東方高次元   作:セロリ

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29話 妖怪は恐ろしい……

怨念は正直勘弁……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にどうしたらいいのか分からん……」

 

俺は愚痴を言いながら手元にある抹茶ミルクを飲む。

 

あの件以来頻繁に奴が現れるようになったのだが、対処しようといくら攻撃してもすり抜けてしまう上に爆薬で吹き飛ばしても翌日には復活するという訳の分からない事になっているのだ。

 

同僚の陰陽師達も巡回量を増やし、被害抑止に努めているのだが俺と同じく肝心な倒すことには至らないのである。

 

いくら考えてもいい考えが浮かばない。今は膠着状態が続いてはいるがさすがに体力的にも精神的にもきつくなっているのである。

 

俺はまだ攻撃される心配は無いのだが、同僚たちは油断したら命を取られるレベルの警戒をしているので気が気ではない。

 

だから俺よりも精神的にまいっているはずなのだ。

 

何とかこの状況を打開せねばならない。そこで俺たち陰陽師は、この状況を打破すべく定期的に集まって会議をするのだが、なかなか良い案が話し合っても浮かばない。

 

ため息をつきながら俺は壁に掛けてある時計を見る。

 

もう少しで対策会議の時間か…

 

俺は重い腰を上げながら

 

「都へ行くか…」

 

そう言って都へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都内部へと入り、会議場へと向かう。

 

会議場といっても円卓や長い机があるような所ではなく、畳みでできた大きな部屋の中で都での隊の代表者が円状に座布団を敷いて、長々と話し合う所である。

 

俺は疲れが日に日に溜まっていくのを感じながら建物の中へと入っていく。

 

会議場の襖を開けるとすでに何人かの友人が座っているのが確認できる。

 

俺が入ると一斉に顔をこちらに向ける。俺も集まっている顔を確認する。

 

現時点で長平、兼友、平信、清隆。この4人が集まっている。誰もが俺と仲が良く、そして非常に頼もしい強さを持つベテランなのである。

 

「おお、耕也殿。よく来た。……目に隈ができているぞ? やはり疲れておるか……。」

 

そう言ったのは、身体はゴツいが心は優しい兼友。いつも俺の様子を見ては声を掛け体調を気遣ってくれる人だ。

 

俺は彼の声に片手を上げながら答える。

 

「どうもです、兼友さん。いや、まあ最近ちょっと疲れが抜けなくて。おまけに睡眠時間もここ最近はめっきり減りましたから色々とガタが……」

 

それを聞いた兼友は、顔を渋くしながら言った。

 

「耕也殿。あなたは巡回などの予定が過密すぎるのです。少しは身体を休めてはいかがか?」

 

温かい気遣いに思わず涙が出そうになるが、ぐっとこらえ言う。

 

「いや、攻撃の効かない俺が少しでも多くやれば皆の負担が軽くなるでしょう? さすがに今回の敵は難敵と言わざるを得ませんし。それに最低限の睡眠はとっているので……」

 

その言葉を聞いた4人のうち、今度は長平が少し声を荒くしながら言う。

 

「お主はバカか? それで体調を崩しては意味が無いではないか。 違うか? お主が倒れれば今度はお主の抜けた穴を補填するためにさらに負担がかかるのだぞ?」

 

もっともな事を言われる。確かにそうだ。俺が抜ければ皆に負担がかかる。それは分かっている。

 

だが、今俺がフル稼働していなければこの均衡は一気に崩れ、多くの死者を出すことになる。それは何としても避けねばならない。

 

それに長平はああ言っているが、現状は理解しているはずだ。並の陰陽師では歯が立たない事くらいは。

 

反論したい気持ちを抑え、言葉を素直に受け取る。

 

「ありがとうございます長平さん。もう少し体調管理には気をつけます。」

 

そう言って倒れ込むように座布団へと座る。

 

俺が座ると清隆が声を発する。

 

「まあ、体調管理も仕事のうちですからな。気をつけた方が良い。」

 

さらに平信も

 

「最近は若いもんも育ってきておるし、何とかなるじゃろ。」

 

ウンウン頷きながら言い聞かせるように言う。

 

本当にこの人たちは……最高だ。

 

そう思いながら自分に言い聞かせていると、後ろの襖が開いてゾロゾロと人が入ってくる。

 

兼友がそれに気付き口を開く

 

「お、そろそろ始めようか。」

 

そう言って皆を座らせ会議は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議は一言でいえば、少しの進歩があった。

 

まず、解析の得意な陰陽師の言うには、今回の敵は本体ではないとのことである。

 

通常ならああいった実態の持たない奴は、身体のどこかしらに妖力の密度が大きい所があるらしい。それが奴にはなかった。ただそれだけのことである。

 

それだけだったらもっと早く見つけろと思ったのだが、何でも解析に成功したのはつい最近入ったばかりの新人だとのこと。

 

それならば仕方が無い。新人をおいそれと現場に出すわけにもいかないからな。

 

そんな事を思いながら、俺は会議が終わり、人もまばらとなった会議場から姿を消した。

 

会議場から出ると、いつもの光景が目に飛び込んでくる……と思ったのだがそうではない。

 

商品を売りさばく人。商品を買う人。貴族の乗った牛車。さらにはせわしなく行きかう陰陽師達。

 

しかし、この事件の影響のせいか人通りが少なく感じる。

 

事件が解決すれば元通りになるだろうか?

 

そう考えていると、正面より、俺たちと同じ陰陽師の服を着た青年がやってくる。

 

顔や身体がすらりとしていて、非常に柔和な笑顔を顔に出している。俗に言うイケメンだな。

 

その男は俺の姿をはっきりと捉えるや否や、手を振りながらこちらへ来る。

 

誰だろうか? 俺の知り合いにこんな奴はいないのだが。誰かの使いだろうか?

 

と、そんな事を考えていると男は俺のすぐ近くまで来ており、話しかけてくる。

 

「はじめまして。新人の大佐原 松久と申します。大正耕也様でよろしいですか?」

 

マジで誰だこいつ? 全く面識が無いのだが。会議の中でもいなかったし。まあ返事を返さなければ失礼なので、当たり障りないように返しておく。

 

「こちらこそはじめまして。大正耕也です。してどんな用件でしょうか?」

 

俺の言葉を聞いた松久は、嬉しそうに微笑みながら話し始める。

 

「ええ、実をいうと今回の奴の本体がどこにあるのかが分かったのです!」

 

その言葉を聞いた瞬間、はぁ? としか思えなかった。

 

なぜなら、昨日今日分かった事実なのにもう奴の本体が分かるとかあり得ないと思ったからだ。

 

俺はどうにも納得出来ずに松久に質問をする。

 

「説明をしてくれ。 昨日今日分かったばかりの情報でなぜ分かったんだ? 納得がいかない。」

 

すると、少し困った顔をしながら話し始める。

 

「実は、その情報を見つけたのは私なのです。それで、早く事件を解決したくて徹夜で妖力の後を探し続けたのです。そしたら、あそこの小さな山から出ているのが分かりました。」

 

その言葉に俺は素直に感心してしまう。

 

新人でよくそこまで頑張れたな。…俺がお前の立場なら力のある奴に任せていたと思うなぁ。

 

そう思いながら次の言葉を口にする。

 

「なら、その場所に連れて行ってくれないか?」

 

その言葉を言った瞬間、彼はより一層嬉しそうに微笑みながらこう切り出す。

 

「ではさっそく行きましょう。善は急げと言います。それに日が暮れてしまうと我々に非常に不利な環境になってしまいます。」

 

俺はそれもそうだと思いながら彼のいう小さな山へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山に入ってから約1時間。かなり上った気がしたが、山というのは存外過酷なもので、体力のない俺にはかなりきつい。

 

それに比べ、松久は対称的にスイスイと登って行ってしまう。

 

「お~い、松久。一体どこにあるってんだ? その本体とやらは。」

 

すると、彼は俺に振り向き

 

「もうすぐです。……あ、見えました。あの祠です。あそこにあります!」

 

そう言いながら指を指した。それに釣られながら同じ方向を見る。

 

指先の方向には、何か大きなお札が構成する木材すら見えな程にびっしりと張り付いた奇妙な祠があった。注連縄やらで厳重に何かを封印するかのように。

 

見るからにヤバそうな雰囲気を放っている。だが、解決のためには何かしらの行動をとらなくてはならない。

 

そう自分に言い聞かせながら、祠まで歩いて行く。

 

間近で見ると祠の中には、さらに強力と思われるお札でびっしりと覆われた剣があった。

 

「何だこれは……。」

 

そう言葉が自然と口から出た。一体何のためにここまで厳重な封印を……。

 

一体どんな事をしたらここまで封印されるのだろうか?

 

もしかしてこれが都に危害を加えていたのか?

 

ならこれは妖刀の類か?

 

頭の中に様々な疑問が次々と湧いては流れていく。

 

俺は深く思考の海に漂っていたがふと違和感に気付いた。

 

松久はどこだ?

 

そんな突発的な疑問が浮かんだ瞬間、俺の身体は祠とは反対方向に向いていた。

 

そして反対を向いた瞬間に視界に映ったのは、半身が黒い影になった松久が、邪悪な笑みを浮かべながら俺に刀を振り下ろしている最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ……やっぱり効かね~か。反則だぜあんた。」

 

目の前の人物は、砕け散った刀を見て呆れたように笑いながらつぶやく。

 

しかし、砕けた刀はすぐさま再生していた。

 

それはつい先ほどまで俺を案内していた松久とは全くの別人と思えるほど豹変していた。

 

そうか、こいつが……

 

「お前が祠の刀から抜け出した殺人鬼ってわけか?」

 

そういうと、それがさもおかしいように腹を抱えて笑いながら言う。

 

「くっくっくっ!…気付くの遅すぎなんだよバ~カ!」

 

暴言なんざ今は気にしている状況ではない。

 

そして俺はとあることを言う。

 

「お前、本物の松久はどうした?」

 

すると奴は大げさに演技をしながら答える。

 

「もちろん殺したさ! 最後の姿は無様で、今思い出しても笑えるぜ! たすけて、たすけて~ってな。アッハッハッハッハッハッハ~~~っ!」

 

あまりの怒りに我を忘れてしまいそうになる。だが理性で必死に抑える。

 

本当は今すぐに殺してやりたいが、最後に聞かなければならない事がある。

 

それは

 

「なぜ、俺をここに呼び寄せた? お前の目的は何だ?」

 

そう、これが一番の疑問であった。なぜ、わざわざ弱点がある場所に俺を連れてきたのか?

 

その答えは非常に単純であった。それはあまりにも下らなく、聞かない方がマシであった。

 

「都で一番のあんたを吸収するためさ。俺は本体に近ければ近いほど吸収効率が格段に増すのさ。だからあんたをここまで連れてきた。さぞかしうまいんだろうな~、あんたの魂、肉、骨。これで俺もやっと刀の大妖怪へと昇華できるぜ。」

 

そう言いながら、再生した刀を近くにある大木へゆっくりと差し向ける。すると、ケーキを切るようにスルリと切ってしまった。

 

思わず目を見張ってしまう。その様子に満足したように笑いながら

 

「驚いたか? くくっ、俺の能力は、あらゆる物を切る程度の能力でなぁ。さっきは使わなかったが、これを使えばお前の防御なんざ簡単にぶち抜ける。そしてお前を殺したら、そうだなぁ、……影で包み込んでジワリジワリと食らってやるよ。感謝しな。」

 

自分の能力に絶対の自信があるのだろう。

 

そしてさらに殺しを何でもないかのように言ってくる。

 

そのあまりのひどい言動に怒りがさらに増してくる。もう自分を抑えられない。

 

こんな妖怪ごときの欲望を満たすために殺されてしまった、都の人や松久。あまりにもひどすぎる。

 

もうさっさと殺してしまおう。こんな屑は生かしておく事が愚かしい。

 

だから

 

「さあ、お前の魂を食らってやるからよぉ~、かくごしてくれよなぁ~。耕也さんよ。見る限り、あんたは大した攻撃できそうにないからな。あがくなよ? 」

 

跡形もなく吹き飛ばしてしまおう。そこで俺は空を見上げ、確認する。

 

それを奴は諦めたと勘違いしたのか、さらに言葉を投げかける。

 

「諦めたのか? 潔いいね~。」

 

当然無視をする。

 

俺は能力を使うそぶりを見せず、上空7000mにトールボーイを創造し、祠に向かって落下させる。

 

奴は俺に刀を近づけながらニタニタと笑っている。

 

「覚悟は良いですか~? 弱い弱い陰陽師君?」

 

そろそろか……

 

俺は最後に奴の顔を真っ直ぐに見て言葉を放つ。

 

「屑は死んでくれ。」

 

「はぁ?」

 

その言葉と共にトールボーイが着弾する。圧倒的な質量と超音速で着弾した爆弾は光と音を振りまき、祠はもちろん奴も跡形もなく吹き飛ばし、周囲は炎と土煙と黒煙に包まれ巨大なクレーターを形成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に分かった事だが、あの祠は昔、2000の人と妖怪を次々と切り殺した刀を納めるための物だったらしい。

 

それが長年蓄積した劣化により、内からの怨念が漏れ出し、今回のような被害が起こったとのこと。

 

今回の犠牲者、松久はもちろん一般人に至るまで全ての者が丁重に葬られた。

 

願わくばこのような事件が起こらないよう。ただそれだけを祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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