺気を織り交ぜてきた。

 

「あら、まるで他の土地で見た事があるような言い分ね。この国に向日葵はここだけにしかないのだけれども?」

 

しまった、迂闊だった。向日葵の伝来って17世紀だったんだ。

 

何とかごまかさなくては。

 

そして必死に俺は言い訳をしようと口を開く。

 

「ええ、実は「見苦しいわよ。大正耕也。」っ!!」

 

正体がばれてる。勘弁してくれ。最初から手のひらの上かいな。

 

幽香は俺の驚きようを楽しみながら

 

「なぜ? という顔ね。貴方、ここらへんの妖怪じゃ結構有名よ? 最強の陰陽師ってね。おまけに札や呪文等を一切使わない変わり者だともね。」

 

変わり者かいな。何とも悲しい。

 

しかし最強? んな馬鹿な、大した功績上げてないぞ?

 

だが俺の疑問をよそに幽香は話を進めていく。

 

「それで貴方、ここに何しに来たのかしら?」

 

一番答えにくい質問を・・・!

 

何て答えたらいいだろうか?

 

俺が返答に困っているとしびれを切らしたのか、幽香が先に答えた。

 

「まあ、おおかた私の討伐を依頼でもされたのかしら?」

 

にやりとねっとりと纏わりつくような、獲物の品定めでもするかのような視線と共に笑みを浮かべる。

 

その笑みはできれば勘弁してください。

 

それにしても頭の回転が速いなやっぱり。かなわん。

 

でも、駄目元で聞いてみるかな。

 

「いや、確かに討伐の依頼は受けていますが、でも貴女の上着をうわっ!!」

 

俺が言い終わらないうちになんと幽香は殴りかかってきたのだ。

 

反応した時にはすでに拳は目と鼻の先。思わず俺は目をつぶってしまうが、身体に被害は無い。

 

目を開けると幽香が拳から血を流しながら立っている。そして唐突に笑い始める。

 

「ふふふ、あーはっはっはっはっはっは!! やっと最強の意味が分かったわ。貴方反則じゃない。私だって最初は信じてなかったわよ。あんたみたいな霊力の欠片も持っていない凡人が最強の陰陽師だなんて。

ははは。でもやっと本気を出せるわ。私を楽しませなさい?」

 

「いやだから………ああもう!!かかってこいや!」

 

本気になった幽香を俺に止めることなど無理だった。だから俺はそのまま二人戦争を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで私に相対して生き延びた者は皆無だ。

 

なぜなら私は生まれながらにして強大な魔力を保有し、かつ天才的な戦闘センスを兼ね備えていたため、瞬く間に頭角を現した。

 

しかし、新参者をよく思う者などいない。その者たちは私を潰そうと躍起になっていた。出る杭は打つというものだろう。

 

だが奴らは私に勝つどころか、手も足も出せずにボロボロに無様に敗北していった。

 

そして名前が都まで知れ渡ると、私を打ち取って名を広めようとする馬鹿な陰陽師が徒党を組んでやってきたりもした。

 

中には上級妖怪をも倒せるほどの力量の持ち主もいた。しかし、結局私には勝てずに死んでいった。

 

私は妖怪からも、人からも、恐怖を食らい、食らい、食らってきた。

 

そして気が付いたら私は一人だった。弱い人間には興味が無い。食う事にすら値しない。

 

この周辺の妖怪は弱い。私を見た途端に逃げ出すほどに。興味が無い。強い力の持ち主はいないのだろうか?

 

鬼がいる場所までは遠い。だから来るのをひたすら待つ。でも来ない。

 

誰かにこの渇きを癒してほしい。私を満たしてほしい。

 

そして何より、さびしい。一人はさびしい。

 

この孤独を消してほしい。誰かに消してほしい。寒い。寒い。孤独は寒い。だから私を温めてほしい。心を温めてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと見つけた。私よりも強い人。さあ、私を満たしてちょうだい?

 

そして願わくば私を救ってちょうだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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