では、どうぞ。
「……とりあえず、アイスは食ったし散策してみるかな。そしたら人に会えるだろうし、どこの県かも教えてくれるかも知れん。」
俺は呆けていても解決しないと思い、周囲の散策を始めた。さっさと家に帰って寝てしまいたい。
夢の中だと思いたいが、今日一日の行動を振り返ると嫌でもこれが現実だと思い知らされる。
あらためて周囲の状況を確認してみると自分は大きな丘の天辺にいるらしい。ふと、周囲を見渡していると目につくものがある。それは自然からの成り立ちとはとても思えない代物であり、俺の興味をひくには十分すぎるほどのものであった。
「おお、民家がある。あそこに行けば何かしらの情報は得られそうだ。」
民家は広大とは言えないが、それなりに規模のある森の向こう側にあるようだ。
しかし、遠目のせいか民家が少々現代には似つかわしくない形状をしている。
「あれ、もしかして白川郷なのか?」
俺はその家の不自然さに改めて現代に存在する家屋と結び付けようとする。
しかし、考えても答えは一向に出ないままなので民家に向かおうとする。
「あそこの民家に行きたいが、森を突っ切らなきゃなぁ……面倒くさい。」
迂回するという手もあるがかなりの時間を食われる上に日が暮れてしまう。その前に民家へ辿りつきたかった。
しかし、森を抜ける自信は正直微妙だ。理由としては迷ったら、迂回するより大幅な時間を削られることになりそうだからだ。
俺はしばらく思考を重ね、結局森を抜けるという選択肢を選んだ。
「途中で木の実とかがあれば民家に宿泊代として渡せそうな気がするんだが、どうなんだろう?無一文だしなぁ。さすがに通貨が石とかだったら嫌なんだけど。」
それにしてもこの森は木が立派だなぁ。というか人の手が入っていない。まぁ、現代でも田舎に行けば有るっちゃあ有るんだけどな。
歩いているうちにリンゴの生えてる木にぶつかりその実をいくつか頂戴することにした。
「良し。これで腹ごしらえもできる上に民家の人にも渡せそうだ。」
にへらと笑みがこぼれる。傍から見れば不審者だが、そんなことは気にしない。
しばらく民家がある方向へ足を運んでいると木の生えていない円形の草原があった。所々に大きな岩が鎮座しているのが見える。
「へえ、こんな所もあるのか。」
自然の面白さに感心しながら、手近な石に腰をかけ、リンゴを食べようとする。
その時、進行方向の森から、ズシンとした大きな音と共に、鳥の群れが飛び去って行った。
「なんだ?」
突然起こった現象に呆気に取られながらもそれに興味を持ち、石から立ち上がり音の発生源付近を凝視していた。
しかしその興味とやらは、源の主が姿を現わしてから一瞬にして恐怖へと早変わりした。
それは、世界のどこを探しても存在するとは思えない生き物がいた。
なんだこいつは?
そいつは、蜘蛛のような姿だが3メートル超の蜘蛛なんざ聞いた事が無い。
しかも足は8対あり、頭と思われる部分には角のような、いや、角なのだろう。それが生えている。
おまけになぜかこっちを凝視している。嫌な予感しかしてこない。
その嫌な予感が的中し、奴がこちらに近づいてくる。その鋭い牙が並んだ口をしきりに、獲物を狙い定めるかのようにガチガチと鳴らしながら。
「こいつ俺を食う気なのか?」
思わず口からその言葉が出てきた瞬間、一気に恐怖心が猛烈な勢いで沸いてくる。
逃げようにも恐怖で足が動かない。勘弁してくれ、死にたくない。
(俺はここで死ぬのだろうか?)
涙を流しながらも、頭の中にその疑問が浮かぶ。答えてくれる人などいない。
その間にも蜘蛛もどきはさらに接近してくる。頼む、足よ動いてくれ。
藁にも縋る思いで願っていると蜘蛛もどきの足が大きな枝を踏み砕いた。
突発的に大きく乾いた音が周囲に響き渡る。
その音に、はじかれたように自分の足は動いた。
「うわあああああああ!」
そう叫びながら、奴から逃げようと必死に走る。誰か助けてくれ!誰でもいい。この状況を打破できるのなら。
助けてくれたら何でもする。一生仕えてでも恩を返す。だから助けてくれ。いや、助けてください。
ふと後ろを振り返ると蜘蛛もどきは、俺を取り逃がすまいと、その巨体からは想像もし得ないほどの速度でこちらに突っ込んでくる。
俺の全速を確実に超えている。ヤバい、逃げられない。やはり食われてしまうのだろうか?
そんなことを考えているうちに、奴は真後ろにまで接近していた。
そして先端が鋭く尖った足を振り上げ、自分を串刺しにしようとする。
「くぅっ……!」
思わず俺は身を屈め、頭を両腕で覆い、目をつぶり、襲いかかるであろう痛みと衝撃に備えた。
このまま、にじファン時代の104話まで投稿して、それから書きためた物を投稿したいと思います。宜しくお願い致します。