東方高次元   作:セロリ

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41話 怒る時は怒るさ……(上)

それはもう烈火のごとく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ……、始めようじゃないか。力と力のぶつけ合いをさっ!」

 

一体何で鬼というのはこんなにも人間と争いをしたくなるのか聞きたくなる。

 

鬼の生まれつきからの本能だと言ってしまえばそれまでではあるが、実際のところは良く分からない。

 

妖怪自体人間の妄想の産物なのだが、その中で鬼という種族は人間と戦闘が好きな妖怪とされてきたからだろうか?

 

鶏が先か卵が先か、ぜひとも知りたいものだ。唯の好奇心からだが。

 

「じゃあ、戦いますか。萃香さん?」

 

そう言うと萃香はブルブルと小刻みに身体を震わせ、その場で片足を交互にトントン上げ下げして何かを抑えきれないように動作する。

 

「くぅ~~。きたきたきたきた~~。こんな奴と戦ってみたかったんだよ。今までは大した奴がいなくてねえ。ちょっと小突いてやればすぐに退散していく軟弱者ばかり。さあ、行くよっ!」

 

そう言って萃香は戦い前の名乗りを張り上げる。

 

「我こそは鬼の四天王、技の萃香っ! いざ、正々堂々と!」

 

そして俺もそれに従って声を張り上げる。

 

「陰陽師大正耕也、人間の底意地を見せてやろうっ!」

 

言ってて恥ずかしいが、これを言わなくては勝負が始まらないので仕方が無く言う。

 

彼女の意気込んだ姿を見て少々自分の持っている萃香の情報を漁ってみる。

 

攻撃の傾向としては、物理的な力技も、術関係も多彩で、非常に臨機応変に戦えるという素晴らしい能力の持ち主だというのは分かる。

 

だが、実際萃香の攻撃を見るのは萃夢想などのゲームで見た事しかないが、今回は大昔なので、おそらくあれよりも大雑把な攻撃がくると俺は予想する。

 

だが、今回は弾幕ごっこではなく、殺し合いに等しい戦いなので、どんな手を打ってくるかは全く予想がつかない。

 

ミッシングパワーみたいなものをされたら俺だって縮みあがる。

 

ひとまず俺は体力の消耗というのを避けるためにその場からジッとして動かずにいる。

 

だが萃香の方はジッとしているという事はなく、すぐさま俺に攻撃を仕掛けてくる。

 

「一体、お前の防御はどこまで私の攻撃に耐えられるのか、試させてもらおうじゃないかっ!」

 

そういって後ろに大きく跳び、手をかざす。

 

「萃まれっ!」

 

そう言うと、萃香のかざした手に砂、小石、岩が吸い寄せられていく。おそらく、密と疎を操る程度の能力で大質量の岩を形成させ、俺を押し潰すという算段なのだろう。

 

ただ、俺には効かない。効かないがどうしても先ほどの戦いと違って恐怖感というのが増してくる。当たり前の事だが、人間が自分よりも巨大なものを相手にした時、真っ先に現れる感情が恐怖という物である。

 

だから

 

「これを食らって、生き延びられるかいっ!?」

 

そう叫びながら投げてくる直径20mはあるかというほどの大岩を投げつけられると、やっぱり恐怖心が増してきてしまって

 

「やっぱ怖いってっ!」

 

そう言いながらジャンプして萃香の後方に回り込む。

 

萃香は俺が回り込んだ事に気がついたのか、後ろを振り向く。ただ、彼女の顔がつまらなそうな表情を浮かべている事が不思議ではあるが。

 

「何だい何だい、臆病風にでも吹かれたのかい? 男だったらこれくらい受け止めて見せなよ、だらしがない」

 

男だったらとか…なんて無茶を言うんだ。

 

確かに攻撃は効かないけれども、彼女の思い通りに動いてやる気はこちらとしてもさらさらない。

 

ただ、体力消費の面を考えると、ジッと動かずに固定砲台に徹する事が一番であるため、結果的にどうしても彼女の攻撃を全て受けなければならないのである。

 

おまけに彼女は霧となる事ができ、俺の攻撃を一切透過させてしまうという反則的なこともできる。あの松久を殺した怨念のように。

 

そしてあの時には試しては無かったが、火炎放射等による攻撃も彼女には散らされてしまう可能性もある。火力によっては効くとは思うが。

 

つまり結果として、萃香は俺とは相性が一番悪い妖怪だともいえる。とはいっても外の領域を広げて萃香を範囲内に入れてしまえば能力が使えなくなるのでそれまでではあるが。

 

だが、外の領域は本当にどうしようもなくなったときにしか使いたいとは思わない。自分では弱点は無いとは思っているが、もし何かしらの弱点があり、それが露呈してしまった場合は目も当てられない状況となる。

 

だからこそ

 

「いやいや、無茶言うなよ鬼っ子。これでも俺は頑張ってるんだから。むしろそっちが攻撃を当てられるように努力すべきじゃないのかい?」

 

そう言うと、彼女は不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「そんな事を言って~。本当は私が怖いだけじゃないのかい? 鬼という存在がさあ」

 

彼女の言っている事は部下になら適用されるかもしれないが、俺に対しては適用されない。俺は萃香自体が怖いのではなく、その使う技が怖いのである。

 

ミッシングパワーなんて使われた時にはもう……。焦って何もできなくなりそうなのが怖い。

 

「いやいや、結局の所恐れているのはそっちなんじゃないのか? 俺の防御があまりにも堅くて自分の攻撃が通らない。力自慢の、そして技自慢の鬼としての誇りが粉々に砕け散ってしまうのが。」

 

「っ!!っ……さて、それはどうだろうねえ!?」

 

そう言って上空へと飛びあがり、自身の持つ膨大な魔力をもとにして妖力弾を機関銃のように手からはじき出す。

 

その妖力弾は青色を基調としており、俺の身長ほどあるような大きな丸い弾から、両手で包み込んでしまえるほどの大きさの弾、さらには霧のようにもやもやとしているが高温となっており、接触する空気に揺らぎを与えるほどの弾。

 

そんなバリエーション豊かな弾幕はとても花火とは比べ物にならないほどきれいなものであるが、それは確実に俺へと牙をむく危険な代物なのだ。

 

弾幕は思い思いの速度で間隔を詰め、確実に迫ってくる。

 

次々と命中し爆発する妖力弾の中で、俺も反撃をする。

 

「だったら俺からもお返しだ。萃香」

 

そう言いつつ俺も家庭用ガスボンベを創造し、萃香に高速で飛ばし、起爆させる。

 

だが、萃香はにやりと笑って霧化し、爆発を無効化する。

 

「ははは、そんな小道具じゃあ私に傷は付けられないよ?」

 

そう言って素早く俺の後ろに回り込んで実体化し、殴りこんでくる。

 

左足を軸とし、鬼の筋力から発生する凄まじい遠心力を味方につけて。相手を塵一つ残さんとばかりに。

 

「だから、そんなの俺に効くわけがないだろうがっ!」

 

だが、俺はその拳を苦も無く領域で受け止め弾く。

 

「くぅ、妖力で堅化させてもきついなぁ。ははは、才鬼の手が折れる理由がよく分かったよ」

 

俺は咄嗟に目の前にある、萃香の腕を掴もうとする。

 

だが萃香は、おっと危ない等といいながら再び霧となって姿をくらます。どうやら彼女は非常に細かい粒子状になっているようでどこにいるのかさえもわからない。

 

くそっ、もしつかめたらそこからはもう俺の独壇場に持ちこめたというのに。俺が掴んだら妖力も能力も怪力も使えないからな。

 

全くある意味で俺よりも卑怯な力だ。不可視の存在。まるで幽霊でも攻撃しているような感覚だ。こんちくしょう、俺も霧化できたら楽なのに。

 

でもできないものはできない。なので仕方が無いから萃香の出方をジッと待つ。

 

だが何もしてこない。それでも待つ。ジッと待つ。萃香がしびれを切らすまで。おそらく萃香はジッとしているのはそこまで得意ではない筈だ。何せ鬼なのだから。

 

そう勝手に決め付けてはいるが、やはり俺の目論見どおりに萃香がしびれを切らす。

 

「この臆病者め!」

 

そう言って俺の周囲より霧の状態から一斉に数千発、数万発の数えきれないほどのレーザーを放つ。

 

俺は千日手になりそうだなと思いながら素直に攻撃を受け、弾き飛ばす。

 

延々に続くかと思われる攻撃のさなか、俺は一つの考えを頭に浮かべていた。

 

(おそらく萃香はこのまま霧の状態で姿を現しはしないだろう。怒りで誘い出してみるか? 鬼のもっとも嫌な正々堂々ではない言葉を使って。)

 

そこで俺はその考えをもとに萃香の戦意を喪失させるために呆れたような口調で話す。

 

「萃香さんよ~、もう諦めたらどうだい? 今の攻撃は見事の一言。確かに凄かった。強力な妖怪だって今の攻撃を食らったらタダじゃあ済まないだろうね。でもねえ、よく考えてごらんよ。俺の状態を見ても分かるだろうけどさ、才鬼との戦いやお前さんとの戦いにおける攻撃や能力は何一つ効きやしない。俺にはね? もう、諦めたらどうだい? 体力切れを狙ってるのかもしれないけどさ。そんでもって傷一つ付かないもんだからやる気が無くなってくるんだけど」

 

俺がそうまくしたてると、我慢ならなくなったのか霧の状態から姿を現す。やっと来たか。

 

萃香は俺の言葉を聞いたせいか随分と怒り顔だ。俺の言った言葉は本音を含んではいるが、それにしても随分とまあ沸点が低いもんだ。

 

そして俺を鋭く睨みつけたまま静かに言い放つ。

 

「一体お前は何が言いたい。私がお前に勝てないとでも? それに、鬼は諦めることが嫌いでね。駄目だって分かっていても必ず突破して見せるという根性があるんだよ。お前のような軟弱な人間と違ってな。そしてなにより、修羅場や死線という物すらくぐったことが無い人間と鬼の私とでは覚悟が違うのさ」

 

俺は萃香の言った言葉に少々どころかかなり驚いてしまう。

 

どうしてそんなことまで分かるのだろうか? たしかに俺は修羅場という物を経験したことはほとんど無い。鬼蜘蛛の時でさえ、結局怪我の一つもなかったのだから。

 

答えは簡単で、命を危険にさらした事が無かったから。ただそれだけのことである。

 

そして萃香は俺に対してさらに追い打ちを掛ける。

 

「今まで言わない方がいいと思っていたが、大正耕也よ。お前はただ、自分の力に乗っかってぬるま湯につかっているだけにすぎないんだよ。この腰ぬけ」

 

あんまりにも的確すぎて全く言い返せない。参ったなこりゃ。耳に痛い事を言ってくれる。変な事を言ってしまったのが原因なのだけれども。誘い出すためとはいえ、ちょっとマズったなあ。

 

どうしたものかねえ。でもまあ、俺が修羅場を経験したかしてないかはこの際関係ない。要は勝てばいいのだ。

 

「で、その修羅場や死線をくぐった事のない俺に攻撃一つ食らわせることのできない鬼は一体どこの誰だっけ?」

 

そう言うと萃香は不敵な笑みを浮かべて、妖力を一段と大きく放出する。

 

「だったら今から私の技という物を見せてあげようか。…その前に、一つ言っておきたい事があるのだけれど良いかな?」

 

そうにっこりと笑いながら俺に問う。

 

「どうぞ」

 

「じゃあ、そうだね……。もし、私が勝った場合、幕府に攻め込むということは、分かってるね? そして、攻め込んだ時に真っ先に狙うのは赤ん坊なんだよ。耕也」

 

その萃香の言った赤ん坊という単語にに少々過敏に反応してしまう。

 

「なんだって? 赤ん坊?」

 

そして萃香から出てくる言葉は到底俺の頭の中では共感できないものであり、許容できない内容であった。

 

「そう、赤ん坊だよ赤ん坊。美味いんだよこれがまた。生きたままその柔らかい太ももに齧り付いて肉をグチグチと剥ぎ取っていくのさ。その叫び声をおかずにね」

 

萃香の挑発なのか、ただの過去話なのか分からない話はまだ続いていく。

 

「そして生きた赤ん坊をね、そのまま鍋に放りこんだり、油の煮滾る鍋へ投下したりねえ~。ほ~いってね」

 

「それで極めつけは活造り。これがまた物凄くうまいんだよねえ~。あ、そうそう妊婦の中から引きずり出してそのまま鍋に投下ってのもまた乙なんだよねえ」

 

「酒の肴は赤ん坊の肝臓の揚げものだったりさあ、もう本当に美味いんだよ」

 

やっと話が終わった時、俺はかつてないほどの言いしれぬ感覚に襲われていた。そう、直感ではあるがこれが本当の殺意ってものなんだと思った。

 

あの平安京の事件での怒りを簡単に超えてしまっている程の。そのおぞましい光景を想像した瞬間に吐き気を催すほどの。

 

おそらくそれを聞いた瞬間に勝手に決め付けてしまったのだろう。これは鬼たちが今までにやってきた事なんだと。

 

そして次の瞬間に聞いた言葉が引き金となった。

 

「ああ、そうそう。お前さんが最後に泊まった民宿のお爺さんさあ、負けたら食われちゃうかもよ? でもまあ、老い先短いから大して変わらんとは思うけどねえ?」

 

応援席の方から勇儀が何か大きな声で言っているが聞き取れない。もう知らん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジで死ねや。この糞鬼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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