東方高次元   作:セロリ

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37話 長期出張とは……

一体どれだけ離れてるんだよまったく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良き友人としてリハビリついでに一緒に過ごしていた藍が旅立っていってから早3週間。相も変わらず俺は平和な毎日をぼんやりと過ごしていた。

 

偶に来る依頼などは雑魚妖怪がほとんどであったし、極めつけはガンさんの時に遭遇した妖精たちのような悪戯を解決するなどといったものである。

 

俺に対しての依頼が少ないという事は、それだけ人が平和に暮らしているという証拠でもあるうえに争いが無いという解釈もできることから、自分の中では中々に満足している。

 

ただまあ、それのおかげで俺の財布が寒くなる一方ではあるのだが。

 

やはり自分で創造した食材を使って料理した食事よりも、他人が心をこめて作った野菜などを食した方が精神的にも健康的であるし、何よりうまい。だから減る必要のない金も減っていく。

 

金が無くなったら自分で自給自足の生活に入らざるを得ないのも懸念されるべき事態の一つではあるが。

 

そんなこんなで今まで溜めてきたお金がどんどん減っていく様を実感しながら庭掃除をしていく。

 

「もう少しお金を稼げる依頼は来ないかなぁ~」

 

そんな事を口に出しながら彗で自宅の周りに積りに積った落ち葉を排除していく。

 

冬風で色々な所から飛ばされてくる落ち葉のせいでみすぼらしい外見のした元廃寺はより一層廃墟と化して見えてしまう。

 

これでは依頼者も来たくても来れないだろう。ここら辺は俺がいるために妖怪がほとんどいないというのに。

 

存外俺の知名度というのは人間だけではなく、妖怪にも浸透しているらしく、近郊に住んでいる雑魚妖怪に関しては、俺を見ただけで逃げ出してしまったりという事が多くある。

 

妖怪と人間の関係が俺の所だけ逆転してるような感じも否めない。

 

……それにしても一体何時になったら金の入る仕事が来るのだろうか?

 

お金が無ければ茶屋にも行けない。悲しいことだ。

 

そんな事をさらに考えながら手を動かすのを速める。

 

さっさと終わらせてあったかいココアでも飲もう。そして買ってきた団子を一緒に食べて至福の時を。

 

「どんどん人の代は変わってるけど、やっぱあの茶屋の団子は絶品だよな」

 

俺はかつてテツさんの経営していた団子の味を思い出しながら、ああ、食べたい。あの甘い団子を。と、呑気に考える。

 

だが、こんな平和な事も突然の轟音に打ち切られてしまった。

 

その音はガラスか何かを大質量の物で吹き飛ばしたかのような音と、木を砕いたような音が混在していた。

 

「な、なんだっ!?」

 

音の発生源の方向に目を急いで向けると、自宅の窓に取り付けてあるガラスが見事に砕け散っており、窓枠も見事に巻き込まれてお亡くなりになっていた。

 

「お、おいおいおいおい!? 冗談じゃねえぞ! 今度は一体何だ!!」

 

目の前で突然起きた事象に対して自然に口から大声が出る。

 

だが、声を出しただけでは何も解決するわけが無いので大急ぎで家に入り、廊下をドタバタと荒く走りながら現場へと急行する。

 

そして襖を開けた先には、綺麗に大穴のあいた窓と真っ二つに折れた卓袱台、砕け散乱した湯呑と茶請け。

 

「な、なんじゃこりゃ~~っ!」

 

もう頭を抱えて叫ぶことしかできなかった。

 

ふと眼をやるとその惨状の中で、真っ二つに折れた卓袱台から薄く青色の煙が上がっている事に俺は気がついた。

 

あまり近づきたくないのだが、仕方がなしに俺は卓袱台をどけてその煙の正体を見ようとする。

 

卓袱台をどけていくと、紙でできたツバメのような物が畳に突き刺さっていた。

 

どうやらこのツバメから煙が発生しているようだ。

 

俺はおっかなびっくりに手を伸ばしてツバメを畳から引き抜く。

 

「なんだこれ?」

 

そう口に出しながらツバメ状に折られた紙を広げていく。

 

すると中には、一枚の金板と文章が綴られていた。

 

「え~と、なになに?………要約すると緊急事態につき大至急幕府まで来いとな。………はぁ!?」

 

一体どれほど離れてると思ってるんだ……。おまけに差出人は源実朝かよ…。俺とは天と地ほどの差がある人じゃないか。

 

もう勘弁してくれ。弁償させようと思っていたのにできないじゃないか。直せるけどさ。

 

俺が依頼内容に失望していると、今度は玄関からノックする音が聞こえる。そして男の声も。

 

「ごめんください。大正耕也殿。おりますか?」

 

ああもう、このくそ忙しい時に。

 

内心俺は愚痴を言いながら急ぎ足で玄関に向かう。

 

「はい、今開けます」

 

そう言いながら俺は扉を開ける。すると、開けた先には美丈夫が立っていた。

 

俺を確認するや否や背筋を伸ばし、そのまま手に持っている書簡を俺に渡してくる。

 

「大正耕也殿。陛下からの依頼状であります。どうかご検討のほどを。……では、私はこれにて失礼いたします」

 

「は、はあ、どうも…」

 

そう言って男は意気揚々と馬に乗って帰っていった。一体何なんだ…。しかも自己紹介もなしかよ……。

 

突然渡された書簡に動揺しながらも家へと入り、中身を拝見する。

 

「え~っと、なになに?……幕府における大妖怪たちの襲来を阻止してください。……同じですか」

 

実朝からの手紙と細部にこそ違いはあるが、それ以外は同じであった。

 

これはどう考えても断れる状況じゃないよな。行くしかないのか。そしてこの実朝からの手紙に入っていた金板は前金という意味なのだろうか?

 

どちらにせよ、今上陛下と将軍のお二方から依頼なのだから断れるはずもないのだけれども。断りなんかしたらそれこそ俺の陰陽師生命が、いや、命そのものがあぶない。

 

それにしてもどうやって行くか。ジャンプで行くのが一番早いのだが、それではあまりに早すぎて逆に変に思われるし非常に疲れる。幕府に俺が仙人だってことはおそらく伝わって無いだろうし。

 

どうしようか……。自動車で行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり自動車は最高だね。俺が全然疲れないし」

 

まあ、実際は地面付近の超低高度にアスファルト製の道路を創造してその上を車で走っているのだが、道路を創造するのはジャンプするよりも遥かに疲れにくい。

 

疲れない理由としては、自動車が通った後の道路を消して再利用しているというのが一因ではある。

 

まあ、都から鎌倉までの全区間に道路を創造してもそんなに疲れはしないのだが。

 

ちなみに俺が乗っている車種は、HONDA FIT 1.5L仕様である。この車は中々に乗り心地も加速も優れている。俺は助手席に乗ってのんびりしてるだけだが。

 

現在は時速50km/hにて走行中。そんなに急ぐ必要もないし、鎌倉まではおおよそ5日程で行く予定だ。

 

あの後陛下に謁見をしたのだが、鎌倉まではおおよそ二週間ほどの道程で行けるようにと言われたのだが、実際はそれよりも大幅に早くなる。

 

まあ、自動車は馬と違って疲れ知らずだし、なにより乗ってる人間の疲れ具合に天と地の差が生じる。おまけに速度も全く違う。

 

だが、それにしても違う。本当に乗り心地が違う。馬に乗せてもらった事があるが、あれはもう酷いの一言だった。腰が痛くなるわあちこちが筋肉痛になるわで本当に酷かった。

 

それに比べたら天国だと思う。この車は。

 

それにしても現時点で不思議な事が一つある。

 

「さっきから妖獣がこの車を追って来てるのは何故なんだ?」

 

そう、かれこれ20kmほど走っているのだが、狼っぽいのかよく分からない連中は俺の後ろをずっと走っている。おまけにどんどん近付いてきてるし。

 

俺の乗っている自動車を動物か何かと勘違いしているのだろうか? 美味そうに見えるからだとか? ははは、勘弁してくれよマジで。冗談じゃねえや。

 

「ちょっと速度を上げてくれ」

 

そう俺が指示をするとアクセルペダルが奥に少し押され、エンジンの回転数が増し、それに伴って車速が増す。

 

スピードメーターがおよそ80km/hを示し始めると、俺は後ろを見る。……まだ、追って来るのか。

 

「120まで頼む」

 

すると、さらに速度が増して目的の速度にまで達する。

 

そうすると、これ以上追う事が不可能と判断したのか、妖獣たちは渋々と速度を落として諦めていく。

 

…最近の雑魚妖獣は良く分からん。バカなのか、それとも唯物珍しさか。この車が堅そうだというぐらい分かると思うんだけどなぁ。

 

同じ妖獣でも藍とは大違い。

 

そんな事を考えながら、俺は車を走らせていく。

 

それにしても幕府での大妖怪とは一体何なのだろうか? 俺ですら手に負えないようなものじゃなければいいのだけれども。

 

おまけに大妖怪が出てくるという事は、それにつき従っている妖怪もいる可能性が高い。どういった妖怪なのかすら教えてくれないのならこちらも対処しようがない。陛下ですら知らないのだから。

 

全く変な話だ。現場につけば分かるらしいのだが、別に言ってくれてもいいと思うんだけどなぁ。事前に情報をくれた方が圧倒的に有利なのに。

 

まさか変な意地でも張ってるんじゃないのだろうな? 俺が鎌倉からのオファーを断ったからといって。

 

もしそれだったら文句の一つでも言ってやりたいものだ。こちとら長旅をしてやってこようとしているのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局五日間ではなく、色々と車でブラブラしながら猶予をもらった二週間を潰して、幕府へと向かった。

 

道中は特にこれといった事件もなく、極めて平和なものであった。

 

正直に言わせてもらうと、幕府近郊の景観は、平安京の方が活気づいていた気がするのだが…。

 

まあ、それもそうだろう。よくよく考え直してみれば今は大妖怪が襲来しているとのことだし。

 

早く活気を取り戻してやらなければなぁ。

 

そんな事を思いながら町を歩いて行く。だが、商売人は商品を買ってもらおうと商魂たくましく客寄せをやっている。

 

俺はそこで最寄りの茶屋に入り、少々情報収集をすることにした。

 

店の景観はごく普通の茶屋といった感じで、客は適度に入っているようだ。

 

俺は団子を二本と茶を頼み、あいている席に座る。とはいっても相席が普通のようだが。

 

そして今俺の相席になっている男は随分と困ったような表情をしており、いかにも疲れたという雰囲気を醸し出している。

 

そこで、俺は体調を気遣うように声を掛ける。

 

「あの、すみません。失礼ですがお身体の具合が優れないように見えるのですが、 大丈夫ですか?」

 

すると、男はため息をつきながら話し始める。

 

「聞いてくれ…俺は陰陽師をやっている者なのだが、最近鬼の集団が頻繁に来るようになってな。つい最近も友人が一人やられてしまった」

 

おっと初っ端から情報獲得か。幸先が良い。

 

………ちょっと待った。まさか、大妖怪って鬼のこと? あの馬鹿力の鬼?

 

まっさかぁ~。鬼が何でここに来るんだよ。都に現れるのがセオリーなんじゃないの?

 

「あの、お尋ねしますが、まさかその鬼の中に伊吹萃香と星熊勇儀って鬼はいないですよね?」

 

すると、その陰陽師は諦めた笑いをして

 

「よく知っているじゃないか、いるよもちろん。あいつらの強さは桁違いだ。大勢で挑んでも負けてしまう」

 

うわぁ~~。マジでいるのかよ。

 

どうしたものかな。今回呼び出されたのが勇儀たちの鬼集団だったら困るんだけど。

 

合戦状態になったら俺がフォローしきれないし。

 

マジでどうすんべ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は男の愚痴を延々と聞き、団子と茶を啜って店を出た。

 

もしかしたらあの男とはまた会うかも知れないな。

 

じゃ、大蔵幕府へ行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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