東方高次元   作:セロリ

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23話 怨みは恐ろしいものだ……

妹紅は一体どうなるんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、後片付けをしますかね。」

 

そう言いながら俺は、部屋に散らばった木片などを片していく。

 

輝夜たちは意気揚々と飛んで行ってしまったが、結局片付けるのは俺になってしまったのだ。

 

まったく、少しは手伝ってくれればいいものを。

 

そう思いながら掃除機やらを創造してサッサと掃除していく。

 

「そう言えば、蓬莱の薬はどうしようか? 帝に渡してくれと頼まれたのだけれども。これは原作にも関わってくるし報告しようか。」

 

そして独り言を言いながら掃除を進め、それも終わろうとしていたところ、廊下側からドタドタと騒がしい音がしてきた。

 

何だ? ……お爺さんな訳は無いよな。そこまで足腰の強いお方じゃない。だとしたら……

 

俺が予想を立てていると足音が近くで止み、目の前の襖が大きな音を立てて乱暴に開かれた。

 

開かれた襖の先にいたのは妹紅だった。

 

妹紅の目は血走っており、手には短刀があった。

 

そして部屋の中にズカズカと入り、隅々を見回した後、俺に向かって凄い剣幕で叫んだ。

 

「耕也、輝夜はどこ!? 教えなさい!! あいつ殺してやる! お父様にあんな恥を掻かせて!」

 

こいつはヤバい。下手な事を言うと俺に矛先が向きそうだ。

 

どうしたものか。迷いの竹林と言っても俺には場所が分からない。原作にも場所の記述が無かったし。

 

何より知っていたとして、教えてしまったら無鉄砲に出て行って、無駄死にしてしまう可能性もある。

 

適当な言い訳をしようかな。非常に心苦しいがお前の為だ。許せ。

 

「実は言うと、俺が来たのは輝夜姫たちが出て行ったあとなんだよ。お爺さんが俺に訳を話してくれて、今掃除を手伝っているところなんだ。申し訳ないが妹紅の欲している情報は持ってないよ。」

 

俺の言葉を聞いた妹紅は明らかに落胆した表情を覗かせ、手に持っていた短刀を落としてしまった。

 

そしてその場に座り込み、俺に話しかけてきた。

 

「ねえ、耕也。あなたもあの場にいたと思うけど、お父様は本気で輝夜に惚れていたんだ。家族を放っとくほどにね。でも輝夜の欲していた宝はどんなに探しても見つからなかった。当然だよ、この世に存在するわけが無いんだから。だからお父様は偽の宝を作った。

耕也、見たでしょ? あの落胆ぶりを。屋敷に帰ってもそれは変わらなかった。むしろさらにひどくなるばかりだったんだ。酒におぼれてしまって……。挙句の果てに全てに無気力になってしまって……。だからお父様をあんなにした輝夜を許すことはできない。絶対に。」

 

妹紅の話は、聞けば聞くほどこちらが滅入ってしまいそうなほどだった。

 

俺はようやく理解した。この怨みの深さに。どうしてここまで深くなってしまったのかを。

 

それはそうだろう。あんなに深く慕っていた父親が、ある日突然鬱に近い状態になってしまったのだ。誰だって原因を作った人物に対して怨みを抱くだろう。

 

しかしどうしたものか。蓬莱の薬をあげると言う事はおいそれとできん。岩笠についても考慮しなくてはならん。

 

だが岩笠が死ぬのを黙って見ているのは俺としてはきついものがある。

 

…………ああ、そうだ。これが使える。これにしようじゃないか。これなら誰も死なずに、そして原作に影響を与えずに妹紅が蓬莱の薬を手に入れられる。

 

…俺がいる時点で影響も糞も無いのだが。

 

まあ所詮俺のやる事は偽善だろうが、やらないよりはましだろう。

 

思い立ったら吉日だ。早速帝に嘆願しよう。

 

後は……妹紅を帰らせなければ。

 

「妹紅。今日はもう日が暮れる前に帰りなよ。お前の気持ちは痛いほどに分かる。家族を亡くしたようなものだからな。」

 

そう俺が言うと、妹紅はゆっくりと頷き、帰って行った。

 

さて、明日は帝の所に行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い立って二日後。今俺は富士山の5合目付近を上っている。頂上まではまだまだかかりそうだ。

 

昨日の帝との交渉は極めて円滑に進める事ができた。

 

俺の嘆願した事は全部で三つ。

 

一つ目は、蓬莱の薬の処分を俺に任せる事。二つ目は、表向きには岩笠が処分しに行くという事にする事。三つ目は、護衛の兵を付けない事。

 

これである。

 

まあ、言い訳は帝の御威光がもっと上がるだの、陰陽師ごときに任せたとばれては色々と後が面倒になるだの、岩笠の体力では富士の山は登れないだのと無茶苦茶なものであったが何とか押し切った。

 

恐れ多すぎてガッチガッチのガクブルだったが何とかやった。何しろ不敬罪でその場で打ち首とかあり得たのだから。効かないけど。

 

それにしても険しい。これはきつい。体力は一般人以下なのだからきついったら無い。

 

おまけに後ろから妹紅が着いてくるのが分かる。本人はばれないと思っているのかもしれないが、めっさ分かりやすい。

 

でも今の俺は、耕也だとばれないように木でできた仮面を付けているので、安心して妹紅と接する事ができる。最近顔にひどい火傷を負ってしまったという設定で。

 

あ~、それにしても早く外したい。いくら演技とはいえこんな恥ずかしい格好をいつまで続けなければならないのかと思うと気が滅入る。

 

だが、これも妹紅の為である。我慢せねば。本来なら蓬莱の薬なんて飲まない方が幸せなのかもしれないが。

 

そうごちゃごちゃと答えの出ない事を考えながらひたすら登っていく。

 

そろそろここら辺で野宿しようか。この時代の人らしく、テントなんぞ出さずに寝よう。

 

でもまずは飯だ。妹紅にも食べさせてやらないとな。漬物や梅干し入りのおにぎりぐらいなら俺だとばれないだろうし。

 

そこで俺は後ろにいる、隠れているつもりの妹紅に声を掛ける。声色を変えるのを忘れずに。

 

「そこな女子。隠れておるのは分かっておる。こっちや来い。お腹、空いとるだろう?」

 

そう俺が言うと、岩の陰から妹紅が気まずそうに出てきた。ヤバい、かわいい。

 

そして俺と妹紅は焚火を対称に座り、おにぎりと杓子菜の漬物を渡す。

 

「ほれ、お上がり。どうしてこんな所にいるのかは、ワシには分からんが、深くは問いはせん。……水もあるぞ?」

 

水を渡しながら俺は妹紅が黙々と食べるのを眺める。

 

余程腹が減っていたのだろう。もう二つ目のおにぎりだ。…もっと早く読んでやれば良かったかな。

 

そんな事を思っていると、食べるのをやめて妹紅が口を開く。

 

「私の名前は妹紅。貴方は?」

 

さすがに藤原までは言わないか。まあ貴族の娘がここにいるなんて誰も思わないと思うが。

 

「わしか? わしは調岩笠という。」

 

俺が自己紹介を返すと、妹紅の口から、やっぱり…と小さな声が漏れる。

 

それに気付かないふりをしながら自分の飯を平らげる。

 

そして各々の飯を食べ終わった後、妹紅に布を貸してやり、俺たちは眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか山頂に着いたのは良いが、木花咲耶姫に投棄を拒否られました。

 

仕方が無いので八ヶ岳に捨てに行くことになった。ちくせう。

 

俺たちは来た道を引き返しながら八ヶ岳へのルートを模索しながら下山していく。

 

そろそろだな。………うん、ここら辺がちょうど崖も切り立っていて、突き落とされるには丁度いい。

 

それにその崖が見えてから妹紅が急にそわそわし始める。我慢できなくなったか。余程蓬莱の薬が欲しいと見える。

 

ではでは、お兄さんが一肌脱ぎますかね。落ちても傷一つ付かないし、本当に都合がいい。

 

俺は蓬莱の薬の箱を静かに地面に降ろし、崖付近に近づく。

 

そして引き金となる言葉を言う。

 

「妹紅。眺めがいいのう。こっちに来て一緒に見んかの?」

 

「ええ、そうね。」

 

そう言いながら妹紅はまっすぐ俺の背中に近づいてくる。

 

もう少し。もう少しだ。

 

緊張するなぁ。早くしてくれ。

 

そして俺はこの短い時間だけ、全ての領域をOFFにする。これで俺は完全な無防備だ。

 

これで妹紅は蹴りを俺に入れられる。つまりこの世界に来て初のダメージが妹紅の蹴りとなるわけだ。悲し過ぎるが。

 

そう思っていたら、背後から声がする。

 

「ごめん! 岩笠!」

 

その言葉と共に背中に衝撃が走る。痛い。

 

俺はそのまま崖へと真っ逆さまに落ちて行った。

 

もちろん蹴られた直後に全ての領域をONにしたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんどん落ちて行く。俺の身体が地面に吸い込まれるように。

 

そして短い空中散歩の後に、岩肌に激突して岩肌を削り転がりながら落ちて行く。ダメージは無いのだが目が回る。

 

それから俺は数百メートル落下し、やっと平らな面に接して落下が止まる。

 

ヤバい、吐きそうだ。本当に気持ちが悪い。マジで酔った。

 

俺の苦労と反対に、妹紅の狂ったような笑い声が聞こえる。

 

その笑い声を聞きながらゆっくりと意識を手放した。あまりの気持ち悪さに。吐きそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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