東方高次元   作:セロリ

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22話 逃げよう逃げよう……

月人は変な乗り物に乗ってやって来る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。」

 

そう言いながら俺は自宅へと入る。

 

俺が玄関の扉を開けると出迎えてくれたのは幽香であった。

 

「あら、随分早かったじゃない。帝からの召喚というからにはもっと遅くなると思っていたのに。」

 

そう、俺は自宅を出てから約2時間で帰ってきたのだ。

 

ジャンプしてきたからさほど時間はかからなかったが、飛行して行くとなるともっとかかったに違いない。

 

それに今回の話は依頼の詳細だけだったし。

 

そしてその事を幽香に伝える。

 

「いや、実を言うと帝との話が結構短く終わってさ。やることもないしさっさと帰ってきたという訳なんだ。」

 

それを聞いた幽香は理解したように頷き

 

「なら夕飯に間に合ったのだし、夕飯にしましょうよ?」

 

と言ってくる。

 

ここで俺が、幽香に帰宅について言うのはさすがにアホすぎるだろう。

 

それに一人で食っても楽しくないしな。今日はどうしようか。ちゃんこ鍋にしようかな。

 

「今日は鍋をつつくか?」

 

「いいわねそれ。なら早くしましょう?」

 

そうして無事に一日を過ごす事ができた。

 

しかし、輝夜の帰還は明後日か……俺が介入してもいいのだろうか? 色々と面倒なことになりそうな気がするなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日がついに輝夜の帰還の日であり、依頼の日でもある。

 

そして俺は一足先に輝夜の屋敷に来ているのだが、何と言うか……葬式ムードですよ? 空気がどんよりしている。

 

普段ならもっと活気にあふれていて、近くで商人が商品を広げている程の賑やかさなのだが。

 

具体的には、5時間待ちと言った方が分かりやすいだろう。それぐらいなのだ。

 

やはり輝夜の帰還というのが波及しているのだろう。それに今回は兵士が来るからな。一般人はおいそれと来ることはできないのだろう。

 

仕方が無い。屋敷の中に入って輝夜の様子でも伺ってみるかな。

 

俺はそう思い立つと、足早に屋敷の玄関へと向かって行った。

 

「すみません。大正耕也と申します。どなたかいらっしゃいませんか?」

 

玄関の扉をノックし声をかけると中からお爺さんが出てきた。前に見たときよりも元気が無い。当然か。我が子のように愛し、慈しみ育ててきた大事な娘が帰ってしまうのだから。

 

お爺さんの様子を見ながらそう思っていると、お爺さんが口を開く。

 

「おお、耕也様ではありませんか。どうぞお上がり下さい。輝夜も会いたがっておりました。」

 

そう言って俺を中へと通す。

 

俺は一礼をして中へと入り、輝夜のいる部屋へと向かう。

 

襖をあけると輝夜がいた。しかし、その顔にいつもの輝かしい笑顔は無く、覇気も元気も無く、ただ黙って下を向いて俯いてるだけだ。

 

それでも俺が来た事を知ると、顔を上げて笑顔を作る。正直見ていて苦しい。可哀そうだ。

 

「いらっしゃい耕也。今日はどうしたのかしら?」

 

求婚騒ぎの後、ちょくちょく会いに来ていた俺は、互いに気軽に話せる仲までになったのだ。

 

「いや、今日は依頼でな。」

 

「あら、私の暗殺かしら?」

 

「冗談でも言うんじゃないバカ者。暗殺の逆だ逆。お前さんの護衛なんだよ。帝からの直々の依頼でお前さんが月に帰るのを阻止しろだってさ。」

 

その言葉を聞いた輝夜は再び俯きながら言った。

 

「無理よ。確かに貴方は強いわ。でも月人はこの星には無い武器を持っている。それに貴方はただの人間。勝てる望みは無いわ。」

 

普通の月人と戦ったら余裕で勝てるよ? 環境を考えなければ。綿月とかはどうなるかは分からないけど。でも攻撃は食らわないし。

 

でも基本戦いは好きではないので平和裏に交渉したいのが本音だけど。

 

「なら輝夜はどうなんだ? 帰りたいのか?」

 

その言葉を聞いた輝夜は少し語気を荒げて

 

「帰りたいわけ無いでしょう! もうあんなところに……でも待ってくれている人がいるのよ。私の帰りをずっと待ってくれている人が。」

 

おそらくその人とは八意永琳だろう。でもこっちに出向いてくるんだよな。輝夜が心配でね。

 

しっかしどうしたものか。下手に介入すると月人からマークされるんだよな。

 

でも友人の為に一肌脱ぐかね。俺だって男なんだから頑張らなければ。

 

「ならお前さんはその待ち人さえいれば地上から出なくて済むんだな?」

 

「ええ、そうよ。でも彼女は非常に重要な役職に就いているからこちらに来る事は無いわ。」

 

輝夜は落胆しながら望みが薄いという事を言う。

 

あ~、元気づけてやるかな。まあ、占いとか何とか言ってしまえば大丈夫だろう。

 

「輝夜。良い事を教えてあげよう。」

 

俺がそう言うと何かしらの興味を示したらしく、顔を上げてこちらを見る。

 

「輝夜、君の想う大事な人。八意永琳は今日の迎えに必ず月よりやってくる。だから安心しろ。そして会ったなら、訳を話して地上のどこかへと逃げるんだ。逃走の手伝いは俺もしよう。」

 

俺が言った言葉に激しく驚いた輝夜はどもりながら口早に言う。

 

「な、なななんであなたが永琳の事を知っているのよ! そ、それに今夜来るってどういう事よ!」

 

さてさて、では言い訳をば

 

「実を言うとここに来るまでに、とある神様の所に行っててな。そこで聞きに行ったんだよ。今後はどうなるのかってね。」

 

それを聞いた輝夜は、随分と胡散臭いわねと言いながらしぶしぶ了解した。

 

「まあ、信じるか信じないは輝夜の自由だが、おれはお前さんの敵ではないからな。そこだけは間違えるなよ?」

 

「分かってるわよ。」

 

その後の俺は、幾分か元気を取り戻した輝夜と談笑し、その時を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそうそれでだな、その貴族が言ったんだよ。お主に頼めば良かった~!ってね。もうその時は爆笑だったよ。もちろんその時は帰ってから爆笑したけど。」

 

「あはははははっ。その貴族も馬鹿ねぇ。料金が高い方が絶対に質が良いだなんて。確かに一理あるけれども。でも報酬の差で陰陽師の質に優劣があるとは限らないものね。」

 

俺と輝夜は夜まですっかり話しこんでいた。やはり話のネタは俺の方が豊富である。まあ仕事柄人と接することの多かったからね。

 

実を言うと陰陽師を未だに続けている。一度はきっぱりと辞めたのだが、後から庶民の依頼が絶えなくて押し切られてしまったのだ。だからへタレなんだよな俺って。

 

そして俺は輝夜にそろそろ時間だと伝える。

 

「輝夜、そろそろだぞ。」

 

すると輝夜の表情は一変して引き締まる。

 

「分かったわ。外に控えてる兵たちも雰囲気が変わっているし。」

 

そう、時間が近づくにつれて外の兵たちにも緊張感が漂い始めているのだ。

 

今回帝が派遣した兵は、選りすぐりの精鋭中の精鋭たちばかり。一般の兵とは比べ物にならないほどの強さだ。

 

だが、月人には手も足も出ないだろう。それは分かり切っている事だ。輝夜もそれは承知の事。

 

実際に戦闘になった場合は俺が矢面に立つしかないだろう。

 

でもおそらく戦闘にはならないで、永琳がやってしまうと俺は確信している。

 

そう思いながら俺は双眼鏡を覗き込みながら満月を見る。

 

そしてその満月に奇妙な点を発見する。

 

「んあ? あれは……ついに来たか。」

 

満月の中に小さな黒い点が存在していた。その点はどんどん大きくなっているようで、こちらに近づいているのだと言う事が分かる。

 

確実といっても良いだろう。あれは永琳達の乗った乗り物だな。

 

そして俺はその事を輝夜に伝える。

 

「輝夜、来たぞ。迎えが来た。」

 

輝夜は俺から受け取った双眼鏡を手にとって自分の目で確かめる。

 

「本当ね。迎えに来た船ね。」

 

輝夜によれば、船といっても宇宙船のようなものではなく、地上にある貴族の乗る牛車を大型化したようなものらしい。牛がついてなくて自立運転できたり、宇宙航行できたりとやたらとハイスペックらしいが。

 

永琳達の乗った宇宙船はこちらのすぐ近くまで接近した後に空中で停泊している。

 

そして中から永琳と思わしき人物が出て来てまっすぐこちらへと向かってくる。

 

輝夜は立ち上がり、永琳を出迎える。そして二人は抱き合った。

 

「永琳! 会いたかった。会いたかったよ~!」

 

輝夜が涙を流しながら永琳の胸に顔を埋めながら泣きじゃくる。

 

また永琳も静かに涙を流しながら答える。

 

「ええ輝夜。私もですよ。この日をどんなに待ち望んだか…。」

 

いいねぇ。感動の再会だね。こっちまで涙が出そうだ。最高。

 

と俺は彼女らから離れながらその光景を眺めて感慨にふける。

 

しかし安心している場合ではない。迎えは永琳だけではないはず。他にも部下などが乗っているはずなのだ。

 

俺の心配をよそに二人はこれからの事を話し始める。

 

「永琳。私は月へと帰りたくは無いわ。一緒に逃げましょう?」

 

「はい、輝夜。ですがそのためには大きな障害があります。少しの間、お待ち願いませんか?」

 

すると輝夜は頷き

 

「ならここで待っているわ。」

 

と了承する。

 

そして俺は二人のやりとりを見届けた後に再び船を見る。

 

すると船の周りに10人ほどの部下と思わしき者達が、空中に横一列で並んでいる。

 

その中の一人が拡声器のようなものを口に当て声を発する。

 

その内容は俺にも到底受け入れがたいものであった。

 

「これより大罪人の輝夜とその幇助人の八意永琳の抹消。ならびに目撃者の地上人共の抹殺を始める。一斉掃射!!」

 

はぁ!? なんだと!? と、そう思った俺は彼らが携帯型バルカン砲を構える前に、反射的に外側の領域を広げ、兵士たち全てを都までビーム転送する。

 

月人たちは、突然消えた兵士たちを見て動揺しているようだ。

 

「な! 何が起こった。報告を!」

 

「わ、分かりません! 気付いた時にはもう…」

 

「ええいくそっ! 地上人の事は放っておけ! 今はあの女達を始末せねば。」

 

そう言ったリーダー格のような月人はやけくそ気味にバルカン砲を屋敷に乱射する。

 

「伏せろ!」

 

そう言ってすぐさま俺は、屋敷を覆う程の大きさの縦40m横100m厚さ50mmの鋼板を創造し、盾として機能させる。

 

盾を展開するまでに多少の弾は俺にあたったが二人には当たらなかったようだ。

 

だがその間にも断続的に乾いた独特の音が響き渡る。

 

そして盾の外側からは罵声も飛び交っている。

 

「おい!早くこの鉄板を何とかしろ!」

 

「無茶言わないでください! 梃でも動かないんですよ!」

 

やはり相手はかなり焦っている。この任務が失敗すれば自分たちの命が危ないのだろう。

 

全く。末端は辛いねえ。

 

そんな事を考えていると後ろから声がかかる。

 

「こ、耕也。これは一体何なの?」

 

声を掛けた輝夜は前方の鋼板を信じられないものでも見るかのような目で見つめている。

 

「いや~、説明するのが面倒くさいのでこれについては流しておくれ。それより、永琳さん。あいつらはどうします? 自分が相手をしましょうか? 御二人はその際に自分がビーム転送するので逃げてください。」

 

覚悟を決めたからにはこれくらいはやらなくては。

 

しかし永琳は首を横に振り、拒否の姿勢を示し、続いて口を開く。

 

「今回の件は私のミスよ。え~と…「耕也です」耕也さん。だから私が後始末をするわ。」

 

そう言って背負っていた弓を構える。

 

「耕也さん、私の合図に従って盾を消してちょうだい。あいつら馬鹿だから全員して必死に打ち込んでるわよ。弾切れはもうすぐのはず。」

 

「分かりました。ではその時になりましたら合図をください。」

 

そう言って俺はいつでも盾を消せるように準備する。

 

そしてしばしの断続的な銃の発射音と盾への着弾の音が続く。

 

しかし終わりは唐突に訪れた。

 

月人達のバルカン砲が一斉に弾切れを起こしたのだ。本当に馬鹿だろあいつら。焦るのは分かるけどそれにしてももう少しやりようがあるだろ。

 

そう思っていると永琳が

 

「今!」

 

そう言ったので盾を消失させる。

 

永琳は盾が消えた瞬間に目にもとまらぬ速さで矢を次々と打ち出していく。まるで機関銃のように。

 

その矢は全て的確に相手の頭を打ちぬいていく。

 

おまけに一発も外さないで。

 

勝負は一瞬にしてけりがついた。

 

月人は全て地面に落下し、倒れていた。そして何故か船も墜落してグシャグシャになっていた。

 

そこで永琳と俺は死体の数や息があるかどうかを全て確認しに行った。

 

確認したところ、月人は全て事切れているようだ。

 

正直な話、死体を見るのは勘弁願いたい。情けない話だが。

 

あ~しばらくは肉料理は避けよう。その方がいい。俺の精神衛生上。

 

そう思っていると永琳がこちらの方を向き、突然頭を下げ始めた。

 

「今回は本当にありがとう、耕也さん。おかげで輝夜とも無事に再開を果たす事ができたし。」

 

「いや、俺は特に何もやってませんよ。輝夜を守ったのは永琳さんの腕のおかげです。」

 

だが、永琳は少々納得のいかない表情をしていたがやがて、微笑みながら

 

「ふふっ、そう言う事にしておくわ。」

 

といった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺たちは輝夜の所に戻り、今後の話を始めた。

 

「これから二人はどうするつもりなんだい?」

 

そう言うと輝夜が

 

「そうね。月人の追手が怖いから、ここにはもういられないし、それに実を言うと隠れるにはもってこいの候補地があるのよ。」

 

輝夜の言葉を聞いた永琳は輝夜に問う。

 

「輝夜、そこはどういうところなの?」

 

「そこは迷いの竹林と言って毎日表情を変えているから誰も抜け出せないと言うところなのよ。竹だからね。」

 

その言葉が決め手となったのか、永琳もその言葉に賛成して、会議が終了してしまった。

 

「どこら辺にあるんだ? なんだったら俺がビーム転送しようか?」

 

輝夜たちに、ジャンプを勧めたが、輝夜は首を横に振り飛んでいくと言った。

 

まあ、本人たちの自由だからな。交通手段は。

 

そう思っていると輝夜たちは、すでに身支度を終えて飛び立つだけとなっていた。

 

さて、しばしのお別れだな。

 

そして突然輝夜が俺の前に進み出て、俺に抱きつく。

 

「ありがとう耕也。私なんかの友人になってくれて。」

 

「こちらこそありがとう。気をつけてな。また会った時はよろしくな。」

 

そして輝夜は俺から離れる。

 

今度は俺から。

 

「永琳さん「永琳でいいわよ。」…永琳。輝夜と共に、気をつけて。困った時は俺を頼ると良い。俺の家の場所は輝夜が知っているから。」

 

そう言うと、永琳は微笑みながら頷き

 

「ええ、頼りにしてるわ。」

 

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別れは悲しい。しかし彼女たちとはまたいずれ会う事になるだろう。その時はまた良い友人同士でありますよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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