東方高次元   作:セロリ

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28話 効かない……

効かないなんて詐欺でしょこれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬえの騒動より早くも二ヵ月。ようやく平穏を取り戻し始めた都だが、またここ最近奇妙な連続殺人事件が発生しているのを耳にする。

 

何でも相手は音もなく現れ背後から、または闇に紛れて刀で切りかかるという。目撃者の話では、それはボヤボヤした黒い人影のようなものだったらしい。

 

今のところ、同僚たちが手を焼きどうにもならないため、俺にも依頼が回ってきたらしい。

 

物騒な世界だとつくづく思う。おそらく妖怪の仕業だと思いたいが、相手が人間で式神を操っていた場合は特定が非常に難しい。この場合はどうしたものか。

 

特に俺のような霊力の欠片もない人間の場合、式神から発せられる霊力と主の霊力の特徴がつかめない。他の陰陽師ならば波長の合致した者を攻撃すればいいのだが。

 

そんな事を考えながら一人考え事を声に出す。

 

「まあ、考えても仕方が無い。一丁都へ聞き込みに行きますかね。」

 

俺は早くこの珍事件が解決するのを願いながら都へとジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都へ着いたのは良いが、誰に聞き込みに行ったらいいのかさっぱり分からん。俺は刑事でもないし、そのノウハウが無い。

 

素人の考えだが、都でも人気のある団子屋に聞きに行った方がいいかも知れん。団子屋の場所は都の中心からは外れるが、人通りの多い場所でもある。

 

だからあそこには連日多くの人が集まるし、店主も色々な情報を小耳にはさんでいるかもしれないから、情報も得やすいだろう。

 

そんな事を考えながら、足早に向かう。

 

団子屋が見えてくると、多くの人がいるのが目に映る。今日も繁盛しているようだ。

 

ひとまず団子注文して、色々聞きますかな。

 

「親父さん、団子5本くださいな。」

 

相俺が声を掛けると親父さん(名前はテツ)はにこやかに応対する。

 

「おや、耕也様ではありませんか! どうされたのですか?今日は。」

 

相変わらず愛想がいい元気なお人だ。相対してるだけで元気が貰える。こういった人柄も人気の一つなのだろう。

 

「様付けは恥ずかしいので付けなくて良いと言っているじゃありませんか。……ええ、まあ今回は依頼の情報収集がてらに来たのです。」

 

「いえ、様付けはもう口癖のようなもので、お許しください。それにしても依頼ですか……というとあの連続の?」

 

「ええそんな所です。何か情報が無いかと思いまして。何か小耳に挟んだ事でも良いので、御存じないですか?」

 

そういうとテツさんは少し考えながら口を開く。

 

「ちょっと情報を整理したいので、注文の団子を作りながらでもよろしいでしょうか?」

 

その言葉に俺は快諾する。

 

「ええ、お願いします。他の方にも聞いてみますので。」

 

そう言って俺は席を立つ。

 

席を立った俺はそのまま団子を食べている人達に聞いてみる。

 

「あの食事中突然すみません。ここ最近の人切り事件について何か知っている方、おりませんか?」

 

すると、一人が手を上げる。

 

「最近の出来事なんだが、高辻小路付近で女性が襲われたらしくてな。たまたまいた巡回の兵が助けたらしい。どうも、その様子だとそいつは現場で二人以上に見られると姿を暗ますらしい。」

 

「ほうほう。ではその女性は助かったのですね?」

 

「何とかな。」

 

「そうですか。ありがとうございます。それで、その女性はどちらに?」

 

「いや、そこまでは分からん。俺も小耳にはさんだだけだしな。」

 

「それは残念です。ですが、貴重な情報ありがとうございました。」

 

そう俺が頭を下げると軽く返事をして、男は団子の代金を払い帰って行った。

 

そこを見計らったのか、テツさんが団子を持ってやってきた。

 

「どうぞ耕也様。それで、整理した情報を話しますがよろしいですか?」

 

「お願いします。」

 

俺の返事に頷き、神妙な面持ちで話し始める。

 

「まず、その犯人とやらは、どうも人間ではないようです。」

 

やはり人間ではないか。人間が黒い影の様とかあり得ないもんな。

 

そして話は続く。

 

「そして次に、陰陽師が相対したところ何かとてつもない怨念か何かを感じたようです。なんでも、あそこまで強烈な怨念は初めてだとか。まるで怨念の塊のようだとも言っていました。さらに、その影のような存在は、人間でいう手の部分に当たる所から禍々しい妖気を発する真剣を生み出したらしいのです。」

 

「真剣ですか? それは一体……どんな?」

 

すると少し考え、切り出す。

 

「そこまでは分かりません。ですが、相手はかなりの強さで都でも太刀打ちできる陰陽師は少数なのではないかとの噂です。」

 

「そんなに強いのですか。しかし実態がつかめない。一体何が目的なのだろう。」

 

「私もそこまでは。しかし耕也様、お気を付け下さい。もしかすると次に狙われるのは、あなたかもしれないのですよ?」

 

より一層真剣な表情になりながらテツさんは俺に忠告する。

 

分かっている。相手が危険な事くらい。だからこそこうして調査しているのだ。だが、彼の気遣いは非常にありがたい。

 

「ええ、分かっています。相手は得体が知れないですからね。そのうち巡回も私が担当する事になるかもしれないですから、その時はよろしくお願いいたします。」

 

するとテツさんは頭をさげ

 

「こちらこそよろしくお願いいたします。どうか都の人々を守ってください。」

 

「ええ、任せてください。それが陰陽師の責務であり、俺の意思ですから。」

 

そういって、団子を完食し、代金を支払い再び巡回を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺がその後しばらく巡回を続けていた時だった。念のために、前に現場となった高辻小路付近を巡回をしていた所、突如叫び声が上がった。

 

「いや! 助けて誰か……助けてええええええええーーーっ!」

 

「くそっ! まさか同じ所で!?」

 

そう声を出しながら現場へと急行する。

 

そして路地の角を曲がった先に映ったのは、へたり込んでいる女性と、刀を振り上げ、真っ二つにしようとしている黒い影の人間のような者がいた。

 

くそ、間に合え!

 

そう思いながら俺は咄嗟にM4A1を二丁創造し、空中に浮かせ連射する。

 

大きく乾いた音が断続的に素早く鳴り響く。

 

銃口から放たれた多数の弾丸は、奴を殺傷せんとまっすぐに殺到し着弾する。

 

だが、それは俺の予想した結果とは全く違ったものだった。

 

「なっ!?」

 

口からあまりの驚きに自然と声が漏れ出る。

 

なんと全ての弾丸が奴の身体を着弾音もなく、そう、まるで霧を撃ち抜くかのように貫通しそのまま向こう側の壁へと突き刺さっていったのだ。

 

そして奴は弾丸が貫いたのを始めからなかったかのように振る舞い、そのままの動作で刀を振り上げ下ろす。

 

すでに女性はあまりの恐怖に腰抜かし、意識さえも混濁し始めている。

 

このままでは女性の命がない。

 

助けられる命が目の前で消えるのは俺には到底許容できる事ではない。

 

だからこそ自然と

 

「ふっざけんなっ!!」

 

そう言いながら奴と女性の前に即座にジャンプし、振り下ろされる刀身にあわせ右腕を振りぬく。

 

相手がどんな切れ味のある刀を持ってきても関係ない。俺には領域があるのだから。

 

そしてインパクトの瞬間、内の領域と刀がかちあい刀が瞬間的に力負けし、金属特有の鋭く甲高い音を放ちながら刀身が粉々に砕け散る。

 

奴は刀身が折れたのを見るや否や、声一つ漏らさずに空気に溶け込むように姿を霧散させていく。それと同時に折れた刀の破片も地面に溶け込むかのように消えていく。

 

その様子を見ながら、奴は去ったのだと直感的に理解する。だが安心はできない。どこに隠れているのか分からないからだ。

 

周囲を見渡しながら、倒れている女性へと近づく。どうやら気絶しているようだ。

 

そして一応現場から離れるため、彼女と共に朱雀大路までジャンプする。ここなら人通りも多いため、奴も襲いにくいだろう。

 

彼女が目を覚ますのを待ちながら、俺は周りの人達に、気にしないでくれというジェスチャーをしておく。

 

そうすると、皆は事情を察してくれたのか、普段道理に往来を始める。

 

しばらくすると、彼女は目を覚まし一気に怯え、涙を流し始める。自分の襲われる場面を思い出したのだろう。仕方が無い。

 

俺は彼女を落ち着かせるために、少し強く抱きしめてやり、そっと声を掛ける。

 

「もう大丈夫です。殺人鬼は追い払いました。安心してください。大丈夫です。あなたは安全ですから。」

 

そう俺がしばらく同じような言葉を掛けてやると、彼女はやがて震えも収まり、落ち着き始める。

 

俺は彼女が落ち着くのを待ってから、事情を聞いてみる。

 

「一体何があったのですか? 出来る範囲でいいので教えていただけませんか?」

 

すると女性は自分の身に何が起こったかを話し始める。

 

「それが、今日の献立に使う野菜を買いに行っていたら突然目の前に知らない黒い影のような人が出てきて、それで…それで……ひっく、えぐ。うううぅぅぅ~……。」

 

やばい、また泣かせてしまった。やっぱ駄目だ。アホだな俺は。

 

自己嫌悪に陥りながらも彼女をなだめ、泣きやませ、家まで送ることにした。

 

そして、家までの道中で話してくれた事だが、彼女は奴との面識は全くないらしい。

 

誰かに殺されるような恨みも買う事もしてないらしく、襲われた理由が分からないとのこと。

 

本当に困った。手掛かりが全くつかめない。またやり直しだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の出来事からも俺の弱点が新たに露呈してしまった。

 

それは奴には物理攻撃が効かない事。あれほどの威力を誇る銃弾を多量に受けてもダメージを負った様子もないことから、今の俺には状況が非常に不利に働く。

 

どうしたものか。俺の攻撃は物理攻撃がほとんど。まあ、火炎放射は効かないかどうかは分からんが。でも期待はできなそうだ。

 

それに今後このような敵が出てきたら攻撃手段が非常に少なくなる。

 

悩みどころだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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