東方高次元   作:セロリ

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60話 自業自得なのだろうか……

でも後悔はしてないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に高速で襲いかかってくる矢と札を、俺は余りの光景に目を奪われ何の回避行動も取れずに唯茫然と眺めているしかなかった。

 

俺を殺そうと猛然と殺到する矢は、空気を切り裂き、何ものをも貫かんという勢いでただ眺めている俺の領域にぶち当たっていく。

 

鏃の金属が砕け散る鈍い音と、箆が圧し折れ、木が折れる独特な軽い音が鼓膜を叩くように連続として鳴り響いていく。

 

また領域に当たらなかった大部分の矢の一部は、背後で燃え盛る家に当たり構成木材を削り、砕き、抉り刺さっていく。

 

そして残りの矢は飛距離が足らなかったり、俺の頭上を遥かに超えていったりして土を弾き、その折れた破片を撒き散らす。

 

札に関して言えば、ある程度の誘導性を保有しているのか、矢とは違ってひとつ残らず俺の方に目掛けて飛んでくる。

 

おそらくこの量の札の前では幽香ですら防御姿勢を取らざるを得なくなるだろう。札は着弾すると同時に矢と同じように領域に弾かれ、まるでシュレッダーに掛けられたかのようにこま切れとなって霧散していき、風に流されていく。

 

俺はその様を見てようやく自分が何をされたのかを認識し、目の前の光景を見据える。

 

退治する兵や陰陽師の顔は皆厳しく、俺に対して憎悪を抱いているのがありありと分かる。

 

そして兵士の顔を左から右へと流すように視線をずらして見ていくと、以前笑い合い、共に任務や仕事をこなしていった友人の兵や陰陽師をこの目に捉えた瞬間、俺の足に一瞬力が入らなくなる。

 

一体何でお前たちが……。そんな事を一瞬脳に浮かべてしまう。

 

だがそれも致し方ない事であった。最近は顔を合わせる事が無いとはいえ、前までは談笑していた仲だったのだから。

 

俺を睨みつけている者たちの中に、まだ俺の知っている者達はいるのかという不安を胸に抱きながら別の疑問を浮かべていく。

 

……一体なぜ俺がこんなことをされなければならないのだろうか? と。

 

正直自分は今まで十分都に尽くしている立場であり、自分で思うのもなんだが、感謝されこそすれ、怨まれる事など一切していないのだ。

 

以前、軍ですらも手出しができなかった鬼退治をしたのも俺、都を散々困らせていた封獣ぬえを退治したのも俺。

 

さらにはあの怨念の塊の黒い影を消し飛ばしたのも俺。こういった強者を打倒してきた俺が何故……?

 

頭の中からは疑問が絶えず浮かびあがり、俺を混乱させてくる。

 

そんな混乱の中、俺に対しての怒鳴り声が思考から無理矢理現実に引きずり出す。

 

「大妖、大正耕也!! 貴様を危険分子として封印するっ!」

 

………………は?

 

俺は奥の方に居る馬にまたがっている男はこの大部隊の将軍だろうか? とにかくその者のいきなりの発言に思わず聞き間違いだと思ってしまう。

 

…………今何て言ったアイツ? 俺を封印? 何で? ……それに大妖?

 

当然訳が分からないのでこちらも大声で反論する。

 

「いきなり何だお前らはっ!? 俺は妖怪ではない上に、攻撃されるようなことはしていないぞ!」

 

そう言うと、松明の火でボヤボヤと照らされている男はニヤリと歪め、目の前に横に長い紙を広げながら俺への罪状を読み上げていく。

 

「貴様の戯言なんぞこの罪状の前では何の意味もなさんっ! ……一つ目、封獣ぬえとの結託による都を混乱に貶めた罪。二つ目、八雲紫、九尾八雲藍、風見幽香との密通による都からの離反行為。三つ目、自作自演による鬼との戦闘による功績詐称! さらには種族の偽りによる陛下への不敬及び反逆罪っ!!」

 

確かにあの男の言うように妖怪とは密通していた。だが、他は全て根も葉もない嘘じゃあないか。

 

我儘に近いだけなのかもしれないが、彼女達は人間に害を与えてはいないし、これくらいの事は許していただきたいという願望が芽生えてくる。

 

しかしこれは彼らにとっても許せることではないのだろう。本来ならば妖怪を滅するはずの陰陽師が、実は裏で妖怪と交友関係を持っている事が。

 

ぬえの部分は完全に冤罪であり、また鬼との戦闘もまた然り。一体突然なぜこんな訳の分からない罪状が出てくるのだろうか?

 

俺としてはその部分を主張したいが、言った所で相手にされる事は無いだろう。

 

しかし、一応主張しておかなければ今後の事に影響を及ぼすと考えられるため、大声でさらに反論していく。

 

「そんな根も葉もない嘘を良くも平然と! 俺がぬえや鬼退治をしなければ都や幕府は滅んでいた可能性もあるのだぞっ!?」

 

「フンッ、その都が滅ぶということ自体がお前の真の望みなのだろう?」

 

俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべながら俺の主張を一蹴していく。

 

その言葉を受けたと同時に、事件当時の都民の顔が頭に浮かびあがり、一つの主張が出てくる。

 

そんな馬鹿な事をするわけがない、一体俺がどれほど都民や府民に配慮しながら戦ったのかっ! と。

 

俺はその主張が出てくると同時に頭に血が上り、男の所まで近づこうと足を前に出す。

 

だが、それは繊維を伸ばすかのようなキリキリとした周囲に響き渡る大きな音によって遮られた。

 

その音の原因とは、俺が足を踏み出したと同時に周りにいた数多の兵士が弓矢を差し向けてきたときに発生した音であった。

 

俺はその大人数の発する音の迫力に足を踏み留まらせるしかなく、思わず歯ぎしりしてしまう。

 

「大人しく封印されてもらおうか。我々も上から厳しく言われているのでな」

 

そう言うと同時に、陰陽師の何人かがニヤニヤと表情を変えていく。

 

同時にある仮定が俺の中で立ちあがる。

 

ひょっとしたら裏で糸を引いているのは陰陽師なのではないだろうかと。

 

証拠はないが、動機なら十分にあると言っても過言ではない。俺の成した功績や、力量に見合わない低価格な依頼料。これは自惚れかも知れないが、俺の力に嫉妬という可能性もある。

 

だが、これだけいる兵士が将軍を除いて陰陽師しか笑わないのは、この冤罪の件に陰陽師が一枚噛んでいるという事には間違いなさそうだ。

 

おそらく陰陽師の連中が貴族等を言いくるめたのだろう。…………かつての友人がそうしたという事を考えたくはないが、可能性はある。別の陰陽師である事を願うが。

 

ただ、俺を封印するという事は何かしらの術式が必要になるという事。

 

もちろん俺の封印は不可能であり、領域で全ての術式が消し飛ぶ。おまけに俺には封ずるはずの霊力が欠片も無い上に、今回は妖怪扱い。……一体どこに封印されるのやら。

 

眼の前の男を睨みつけながらそういった事を考えていく。

 

そして封印は俺にとっても非常に今後、活動しづらくなるので何とか反論していく。

 

「俺の望みが都や幕府の滅びだと? 笑わせるんじゃねえよ阿呆! 俺が一体何のためにあそこまで危険な任務をしたと思っているんだっ! 都を滅ぼすのが望みだったら、鬼やぬえなんざ使わずに俺がとっくの昔に自分の手で消滅させている!」

 

そこまで言って再び息を吸い込みさらに大声で言いまくる。

 

「こんな無茶苦茶な罪状を進言したのは誰だ! 俺を失脚させようとするのは。一体どこの阿呆だ。こんな無益な事をするのはっ!?」

 

俺としては、今のままの生活を送りたい。唯それだけである。だから俺を嵌めようとしたクズに対して怒りが湧きあがってくる。

 

ここまでの暴言を何のためらいも無く言ったためか、男の顔は見下すような表情から一気に怒りへと変わっていく。

 

「この妖怪風情が、私に向かって阿呆だと? ………やれ。次は防げんぞ」

 

そう言うと、周りにいる兵士が何枚もの札が巻かれている矢を俺に放ってくる。放たれた矢は青白く光り、札が空力や速度を補助しているのか、今までとは違って驚くほど速い。

 

妖怪用の破魔の矢といったところか。

 

封印じゃないのかよと思いつつも全ての攻撃を弾き飛ばしていく。弾き飛ばされていく矢は札の効果もあるのか、領域に接触した瞬間に青白い閃光を放ちながら鏃の部分が破裂していく。

 

それを俺は自分の中でも驚くほど冷静に眺めていた。先ほどとは違って状況の判断や経緯などを理解していたからだろう。

 

実際の所、都には俺の力関係については全く話していないため、軍にもその事が伝わっていないのだろう。だから先ほどの防げないという言葉は、俺が妖力で生成した障壁を使ったとでも考えたのだろう。

 

だが、この程度でこいつらの攻撃が終わるわけは無いと思い次の攻撃に備える。

 

案の定、次は後方に控えている陰陽師の攻撃であり、赤く光る札を大量に飛ばしてくる。結果は言わずもがな。全て弾き飛ばされ砕け散るのみである。

 

「おいおい、これで封印か? 随分とまあ生易しい物だな。」

 

俺はそう言いながらこちらからの攻撃を宣言する。

 

「では此方から攻撃しても良いか……? ……力の差は今ので分かっただろう? もし、死にたくなければこの場から去れ。二度と俺に干渉するな。……嫌なら……分かるよな? 一撃で全軍を消滅させる」

 

実際には殺す気など全くないが、一応のパフォーマンス、威嚇として攻撃態勢をとる。

 

だが、俺の実力など等に分かっているはずなのに、なぜか驚きなどといった表情を浮かべない。

 

あれだけの量の札と矢を防いだというのに顔色一つ変えないのは一体何故だろうか? 俺の防御を貫通させる秘策などといった物があるのだろうか?

 

いや、それはあり得ないとは思う。思うのだが、何故か自分の中の警戒心が激しく自己主張を始める。

 

その不気味な現象に俺は警戒心を大きくさせながら変遷を見守っていく。

 

すると、男が後方に顎で何かを指示し始める。俺の予想している秘策とやらだろうか?

 

そして指示を出した後に兵士がある男を連れてきているのが分かる。だが明りが松明の火しかないため素顔がよく分からない。

 

俺が訝しげにそれを見ていると、段々とその顔の輪郭がはっきりとしてくる。

 

そして丁度その男の通る道に兵士の持っている松明の光があるのでやっとその顔が分かるようになった。

 

しかし、その顔は俺にとって信じられないものであり、認めたくないものでもあり、同時に激しい怒りが湧いてくるものであった。

 

まさか人間一人にここまでの事をするとは到底思えなかった。

 

一体何故…………平助、お前がここにいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れてこられた平助は大粒の涙で顔をこれでもかというぐらいに濡らしている。そして俺があまりの驚きに固まっていると、その間に兵の最前列まで連れだされる。

 

縄で縛られ、此方に助けてほしいかのような目で見てくる。その目を見た瞬間に先ほどよりも激しい猛烈な怒りが湧いてくる。

 

「てめぇ、この子は関係ないだろうがっ!? ふざけるな貴様っ!」

 

「上からの命令でな。どんな手を使ってでも封印せよとのことでな。……どうだ? 封印する前にお前が最後に受けた依頼主と面会するのはさぞやうれしいだろう……ん?」

 

そう言いながらこちらをさらに蔑んだ目で見てくる。

 

殺してやりたい。無関係の人を巻き込むとは……たかが俺の為だけにここまでの恐怖をこの子供に与えて…………。

 

本当に殺してやりたい。もし封印されても必ず俺がお前を殺す。

 

そんな黒い感情を抱くには十分な出来事であった。

 

俺は怒りの余りに閉口してしまい、その場で両手を握りブルブルと震わせることしかできなくなってしまっていた。

 

だが、この無関係な平助だけは何としてでも助けてやる。

 

激しい怒りの中にもその考えだけは持たせていた俺は、ただ涙ながらに口を震わせている平助を瞬時にジャンプさせ、こちらに引き寄せる。

 

「形成は逆転だこの外道め。お前だけは必ず殺す」

 

そうして俺はM4A1を創造して発射態勢を整える。

 

此方にジャンプさせた平助にこの後引き起こされるであろう惨状を見せないために、こちらを振り向かせ、タオルを顔に当てて男に向かって叫ぶ。

 

「もう人殺しなんて罪や恥なんざ知ったこっちゃねえ。手前だけは死ね!」

 

そう言って引き金を引こうと銃に対して指令を送る。

 

そしてフルオートで銃が弾を弾き出そうとした瞬間に眼の前の男が突然声を出す。

 

「…………良いのか? 私を殺して……。……私を殺せばもっと大勢の人間が死ぬぞ?」

 

その言葉に俺は時間でも止められたかのように固まってしまい、男に向けて弾を発射させる事ができなくなってしまった。

 

…………俺がこの男を殺せば大勢の人間が死ぬ? 一体どういう意味だ?

 

この男が死ぬと統制が崩れて兵士たちが多く死ぬ事を言っているのだろうか?

 

その事を考えていると、服を強く引っ張られる感触がする。その感触に釣られるように平助の方を見る。余りの恐怖の為に声が出ないのだろう。平助は俺の方を見ながら涙をボロボロと流して嗚咽交じりに首をブンブン振る。

 

まるで俺に対して銃を撃つ事を止めてとでもいうかのように……。

 

そう思った瞬間に一気に血の気が引いてくる。それと同時に思ってしまう。

 

…………やられた。と。

 

そう、平助を人質に取ったという事だけでも信じ難い事ではあるが、さらにヤバい事を軍はしたのではないか? ……例えば平助の村を…。

 

そんな事を思ってしまう。

 

すると、俺の様子を見て思ったのか、男は淡々と作業をするかのように俺に対して言ってくる。

 

「お前が今一番予想している最悪な事だ。 俺を殺せばすぐにそのガキの村が焼き尽くされる。大正耕也に加担した反逆の村としてな」

 

その言葉を聞いた瞬間に、俺が立っている地面が消えてしまったかのような錯覚に陥る。身体に力が入らない。

 

信じられない。たかが一陰陽師を封印するために同じ人間達をここまで追い詰めるとは……。

 

余りの事態に俺は思考が停止してしまい、創造していた銃が霧散していくように消えていく。

 

ついに足に力が入らなくなり、膝がガクガクとし始める。無理だ。ジャンプして向かって行っても村人を助ける事ができない……。

 

どこに潜んでいるかもわからない兵士。ひょっとしたらすでに村人の喉元に槍を吐きつけている可能性もある。

 

よしんば俺が村人たちを全員助ける事ができても、今度は都との全面戦争。さらには鬼退治のように幕府すらも動くことになるのだろう。

 

そうすると、俺は一人で何十万人という軍勢を相手しなくてはならない。もちろん大勢の人間を殺す権利なんて俺には存在しないし、勇気も度胸も無いのだ。

 

俺はどこかの小説に出てくる伝説の勇者や、大魔王ではないのだ。……唯の人。そう、タダの人なのだ。

 

だから、自分の今の状況を打開する策など浮かびはしてこない。そして俺の思考は、俺が封印されれば無関係な人が助かるという単純な思考にシフトしていった。

 

俺は平助をそっと後ろにやり、男に言う。

 

「一つだけ教えてくれ。……俺がこの場で投降すれば村や平助に危害は加えないのだな?」

 

「その通りだ。上からも厳しく言われているのでな。お前が投降すれば此方は村に対して危害を加えない」

 

俺はその言葉を完全に信じる事ができないため、保険としてある事を言う。

 

「随分と矛盾しているな……もし、村人に対して危害を加えた事が分かったら、貴様ら全員を殺すから覚悟しておけ。その際は人質なんざ何の意味もなさない事を覚えておけ」

 

そう言って俺は両膝を地面について両手を上げる。

 

そうすると、弓矢を構えた兵士が俺にジリジリと近寄り、別の兵士が俺の手を後ろにもっていき縛る。そして胴体と腕を密着させるように胴体全体を縛る。

 

平助は口をガチガチと言わせながら兵士に後ろへと下がらされていく。それを俺はボーっと見ながら一つだけ思う。

 

もし、危害を加えられたら必ずあの男を殺そう。と。

 

その考えを浮かべたすぐ後に、俺は別の所まで連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連行された先には、立方体の頑丈そうな木製の箱がそこに鎮座していた。いや、内壁は木製なのだが、外側は松明に照らされているだけなので内容は分からないが、札と同じ幅を持った紙で隙間なく巻かれている事が分かる。

 

札の延長物だろう。紙にはビッシリと複雑な文字が書かれているのが見える。

 

「これに入れ」

 

俺は兵士に言われるままに入っていく。この大軍勢の視線の中でこれに入るのは少々気が引ける。

 

だが、入らなければ意味が無い。

 

そして入った事が確認されるや否や、箱のふたが閉められる。

 

バンバンと箱の外から叩かれる音がする。おそらくさらに札を張り付けているのだろう。俺を完全に封印するために。

 

一体どこに連れて行かれるのだろうか? 洞窟内部だろうか? それとも湖の底だろうか? それとも聖と同じく魔界だろうか?

 

もし魔界だった場合、聖と会う事になるのだろうか? いや、魔界はとてつもなく広いのだからそれは無いか。

 

と、自分で妙な納得をしてしまう。

 

その時、フッと身体に縦Gが掛かった事に気がついた。おそらく荷台ごと持ち上げられたのだろう。……もう封印されるのか。

 

俺はどこに連れて行かれるのかを思いながら、この窮屈な姿勢が何とかならないかと考える。

 

すでに封印を強化するための札等は、領域で効力を失ってしまっているので、例え札に施錠や力の弱体化という効果が付与されていたとしても意味は無くなってしまっている。

 

その事に俺は少しの安心感を覚えながら、ユラユラと揺れる箱の中でジッと待つ。

 

そうしているうちに、余りにも暇なため俺は目を閉じてしまい眠りに入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何時間眠ったのだろうか? 目を覚ますと、まだ箱が揺れている事を認識する。

 

もうそろそろなのだろうか? 結構寝ていた気がするのだが……。

 

封印されて少し日が経ったら、幽香や紫、藍の所に会いに行こう。もし彼女たちに迷惑を掛けてしまっているのだとしたら謝らなくてはならない。

 

心配させてしまってごめんなさいと。……彼女達が俺の封印に気がついていたらの話だが。

 

そうこう考えているうちに、今まで静かだった箱の外から声が聞こえてくる。

 

「もう、ここら辺でいいのか?」

 

「ああ、もうあと少しらしい。……それにしても、第二の聖が誕生するとはな。一体都はどうなっているんだ」

 

と、落胆したような声が聞こえてくる。その声に俺の心に少しズキリと痛みが走る。

 

だが、自業自得だよな。……今まで信頼してくれていた人間の信頼を裏切った部分もあるのだから。

 

おそらく平助にも失望されただろうな…………今まで人間の味方だと思っていた奴が急に離反行為をしたという事になってしまっているのだから。

 

俺としては封印されるという事よりも、そちらの方が苦しい。だが、今まで自分の行ってきた事が間違いだとは思わない。確かに自業自得だし、信頼を失ったのは苦しい。だが、これもまた避けて通れない道であっただろうし、なによりあの日常が好きだったのだから。

 

そして同時に少し安心している自分がいる事に気付く。それは、あの男と話している時に、紫等の妖怪の居場所を詰問されなかったことだ。

 

おそらく、あの場で詰問しても意味は無かったのだろう。あの軍勢で紫のいる場所に辿りつけはしなかっただろうし、何より装備が足りない。

 

そんな事を考えながら俺は封印の時を待つ。

 

そしてしばらくその場で目を瞑っていると、ユラユラとした振動が止まる。

 

「これより封印を開始する。陰陽師は術式の用意を」

 

あの男が周囲にいるあろう陰陽師に対して命令を下していく。

 

それと同時に陰陽師達の口からゴニョゴニョと日本語なのか分からないような言葉が放たれ始める。

 

やがて陰陽師達の口から言葉が消える。術式が完成したのだろう。

 

長年陰陽師をやっていながら、こういった事はさっぱりな俺というのもなんだか恥ずかしい。何せ必要無かったのだから。

 

そう思っていると、例の男から

 

「放り込め」

 

という言葉が聞こえ、一気に箱の中の重心が崩れ始める。どこかの崖か何かに落とされたのだろう。

 

「あ、ちょっ!! おいっ!?」

 

そんな言葉とともにマイナスGが身体に掛かるのを認識する。

 

当然俺は縛られているのだから側壁や蓋に押しつけられたり箱の中をグルグルと転がりまくる。

 

一体どこまで落ちるのだろうかという考えが浮かんだ瞬間に箱に強烈な衝撃が走る。もしかしたら岩肌にぶつかったのかもしれない。

 

俺の領域の効果なのかは分からないが、箱は壊れなくて済んだ。

 

だが、そんな衝撃を受けたらもちろん俺にダイレクトに衝撃が来る。俺は再び、先ほどよりも強くゴロゴロと縦横無尽に箱の中を転げ回り目が回り、胃の中が掻きまわされる。

 

そして感触としては、ネットのようなものだろうか? そこに箱ごと引っかかった瞬間に急激な減速Gが掛かり、俺は限界を迎えてしまった。

 

限界を迎えた俺が吐きそうになりながら意識を失い始めたときにある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しく巣に引っ掛かったと思ったら……最近の人間は変な箱を捨てるんだねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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