身体に害が無いからってそんな……
耕也の胸の中で泣いてしまってからもう3日か……。
もう、私の心の中には耕也という存在が、無くてはならないというほど大きくなっているという事を再認識させられた。
初めて友人という存在を、孤独という耐えがたい鬱屈とした状況から脱出するきっかけを作ってくれた稀有な人間。
素性は全く分からない。私の我儘も色々と聞いてくれ、尚且つ妖怪だからと言って危害を加える事が無い人間。
私は彼に完全に依存してしまっている。もはや彼が居なくなってしまったらもう二度と心を開くことは無いだろう。
それほどまでに彼と接していたい。
私はそんな事を思いながら寝がえりを打つ。
「私は……耕也に必要とされているのかしら……。あんなにしつこく素性や発言についてきつく問いただしたのだからあるいは……」
そんな消極的な考えが頭の中に浮かんで、つい無意識のうちに口に出してしまう。
口に出した途端に私は自分の言ったことにハッとなり、そんな事を考えたくないとばかりに寝ながら頭をブンブンと振り、その考えを一蹴する。
だが、あの優しい耕也の事だ。抱きしめてくれた時にも言っていたように、怒っているという事は無いだろう。
それにしても………欲しい。あの存在が。今まで相手にしてきたどんな人間からも大きく逸脱している耕也。
もうそろそろ限界だ。もう抑えられない。そう妖怪の本能とも言うべき巨大な欲が首をもたげてくる。
だが、障害もまたある。
まず一つ、耕也自身の性格だ。あれはいただけない。いくらなんでも奥手すぎる。この私の体型で直接的に接触しているにもかかわらずだ。
おそらく引け目を感じているのだろう。だがしかし、すでに私の気持ちには気づいているはずなのだ。あともうひと押しなのだ。
そして二つ目は、藍と紫の存在だ。見た限り藍はもう完全に耕也に好意を抱いているだろう。一方紫はそこまでではないが、私のような大妖怪という事もあり、孤独を味わっているはずだ。
現に藍も寂しがり屋だと言っていたのだから。だからこそ今後予想される展開によっては絶対に耕也に靡く可能性があるのだ。
実力的には私が勝てる相手ではない。
そんな事を考えていると、どうしようもない不安が襲ってくる。だがその不安は、同時に私に対してある決意をさせるには十分な要素を持っていた。
私は自宅の寝室で一人静かにつぶやく。
「覚悟しなさい。……耕也」
「え~と、会わせたい友人がいる……ですか?」
そう言うと、目の前に背筋をピンと伸ばして完璧な正座をする紫はその通りとばかりに微笑みながらコクリと頷く。
「ええ、そうよ。貴方だったら絶対に仲良くなれるわよ。元に当人に貴方の事を話したら凄く会いたがっていたわよ」
そう言うと微笑を浮かべながらいつものように扇子を口元にまで持ち上げ、開く。
おそらく幽々子なのだろうと自分の予想を立ててみる。はて、この時代の幽々子はすでに亡霊になっているのだろうか?
だが、時代背景がイマイチなものだから確証があるわけではない。しかしこの際どちらでもいいか。接し方が変わるわけでもあるまいし。
そんな事を適当に理由づけながら少し渇いた喉を潤すために、手元にある温かい緑茶を啜る。
そして俺は紫の横に座っている藍に眼を向けてみる。相変わらずの美貌と妖艶さを備えた身体と顔に、俺は少し眼の向けどころを間違えてしまったと思ってしまった。唯のセクハラになってしまう。
俺の視線に気づき、尚且つ俺の狼狽に気付いたのか、途端にニヤニヤしてくる。それにつられて紫もニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべてくる。
完全に遊ばれているな俺。
俺はさっさとその事を誤魔化すために、その紫の紹介したい友人とやらの名前を聞いてみる。
「あの、まあとにかく、その紫さんのご友人のお名前を伺いたいのですが」
そう言うと、紫もあらあら残念ね。と言いながら俺の質問に答える。
「耕也に会わせたい私の友人の名前は、西行寺幽々子。私の初めての友人であり、彼女もまた自分の能力に踊らされた子よ」
やはりそうか。俺は紫の答えに頷きながら、自分の中で幽々子にあった時の場合を考える。
亡霊になった幽々子は、生前とは違って自分の能力に嫌悪感を持っておらず、死に誘う事を躊躇わない大胆な性格になっているはず。
とすると、俺も友人になった途端に、目の前からおっきな光り輝く蝶が迫ってくるのかもしれない。
嫌すぎる。冷や汗出てきた。………接し方を気をつけなければ。
「西行寺さんですね。分かりました」
紫の言葉を理解したように頷きながら、俺は今後の日程について話していく。
「では、どうしますか? 自分としては明後日以降でお願いしたいのですが……」
俺の日程について聞いた紫は少し疑問に思ったようで、ちょいと首を傾げながら聞いてくる。
「別に良いのだけれども、どうして明後日以降なのかしら?」
俺はその言葉に素直に応じ、訳を話していく。
「実は、明日は幽香が家に来るんですよ。家でとれた野菜で料理を作るとか何とかで」
そう言うと紫は一気に無表情になり、ゴニョゴニョと何かを喋った。
「あの女ね……?」
その言葉はあまりにも小さな声だったため、聞きとる事ができなかった。
俺はその聞き取れなかった言葉を聞きたくなってしまったので、咄嗟に口に出して質問する。
「はい? 何て言いました?」
俺が聞くと、紫は慌てて表情を取り繕い、おほほと小さく笑いながら誤魔化すように言う。
「いえいえ、何でもありませんわ。それよりも、具体的な日程を決めましょう。そうね、明後日以降というなら……4日後というのはどうかしら?」
って事は、幽香が帰ってから次の日か。なら大丈夫そうだな。
俺は紫の提案した日に特に異論があるわけもなく、素直に了承した。
「分かりました。ではその日にしましょう」
「ええ、では4日後に迎えに来るわ。藍も、それでいいわね?」
紫の問いに、藍は特に不満もなかったようで、素直に答える。
「はい、異論はありません。それと耕也、恩返しの件についてなんだが……」
俺は恩返しの件について聞かれると、特にする必要はないと答えるため、手をヒラヒラさせながら答える。
「いいって、いいって。そんなに気にする必要はないよ。まあ、どうしてもというのなら今度家の掃除をするからその時手伝ってくれれば十分だ」
そう言うと藍はまだ不満そうな顔をしているが、渋々了承する。
「はぁ……、分かったよ。その時は呼んでくれ。な?」
「あいよ」
そう言って俺は再び紫の方を見やる。紫は、すでに手元にある緑茶を飲み終えており、自分の方を見ながら口を開きかけている所だった。
「さて、今回はこの辺でお暇させていただきますわ。ありがとう、耕也」
「いやいや、気にしなくていいよ。むしろ友人が来れば来るほど賑やかになるし、楽しくもなるし。………そうだね、今度皆で飲もうか。もちろん幽香や西行寺さんも一緒にね。」
そう言うと、紫と藍はカラカラと笑いながら返事をしてくる。
「分かったよ」
「分かりましたわ」
そして俺も2人が同時に返事をしたことが面白くなってしまい、一緒になって笑ってしまった。
そして俺は、紫達が帰った後、夕飯の支度をするために、台所へと行き米を研ぐ。
「毎度のことながら、水が冷て~」
そんなしょうもない事を呟きながら、米ぬかによって白く濁った水を排水溝に向かって流していく。
米の量は2合。明日の分も考えても十分な量である。所詮は一人暮らしなので、5合炊ける炊飯器を所有していても、その全力を使う事が無い。
「今度からもうチョイ小さめの炊飯器にしようか……? いや、でも紫とかが来ると米はもっと必要になるか…。幽々子も来ると…5合用で良い気がしてきた」
米を研ぎつつ、俺は今後の米の消費量を予測していく。
ふと気がつくと無意識にやっていたのか、米研ぎは大体済んでおり、後はこの炊飯器に米を注いで午後の7時に炊けるように予約すればいいだけ。
おかずは、久しぶりに唐揚げでも作ろうかなと思いつつ材料を冷蔵庫から引っ張り出そうと足を向ける。
と、その時玄関からインターホンの電子音がしてくる。
はて、誰だろうか?
その疑問と共に鶏のもも肉を引き出すのをやめ、足早に玄関へと向かう。
「どちら様ですか?」
そう言いながら、玄関の扉を開けて訪問主の姿を確認する。
そして開いた先には、なんと幽香がいた。あれ? 明日来る予定だったのに一体何故?
「こんにちは耕也。暇だったから来てしまったわ。1日早いけれども、いいわよね?」
理由を考えようとしたが、幽香の声に俺の思考は中断させられ、反射的にOKの返事をする。
「いいよいいよ。ささ、上がって上がって」
そう言いながら幽香に中へ入るよう促す。俺は入った事を確認して、ひとつ質問をする。
「幽香。一つ聞きたいのだけれども、夕飯はもう食べた?」
もし幽香が食べてないとなると、必然的に米を継ぎ足して炊かなければならなくなるし、おかずの量も増やさなくてはならない。おまけに一人で食べるのではないからちゃんと汁物なども出さなくてはならない。
そして俺の答えに幽香はコクリと頷き、俺の質問に持ってきた荷物を上げながら答える。
「悪いわね、まだ食べてないのよ。お願いできるかしら? その代わりと言っちゃあ何だけど、ほら」
そう言いながらその荷物を包み込んでいた布を取り去った。その中にあるのは、二つの白い大きな陶器。そしてそれを差し出してくる。
一目で分かった。こいつは酒だと。
俺としては、別に幽香が何も持って来なくても夕食は提供する気満々だったのだが、持ってきてもらえるとその2人で食べる嬉しさはより一層のモノとなる。
「お、酒かあ。いいねいいね。ありがたく貰うよ。夕食の時に一緒に飲もう」
そう言いながら酒を受け取る。
「そうよ飲みましょうよ。都で買うのに苦労したのよそれ。妖術で色々と誤魔化しをしないとたちまち攻撃されてしまうのだから」
幽香は自分の苦労を語り、肩をすくめながらため息を吐き、首をフルフルと振る。
「あ~、それは……大変だったね」
何とも反応しづらい話にちょっと答えに戸惑ってしまう。
しかし、感謝せねばならない。ここまで苦労して買って来てくれたのだから。
「ありがとうな、幽香」
「はいはい、どういたしまして」
そう言いつつ俺と幽香は廊下を歩き、居間へと入る。そして幽香を座らせた後、俺は料理を早急に完成させるために台所へ向かう。
居間を出ようとして、襖に手を掛けた時、後ろに座っている幽香から声を掛けられる。
「ねえ、耕也。一つ聞きたいのだけれども良いかしら?」
「いいよ、何だい?」
そう言うと、幽香は少しの間俺の服などをジロジロ見て、一言言う。
「耕也。あなたってあの障壁というか結界というか、あの変な力は常時展開しているの?」
その質問に俺は何の疑問も持たずに答える。
「ああ、いやまあね。外側は切ってあるけど内側は万が一の時の為に常時発動してるね」
その言葉を聞くと、幽香は少し不機嫌そうにして、腕を組みながら言う。
「耕也。自分の家にいるときぐらいは切ったらどうかしら? 私が言うのもなんだけど、なんだか隔たりを感じるのよ。それに私があなたに攻撃するわけが無いのだし、なんだか嫌な感じだわ」
その言葉を聞くと、俺も少し自分の防御姿勢を考える。
(あ~、そんなつもりはないのだけれども…でもまあ、確かに他人からしたら接触を拒絶しているようにも思われるかもな……。心配性なのも良くないか)
そう思った俺は、幽香に自分の答えを言う。
「確かに幽香の意見も一理あるよな。……分かった、家に居る時ぐらいは切っておくよ」
そう言いながら俺は領域をOFFにする。
「じゃあ、俺は料理を仕上げてくるから。あと米の増量をしなきゃならないし」
俺は幽香の方を見やりながら言う。幽香は少々気味が悪いほどのニンマリとした笑みを浮かべながら言う。
「ええ、分かったわ。お願いね」
そして俺は幽香に背を向けたときにされた、黒い笑みには気付くことなどできはしなかった。
「はいよ、お待たせ」
そう言いながら俺は料理を並べていく。メニューは豆腐となめこの味噌汁、大量の唐揚げ、キャベツともやしの炒め物。あと白米。
あり合わせの食材で作ったものだが、なかなかに良い出来だと自分で思う。
そして、幽香がすでに小さなグラスに酒を入れておいてくれたらしい。水の入ったコップの横にチョコンと鎮座している。
「ありがとう、耕也。そして、いただきます」
そう言いながら幽香は食事を開始していく。
それにつられて俺もいそいそと食べていく。その中で俺は幽香にひとつ言っておかなければならない事があった。
「幽香、4日後に俺はちょいとこの家空けるから、来てもいないからね?」
そう言うと、幽香は箸を片手に首をかしげる。
「あら、どうしたの? もしかして、久しぶりに依頼でもあったの?」
その依頼という言葉に俺は少々気落ちする。
そうだ、俺って今大赤字なんだよな……。……何とかしなくちゃなあ。
だが、嘆いていても事実は変わらないので、幽香の質問に答える。
「ああ、まあ依頼とと言っちゃあ依頼だな。実は、紫からの依頼でね。友人に会ってくれないかというモノなんだ」
すると即座に
「友人? あの女に友人なんていたの?」
本人が聞いたら怒りそうな事を言う。
「いやいや居るでしょう、さすがに。それで話を戻すと、その友人が俺に会いたがっているらしい」
俺の言葉に
「へえ、なら早くしなきゃいけないわね」
と言ってくる。
「何がだい?」
「いえ、ただちょっとね。それより、耕也。お酒飲んでみなさいよ。結構いけるわよ?」
幽香が少々笑いながらグラスを傾けていき、酒を流し込んでいく。
せっかく持ってきてくれたのだ。俺もいただこう。
「では、いただきます」
そう言いながら俺も幽香と同様にグラスの中身を飲み干していく。美味いけど…俺にはちょっときついな。
「結構きついなこれ。うまいけどさ」
「そう? 水のように飲みやすいじゃない」
恐るべし妖怪。飲み比べだったら絶対負けそうな気がする。過度なアセトアルデヒドやエタノールは消えてしまうから潰れたりはしないだろうけども。気持ちの問題で負けそうだ。
それにしてもこの酒は甘いな…………。酒の事は良く分からないのだが、製法の違いかな? 剣菱や白鶴、八海山とはまた違った味だな。まあ、あの時は大学生だったからあれぐらいの物しか買えなかったし、酒はほとんど飲まないからなあ。知らないのも当然か。
そう自分の考えに結論を付け、一杯、また一杯と酒を飲んでいく。
「あら、案外飲むのね。本当は結構いける口だったのかしら?」
幽香にも酔いがほんの少し回ってきたのか、普段とはまた違う饒舌さがみられる。
俺はそんな幽香の姿に新鮮さを感じながら飲んでいく。
「いやいや、この水の洋盃の一杯分も飲んでないのにいける口な訳ないだろう?」
俺はそう言いながら唐揚げを口に放り込む。
幽香は
「それもそうね」
と言って微笑しながら味噌汁を食べていく。
しばらく食事を続けていくと、俺の身体が妙に熱い事に気付いた。
自分では結構な量の酒を飲んだつもりなのだが、一向に酔いが来ない。領域を有無にかかわらず酔いはあるというのに。なぜ身体だけが妙に熱いのだろう?
ひょっとしたらトイレなのか? それともちょっとだけ外に出て涼めば回復するのか? 今の所、身体に害が無いから領域を発動しても意味が無いだろうし。
そう思いながら俺は席を立つ。
「ゆ、幽香。悪い、ちょっと涼んでくるから席を空けるよ」
そう言うと、先ほどよりもさらに爽やかな笑みを浮かべながら俺に了解と伝えてくる。
「ふふ、分かったわ。気をつけなさいよ?」
片手を上げてヒラヒラさせながら俺を気遣ってくれる。
それに俺は感謝しながら居間と廊下を繋ぐ襖を開けて玄関へと向かう。
そしてゆっくりと歩いていく内に身体にある違和感を覚える。
なんだか、さらに熱くなったような気がする。なんだろう? ちょっと歩きにくい。
ふと立ち止まって右手を握ったり開いたりする。あまり力が出ない…。
これも酔いのせいだろうか? 飲んだことも無い酒だから身体が少しびっくりしてしまっているのだろうか?
そんな事を思いながら次の一歩を踏み出した瞬間にそれは唐突に来た。
全く力が入らない。そして身体はさらに熱くなってくる。ついに酔いが完全に回ってきたのだろうか? 頭も一気にクラクラとし始めた
その事を考える暇も与えられずに、俺の身体は重力に素直に従ってストーンと落ちていく。
そして両膝が着く瞬間に両脇から手を差し込まれ、寸での所で抱き止められた。
俺はこの家に居るもう一人が支えてくれたのだと分かり、感謝の言葉を言う。
「幽香か?…………ありがとう。助かったよ」
だが、幽香は黙ったまま。俺はその反応のなさにちょっとした不安を覚え、再度幽香に聞き直す。
「幽香? あの、あ、ありがとう?」
だが、幽香からの返事はどういたしましてではなく、笑い声だった。
「ふふ、ふふふふふふふふふふふ」
俺は幽香の笑い声に更なる不安感が募り、再度聞き直してしまう。
「……………………ゆ、幽香?」
そして次に返ってきた言葉は、俺の予想とは全く違うものだった。
「…………ねえ、耕也。身体が熱くない? 力が全く出ないのかしら? 頭もクラクラするんじゃないかしら? ふふふ、その様子じゃあ答えるまでもないわよね?」
「ちょっと……待ってくれ。……意味が……分からない。」
俺は幽香の言ったことの意味がほとんど分からず、なぜ笑っているのか? といった表層上の事しか分からなかった。
「耕也、貴方の飲んだ物は、酒ではなく、高濃度の遅効性の媚薬なのよ? お酒風味に仕立て上げた、私特製のね。 貴方の為に造ったのよ?」
何故そんな事をしたのか俺には推測することすらできなくなるほど強いものだったらしい。
だが幽香はそれを百も承知だったようで、俺の事を強く抱きしめて大きな胸を背中に押し当てながら、耳に酷く甘く、本能が危険すぎるという信号を送るほどの吐息を吹きかけられる。
「ふぅ~…………。ふふふ、耕也。やっぱり私は妖怪で、貴方は人間。これはどんなに歩み寄ったとしてもそれだけは変わらないわ」
何が言いたいのだ、幽香。俺は思考能力の大半を削られてしまっているために、幽香の考えを推測する事がほとんどできない状態になってしまっている。
そして幽香の話は続いていく。
「だからね耕也。この前も言ったのだけれど、私は不安。だから妖怪らしく、妖怪らしく欲に忠実に従うわ。……あなたが好きよ。本気で愛してる」
「幽香…。俺なんかじゃお前とは釣り合わない」
俺がそう言うと、幽香は俺の頬をにゅるりと一舐めしてから言う。
「釣り合わない? 馬鹿な事を言わないの……。貴方ほど私に相応しい男なんていないわぁ……。………ねぇ、耕也?」
余りにも妖艶な喋り方は、一言一言が俺の背筋を震わせるほどのモノで、聞くたびに俺の中の理性というべきものなのだろうか? とにかくそれが壊れていく気がした。
俺はそれが段々と恐怖に変わっていくのを感じ、幽香の腕から逃れようとする。妖怪に力で敵う人間などいないというのにも関わらず、俺はそうしていた。
「幽香……や、やめ」
だが、それは叶うことなく、幽香の両腕は俺の脇に一層深く深く入り込み、さらに強く抱きしめられてしまう。
「ふふふ、だぁめ。…………逃がしてあげない……」
領域を発動させようにも集中ができず、また命が危ぶまれるという状況でもないので自然に発動することも無い。
穴を突かれたという考えが過ったが、その考えは幽香の言葉によって再び沈降していった。
「耕也、貴方を食べるわ……」
俺はその言葉を聞いた瞬間に、本能がそうさせたのだろうか? 反射的に身体を前に進ませようとしていた。しかし
「っ………、ほぅら、逃げたら駄目よ? 別に貴方を物理的に食べるわけではないのよ? ただ、精神的に……ね?」
俺はもう訳が分からなくなっており、幽香の顔を見ながらどういう意味だと問いただそうとしていた。
「幽香………どういう意味…っ!? ………んぐっ! んっ~!!」
突然幽香の顔が接近してきて、口をふさがれてしまった。
「耕也好きよ、大好きよ、愛してるわ。…………んぅ……んっ」
幽香は俺の舌を器用に捕まえつつ、唾液を無理矢理流し込み、溢れても構わず口内を隅々まで凌辱していく。
あたりには卑猥な水音しか響かなくなり、俺は幽香のされるがままになっていった。
「んん~んぅ、れるぅ……んっ……んんぅ……ふふふふ」
一体何分されていたのだろうか? それほど長い時間ずっと口内を嫐られていた気がする。
俺はもはや抵抗の意思すら折られており、幽香の赤く上気した顔をボンヤリと見ることしかできなかった。
そして幽香は俺の身体の向きを変えさせ、正面に持ってこさせる。
幽香は正面から俺をもう二度と離さないとでも言うかのように抱きしめ、股に手をやりながら耳元で囁く。
「もうココもこんなにして……そんなに口づけが気持ちよかったのかしら? ……そうね、貴方はこれからも女性に好かれる事があるのでしょうね。…………でもこれだけは言っておくわ。貴方の一番は私。分かったわね?」
俺はその言葉にもはや肯定の意しか表す事ができなくなり、ゆっくりと頷いて一言
「…………………は……い…」
そう言った。
幽香は俺の返答に満足したようで、艶やかな笑みを浮かべながら
「うれしいわ……さあ、夜が明けるまで犯してあげる。私の色に染め上げるまで。私の味を覚えるまで。……あはは」
そんな危険な事を言ってくる。
俺は抵抗することすらできず、いや、もはやそのこと自体を完全に受け止めてしまっているのだろう。
そのまま幽香に抱かれ寝室まで連れて行かれた。