東方高次元   作:セロリ

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43話 おさえておさえて……

燃料切れは怖い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰だって嫌に思うだろう。未来ある赤ん坊、子供が見境なく残酷に食われてしまうという事が。

 

だからこんなことをした鬼に対して同等の苦痛を味あわせてやる。

 

いつしかこんな黒く醜い感情が俺の脳を支配しており、自分の行動が善なのか悪なのかすら状況になっていた。情けないことに。

 

俺はデイジーカッターを食らい無残な姿となった萃香に、止めを刺すため片手を挙げMk82を創造する。

 

これで鬼共も人間の力という物を思い知ることができただろう。

 

これで幕府が襲われることは少なくなるのではないか? そんな考えが頭の中に浮かび、皮算用に頬がつり上がり変な笑顔を形成する。

 

後は………閻魔にでも裁かれるがいい。まともな判断ができなくなっているにもかかわらず、何故かその考えだけがスッと浮かびあがる。怒りからはじき出されたものだからだろうか?

 

ようやく風によって流され、晴れてきた土煙りを後目に、俺は爆弾を落下させようとする。

 

だが、爆弾を振り下ろす前に背中側から下駄の鳴らす連続した短い間隔の音が聞こえ、大きくなったかと思えば今度は背中に抱きつかれる。

 

そしてその下駄の主から声が聞こえてくる。それは悲痛な声が。

 

「頼むっ!! もう萃香は戦えない。だからもう終わりにしてくれ。後生だっ!!」

 

その言葉に対して俺は反射的に反論してしまう。

 

「離せっ! 何をふざけた事を言っているんだっ! 勇儀っ! これは真剣勝負なんだぞ。第三者が口をはさむなっ!」

 

さらに俺は口早にまくしたてる。

 

「そしてさらに、お前たちと違って俺は多くの命を背中に預かっている。俺が負ければ数万という民草の命が危険にさらされるんだっ! そんな圧力の中で俺が戦うというならば、お前たち鬼だって殺し殺されるという覚悟ぐらいできているだろうがっ!? ええっ!? そのための条件設定じゃなかったのか!?」

 

だが、勇儀も怯まずにさらに声を大きくして頼みこんでくる。

 

「分かっている。それは分かっているんだっ! だが、彼女は私の友人なんだ。大切な友人なんだっ! 鬼の信条を曲げているという事も理解している。でも頼む。私には亡くす事のできないかけがえのない友人なんだ」

 

友人といわれてもこちらの怒りは早々に収まる気配は無い。

 

彼女の大切な友人。だからこれ以上はよしてほしい。そんなことは誰だってするだろう。

 

だが、彼女たち鬼は人間の住む幕府に対して侵攻した時、人間が同じ言葉を言ったら果たしてやめるだろうか?

 

答えは当然のごとく否であろう。人間の懇願を無視して恐怖をさらに与えて食う。それが妖怪なのだから。

 

だからこそ、ここで殺しておかなければ。殺しておかなければこの鬼たちは後々人間に対して牙をむき、大きな損害を与える。

 

何より萃香はこの鬼の集団の中でもトップクラスの強さ。ここで殺しておけば鬼たちの戦力を相当減らせるはずだ。

 

そう頭の中で結論付けた俺は勇儀の言葉を無視して手を振り下ろそうとする。

 

だが俺の腕は、俺の意思に従って振り下ろされることは無かった。

 

「やめてくれっ!」

 

その声と共に俺の腕が軌道からずらされる。そのずらされた影響により爆弾は軌道から大きく外れ、見当違いの方向に飛んでいき着弾する。

 

大きく火柱を吹き上げて黒煙と土煙を上げる。

 

まあ、この結果は大体は予想できた。でもすごい、俺の身体に触れておきながらよく軌道を逸らす事ができたな。

 

ああ、でも勇儀の行為自体は俺に対しての過剰な力でもないし、害的干渉でもないから通じたのか。

 

そんな事を目の前で起こった事象の結果に対して淡々と感想を頭に浮かべる。

 

俺は首だけを勇儀に振り向かせながら言う。

 

「何をするんだ。勇儀。」

 

俺が言うと勇儀は少々言いづらそうなしぐさをして再び大声で言う。

 

「たのむ……やめてくれ。殺さなくても勝負はつくだろ。それに萃香の言った言葉は唯の挑発にすぎないんだ。頼む。許してくれ。」

 

………………胸糞悪い。

 

そして俺は勇儀掴んでいる腕を振り払って

 

「もういい、勝手にしてくれ」

 

短くそう言って、外の領域をOFFにする。

 

するとたちまち萃香の身体から妖力が立ち上り、身体の破損部分に対して霧が集まり、身体を修復していく。

 

どうやら気を失っても萃香の身体が勝手に治そうとしているようだ。

 

俺に抱きつき必死に止めていた勇儀はその様子を見て俺から離れ、萃香を介抱しに行く。

 

勇儀は萃香の側にしゃがみこみ、安否を確認する。それにつられて俺も萃香の側に行き容体を確認する。

 

見たところ破損個所は全て治ったようだが、意識は依然と失ったままであり戻る気配は無い。

 

「耕也。この勝負はお前の勝ちだよ。だが、次の勝負までは少々時間を空けて萃香が目覚めるのを待ちたい。頼む。良いか?」

 

それに関しては俺の頭の中では不満たらたらであったが口からは不満は出るはずもなく

 

「いいよ。萃香が目覚めないと心配で集中できないだろうからね」

 

そういってしまう。

 

俺がそう言うと勇儀は頷いて萃香を抱き上げ、応援席まで運んで行く。

 

目が覚めたらとりあえずは心配ぐらいはしてやろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、大丈夫か? 腕とかはくっついているようだけど。」

 

俺は目を覚ました萃香に対しておずおずと尋ねる。

 

「い、いやあ、私も酷い挑発してしまったし、耕也が気にする事は無いよ。第一今回は死んでも文句は言えない真剣勝負だからね。仕方ない事だよ」

 

そう言って萃香は苦笑する。

 

ひとまず彼女の様子を見る限り、腕が動かないなどといった後遺症のような物が無い事に安心する。

 

萃香はあの気絶した状態から、勇儀が担いで応援席に着、寝かせるとすぐに目を覚ました。観客の鬼たちは何も言わなかったが、俺に対しては特に恨みの感情などは持っていないそうだ。理由としては真剣勝負だからというのが一番だったが。

 

そんなこんなで俺は萃香に尋ねたのだが、当の本人は妖力が元に戻ったおかげか元気いっぱい。治った足や腕は普通に動かせるらしいがまだ完全に戻るにはかなりの時間が必要だとのこと。

 

「まあ、身体は何ともなかったし、ひとまず安心ってことかな。はははっ。」

 

そう言って再び目をつぶる。

 

「ちょいと疲れたからこれで私は休ませてもらうよ。また、今度は挑発抜きの本気で戦いたいよ……。……………」

 

そう言ったら萃香はすやすやと眠りこんでしまった。やはり身体の修復に使われた妖力の消費からくるものだろう。

 

それを見届けた俺は勇儀の方を見やる。

 

彼女はすでに萃香は心配ないと思っているのか、準備運動を始めている。やる気満々だよこの鬼。

 

仕様がない。最後の戦いなんだ。しっかり勝って幕府の安全をもぎ取るとしようか。

 

俺はそう心に誓いながら勇儀のもとへと足を運んで行く。

 

歩いている最中に様々な考えが浮かんでは沈んでいく。

 

彼女に勝つことは決して難しい事ではない。萃香と同等の手を使っていけば勝てる可能性は極めて高いだろう。しかしこれには欠点がある。

 

先の戦いでかなり消耗してしまったが体力は大丈夫だろうか? すでに足が少々笑っている状態だ。そう長い事は戦ってはいられないだろう。原因はすでに検討はついているが、おそらくジャンプの使い過ぎだろう。

 

何故かジャンプは例え短い距離にしか使わなくても物質を創造するよりも遥かに体力を消費する。意味が分からない。でも削られるのが現実なのだから受け入れるしかないだろう。

 

俺が勇儀に対しての勝算やら何やらを考えていると、すでに勇儀は準備体操などといったウォーミングアップを終えており、内在する圧倒的な妖力を身体から顕現させている。

 

そして俺が来た事に勇儀は気付いたのか、こちらを見てニヤリと笑う。

 

「さあ、才気と萃香は残念ながら負けてしまったが、こう負け続きだと私としても気分がよろしくない。だから、今回は勝たせてもらうよ? 耕也」

 

犬歯を覗かせながら豪快に笑って宣戦布告をしてくる。

 

だが、俺だって負けるわけにはいかないので、軽い口調で返す。

 

「おいおい、そんな自信満々でいいのかい? 俺には攻撃が効かないんだぞ?」

 

だが、俺の言葉にも勇儀は動ずることなく

 

「そうだろうねえ。効かないだろうねえ」

 

と柳のように受け流す。

 

その勇儀の態度とは裏腹に俺はといえば、内心かなり焦っている。

 

やべえ、疲労が半端じゃない。先ほどもふと思っただけだが、改めて確認すると相当酷いコンディションだ。

 

もうすでにジャンプなんて使えないだろう。使えても後2、3回程しか無理だろう。それ以上使ったら確実に俺が詰む。

 

それに戦いが始まったら何分ほど立っていられるか……。正直考えたくない。

 

萃香はこれも計算に入れていたのだろうか? もし入れていたのだとすると、まんまと俺は萃香の手のひらの上でアホみたいに踊っていたことになる。

 

考えると頭が痛くなってくる。もうチョイ俺のお頭がよくできていたらと思う。凡人は辛いよまったく。

 

ああ、どうすんべマジで。

 

適当に爆弾でも創造してヤッチャカヤッチャカ戦いますかねえ。

 

そんな事を思いながら勇儀と対峙する。

 

勇儀は胸を張り、自身の存在を周囲に知らしめるかのようなポーズをとりながら

 

「さあ、行くよっ!? 耕也!」

 

と大声で開始の言葉を言う。

 

対する俺は

 

「あ、お手柔らかに~」

 

と、何とも情けない声を出しながら戦いを始めていく。なるべく体力を消費したくないし。

 

もはや俺には先の余裕という物は無いので、先手必勝を念頭に攻撃を開始しようとする。

 

「食らえっ!」

 

そう言いながら俺はMk83を創造し、腕を振るう動作をして彼女に向かって投げつける。

 

そう、投げつける。………投げつけたからにはその後の爆発という結果が伴わなければならない。

 

でも………あれ? 俺は確かに創造したよな? 何で勇儀は爆発しないんだ?………んん?

 

そう頭の中で混乱しながら、慌てて周囲を見渡してみる。ついでに上空も。

 

投げられていないのならば、再び空中に放置されているMk83を投げればいい。唯それだけ。見渡した結果、……Mk83がどこにもない。

 

確かに創造したはずなのに何で無いんだ?

 

きっと今のはただ単に失敗しただけなのだ。そうに違いない。

 

そんな風に自分の心に言い聞かせながらもう一度創造を試みる。

 

今度こそと思いながら。次失敗すれば勇儀に当てるチャンスが無くなると焦りながら。

 

でも…………出てこない。なんで?もしかして…………こんな重要な場面で…………燃料切れ?

 

うっそ~ん、そんなバカな。勘弁してよマジで。俺泣くよ?

 

俺の焦っている姿を見かねたのか、勇儀が声を掛けてくる。

 

「お~い、大丈夫かい? 身体の調子でも悪いのかい?」

 

俺はその声に何と答えたらいいのやら分からず、しばらくその場で言い訳を考えてみたのだが、良い言い訳が思い付かず。

 

結局俺は観念して正直に話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いわゆる燃料切れって奴かな~~……なんて。ははははは…はは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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