東方高次元   作:セロリ

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66話 驚かさないでください……

お燐は好奇心旺盛だね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺が……ペットに…ですか?」

 

そうテーブルに突っ伏しながら俺はこいしに聞き返す。

 

この角度ではさとりや燐の表情は分からないが、おそらく驚いているのだろう。先ほどから一つも声が聞こえない。

 

こいしは俺の聞き返しに対して間髪いれずに、実に楽しそうな声で返答してくる。

 

「そうそう、ペットだよペット。結構名案だと思うのだけれど!」

 

そう張り切って、自分が提案した案はどうだ。と、言わんばかりの口調で。

 

俺はゆっくりと顔を上げ、さとりたちの表情を見る。やはりさとりと燐は呆気にとられた顔をしている。

 

「さすがにそれは……勘弁願いたいのですが。私は人間ですし」

 

そう言うと、こいしは俺の方をニコニコしながら俺の意見に反論する。

 

「でもでも、ペットってさっきは言ったけど衣食住が保証されるし、少しだけどお金も上げるよ? 結構良い案だと思うのだけれど」

 

確かに、条件は非常に魅力的ではある。魅力的ではあるのだが、さすがにこれを承諾するわけにはいかない。これが使用人という扱いだったら俺も肯定したいところだ。

 

だが、現実としてはペットという扱いになってしまうのだ。燐の待遇を見る限りは、十分に家族としての扱いを受けているだろうからそこまで嫌悪するようなものはない。

 

ただ人間の俺からすればペットというのは扱いとしては嫌という感情の方が強い。

 

そう考えていると、唖然としていたさとりが表情を元に戻し、こいしに注意する。

 

「こいし。……そんな事出来るわけないでしょう? 一体どうしてペットなんて……」

 

しかし燐がさとりに対して提案をしてくる。

 

「さとり様、でもこれは結構良い案かもしれませんよ? 耕也が妖怪からの被害を受ける事を軽減させる事にも繋がりますし」

 

そう、おそらくこいしの言いたい所はそこが一番のうまみであるという事なのだろう。俺が商店街付近で暮らせば、人間である俺は妖怪からの攻撃を受けやすい。

 

家も破壊される可能性もある。だからここに住めばいい。ここに住めばここに近寄ってくる妖怪もいないし、さらには余計な妖怪がいないので襲われる確率が格段に低くなる。

 

これが俺の中でこいしの思惑であろうと考えている事である。実際にどうなのかは分からないが、一応こうだと俺の中では判断したい。

 

そして、燐の言った事に賛同するようにこいしが口を開く。

 

「そう、その通りなんだよお燐っ! ……お姉ちゃん、立地条件からしてもこの場所は人間が住むのは最適だと思うよ?」

 

こいしがさとりに対して、これが最良案だという口調で言っていく。

 

さとりも、だんだんとこいしの案に思考が傾いて行っているのか、次第に表情を険しくしてくのが分かる。

 

おそらく善意でこいしは提案してくれているのかも知れないが、さすがにペットは無いだろうと思いながら、こいしに言う。

 

「すみません。さすがにペットという待遇は突然の事でまだ受け入れる事ができません。……ですので、この話はお受けする事ができません。申し訳ありません。使用人という立場なら喜んでという感じだったのですが……」

 

そう俺が返答すると、さとりはうんうんと頷き、燐は頬を掻きながら仕方ないかという表情をする。

 

しかしこいしは頬を膨らませ、口を尖らせながら俺に文句を言ってくる。

 

「え~~~~っ!? …………良いじゃないペットくらい。使用人だとペットみたく自由にできないんだもん」

 

結局俺で遊ぶだけかい……。

 

俺はそれを聞いた瞬間にそう心の中で突っ込みを入れた。

 

……いまいちイメージが湧かないが、こいしが俺で遊ぶという所を想像したくない。妖怪の体力に人間の俺が着いて行けるわけもないし、仮に遊びとやらに付きあったらぶっ倒れる自信がある。

 

と、俺はそんなネガティブな事を考えた後、やっぱり却下と思い、その旨をこいしに伝える。

 

「……さすがに厳しいです。すみません、それは無理です……………………」

 

それを言うと、こいしは自分の思惑通りにいかなかったのが悔しいのか、さらに口を尖らせて不満そうに席に座り直す。

 

こいしが椅子に座ると、あたりには少し気まずい空気が流れる。原因はこいしの発言もあるだろうが、俺が断ったのも少しあるだろう。

 

こいしは、自分の娯楽の為に俺をペットにしてみたいという事が却下されたために、元気をなくしてしまったという感じである。

 

さとりの場合は、度重なるこいしの発言に頭を痛めているという表現が一番であろう。その表情は先ほどよりも険しい。

 

俺は当初予想していた思惑よりも、斜め遥か上にすっ飛んだ考えだったためにすこし失礼な断り方をしてしまったという事に起因している。

 

これが、後々の事に影響しないかと少し不安な自分がいる。

 

燐はさとりとこいしの顔を交互に見比べながらオロオロし、時折こちらを見て助けを求めてくる。

 

俺はその視線を受けて、暫しこれからの事について考えていく。

 

こいしの言っていたペットというのは…………駄目だ、いくら考えても良いビジョンが浮かんでこない。

 

他人に紹介される時も、ペットの大正耕也だと言われる上に、幽香達に知られたら殺されそうだ……。浮気者とかそんなレベルではない。

 

使用人……又は掃除要員という形であれば、商店街近辺に家を建てて地霊殿と両方のやりとりが可能である。住み込みは流石に商店街との交流が少なくなりがちになる。今後何年も暮らすのであれば、交流が多い事に越した事はない。

 

万屋の真似事は………………無理だな。ノウハウが足りない。

 

先ほどはさとり達に難しいと言われたが、やはり仕事の理想的なものは力仕事なのだ。生活支援があるおかげで、質量のある岩も羽を運ぶように運ぶ事ができるため、疲れがほとんど発生しない。この部分が妖怪よりも強みがある部分なのである。

 

いくら人間よりも体力がある妖怪でも、力仕事を延々とやっていては疲れもする。さらに言えば、俺のような力を持たないため、重い建築資材などをそのままの重量で持ったりするのだ。

 

何とかこの力仕事に就きたい。もしくは酒屋などで積み下ろしなどの作業などをやりたい。

 

………………使用人という仕事も悪くはないのだけれども、この凄まじい広さを誇る地霊殿を掃除していくのは流石に無理だ。今はどのように清掃をしているのかは不明だが……。

 

そうだな……燐とこいしを明日あたりに貸してもらおうか? 地底の地理に二人は詳しいだろうし、何よりさとりとは違って屋外に良く出る。

 

だから、明日あたりに地底の詳しい案内をしてもらい、仕事でも探そうと思う。

 

なので、俺は燐の視線に応えることにする。

 

「ではさとりさん、こうしましょう。明日ですけれども、こいしさんと燐さんの御二人をお借りしてもよろしいでしょうか? 詳しい地理と、仕事探しの補助をお頼みしたいのです」

 

そう言うと、しばらく険しい表情をしていたさとりが、俺の方を見て少し明るい顔で同意してくれる。

 

「ええ、良いですよ。……こいし、燐? 良いわね?」

 

そう言いながら拒否を許さないような視線で二人を見ながら言う。

 

流石にこの視線には耐えられなかったのか、燐はもちろんの事、こいしも了承する。

 

「分かりましたさとり様」

 

「……わ、分かったわよ」

 

その返事を聞くと、さとりは満足そうに頷き、俺の方を見て口を開く。

 

「さあ、今回はここで御仕舞にしましょう。……お燐、耕也を部屋に案内してあげて」

 

「はい、分かりましたさとり様。耕也、こっちだよ」

 

そう言って燐は立ち上がり、ドアを半開きにして俺を待つ。

 

俺は燐に返事すると同時に、さとりとこいしに礼を言う。

 

「はい、今行きます。……さとりさん、こいしさん、本日は相談に乗っていただき、ありがとうございました」

 

そう言うと、さとりとこいしは何だか恥ずかしそうに笑いながら俺に返答してくる。

 

「いいですよ気にしなくても。」

 

「い、いやぁ~、そんな……」

 

俺は二人の言葉を聞いた後、会釈をして燐の後に着いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回俺が使用する部屋は、ペット用に用意された部屋の一つであり、燐の部屋の隣とのこと。

 

俺は燐に案内されながら色々な話を聞いたり聞かれたりした。

 

「ねえ、耕也。……さとり様は、会った感想としてはどう? 遠慮なく言っていいよ」

 

そう言われると何と返していいのやら。優しい子だとは思うがねえ。

 

他人からすれば心を読まれるという事が非常に嫌なのだろう。自分の考えている事が相手に簡単にバレる。これは非常に恐ろしい事である。

 

ただ燐の感覚は他の妖怪とは違い、むしろ読んでくれた方が会話も進みやすいし、何より意思疎通が非常に円滑になると感じているのだろう。

 

だが、他の妖怪は違う。精神的な部分の保護が弱い妖怪は、さとりの能力が致命的になることすらもあるのだ。だから忌み嫌う。だからこいしは自分のアイデンティティである第三の目を潰した。

 

自分が他人に嫌われるの恐れて。他人が自分の事を悪く考えているのを読みたくないから。

 

燐が俺に聞きたいのは、この地でさとりが唯一心を読めない人間である俺に純粋なさとりの人柄という事だろう。今までの妖怪の評価は、さとりの本来の人柄に対してではなく、能力という色眼鏡が掛かった状態での評価だろうから。

 

と、俺は薄暗い廊下を燐と二人でゆっくりと歩きながら質問の意図を考えていく。

 

ふと燐の表情を見ると、燐の顔は俺に質問する前とは大きく違い、少し眉を下げながら何とも不安そうな顔をしているのが眼に映る。

 

また廊下を薄く照らす蝋燭は、俺の答えを待ち続けている燐の不安な様子を表しているかのように、その炎を揺らめかせる。

 

そして俺の感想はもちろん燐が考えているようなネガティブなモノではなく、非常に好印象であった。

 

妖怪と人間の違いという決定的なモノがありながら、俺なんかの相談に長い時間のってくれた上に、宿まで貸してもらえた。これで悪印象を持つ事自体が不可能であり、持つ方法があったら教えてほしいほどである。

 

「燐さん、私の感想としましては、非常に良い方だと思いますよ。真摯に相談に乗ってくださいましたし」

 

そう言うと、燐は自分の主の事を褒められたのがうれしいのか、顔をホニャリと崩して笑顔になる。

 

それに伴って尻尾もユラユラと揺れ始める。

 

だが、すぐにまた表情を暗くして、尻尾を垂らしてしまう。

 

そして再び俺に質問してくる。

 

「…………じゃあ、こいし様は?」

 

こいしか…………確かに彼女は…不思議だ。無意識を操るもんだから、姿が見えないという事はないのだが、何を考えているのか分からない部分が多い。

 

ただ、こいしは無邪気である。こればかりはあっているだろう。

 

しかし、俺に対しては襲うだの何だのと妖怪の本分だと言っていたが、その主張は間違っていないし、むしろ妖怪としてはそれが正しい姿なのである。

 

そしてさらには、先ほど考えていたように自分の第三の目を閉ざしたというのは、自分の考えと、他人からの考えが大きく違っており、自分の心が耐えきれ無くなってしまったという考えもできる。

 

だから、本当は彼女もさとりと同じように優しい心を持っているのではないだろうか? そんな考えが浮かんでくる。

 

俺が好意的に解釈しすぎな面もあるかもしれないが、大凡は合っていると信じたい。

 

だからその間違っているかもしれないと思いながら解釈を基に燐に答える。

 

「いえ、良い方だと思いますよ? ただ、ちょっと行きすぎな部分もあると思いますが。ですが、私の為を思って色々と提案して下さったことには変わりないですからね」

 

俺をペットにしたいらしいけどさ…。

 

俺の答えが気に入ったのか、再びホニャッとさせて笑みを浮かべる。

 

「そ、そっか~…………うんうん、耕也は見る目があるねぇ」

 

そう言いながら一人でスタスタと行ってしまう。

 

俺はそれを見ながら急いで燐の後を追う。そしてその直後、突然燐の声が廊下に木霊する。

 

「あ、お空。おかえり!」

 

「た、ただいま~。今日も暑かった~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、お燐。何で人間がここにいるの?」

 

そう言ってくるのは空。何も知らない空としては非常にごもっともな意見であり、それに対応する形で燐が返す。

 

「この人間は、訳あって地底に来てしまったんだよ。名前は大正耕也」

 

俺は紹介されると同時に空に向かって頭を下げて言う。

 

「大正耕也です。よろしくお願いします」

 

すると、今まで燐の方を見ていた空が、俺の方に顔を向けて口を開く。

 

「ふ~ん、人間なんだ。私は妖怪の霊烏路空。まあ、さとり様のいるココで変なマネはしないでね」

 

そう言うと、サッサと俺達を後にしてしまう。

 

それを見た燐は気まずそうに笑いながら言ってくる。

 

「にゃはは~……馬鹿なんだけども、ああ見えて結構警戒心が強いんだよね。特にさとり様やこいし様の事になるとさ。まあ、気にしないでおくれよ。結構根は良い奴だから」

 

俺は空の行動に呆気に取られながらも、燐の言葉に返事をしていく。

 

「ええ、大丈夫です。部外者なので仕方が無いとは思いますし」

 

「そう考えてくれると助かるよ」

 

そう言ってまた歩き出す。

 

しばらく歩いた所に、五つほどの一定間隔に設置されたドアが見えてくる。燐は軽い足取りで扉をどんどん通り過ぎていくと、最後の五つ目の扉の前で止まる。

 

そしてこちらにクルリと回って此方を向き、ドアを指差して言う。

 

「さあ、ココが耕也の部屋だよ。……結構広いから不満はないとは思うけど」

 

そう言いながらドアのカギを開けて中を見せる。

 

中は燐の言葉通りに広く、ビジネスホテルの一室よりもずっと広く感じられる。この地霊殿の大きさも相まって見えるだけかもしれないが、個人で使うには十分すぎるほどの広さであった。

 

俺はその感想を燐に素直に言う。

 

「おぉ~、結構広いですねえ。十分すぎますよこれは」

 

そう言うと、燐も顔を綻ばせながら

 

「でしょでしょ~? さとり様とこいし様は、ペットにも十分に気を使ってくれる優しい方達なんだよ」

 

自分の主達を褒めたたえる。

 

俺はそれに素直に納得し、反論等は全くなく燐の意見に賛同する。

 

「ええ、そうですね。よく分かりますよ」

 

確かにペットに対してのこの待遇は破格である。むしろ事情を知らない人が見たら異常なレベルと言いそうだ。

 

しかし、彼女達は家族なのだから何ら不思議はない。

 

俺はそんなことを思いながら少しだけ埃がある部屋を掃除していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後何のトラブルも無く夕食が終わり、今は自室でベッドに寝そべっている。というか、眠ろうとしている。

 

明日は少し早めに出るらしいから、俺も睡眠不足にならないようにしないとなあ。そう思いながら夕食を思い出す。

 

夕食はごく普通の食べ物であり、人間が食べられる物であったうえ、非常に美味しかったという感想が自然と浮かんでくる。

 

ただ、その夕食が美味しかったという感想も、明日の仕事探しを思うと消し飛んでしまう。

 

……不安だ。物凄く不安だ。だが頑張らなければいけない。

 

いやしかし、初日にあんな派手な戦闘をしてしまったのだから相当警戒されるだろうな……。

 

燐はあの時の事を知っているだろうが、特に不安そうな顔をしてはいなかった。降りかかる火の粉を払っただけなのだから、特に気にする必要はないという事なのだろうか?

 

燐たちも補助してくれるだろうからそこまでイザコザは起きない気がするのだけれども。

 

そんな事を思いながら眼を閉じて本格的に眠ろうとする。

 

が、その時丁度ドアから異音がしてくる。

 

その音にいったん閉じた眼を再び開け、ドアを見やる。

 

すると、先ほどまで閉じてあったドアが開いてしまっているのだ。

 

俺は不審に思って懐中電灯を創造して照らす。電球から放たれる一筋の光は、ドアを良く照らしてそこに何があるのかを鮮明にする。

 

しかし、そこには何の姿も無く、ただプラプラとドアが開かれたまま微動しているだけである。

 

「ん? いたずらか?」

 

そう思いながらドアを閉めようとベッドから出ようとすると、突然死角から声がする。

 

「わっ!」

 

その声は女性特有の高い声であり、すぐに誰かなのかは想像がついた。

 

だが、あまりの突然に俺は驚いてしまい、その場で驚きの声を上げてしまう。

 

「うわぁっ!?」

 

我ながら変な叫び声だと思いながらも、その声を抑える事ができず、ただただ喉から声が出るだけであった。

 

そして驚かせた主は、背中あたりからケタケタと笑い、悪戯が成功した事を喜ぶ。

 

その方向に向かって俺は急いで懐中電灯を向けてその人物を特定する。

 

「あ~あ、ばれちゃった」

 

「こいしさん……こんな夜中でいきなり驚かさないでください。心臓が止まるかと思いましたよ」

 

そう、俺を驚かせたのは、こいしだったのだ。まあ、一番やりそうな人だったのだけどね。

 

そして俺の声を聞くと、こいしはニヤニヤしながら口を開く。

 

「ん~、おっしいなあ。そしたら死体が手に入るのに……」

 

「そんなに死にたくないので勘弁して下さい。……それで、どうしたのですか? こんな夜中に」

 

するとこいしは、う~ん。と、考えながら俺に自分の考えを吐露する。

 

「夜這いじゃないから安心してね? …………実を言うと、貴方の話が聞きたかったの。私の能力も効かないし、お姉ちゃんも心を読めない。一体どうしてここに来る羽目になったの? それと、どうして攻撃的な干渉ができないの?」

 

俺はそれを聞くと、少しどう話したらいいのか迷ってしまう。一体どこから話していいのやら……最初から話すとむちゃくちゃ長くなってしまう。

 

仕方が無い。少しだけ端折るか。

 

「え~と、ですね。まあ、干渉云々は、もうそういうものなんだという事で割り切ってしまってください」

 

そう言うと、こいしは口を尖らせながら文句を垂れる。

 

「けちんぼ」

 

その言葉に思わず苦笑してしまいながらも、謝って続きを話す。

 

「すみません。でも、これについてはお願いします。……………そうですね、どうしてここに来たのかですか……。まあ、簡単に言ってしまえば、人間の陣営を裏切ってしまったからですね」

 

そう言うと、こいしはますます不思議そうに尋ねてくる。

 

「どうして裏切ったの? そういう事をする様な人間には見えないけれども……」

 

「まあ……妖怪と仲良くなった所をバレてしまったからですね……それで封印されてしまったという訳です」

 

すると、こいしは俺の方にさらに近寄ってきて身体の匂いを嗅ぐしぐさをする。

 

一体何故だろうか? 変なにおいでもあるのだろうか? ……さすがに嫌だな。

 

「あの、どうしたのですか?」

 

すると、こいしは匂いを嗅いだ後に、納得したような表情をしてウンウンと頷きながら口を開く。

 

「だからなんだ……耕也の身体から妖怪の匂いがする。三人だね。しかも全員女の匂い。」

 

「え?え? ……女の匂い?」

 

「そうそう、前から気になってはいたんだけどね。お燐も気付いているんじゃないかな? なんだろう……物凄くアレな匂いがする。本当に微かにだけども」

 

俺はその言葉を基に急いで身体の匂いを嗅ぐが、全く分からない。

 

「人間じゃ分からないよ。……でも、多分洗っても取れない気がするよその匂い…………じゃね」

 

そう言いながら、用は済んだとばかりに布団から離れていく。

 

そしてドアを開けて俺に対して最後の言葉を言う。

 

「じゃあ、明日は頑張ろうね。耕也?」

 

そう言ってすぐにドアを閉じる。

 

「え?え? …………ちょっと、あれ? な、何が何だか……」

 

俺はただこいしの言っている事に考えが追いつかず、終始その場で意味不明な言葉を言いながら固まるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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