東方高次元   作:セロリ

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4話 やっと安心した……

色々あったが自分は生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紆余曲折有りながらもなんとか民家へとたどり着くことができた。

 

まるで縄文時代かそこらへんの家屋だ。何より扉が無い。だが、植物性繊維の幕のようなものが代わりにある。

 

まずは、最寄りの民家の入口付近から声をかける。

 

「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」

 

 

 

しばらくすると、中から体格の良い男が出てくる。年は30代ぐらいだろうか?

 

動物の皮を使用しているのだろう。そんな感じの衣服を着ている。

 

「ん?なんだ?」

 

かなり警戒した顔で訪ねてくる。当然か。相手は素性も分からない上に、見たこともない服を着ているのだから。

 

相手の警戒を解くために少々作り話をしてみる。

 

「自分は旅の者なのですが、途中で化け物に襲われてしまい荷物を根こそぎ盗られてしまったのです。何とか命からがら逃げてきたのですが、どうか助けていただけませんか?」

 

「化け物?どんな化け物なんだ?この近辺では滅多に出ないのだがな。ここは辺境とはいえ、一応洩ヤ様の領地だからな。……嘘は吐いてないだろうな?」

 

洩ヤ?諏訪地方の?ミジャグジの?

 

そしてなかなか警戒を解いてくれない。どうしたものか。化け物の特徴でも言ってみるか?

 

「嘘だなんてとんでもない!あそこの森で出くわしたんです。化け物の姿は蜘蛛に一番近いと思います。足が8対あって、頭に角が生えてました。後、身体は自分よりもかなり大きかったです」

 

そう言って俺は自分の着た方角を指差しながら言った。頼む、信じてくれ。

 

内心ビクビクしながら男の反応を待った。

 

自分の言い分を聞いた男は、少しの間考えるようなしぐさをし、突然思い出したかのような顔をして話した。

 

「あいつか!あの妖か!あいつは鬼蜘蛛といってなぁ。……しかしまだ生きていたのかしぶとい奴め」

 

妖?ああ、妖怪の事か?多分、妖怪の事なんだろう。それにしても鬼蜘蛛って・・・。つくづく変な世界に来てしまったものだと思う。

 

しばらく男はその鬼蜘蛛について、よっぽど怒りがあったのだろう。ぶつぶつと文句を言っていた。

 

「あの……?」

 

と、俺が声をかけると、男はあわてて

 

「ああっと、すまない。お前さんが嘘をついてないのは良く分かった。疑ってすまなかったな。……お前さんが遭遇した鬼蜘蛛は、つい最近我々の集落を襲ってきてな。

その時に退治したはずだったんだが、まさか生きていたとは思わなんだ。また狩りに行かなくてはならんなぁ。……それよりも、あれに襲われてよく生きてこれたな。何かの神の加護でも受けているのか?」

 

神?俺からすればなんのこっちゃ?っという感じなんだが。適当に言っておくか。

 

「いえ、そのような大層なものは受けておりません。逃げるのに必死でしたから。自分の荷物の中にあった鹿肉などの食糧を袋ごと投げつけて逃げました」

 

「あんた運がいいな。いや、もしかしたら洩ヤ様が加護を授けてくれたかもしれないな」

 

え~?祟り神が?見ず知らずの旅人の対して加護なんて授けるか?あり得ないと思うんだがなぁ。おまけに信仰もしてないし。

 

とりあえず、寝床の確保のための交渉をせねば。リンゴも襲われた際に落としてしまったし。

 

「ところで、すみませんが雑用でもなんでもいたしますので、どうか寝「分かってる。今日は泊っていくといい」本当ですか!?」

 

「ああ、その代わり働いてもらうぞ?働かざるもの食うべからずだ」

 

「もちろんです!! 働かせていただきます。本当にありがとうございます!!」

 

やばい。嬉し過ぎて涙が出そうだ。

 

俺が喜んでいると男は思い出したように言った。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はリキだ。お前さんは?」

 

「申し遅れました。自分は大正耕也と申します。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ、よろしく。さっそくで悪いんだが、近くの川にいってこの水瓶に水を入れてきてくれ。」

 

そう言って、ずいぶんと大きい水瓶を指して言う。ずいぶんと重そうだなオイ……。

 

「分かりました。行ってきます。……一人で持てるかなぁ?」

 

最後に小さく俺の言葉を聞きとったリキさんは、笑いながら

 

「な~に言ってんだよ。女の子でも持てるのに。男のコウヤが持てなくてどうする?」

 

「は……ははは。そうですよね~」

 

本気でマズいかも知れん。

 

 

 

 

 

 

それにしてもこの水瓶、何も入ってない状態でも重いな。持てるからいいけど。

 

水は何リッター入るんだろうか?60以上は入りそうな気がするんだが、気のせいだろうか?

 

そんなこんなしているうちに川へと着いた。

 

「川がきれいだな。俺の行った川で一番きれいだった長瀞渓谷よりもずっときれいなんじゃないか?」

 

感心してる場合じゃない。早く仕事を終えねば。多分この水は煮込みか何かに使うのだろう。

 

 

 

 

幸い川の流れが緩やかなため、瓶に水を入れる作業は円滑に終えることができた。

 

それにしても重い!何キロあるんだよこれ!!全力で持ち上げようとしても形状のせいか持ち上げにくい。

 

腰痛めるぞこれ……。

 

「こいつは重い、重すぎる。軽くなってほしいなぁ。重さが1%ぐらいになればメチャクチャ楽なんだけ……うわっ!」

 

またもや不思議な事が起きた。鬼蜘蛛に出くわした時のように。

 

あれだけ重かった水瓶が、突然軽くなったのだ。当然のごとく俺はバランスを崩し、せっかく汲んだ水を自分にぶちまけてしまった。

 

「な、何だ!何が起こったんだ?……ちっくしょう!今日はことごとくツイてない!」

 

叫んでいても覆水盆に返らずなので、すごすごと汲み直す。

 

今度はさっきと同じく異様に軽かった。具体的には、満タンの500mlペットボトルと同じぐらいに。

 

まあ、ありがたいっちゃあありがたいし。このまま持ち帰ろう。

 

「それにしても、ずぶ濡れだなぁ。早く乾いてくれればいいのだが・・・。」

 

とつぶやいた瞬間に、服が瞬時に乾いてしまった。

 

もう訳が分からない。

 

 

 

そして俺は、水瓶を持ち帰りながら自身の身に起きている事を自分なりに分析していた。

 

 

 

なぜあの時、鬼蜘蛛の攻撃は自分に通らなかったのだろうか。それと、水瓶が軽くなった事や服が乾いた事も疑問だ。

 

願った事が現実に反映されてるのだろうか?でも、これは前者の現象に適さない。

 

では、言葉が現実に? ……これも違う。同じく前者に当てはまらない。

 

ならなぜ?疑問は深くなるばかりだ。

 

さらに疑問があった。腹がへらない。のども渇かない。トイレに行きたくすらならない。

 

本当に何が起こってるんだ?俺の身体に。実に恐ろしい。

 

昔やったゲームにかゆ、うま……、なんて言葉があって当時は笑っていたが、今は全く笑えない。

 

まあ、時間はあるし、おいおい確かめていけばいいか。自分の身体に変調をきたす前に確かめたいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

水瓶を持って、リキさんの家の前まで来たのだが、リキさんが何やら申し訳なさそうな顔をしている。

 

どうしたのだろうか?

 

と、疑問に思っているとリキさんが口を開いた。

 

「スマン耕也。実は水汲みの用の瓶はそれではなくて、これだったんだ。」

 

と言って、別の瓶を指差した。

 

 

ずいぶん小さいなオイ!

 

容量は20リットル程の小さな瓶だった。

 

「いや、気にしなくていいですよ。何とか運べましたし」

 

俺がフォローするとリキさんはうれしそうに

 

「そうか、でもすまなかったな本当に。でも助かったよ。おかげで何回も水を汲みに行かなくてもすんだ。ああそうだ、家族を紹介しなくてはな。

うちはこの集落の長の家なんだよ。でもって親父が長なわけだ」

 

実は、俺が森を抜けてきたところををすでに長は見ていたらしい。おまけに怪しい行動をしていたら殺されていた可能性もあったとのこと。

 

勘弁してくれ。しかし合点がいった。

 

だから話がすんなり通ったのか。それもそうだよな、こんな奇天烈(この時代としては)な服装をしている怪しい輩を簡単に泊めるわけがない。

 

と、一人思考しているとリキさんが

 

「まあ、家に入りたまえ。今日は疲れたろう。ゆっくりしていくといい」

 

と切り出した。それに対して俺は素直に甘えることにした。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

そして俺は、リキさんの家族と賑やかな一夜を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついでに、リキさんの家族は14人家族だった。大家族だなオイ・・・。

 

そして寝る際に思った事がある。これが最大の疑問だ。

 

それは、

 

「俺って、埼玉県にいたはずなんだけど・・・なんで長野県に?」

 

というものだった。いやマジ不思議。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。

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