東方高次元   作:セロリ

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75話 良いじゃないか別に……

食べたい時だってあるんだからさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてるかい? それでだねえ、映姫様ってのは確かに厳しいお方だけど、アンタぐらい徳を積んでたらきっと極楽行きのはずさ。だから安心しなって」

 

そう私は後ろに居る魂に向かって話しかける。

 

彼らは魂の状態では話す事ができないため、必然と私一人が延々と話し続ける事になるのだ。しかし、彼らの中にも身振りで反応をしてくれる者もいるため、それはそれで嬉しく思って会話を弾ませる事ができる。

 

「そうそう、聞いておくれよ。あたいは前に映姫様にこのボロ船を新調してくれといったんだけどさ、駄目だったんだよ。なんでも、最近は地獄の経営とかが苦しいらしくてさ、あたいだけに融通することはできないのだと」

 

と、私が言うとその魂はユラユラと小刻みに揺れて同意の意を示してくれる。それは大変だ。がんばれよ。とでも言うかのように。

 

それに私は微笑みながら、船の推進速度を確認する。ユラユラユラユラ。船は自分の命じた通りに一定の速度で川岸を目指して行く。

 

いつもならもっともっと多くの距離を船で渡らなければならないものの、今回はすでに向こう岸が見えているのである。

 

ソレもそのはずで、この魂は生前に多くの徳を積んだらしく、船賃の際には通常よりも多くの銭が袋から出てきたので、私は川幅を大きく狭めることにしたのだ。……いや、この場合は川幅自体ではなく距離というべきか。

 

「さ、もうすぐで着くからね。降りる準備をしておくれよ? とはいっても、飛ぶだけだから降りる準備も何もないさね…」

 

そう自分の言った事におかしさを覚え、自嘲気味に笑いながら船を川岸に横付けする。

 

横付けされた事を確認した魂は、ここまで運んでくれた事に礼を言いたかったのか、クルリと一回転して暫しそこで停止してから飛び去っていく。

 

私はその魂が極楽への道を行く事を信じて笑顔を浮かべながら手を振って見送る。

 

しばらく、河の流れを眺めて今日の仕事を振り返る。

 

「やっぱり千差万別だねえ……。あたいにはその人がどんな人生を歩んできたかは分からないけども、それでも徳の量は絶対になるのかねえ…今日も多いの少ないのがあったしさ…」

 

長らく死神をやってはいるが、今日ほど色々と考えさせられた日はない。

 

そこでふと私は思う。彼の魂はおそらく極楽に行くはず。ならその裁判の内容を少し見ても良いのではないだろうか? と。

 

私は重い腰を上げて裁判所へとゆっくりと歩いて向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「では、来世でも必ず徳を積み、よき人生を謳歌しなさい。分かりましたね?」

 

と、裁判所の前まで来た時にそんな声が聞こえてくる。私はその声を聞くと、もう裁判は終わってしまったのかと少し落胆しながらも、無事その魂が極楽に行く事ができたのだと分かると少し嬉しくなる。

 

私は口角を釣り上げながらも、ついでに映姫様へ今日の仕事が終了した事を報告しようと、扉をノックして開ける。

 

中に居たのは、もちろん映姫様。先ほど裁判が終わったためか、神妙な顔つきをして書類と睨めっこしている。まあ、当然であろう。今日の最後の裁判とはいえ、全ての自分の裁判に誤りが無いか、さらには高効率化などの検討もしているのだろう。

 

そしてあまりにも集中しているためか、私が部屋に入った事に全く気が付いていないようだ。

 

しかし、いくら待っても映姫様はその書類から目を離さない。そして、書き込みながら小さな声でブツブツと呟いたり、偶に微笑んだり、怒ったような顔になったりする。

 

その表情が妙に気になった私は、失礼と思いながらも一体何を見ているのだろうと、忍び足で後ろに回り込もうと足を進め始める。

 

普段なら気が付かない筈が無いというのに映姫様は尚も気付かない。

 

一体ここまで彼女を集中させるものは何なのか? そんな考えが浮かんでくる。しかし、その表情の変化からはそれが何なのかは分からない上に、普段の性格からここまで露骨に表情を出してはいない。

 

確かに笑ったりなどの感情の起伏はあるが、それでもここまでにはならない。

 

そんな事を考えながらゆっくりと歩き、さらに彼女に近づいていく。

 

そして歩きながら彼女の机に視線を向けていく。、すると一つの違和感に気が付く。

 

この道具は一体何なのだろうか? と。

 

いつもの光景だったからそこまで気にかけてはいなかったが、今回は何時もとは違う事に気が付く。

 

私の視線の先にあったのは、傘のようなモノが付いた小物。何と言うのだろうか? 提灯のようにも見えるが、それは違う気がする。

 

しかもここに提灯など置く映姫様ではない。

 

ひょっとしたらこの小物もこの映姫様の表情の変化に関係しているのかもしれない……。

 

そう突拍子もない事を考えつきながら、後ろに回り込み終わり、横から書類を覗きこむ。

 

すると、そこには男の名前と似顔絵、そして罪歴などが書かれていた。

 

一体何なんだいこれは……。

 

似顔絵は何処にでもいそうな普通な男。しかし、それだけならまだマシであった。そしてそこにはこう書かれていた。

 

 

 

大正耕也。種族:人間

 

人間陣営から離反し、妖怪と結託。京の都を混乱に陥れ、旧地獄に封印処理される。その後、何らかの方法で封印を解除した模様。

 

封印される前には陰陽師を営んでおり、妖怪との接点も多かったとのこと。そして、人間陣営からの離反行為としては、大妖怪である八雲紫、八雲藍、風見幽香との深い関係を持っていたとのこと。

 

また、旧地獄で築いた罪もあり。内容としては閻魔の裁定行為に対しての愚弄、悔悟棒の破損および損壊、不老、姦淫、等々数えきれないほどの罪あり。

 

この裁きの法廷に来るとすれば彼は確実に地獄行きであろう。それも一番深い地獄の底に。

 

現在は酒屋に就職し日々の銭を稼いでいる模様。ただ、それが彼にとって好ましいかは私にはわからない。

 

彼がその仕事に満足しているのならば私はソレを見守る事にする。しかし、もし彼がそれ以上の待遇を求めているのならば、私専属の書記官として罪を償いながら務めるのも、また一つの彼にとっての救いではないかと愚考する。

 

しかし、それでも彼の罪は償いきることは出来ないであろう。なぜならば、国を傾けた妖怪等と共にある事自体が問題であり、それが解決されなければ永遠に彼の罪が消える事が無いからである。

 

これは友人の私、四季映姫にとっても可及的速やかに解決しなければならない問題である。いや、一刻も早く解決しなければならない問題である。私は彼を地獄送りにしたくは無い。

 

だが、彼は私の友人であり、そして良き話し相手でもある。地獄、天国、冥界、現世。このどこにも彼に相応しい場所は無い。ここで働くという事が一番ふさわしいのではないだろうか?

 

 

 

あまりにも閻魔としての考えから外れてしまっている。

 

ソレがこの文書を見たときに思った事の一つ目であった。一体映姫様はこの男に対してどれほど傾いているのか? いや、そこまでではないかもしれないが、平等公平に裁かなければならない立場のはずである映姫様が一人の人間にここまで気を配る事は今まで無かった。

 

不必要に近づきすぎると裁判時に私情が入ってしまう可能性があるからだ。映姫様に限ってそんなことは無いだろうが、それでも私としては不安である。

 

それにしてもこの大正耕也とはいったい何者なのか? 私にはこの男が本当に人間なのかすら怪しく思えていた。いや、これは人間ではない。不老である時点で人間ではないのだ。

 

だが……例外もある。そう、この世の中、何事にも例外はつきものなのだ。一概にこれが人間ではないと決めつけてはいけない。

 

そしてその映姫様の態度と、内容の凄まじさに私は思わず

 

「映姫様…………」

 

と、口から言葉を出してしまう。

 

すると、今まで穴があくほど書類を見つめていた映姫様の肩が面白いほど大きく震え、その場で背筋をピンと伸ばす。

 

そして、ゆっくりと此方を向き、私の顔を確認すると、映姫様は少し安心したような顔を浮かべてから、怒り顔になる。

 

「こ、小町! 貴方は何をしてるんですか! 理由もなく人の後ろに立つことは大変失礼な事なのですよ!?」

 

と、怒鳴られてしまった。そして怒鳴りながらもその表情はどこかしら焦っており、空いている手で書類を隠そうとするが、やがて私に見られてしまった事をさとったのか、溜息を吐いてその作業を止める。

 

そして、再度ため息をついた後、苦笑い気味に聞いてくる。

 

「…やっぱり見てしまいましたよね?」

 

私は申し訳ない気持ちにもなりながら、肯定の意を示す。

 

「はい、映姫様。申し訳ありません。…………ですが、一つお聞きしたい事があります」

 

「……どうぞ」

 

いつもの私らしくない態度。映姫様の前では結構お茶らけている事が多いのにも拘らず、今回は真面目に映姫様と会話をしている。

 

本当に私らしくないが、こうならざるを得ない状況なのだ。

 

唯の人間に閻魔たる映姫様がここまで気を掛ける人間。大正耕也。ひょっとしたら、その男に何か良からぬ事でもされているのではないだろうか? そんな考えも浮かんでくる。

 

だから、だから私は映姫様に、少しその書面の内容について聞く事にした。

 

「映姫様、その大正耕也と言う男は一体どういう人間なのですか?」

 

すると、映姫様は大正耕也という言葉を聞くと、左手を頬の部分に持っていき、両頬を覆うようにして抑え込む。明らかにニヤけそうになるのを我慢しているとしか思えない。

 

しかし、映姫様はすぐにその左手を下ろすと、私の方を見ながら言ってくる。

 

「大切な友人です」

 

そう映姫様が切り出す。そしてしばらくの沈黙が流れ、やがて再び映姫様が口を開く。

 

「……正直なところ、彼は私を閻魔と言う役職で見てはいないのです。おそらく私が間違っていなければ、彼は私を四季映姫個人で見てくれているのですよ……私にとってはそこが一番うれしい…」

 

そう言うと、映姫様は目を細めて静かに笑う。

 

そして私は思う。……何て美しい笑顔なのだろう。と。

 

何故か私には今の映姫様の顔が非常に眩しく見え、そして慈愛に満ちた顔にも見られた。

 

確かに彼女に接する者は閻魔である映姫様に対して遠慮、畏怖等といった態度で接する事が多い。それだけ閻魔と言う役職は重要であり、また高位の役職でもあるのだ。

 

そして人間なら誰しもが閻魔と言う言葉を耳にしたら畏れるはず。特に人間ならば。自分の死後が関わってくるのだから畏れないで接する事など無い。それは極悪人でも同じ事。映姫様の前では唯の赤ん坊にすぎない。

 

ソレをその男は容易くやってのけている。何らかの対策を練っているのか、それとも唯の馬鹿か、阿呆か。

 

どちらにせよ、何らかの事を映姫様にしていたら私が許さない。そして、その男を私が直々に調べてやろう。

 

そう決意すると、私は映姫様に向かって言った。

 

「それは良かったですね映姫様……この事はあたいの心の奥深くにしまっておきます。…そして、今回の事は申し訳ありませんでした。……そろそろ失礼いたします。さすがにこれ以上御仕事の邪魔をするのは良くありませんので……」

 

と、その言葉と共に私は一礼し、背を向けて部屋から出ていく。

 

大正耕也とやらに会う為に。

 

 

 

 

 

 

 

「いや~~~~! やっぱ食いたくなるもんだね偶にはさ!」

 

と、誰もいない家でバカみたいな声で大声を上げつつ、箸を手にとって目の前に鎮座している食品と睨めっこする。

 

ペ○ング ソースやきそば超大盛タイプ。大学時代は良くお世話になった超お気に入りのカップ焼きそば。

 

何がすごいかと言うと、とにかくコスパが良い。美味いし安いしカロリーがあるから貧乏学生にはもってこいの焼きそばだったのである。

 

そして俺はそれが無性に食いたくなる時があり、味の思い出しを兼ねながら食べるのだ。

 

「やっぱりこの安っぽさと言うかなんというか、この…………良く分かんないけどいいや。とにかく食べよう。……独りで馬鹿騒ぎしても虚しいだけだしさ…」

 

そう自虐の言葉を言いながら、俺は御丁寧に創造された割り箸をパキリと割り、ソースが掛けられた麺を掻き混ぜて麺全体に絡むようにしていく。

 

「では……頂きます」

 

そう言いながら、大口を開けて一気にかき込んでいく。

 

ズルズルと麺を啜る音が周囲に響き渡り、何故か独りなのにも拘らず少々恥ずかしくなり、啜る状態から口に押し込む状態にシフトしていく。

 

「……あぁ~…やっぱ懐かし過ぎて、美味過ぎて涙でてきそうだ……」

 

そう思うのも無理はない。いくら千年以上前の出来事だといっても、思い出そうとすれば領域が記憶を補助してくれているのか、大学時代、家族の顔、暮らしなどが鮮明に蘇ってくるのだ。

 

いつか帰りたいなあ……とは思うが、それでもこの世界にいなければならないわけで。これが俺にとって良い事なのか悪い事なのか分からないが、とにかく今を大切にしていかなければならない。それに俺を想ってくれる大切な人達を支えてあげなければならないし。

 

そこまで思った時点で俺は、あんまりにも柄にない事を考えてたと後悔し、次には猛烈な恥ずかしさが頭の中を支配してくる。

 

そして恥ずかしさのためか、思わず左手に力を込めてしまい、瞬間的にパキリという甲高い木材の折れる音と共に割り箸が真っ二つに折れる。無意識のうちに握力を増大させていたのだろう。何とも馬鹿げた事に能力を使ったものだ。

 

「何だかねえ……カップ焼きそばで思い出す故郷ってのは……色々な意味で悲しいねこれ……もういいや、さっさと食っちまおう」

 

恥ずかしさやら何やらが複雑に混ざり合い、俺はその気持ちをどうにか払拭したくなり、焼きそばを掻きこむことで無理矢理消そうとする。

 

最早味など分からなくなり、口一杯になった麺を嚥下していくと、突然右方向から激しい音がする。

 

そして

 

「耕也! お空といいモノ持ってきたから一緒に食べよー!」

 

「たべよー!」

 

と、同時に声がしてくる。

 

「ぶふっ!?」

 

俺は突然の音と大声に吃驚してしまい、半分ほど嚥下しかけていた麺を口から噴出させる。

 

「ふんふっ!」

 

俺は何だっ! と言いながら、焼きそばを口から垂れさせながら玄関の方を見やる。すると、この地底でも良く見る2人組がいた。

 

お空とお燐である。

 

俺は急いで麺を飲み込み、2人を歓迎する。が、少し注意もする。

 

「いらっしゃい二人とも。……でも、ちゃんとノックをです……ね……?」

 

と、俺が最後まで言い終える前に、違和感を異変を察知して言葉を止める。その異変とは、何故かお燐がプルプルと腕を震わせているのだ。一体何故?

 

そして、脇に居る空も燐の行動を不思議に思っているのか、持っているバスケットのようなモノを抱えながら首を傾げている。

 

すると、燐が突然ビシリと指を俺に指しながら言ってくる。

 

「フシャーーーーっ! お兄さん! 何でそんな物食ってんのさ! 前にも言ったでしょ! 身体に悪いから駄目だって!」

 

と、俺に笑いながら怒るという何とも奇妙な顔をしてくる。

 

確かに、前に燐に試食させた時、一発でNGを出された事はあるが、さすがに俺自身が食う事に問題は無い気がするのだけれども……。

 

だから俺は彼女に反論する。

 

「えぇ? 良いじゃないですか。これくらい食ったって、身体が爆発したりするわけではないのですし……」

 

とはいっても、さすがに身体に悪いという事は知っているのでそこまで大きな声で反論する事ができない。

 

でも毎日食ってるわけではないのだからいいと思うのだけれども……なぜに?

 

「お燐、入ろうよ。ここに立ってても仕方ないじゃない」

 

と、空が燐をたしなめる。

 

「ソレもそうだね……お邪魔しまーす」

 

「しまーす」

 

と、言いながら家主に断りもなく勝手に上がってくる。まあ、別に俺は気にしないけども。

 

燐はぺ○ングをチラチラ見て睨みつけながら卓袱台を挟んで向こう側に空と仲良く座る。

 

空は、燐と違って満面の笑みを浮かべ、さらには持ってるバスケットらしきものを、ドヤ顔で卓袱台の上に置いてくる。

 

俺は仕方が無いので、一気に焼きそばを食べ終え、容器を始末して2人に聞く。

 

「ええと、まあ焼きそばの件は向こうに置いて……イイモノとはなんですか?」

 

と、2人に対して同時に聞く。バスケットの中身は白い布に覆われているため拝見する事は出来ない。俺が勝手に剥いで中身をみるのは大変失礼にあたるため、そんな事は間違ってもしない。

 

すると、燐が空を肘でチョイチョイと突き、答えるように合図する。空はピクリと身体を動かし、布に手を掛ける。

 

顔は先ほどよりもさらにニヤけたモノになり、にへらにへらえへへとばかりに白いに布を取っ払う。

 

そこから出てきたのは、普通の、何の変哲もない鶏の卵であった。

 

イイモノとは、これだったのか? と、思うがそれでも確かに……っと思った。

 

なぜなら、地底で卵と言うのは結構貴重だったりするのである。まあ、凄まじく貴重という訳ではないが、他の食品に比べて割りと高めで取引されている。

 

俺はなるほどなるほどと思いながら、空に尋ねる。

 

「卵だったのですか。これはこれは……どうもありがとうございます」

 

と、俺は素直に礼を言う。

 

すると空ではなく、今度は燐が口を開く。

 

「凄いでしょ? これ結構大変だったんだよ? お空が頑張ったんだ!」

 

と、友人の頑張りを誇らしげに言う。すると、空も自分が褒められてる事をさとったのか、瞬時に顔をエヘンとばかりに得意げにし、その大きな胸を前に出す。

 

俺はその光景に目を奪われながらも、次の空の言った言葉に耳がおかしくなったのかと驚きを隠せなくなる。

 

「凄いでしょ。私の卵なんだもん!」

 

………………へ? 俺は今まさに鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしているだろう。

 

空の卵? ………………するってえとこの鶏の卵と思わしき物だったのは……?

 

俺はその空の言葉に男さながらの想像をしてしまう。それも鮮明に。もうそれは複雑なほどの。

 

……つまりはエロいのである。もし空の言っている事が事実だとすれば、俺の想像と解釈が正しければ、間違いなく非常に、極めて、異常にエロいのである。

 

俺はその事が真っ先に浮かんできてしまい、顔が熱くなる。そしてそれと共に空と卵の事をまともに見れなくなってしまい、思わず燐の方を見てしまう。

 

すると、燐は俺の方を見るや否や、顔を真っ赤にして怒りだす。

 

「フッシャーッ!! な~に勘違いしてんのさ! お空が産んだ卵な訳ないでしょ! 何想像してんだいこの変態! スケベ! 変態! ド変態!」

 

と、燐は顔をもっともっと、さらにさらに赤くしながら指を指して怒る。

 

「ごめんなさい!」

 

と俺はその場で頭を下げまくる。情けないがこれが俺の立場なのか……。

 

そう俺は思いながら燐の大声をこの身に受ける。

 

対する空は、燐が怒ったことで漸く自分の言った事を理解したのか、顔を燐とは違う方向で真っ赤に染めて下に俯く。

 

そして

 

「へ……変態…そんなに……見たい…の?」

 

と、とんでもない事を言ってくる。

 

思わず俺と燐が

 

「えっ!?」

 

と、同時に叫んでしまうほどとんでもない事を言ってくる。

 

俺達が驚きの声を上げると、空は慌てて両手をブンブン振りながら

 

「ち、違うよ! 耕也は変態だって事を決定づけるために言っただけなんだよ!」

 

と、何とも言い訳としては苦しい言い方をしてくる。

 

燐もソレを察しているようで、顔を赤くしながら空の方見ている。

 

すると、まるで湯気が上がってしまうかのように顔を真っ赤っかにして、ゴニョゴニョと何かを言いながら再び俯く。

 

そして三人にしばらくの沈黙が訪れる。……空の言った一言で場の空気が一瞬にして桃色と言うかなんというか……安易に口を開けない状態となってしまった。

 

流石にこの空気はお互いに悪いと思い、俺は何とかこの妙な状況を打破しようと、口を開こうとする。

 

すると、そこで玄関の扉をノックする音が聞こえてくる。そして同時に声も聞こえてくる。

 

「すまないね。ちょいと聞きたいのだけども、ここは大正耕也さんの家でいいかい?」

 

と、随分とフランクな物言いで尋ねてくる。

 

はて? 一体誰だろうかなと思いながら、燐と空の顔を見やる。するとどう言う事か燐と空が顔を少々強張らせている。

 

俺は首を傾げながらも、対して気にする事ではないと思って立ち上がる。

 

「ちょっと待ってて下さい。燐さん、空さん」

 

そう言いながら俺は席を立ち、玄関へと向かう。

 

磨りガラス越しに見ると、何か長い棒のようなモノを持っており、髪の毛は長く赤い。一体誰なのだろうか? と思いながらも、訪問者を待たせるのは失礼なので急ぎ足で近寄っていく。

 

「はい、少々お待ちを」

 

と、俺は言って扉の目の前まで歩き、取っ手に手を掛ける。

 

「どちらさまでしょうか……?」

 

俺が声を掛けながら引き戸を開け、外の人物を確認する。

 

「あんたが大正耕也かい……?」

 

と、相手は朗らかに笑って言ってくる。……が、何故か目がちっとも笑ってない。一体なにゆえ……。

 

そして確認した瞬間に俺が固まってしまった。と言うよりも顔が強張る。

 

一体何故にこの人がここに居るのだろうか? それが真っ先に出た感想であった。

 

目の前の人物は、どう考えてもこの場所に来るという事は無いであろうと思っていた人物の一人。いや、映姫が来たからきてもおかしくは無いのだろうか?

 

しかし、そんな考えはどうでもいい。

 

小野塚小町。先ほどの長い棒は鎌だったからなのか……。

 

何とも嫌な予感しかしない俺は、そっと扉を閉じたくなる気持ちを抑えながら、控えめに笑って尋ねる。

 

「はい、仰る通り私が大正耕也です。……御用件をお尋ねしても宜しいでしょうか…?」

 

 

 

 

 

 

 

本当に嫌な予感しかしない……

 

 

 

 

 

 

 

 


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