陰陽師を引退しようか本気で悩む……
幽香との戦いから約一週間。俺は自宅に戻ってから惰眠を貪っていた。
輝夜から与えられた猶予は半年。その半年までに宝を集められなければ失格となる。
だが俺の場合は、約一ヵ月で幽香の服を手に入れてしまった。という事は、残り五ヶ月はとてつもなく暇になるのだ。仕事が来なければの話だが。
それに陰陽師の仕事は、俺には少々荷が重いようだ。
戦いは好きではないし、いくら報酬を低く設定したからといっても実際のところ、他の仕事より実入りがいいので選んだにすぎないのだ。
切りの良さそうな所で辞めるかな。……そうだな。輝夜の依頼を終えてから辞めるとしよう。
その後はどうするかな。運送屋でもやろうかな。トラックは創造できるし、走る時は疑似的なアスファルトを空中に創造して走らせれば良いか。
そして俺は助手席に乗ってれば後は勝手に走ってくれる。それに需要は見込める。この時代は牛車が主な貨物輸送手段だし、40km/hでトロトロ走っても遥かに速く、そして大質量の荷物を運べる。
でもこれには欠点がある。それは商人たちとのコミュニケーションが確立していないことなのだ。
商人たちは自分で仕入れ、運び、売るといった作業を一人でこなしているのが多い。現代のような分担作業ではないのだ。
まあ、そこらへんの調整はおいおいと。
そんな事をヤイヤイと考えていると、玄関の扉がノックされる。誰だろうか?こんな辺鄙な場所に。
そう思いながら、立ち上がろうとする。
その瞬間、玄関のドアが吹き飛ばされた。
「お邪魔するわよ。耕也。」
失礼極まりない(むしろ犯罪)行為をして入ってきたのは、風見幽香だった。
「だって、あなた返事が無い時は強く叩けって言ったじゃない。」
そう不貞腐れながら言うのは幽香である。
何とも酷い言い方である。だからといって吹き飛ばす必要無いじゃないか。
「でも加減ぐらいできただろうに。」
「だってだって、扉脆かったんだもの。しょうがないじゃない。」
おかげで破片が部屋の中に入って大変なのである。それに、楽しみにしていた煮込みラーメンが台無しになってしまった。
「やってしまったことに対しては?」
「……ごめんなさい。」
「よし。」
普通ならもっと怒るべきなのだろうが、面倒くさい。
だから
「片付けるの手伝って。」
「わかったわ。」
仲良く片づけることにした。
「じゃあ幽香も掃除機使ってね。この出っ張りを押せば動くから。後は散らばっている小さな破片や粉を轢くようにすればいいから。」
「わかったわ。それにしても随分汚れてるわね。定期的に掃除してるの? ま、男だから仕方ないのかもしれないけど?」
フフンという顔で俺の顔を見てくる。まるで男はこれだからと言わんばかりに。
失礼な。掃除はしとるわい。最近は忙しくてできなかっただけで。
「そういう幽香こそ、ちゃんと掃除してるのか? お前を運んだ時に、土が家の中にパラパラとあったのは俺の気のせいでは無いはず。」
「気のせいよ。」
「いやいや、気のせい「気のせいよ。」」
「だから気の「気のせいよ。」」
「気「気のせいよ。」……はい。」
全く仕方のない。この意地っ張りめ。後で掃除機送ってやるか。
と、こんなことをしてる場合ではない。早く終わらせねば。
そう思い、掃除機をかけ、破片を吸い取っていく。
幽香も俺の行動に従ってゴミを処理していく。
やはり、掃除機の便利さに驚いたようで、口早に驚きを述べる。
「凄いわねこれ! ゴミをどんどん吸い取ってくわ。彗いらずじゃないこれ。どうやっているの?」
細かいところまでは俺も知らん。でもまあ、簡単な概要ぐらいは説明できる。
「後ろに風を送る装置があるのだけど、それをファンと呼ぶんだ。そのファンが外に空気を排出すると、中の空気が少なくなる。そうすると今度はその吸い込み口から空気を吸い込んで中の空気を補填しようとする。それを利用してゴミを吸い取るわけ。」
多分圧力とか分からないだろうから、分かりやすく言ってみたのだが、大丈夫だろうか?
すると幽香は理解したように頷き
「これ一台頂戴。いくらでも出せるんでしょ? 」
と言った。結局欲しかっただけかい。まあ元々あげるつもりだったから良いのだけれども。
「はいよ。家に送るから好きに使っとくれ。」
と、了承の返事をした。
その後は掃除もトントン拍子に進み、夕食までに終わらす事ができた。
夕食では、煮込みラーメンの具材がオジャンになってしまったのでメニューを急きょ変更する羽目になってしまった。
そこで俺は、幽香に何が食いたいか聞いてみる事にする。
「幽香。今日はもう遅いから泊っていきなよ。別室を貸してあげるから。それと、夕食は何が食べたい?」
幽香は少しの間考えるしぐさをした後、こう切り出した。
「今まで食べた事の無いものが食べたいわ。」
食べた事の無いものか。刺身はどうだろう?
「刺身はどう? 」
俺は刺身とはどういうものかを織り交ぜながら勧める。
すると彼女は、刺身に興味を示したようで、頷いて了承する。
「いいわ。それにしましょ。」
食事はやはり一人より、相手がいた方がいい。この世界に来て一番身に染みた事だ。
だから、幽香と一緒に飯を食うと、一人で食うよりもダントツに美味く感じる。
「なあ幽香。今日はどうしたんだ? 急に訪ねてきて。一緒に飯食えたから俺は大満足なんだが。」
幽香に聞いてみる。
すると幽香は
「へ!?…い、いやねぇ? 私は単に暇だったから来てあげただけよ?」
と、顔を赤くしながら答える。見え透いた嘘を。
聞くだけ野暮だな。おそらく同じ気持ちなのだろう。一人よりも二人の方がいい、そしてうまい。これに尽きる。
そして俺は少し独り言のように幽香に話しかける。
「平穏は最高だね~。」
「そうね。私もそう思うわ。」
願わくば、この平穏が一秒でも長く続きますよう。
初期のはやっぱ短いですね。すみません。