東方高次元   作:セロリ

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56話 久しぶりの依頼だ……

頑固すぎるのも困りものだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよしっ! 味付けは完璧だな! …でも挽肉とピーマンの間に片栗粉付けるの忘れてた……」

 

俺は、味付けは完璧だと言いつつも、うっかりしたミスにより夕食のおかずがグズグズになってしまったことについて嘆いてしまった。

 

本来ならばピーマンの肉詰めは片栗粉を肉とピーマンの間に付ける事によって煮崩れを防ぐのだが、今回それを忘れてしまったためにひき肉が分離し、ピーマンとひき肉の甘辛煮へと変貌してしまっている。

 

まあ、仕方ねぇべと思いながら俺は食器棚から適当にとった中ぐらいの皿に一人分の盛り付けを行っていく。

 

今回は幽香にお裾分けしに行こうかと思ったのだが、ここまで酷い料理を持って行こうとは思えず

 

「明日の昼までこれがおかずか……」

 

と呟きながら残りを大きめの皿に移してラップを掛け、常温になるまで放置する。

 

そして自分の分を居間まで持って行き、一人寂しく昼飯を平らげていく。

 

やはり自分で作った飯は美味い。と思いながら俺は一気に米をかき込んでいく。

 

飯を食いながらも俺は毎日の事ながら、一つの事が頭から離れなかった。

 

(一体何時になったら俺に依頼が来るのだろうか?)

 

という考えが。

 

鬼の一件から全く依頼が来なくなってしまっている。幽香に聞いても俺の力が強いだけなのでは? という単純で一辺倒な答え。

 

紫や藍に聞いても首をかしげるだけで答えが出てこない。その時に

 

「もしお金が無いなら養って差し上げましょうか? もちろん貴方の人生を全部私達に譲渡するという形で」

 

と言ってきた。当然のごとく俺はヒモになるつもりは全くないので断ったが。

 

おまけに紫の方もどうせ断ると思っていたのか、冗談半分で言ったようだ。藍は……眼が恐ろしかったという感想しかなかったが…。

 

それにしても仕事が来ない原因は一体……。

 

都の方に行っても俺への依頼は一件もなく、全て他の陰陽師に回されている何ともやりづらい状況になっている。

 

ついこの前までは色々と頼られて非常に充実した生活だったのに……まるで避けられているかのようにも感じてしまう。

 

そこでふと思ったフレーズの中に一つだけ心当たりのあるモノがあった。

 

…………避けられている。

 

このフレーズだ。

 

都に行った時に感じたことだが、特に俺のような庶民一般は俺に対する接し方は変わらないのだが、他の者達の態度が今までとは大きく違ってきてしまっている。

 

例えば陰陽師や貴族。ここいらの都でも上層の位を持つ者たちだ。

 

いくら話しかけてもよそよそしい態度をとり、背中を見せたときにコソコソと陰口のような事を聞こえないように話し、時にはガン無視される時もある。貴族に至っては面会すらも拒絶されるほど。

 

一体俺の何がいけなかったのやら……。そんな事を考えながらもいくつかの要因を推測してみる。

 

……やはり仙人というのも忌避されるようになってきたのだろうか? いや、それとも俺の防御力が異常過ぎて気持ち悪がれているからだろうか?

 

いやいや、ひょっとしたら俺が仙人と偽っているのがバレた可能性も……。もしかしたら、もしかしたらだが、俺が鬼を単騎でノシたことが危険すぎるという事で干されるようになってしまったのだろうか?

 

いや~それにしてもこれは異常な気がするのだが……。

 

俺はそんな事をグルングルン頭の中で考えながら自分の今までの要因になりそうなものを精査していく。

 

とはいっても、いくら考えた所でこの奇妙な状況が変わるわけでもないのだが、どの道この推測したモノか、そうでないモノかのせいで俺に対する依頼の数が激減し、実質0となってしまっている。

 

一体どうすんべよこれ……シャレにならんぞ?

 

答えが出ないままこのモヤモヤした感情をどこに廃棄しようか迷っていると、玄関の方から、ガラスと金属の合わさった妙な振動音が聞こえる。

 

俺はそれに対していつものごとく、ああ、大方幽香なんだろうと思いながら食い終わった後の食器をシンクへと急いで持っていき、足早に玄関へと向かう。

 

「どちら様でしょうか?」

 

その言葉を一応添えながら。

 

迎えの一言を言い終えた後に、俺は何の警戒も無く、玄関の扉を開ける。

 

開けられたと同時に一人の青年が、俺の眼の前で頭を下げ始めた。

 

「すみません、私は平助と申します! どうか、どうか私の依頼を受けて下さいませんか?」

 

俺は彼のいきなりの大声と頭の下げに驚いてしまったが、その中でも喜びがふつふつと沸き上がってくるのを感じていた。

 

やっと俺に依頼が来たのだ……。

 

と、そう思った。もちろん俺は彼を門前払いするわけはなく、まずは話を聞こうと平助さんに中に入るように促す。

 

「頭を上げて下さい。ここで話すのもなんですから、どうぞ上がってください」

 

俺の言葉にハッとしたのか、自分の頭を掻きながら平助さんは俺に謝る。

 

「すみません、突然見ず知らずの人間が……」

 

「いえいえ、余程事態が切迫しているのだと予想できますので、お気になさらず。では、中へどうぞ」

 

自分では極めて冷静に言ったつもりではあるが、声が少々普段よりも上がり気味になってしまい、言葉の端々に感情を表してしまっている事に気がついた。

 

やはり久しぶりの依頼という事もあるため、この喜びを隠せないようだ。口角がつり上がってしまうのを抑えられない。

 

必死に自分の口元を右手で覆いながら、俺は平助さんを居間へと通す。

 

……駄目だ、どうしてもニヤニヤしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は彼を座らせた後、茶を彼に差し出し事情を聞くことにした。

 

彼は非常に焦っていたようで、座った後にも色々と周囲を見渡したり、俯いたり、かと思えばしきりに何かを言いたそうにする。

 

俺は、彼をこれ以上放置するのは良くないと判断し、すぐに本題に入る。

 

「では平助さん、今回の依頼内容を教えてください。内容によってはすぐにでも解決しなければいけない可能性もありますからね」

 

そう言うと、平助は俯かせていた顔をガバリと上げて俺の方へと身を乗り出すような態勢で俺に話し始める。

 

「耕也さん、どうか、どうか私の姉を助けて下さいっ! お願いしますっ!」

 

再び平助は、玄関で見せたようなポーズで俺の方へと頭を下げ始める。それはもう何度も。

 

俺としては、頼むからには礼儀という物は不可欠だが、ここまで謙って神を崇拝するかの如く頼み込むのはあまり宜しくない。

 

俺にとっては、もっと気軽に依頼をしてもらいたいのだが、これも世の中のシステムなのか上から目線の陰陽師がほとんどだ。

 

おそらく平助もそれを常識だと考えてしまっているのだろう。だから俺は頭を上げるように言う。何より話しにくい。

 

「平助さん、どうか頭を上げて下さい。そこまで私は偉くはありませんし、何より私も唯の庶民ですから」

 

そう言うと、平助は静かに顔を上げ、申し訳なさそうな表情をする。

 

俺は少し居心地が悪くなってしまい、事の詳細を聞くことによってこの居心地の悪さを解消しようとしていく。

 

「平助さん、今回の姉を助けてほしいという依頼ですが、一体どのような事情が原因で依頼に至ったかを詳細に話して下さい。そうでないと、こちらも対処のしようがありません」

 

そう言うと、平助は返事をして少しだけ考える姿勢を取り、少しの間黙りこむ。

 

やがて俺に話せる考えがまとまったのか、俺に向かって口を開いていく。

 

「私達の村は、都より少し離れた……そうですね、丁度この場所と都を挟んだ反対側の山のふもとにあります。私達は4人家族でして、両親と姉、そして私という構成です。姉はいつもは山などに行って山菜等を取り、洗濯をしているのですが、ある日いつものように山から帰ってくると姉の目がいつもと違ってかなり虚ろになっていたんです。私は何かあったのではないかと思い、姉に話しかけたのですが、話しかけられた途端にいつもの表情に戻ったのです」

 

その部分だけを聞くと、ただ単にボーっとしていただけという線が考えられるのだが、山から帰って来たという部分に何かありそうな気がする。

 

そんな考えを少しだけ浮かべながら彼の話していく内容に耳を傾けていく。

 

「その場は一旦それで収まったのですが、再び異変が深夜に起こりました。……皆が寝静まった頃、もちろん私も寝ていたのですが、ふとガタガタという物音が玄関から聞こえまして。そして異変に気がついた私が眼にしたのは、昼間に見せたようなあの虚ろな眼をした姉がドアをこじ開ける姿だったのです。異常ですよねこれ。さらには、姉が足に何も履かずに山の方角へ向かおうとするのです。いくら私が呼びとめても全く聞こえていないかのような感じで。その時点で私は危険だと判断して無理矢理姉を家に連れ戻したのですが、その時姉がしきりに呟いていた言葉が聞こえたのです」

 

俺は彼の話していく事を紙にシャープペンで箇条書きしながら、彼の話す事件の詳細をまとめていく。

 

そして彼の話す姉の言う言葉をしっかり聞くために、ペンを構えながらも意識を集中させる。

 

「その時姉が呟いていたのは……行かなければ、行かなければ……私はあの方に食べてもらわなければ……、と言っていました」

 

俺はその話を聞いたときに、これは洗脳か、それとも幻惑か何かではないかと推測してみる。

 

しかし不思議だ。俺の所に来る前に普通ならば両親、又は集落か村かは分からないが、とにかくその有力者に頼み込んで都への調査依頼などを出しているはず。

 

態々こんな七面倒くさい場所になんて来る必要性がない。おまけに都で俺を指名しての依頼だとすれば、その依頼内容を伝えるための兵士などの代理人を立てて鉾串に来るはず。

 

他の大人は一体何をしているのだろうか? もしこれが質の悪い残虐な妖怪達の仕業だったらその集落全体が危険にさらされてしまうというのに。

 

俺はふと浮かんだ疑問と苛立ちがどうしても脳内にひどい油汚れのようにこびり付き、サラリと流れてくれないので少し平助に話してしまう。

 

「大体の事情は分かりました。おそらく平助さんのお姉さんは経験上何かしらの幻惑に掛かっている可能性があります。実際にお姉さんをこの目で見なければ確定できませんが大凡あっていると思います。……そして率直に言いますと、このまま放っておくのは危険でしょう。すぐに対処しなければなりませんね。…………所で、いくつかお尋ねしますが宜しいでしょうか?」

 

すると、平助は急な俺の質問にびっくりしたのか、少し眼を見開き組んでいた両腕を解き、それぞれの膝の上に乗せる。

 

俺はその動作を見て聞く準備ができたのだと判断し、彼に対して質問をしていく。

 

「まず一つ目ですが、これは決して貴方を咎めているわけではないという事をあらかじめご承知の上でお聞きください。……なぜ貴方自身が来なければいけないのでしょうか? 本来ならば両親、又はその他の村長などが来なければいけないのですが。……見た所貴方はまだ15~16歳。この異常な事態を、しかも妖怪に襲われるかもしれないという危険を冒してまで来なければいけない理由が分かりません。他の大人達は一体何をしているのでしょうか?」

 

この時代では、平助のような子供は十分に大人と同等の扱いを受けるが、まだ精神的にも身体的にも未熟な彼が一体どうしてここまでの危険な事を犯してまでしなければならなかったのか。まずはそこが聞きたい。そういった意図があり俺は彼に聞いた。

 

もし俺の予想があっているならば少し文句を言わなければならないだろう。

 

そう言うと平助は少し俯きながら俺にポツポツと話し始める。

 

「村長が皆に言ったんです。……これは山の神の思し召しであると。山の神から我々に対しての要求であると。そして普段山からの恵みを授かっている我々は山の神に対して恩返ししなくてはならないのだと。……そのような事を言ってました。また、これは毎年の事なのだとも……それで両親はもう諦めてしまって……。何とか姉は柱に括り付けるなどして出ていってしまわないようにしているのですが……もうそろそろ村長が限界だと言って明日差し出すようにと言ってきたのです」

 

それを聞いた瞬間に、何とも言えない黒い感情が俺の頭の中をゴポリゴポリと沸きでてくる。同時に反吐がが出そうな感触も覚える。

 

何というかその村長とやらはあまりにも閉鎖的な思考の持ち主だなと思ってしまう。

 

遥か昔ならいざ知らず、今の時代そんな生贄を要求する神なんて聞いたことも無い。

 

あの祟り神の筆頭であった諏訪子でさえ疾うの昔にやめているのに。そして皆信者を増やしたいからこそ作物を捧げてもらい、その代わりに加護を与えるという取引が一般化しているのだ。

 

第一諏訪子がそれをやめているのだから、他の神がするとは到底思えない。

 

俺はそこまで考えたときに一つだけ仮説がふと浮かんでくる。

 

……もし、もし神の名を騙っている妖怪がいるとすれば……?

 

その考えが浮かんだ途端に全ての事象が説明づけられるという事に気がついた。

 

あの山一帯を縄張りとしている強力な妖怪が村に目をつけ、その村から山に入ってきた人間に幻惑の妖術をかけ、そして食う。

 

術を掛けられた人間が一旦正常に戻ったようにのは、宣伝のためか、それとも術の潜伏期間があるのかは分からない。

 

ただ、神ではないという線が濃厚な気がする。まあ、どの道その幻惑の術が妖力によるものだとしたら妖怪である事は確定だな。

 

俺はそういった考えを出し、次の質問に移っていく。

 

「分かりました、ありがとうございます。次の質問に移っていきますが宜しいでしょうか?」

 

そして平助が頷くと同時に俺は質問を開始していく。

 

「では二つ目です。私よりも都の方に依頼した方がかなり安全である上に昔と違って非常に依頼しやすい額となっています。……なにより私にはあまり良い評価が無いと思ったのですが……一体何故私へ依頼に? いや、私を頼ってくださったことは非常にうれしいと思ってはいるのですが」

 

沿う控えめに聞くと、平助は俺に話し始める。少し話しずらそうだったが、ポツリポツリと。

 

「実は、最初私も都の方に依頼しに行ったのですが……、どの方も私の話など信用してくれなくて。そして色々あったのですが、他に頼れる陰陽師もいなかったので直接尋ねに来たのです」

 

「ええと、その色々あったというのは、もしかして私の事ですか?」

 

最近の都での扱いに不満を持っていた俺は、彼のカットした部分を聞きたくなってしまい、ついそのような事を発言してしまう。

 

その俺の言葉に平助は頷き、素直に答えてくれる。

 

「最終的に耕也さんに依頼しようとしたのですが、他の陰陽師達は私が依頼するのを妨害するのです。あの男は危険だと。裏で何しているのか分からない……と。その危険などといった理由はいくら聞いても全く答えてはくれませんでしたが」

 

都での評価がいつの間にかとんでもないことになっているのに俺は少し気落ちしてしまう。

 

原因が全く分からないだけに……。

 

とりあえず、彼の依頼などの事情や理由、経緯などといったモノは良く分かったので、すぐにその村へと案内してもらおうと俺は口を開く。

 

「では、質問は以上ですので、平助さんの村へと案内をお願いします。すぐにでも行きましょう」

 

そう言うと、平助は依頼が成功したのか、ニコニコと笑みを浮かべ

 

「ありがとうございます!」

 

と、大はしゃぎしながら言ってくる。

 

人が喜んでいる姿は見ていてとても心地よいモノだが、俺は一つだけ思ってしまう事がある。

 

それは、……多分今回はただ働きになりそうだという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、彼は足の速い馬を村からお借りしてきたようだ。お借りしてきた……。

 

馬の最高速度は70km/h程にも達するが、持続的に走れる速度で言うと、その半分以下となってしまう。

 

最初は飛んでいこうかとも思ったが、ダラダラ飛ぶのは非常に疲れる上に、馬にも乗れない俺としては非常に移動がしにくい。

 

そこで俺は、お世話になりますと思いながら文明の利器に頼ることにする。

 

鎌倉までこの方法で行ったのが懐かしいと思いながら彼の乗る馬の後に着いていくのだ。トロトロトロトロと走っていく。それはもう欠伸が出るほどの暇だなと思いながら。

 

最初車やら宙に浮く道路を見たときには無茶苦茶驚かれたが、彼は意外にも順応性が高いようで、今では後ろをチラチラと見ることはあっても特に恐怖感などを抱かない模様。こちらとしてもだいぶやりやすい。

 

本当ならスクーターで行こうかとも思ったが、車の方が疲れないのでこの方法を選んだ。何より60~70km程の長い道のりを走っていくのには、疲労感が天と地ほどの差がある。

 

途中途中で休憩を挟みながら、彼の村の構造や、良くとれる作物、そして今回の対象であるお姉さんとやらの名前を聞いて見た。

 

お姉さんの名前は千恵と言うそうで、何とも清楚な人を思い浮かばせる名前だと思った。

 

なんせ俺の周りに居る女性は……皆超ご立派な御名前を持っていらっしゃいますし。

 

そんなこんなで俺たちは妖怪に襲われることも無く、……いや、本当はあったのだが、俺の車を見た瞬間に逃げ出していってしまった。……クラクション鳴らしただけなのに。

 

ともあれ、無事に平助の住む村へと着いたのだ。

 

村に着いてから少しだけ山の方へと近づいてみる。一応全領域をOFFにして、妖気が感じられるかどうかを調べてみる。

 

すると、少し気温が周りとは少しだけ違って低く、またほんの少しだけ悪寒を感じさせる部分が出てくる。霊感ゼロの俺ですら感じるほどの濃密な妖気だというのが分かる。

 

そして俺はその村長とやらの言っていた事が嘘っぱちだという事がよく分かった。

 

一体どうしてこんな濃密な妖気を出す阿呆を神だなんて呼ぶんだ? 理解できない。

 

俺はそんな感想を抱きながら村の中へと足を踏み入れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は早速平助に自宅へと案内してもらい、千恵さんの様子を見に行く。

 

平助は俺を案内した後、両親を俺に会わせるため、家に入り両親を連れてくる。

 

俺は、出てきた両親に向かって

 

「本日は突然訪問する形となってしまい申し訳ありません。今回、平助さんの依頼を承った陰陽師の大正耕也と申します。よろしくお願いいたします」

 

なるべく相手方の神経を逆なでしないように言葉を選んだつもりだが、どうにも平助が俺に依頼をしたこと事態が問題であったようで、両親が平助を叱り始める。

 

曰く、どうして陰陽師なんかを呼んだんだ。私達が村八分にされるという事に気がつかなかったのか。などなど。

 

これではあまりにも平助がかわいそうなので仲裁に入る。本来ならば赤の他人である俺が入ってはいけないのかもしれないが、それはまあ色々と誤魔化す。

 

「平助さんのご両親。少し落ち着いて頂けませんか? 平助さんは貴方がたの家族である千恵さんの為を思って依頼してきてくれたのですよ? 確かに村八分なども怖いモノですが、もっと怖いのは家族を失うこと。……違いますか?」

 

そう言って両親を説得していく。

 

村八分もエスカレートすると無茶苦茶こわいのだが、今は千恵さんの件の解決の方が先決だと考えて俺は両親に話していく。

 

すると、非常に結論を出すのに苦労したのか、しばらく父親の方が首を傾げ唸る。だが、さすがに家族を失うという事はかなり心に響いたようで、何とか了承してくれる。

 

「では平助さん、お姉さんの方へ案内してもらえますか?」

 

そう言うと、平助は頷きつつ俺を中へと案内していく。中へと入っていくと長い黒髪の女性がそこに正座をしているのが視界に入ってくる。

 

あれ……縛り付けているのではなかったのだろうか?

 

俺はその事を平助に尋ねる。

 

「あれ? 括り付けていたのではなかったのですか?」

 

俺の質問に平助は言い忘れたと思ったのか、ハッとした表情になり事情を話し始める。

 

「実は、その山に行こうとする現象が現れるのが、決まって深夜なのです。ですから朝と昼間は自由に。ですが深夜は寝られないので疲れがたまっていくばかりです。何とかなりませんか?」

 

そう言いながら、平助はここで初めて涙目になりながら俺の方を見て可能かどうかを言ってくる。

 

俺は平助の肩をポンポンと叩いてやりながら落ち着かせるために言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫ですよ、安心してください。ようは元凶を潰せばいいのですから」

 

そう言うと、いくらか安心してくれたのか、袖で眼をこすって涙を拭いていく。

 

それにしてもこれは少し困ったことになったな。

 

俺は一つの懸念を頭に浮かべる。

 

おそらく村長が必ず邪魔しにくるだろう。俺が独断で潰してしまっても良いのだが、なにぶん平助に依頼されているという事が事実なのだから、いずれ村長にばれるだろう。

 

すでにここに来る途中で何人もの村人に見られている。予想が正しければ、そろそろ誰かがチクッて村長をこの家に来させようとするだろうな。

 

…………となると、俺は村長も説得しなければいけないんという訳か。敵よりもよっぽどやりづらいじゃないか。

 

そんな事を思っていると、外からバタバタと足音が複数聞こえてくる。この不規則な連続音は複数人によるもの。嫌な予感しかしない。

 

やはり嫌な予感とは結構当たるモノなのか、閉められていた玄関が乱暴に開かれる。

 

そして何とも横柄な態度で入ってきたのは、齢70~80程のお爺さん。着ている服装は今まで見てきた村人よりもかなり立派なものであり、それ自体が位の高さを思わせる。

 

憶測だが、……村長かな?

 

そう思っていると、お爺さんが俺の方へと向かってきて直前で立ち止る。

 

この状態だと俺が見下ろす感じになるのだが、威厳が凄まじい。いかにも権力者だぞというオーラを放っている。

 

俺はこのお爺さんにそんな感想を持ちながら、お爺さんが口を開くのを待つ。

 

やはり俺に対しては好意的に思っていないらしく、俺に対して厭味ったらしく言葉を投げかける。

 

「お主か? ここに居るガキが呼んだ陰陽師とは……? ハッ、さぞかし腕が酷いのだろうなぁ? 子供の払える額は低いのだろうから……」

 

イラッとくる言葉を投げ掛けられても、俺は何とか笑みを変えないように踏ん張る。俺を馬鹿にされるよりも平助が馬鹿にされる事がイラッとくる。

 

平助が一体どれほどの辛い思いをして俺を頼ってきたか理解していないのだろう。

 

「申し遅れました。私は陰陽師の大正耕也と申します。貴方様は一体平助さんの家族とどのような関係で?」

 

と、まだ村長とは確定しているわけではないので俺は何とか答えを引き出そうとそれとなく聞く。

 

すると、案の定お爺さんは俺の質問に答えてくれる。

 

「わしか? わしはこの村の長の陣だ。若造、少し話したい事があるのでな。わしと一緒に来てもらえんか?」

 

眼光を鋭くしながら俺の方を見ながら言う。もちろん俺の方としても話し合いたいと思っていた所なので何ら異存は無い。

 

「ええ、こちらとしてもぜひ村長さんと御話がしたいと思っておりましたので。喜んで。」

 

そう言うと、フンッと鼻を鳴らしながら俺に着いて来いと言わんばかりのジェスチャーをする。

 

俺はこちらを心配そうに見てくる平助に大丈夫だとジェスチャーをして陣の後に付いていく。

 

上手くいくかなぁ……? 上手くいかなかった場合は……少し強引にいこうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長の家はやはり他の人の家とは違い豪華である。

 

やはり外観というのも村長という位を表すには重要なファクターになってくるのだろう。

 

俺は村長に案内された後、奥の広間に通され、話し合いをする所である。俺としてはそれより早く千恵さんの容体を見たいというのが素直な希望でもある。

 

だが、厄介事を解決しなければならないので、俺はこの爺さんが一体どんな要求をしてくるのかをひたすら待つ。

 

出された茶から立つ湯気が何とも邪魔くさいと思いながらもひたすら待つ。

 

やがて、陣が大きくため息を吐きながら俺に向かって口を開く。

 

「若造……いや、大正耕也といったかな? ……即刻立ち去れ」

 

随分とまあストレートな物言いです事と思いながらも俺は陣に向かって反論を開始していく。

 

「それは無理な話ですね……何せ大事な大事な依頼ですので」

 

俺は無表情のまま翁に向かって言っていく。翁はそれを聞くと、左の眉毛をピクリと持ちあげながら鋭い眼光を俺に放ってくる。

 

仕方が無い。少し訳を聞いてみるか。

 

「では陣さんにお聞きします。一体何故立ち去らなければならないのでしょうか? 私はただ、依頼主の家族に害を与える化け物の退治を遂行するだけなのですが?」

 

そう言うと、陣は俺の方へと身を乗り出しながらさらに鋭い眼光を浴びせてこちらを脅してくる。

 

「あまり舐めた口を利くんじゃないぞ小僧……。お前のやろうとしている事がこの村を危険に晒すことだというのが理解できないのか?」

 

俺もさすがにここまで酷い物言いをされると怒りたくもなってくる。

 

「いや、それは違いますね。私がそんなヘマをするとでも思っているのですか? 私はその元凶を潰すと言っているのですよ。理解できますかね?」

 

「小僧。お前のような何の霊力も無いゴミに一体何ができる? お前が退治に行くならば他の陰陽師を差し向けた方がまだマシだわ。神に手出しはできん」

 

俺は何の霊力も無いと言われたことに、へえ、良く分かったなと思いながらもさらに反論していく。

 

「一体アレのどこが神なんですか? あんな禍々しい妖気を垂れ流している妖怪の一体どこが神様だと?」

 

「あそこまで強大化した妖怪はもはや神となっているという事だ。神格化という言葉すら分からんのか?」

 

神格化? 随分と笑わせてくれる。あの程度で神になれるのならば、幽香や紫、藍はとっくのとうに神になっている。

 

俺はその陣の言葉に失笑してしまいそうになる。だが、そんな間違った認識の為に、毎年罪のない人が犠牲になっているという事を思うと怒りが湧いてくる。

 

それと同時に、もはやこれ以上の話し合いは平行線で決着がつかないだろう。いくらこちらの主張が正しいといえど、人の価値観や倫理観はそう簡単には変えられないのだ。

 

おまけに俺の外見は20歳程度。年長者としての自尊心も邪魔しているのだろう。全く、非常に厄介な。

 

「神格化? そんなものは分かっていますよ。ですがあんな妖怪ごときが神になるわけが無いでしょうが」

 

「お前は分かって無いな。相手の実力すらも計れんのか。お前よりも遥かに強い陰陽師を連れても倒す事ができなかった化け物を……フンッ」

 

そう言いながら俺の答えを踏みにじるかのように否定してくる。

 

だが俺もここで引くわけにはいかないのですかさず反論していく。

 

「ですから、私の友人である八坂神や洩矢神などと比べたら、あんな妖怪なんざ一体どれほど矮小な存在か……」

 

だが、俺の言った事はあまり効果をもたらさなかったらしく、今度は俺に対してではなく、平助に対しても罵倒してくる。

 

「ハッハッハッハ! 見栄を張るのもいい加減にせい小僧! 一体どんな事を言ってくるかと思えば……。所詮はあのガキ程度の小遣いで来る程度の陰陽師だわなぁ。何も分かっていないっ!」

 

本当にイラつく事を言ってくる男だ。

 

一体どうしてこうも、こうも!

 

俺はこれ以上の話は無駄であり、無理矢理でも話を聞かせないとこの件は解決に動かないと判断し、陣を脅しに掛かる。

 

村の崩壊という危機すら分かっていないこの陣という男にかなりの怒りを感じていたのだろう。俺は身を乗り出したままの陣の胸倉を掴み此方に引き寄せ、一気にまくしたてる。

 

「あまりふざけた事を抜かすなよジジイ。俺のやろうとしている事が村を危険にさらすだと? 俺はその元凶を完膚なきまでに潰すと言っているんだ! 依頼の条件も完遂でき、さらにはお前の懸念事項も解消される。一石二鳥だという事が分からんのか? あぁ? …………おまけに俺がここで一切の手を引いたら、この村が緩やかに崩壊していくという事も分からんのかジジイ。……さあ、選べ。このまま妖怪の餌食にされて崩壊の一途を辿る村を唯茫然と見ているのか、それとも俺に平助からの依頼を許可してこの村の繁栄を選ぶか。今こうしている間にも犠牲者が出るかもしれないのだぞ!?」

 

俺としてはこれ以上の犠牲者を生みだしたくは無いという強い願望があるせいか、いつもとは違って口調がかなり荒くなってしまった。

 

脅している時点で陰陽師失格だと思うが、こうでもしないとこの村から追い出されて千恵さんが危険な目にあってしまう。それだけは何としても避けたい。

 

俺は陣の胸倉を掴んでいた手から力を抜き、そのまま突き放すようにする。

 

陣は俺の言っている事が頭に残っているのか、苦痛のような表情を浮かべながら俺に対する答えを探しているようだ。

 

さっさと許可を出せと思いながらひたすら答えを待つ。

 

やがて、唇を震わせながら口を開く。

 

「…………………倒せるのだな?」

 

「ああ」

 

「……なら証拠を見せてみろ。この目でお前のその実力を見なければ気がすまん」

 

俺は、やっぱり論より証拠だよな思いながら、どのように彼に証明するのかを考えてみる。

 

……だが、俺が力を使うといっても、霊的なものは一切合切使う事ができない。だから自然と科学兵器を使った実演という事になってくる。非常に厄介な。確かに俺の持つ科学兵器は個人携帯用から核爆弾まで幅広い。だが、他の陰陽師と違って威力の幅が両極端なもんだから困ってしまう。使いどころによってはアサルトライフルでも大妖怪を殺すことはできるが、さすがにインパクトが無さ過ぎる。かといってMOAB等を使ったらとんでもないことになるので止した方がよさそうだ……。

 

……でも良くお世話になっているMk82ぐらいだったら大丈夫かな?

 

俺はそんな事を思いながら陣を納得させるために口を開く。

 

「なら、付いて来い。実演してやる」

 

そう言って俺は陣を連れて村のはずれに足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は適当な荒地に爆弾を投げ込むが、実演するにあたってあまり離れた所からだとインパクトが無い。

 

そこで俺は350mという無謀にも思える距離からの実演を行う。もちろん一応の安全策としては分厚い鉄筋コンクリートによって四方を固められた建造物を創造して破片などから身を守れるようにはしておく。

 

俺は大体の実演はできると思いながら、陣の目の前にMk82を創造して実演するという事を話し始める。

 

「今からこいつを俺達から丁度……そうだな、あの木と木の間あたりにこの物体を落下させる。これを食らえば、ほとんどの妖怪は粉々になると思ってくれればいい」

 

萃香の時は滅茶苦茶照準がずれてしまったから、あまり良い効果はなかったな……と、過去を振り返りながら説明していく。

 

対する陣は、俺の説明を聞いても半信半疑の眼を浮かべて質問してくる。

 

「本当にそれがか……? そんな鉄の塊が一体空から落ちた所で一体何になる」

 

すでに俺が何もない所からこれを創造した時点で認め始めているようだが、実際の部分を見ないと納得してもらえないらしい。

 

仕方が無いので、俺は陣にコンクリートの窓から外を見るように指示し、Mk82を落下させる。

 

重力に素直に従った爆弾は一気に加速し、地面に到達する。

 

着弾した瞬間に、その金属の内部にある膨大な量の爆薬をその場で炸裂させていく。あたりには、耳をつんざくほどのバカでかい音が響き渡り、凄まじい土煙と黒煙、炎を吹き上げる。

 

俺は着弾した様子をずっと眺めている陣に向かって言う。

 

「これで信じてもらえたか陣さんよ?」

 

ここまでの事をされたら、さすがに陣も認めざるを得なかったらしく、声を震わせながら言ってくる。

 

「…………本当に倒せるのだな?」

 

「当たり前だ。 まあ、どの道お前が納得しようがしまいが治安維持という名のもとにその妖怪は跡形も無く吹き飛ばすだけだがな」

 

俺がそう言うと、陣は少しだけ眼を瞑りながら言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 


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