東方高次元   作:セロリ

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9話 多勢に無勢でしょこれは……

外交官として大和と交渉だなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八坂神奈子は不満を抱えていた。

 

弱い。弱すぎる。なぜ他の国の神はこんなにも弱いのだろうか。と。

 

そして、強い奴と戦いたい。そんな欲望が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時代はおそらく弥生に入ったのだろう。稲作も土器もかなり変わってきている。

 

ずいぶんとまあ長く生きているもんだと思う。そして俺は相も変わらずのんびりと過ごしている。

 

諏訪もずいぶんと人口が増えた。これは良い事だと思う。全ての発展につながるのだから。

 

ただ、最近は国境の情勢がおもわしくない。

 

理由は分かっている。大和だ。

 

諏訪子によると大和は、アマテラスを筆頭に強大な戦力を持ち、次々と他国を飲み込んでいったらしい。

 

おそらく西日本はほとんどやられたんじゃないか?

 

それにしても速い。もう諏訪まできたのか。今はまだ木端神のちょっかい程度で済んではいるが、いつまでも手こずっていると八坂達が動き出すだろう。

 

早めに交渉した方が良いかも知れない。そう思い、焼き鳥の缶詰をつついてる諏訪子に相談した。

 

「諏訪子、最近国境で起きている小競り合いをどう思う?」

 

すると諏訪子は王としての風格を纏いながら

 

「ああ、危険だな。どうせ大和の連中だろうが、今のところはまだ均衡が崩れていないから、まだなんとかなる。しかし奴らが痺れを切らしたら……分かるな?」

 

といった。うん。焼き鳥のタレが口についてる時点で風格が台無しなんだけども、あえて突っ込まない。突っ込んだら負けな気がする。

 

もちろん俺も答えは分かり切っているので答える。

 

「それはもちろん。……全面戦争だな。」

 

「その通りだ。私も争いは避けたいが、そうも言ってられない。民を守らねばな。」

 

「なら、停戦交渉でもしてみますかね? 見切り発車にならざるを得ないが、場合によっては戦闘をやめさせることはできるかもしれない。」

 

その言葉を聞いた諏訪子は、少し顔をしかめて言った。

 

「奴らが話し合いで片付くと思っているのか? 今までどれほどの国が軍門に下ったのか分かっているのか?」

 

「分かっているとも。だが戦争は人間を必ず巻き込む。さらにはその軍門に下った国の中にも無血開城をした国はわずかだろう? 一体どれほどの人間が犠牲になったのやら。

だから、交渉しないよりもする方がましだろう? 諏訪子?」

 

まあ、俺の本当の目的は敵陣の視察なんだけどね。あと、被害の軽減だな。

 

そして諏訪子は長い時間思考し、ようやく結論を出した。

 

「なら、交渉はお前に任せる。私はそれが決裂した際のために戦力の増強を行う。」

 

「分かった。それでいこう。」

 

おそらく諏訪子のやる事はミジャグジの召集と鉄の輪の強化だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉当日、俺は高天原直下にある大きな神殿に来ていた。まあドでかい社だが。

 

「ヤバいレベルの神力だな。にじみ出ている。こりゃ他の国が平伏したのもうなずける。」

 

と、つぶやいていると入口から女性が現れた。

 

「あら、人間が何の用かしら?ここは神々のための神聖なる社。近づくことすらも無礼なのよ?」

 

突然声をかけられた。

 

すかさず

 

「私の名は大正耕也と申します。本日は貴国との交渉のため、洩ヤ様の治める諏訪から遣わされた外交の者にございます。」

 

と答える。

 

俺の言葉を聞いたその神は憎たらしい笑みを浮かべながら

 

「あら、諏訪から……。神との交渉に人間ごときを寄越すだなんて、何て礼儀知らずな神なんでしょう。それとも? ただ単にそれほど疲弊しているのかしら?」

 

何だこいつ?腹立つなぁ。初対面でこれかよ。先が思いやられる。

 

煮えたぎる怒りを表情に出さぬように必死に顔作りをしながら

 

「ははは、お恥ずかしい限りです。ですが、本日の交渉は実りのあるものにしたいと思っております。」

 

「ええそうですわね。申し遅れましたわ、私はトヨウケビメと申します。それではどうぞこちらに。」

 

早くも重鎮の登場ですか。家に帰ったら胃薬を飲もう。

 

そう思いながら、会議場へと案内される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議場の中に入ると、案外狭いものだと思わせられる。

 

そして、円卓に椅子が15脚。そのうち3脚に女性が座っている。そしてその後ろには屈強そうな、いかにも武人らしき神達が控えている。

 

なんてことだ。八坂にアマテラスにトヨウケ。本当に最上層部じゃないか。

 

さらに八坂神奈子からは威圧感がバリバリに発せられている。

 

交渉する気は全くなさそうだ。心なしかイラついてる感じがする。あまり刺激しない方がよさそうだ。

 

俺が座ったところで、アマテラスが口を開いた。

 

「今日はよく来てくれました人間。名を。」

 

「私の名は大正耕也と申します。この度は諏訪を代表して参りました。よろしくお願いします。」

 

俺が答えるとアマテラスは微笑み、自己紹介をしていく。

 

「私の名は天照大神。こちらこそよろしく。」

 

「八坂神奈子だ。」

 

「先ほど申しましたが、名はトヨウケビメ。とうぞよろしく。」

 

正直八坂神奈子が出張ってくるとは思わなかった。まずいな。おつむのレベルは他の二人に比べて格段に上だ。まじどうしよ?

 

まあ、ここは相手の反応を見ますかね。

 

「今日私がこの場にいるのは他でもありません。この交渉で「ええ、事前に聞いております。今回、無血開城の際における洩ヤ神の処遇についてですね?」……は?」

 

アマテラスが突然俺の声を遮って言った。

 

何言ってんのこいつ? 俺たちがいつ降伏宣言したよ? 意味が分からん。

 

俺が呆気にとられていると、トヨウケビメがクスクス笑いながら

 

「聞こえませんでしたか? 降伏条件についての交渉なのでしょう? そうですわよね? ニンゲン?」

 

入口で見せたあの憎たらしい笑みを浮かべながら言う。そして、後ろに控えている男たちもニヤニヤとしだす。そして、アマテラスも薄く笑う。

 

薄々そうなのではないか? と思っていたが、やはりそうだったのだ。元からこいつらに交渉する気などなかったのだ。だからすんなり入れさせてくれたのか。

 

てことは俺が今いるのは化け物の腹の中ってところだろうか?

 

ただ、八坂神奈子の表情が俺を射抜くような視線で見てくる。まるで一挙一動を見逃さないというレベルで。

 

……しかし本当に野心家ばかりなんだな。大和は。まあいい、どのみち交渉は成功するはずがないと分かっていたんだ。なら、少し仕返しをさせてもらっても変わらないだろう。

 

「私は、元々停戦交渉のために来ているのですがねぇ。 書簡は受け取っていただいたはずですが、これはどういう事ですか? まさか、あなた方の目は節穴なのですか?」

 

その言葉に周りの男たちが、いきり立つ。

 

「うぬ、人間の分際で生意気な!」

 

「我々とこの場にいるという事だけでもありがたいと思え!」

 

などなど。なんともまあすごい怒りようだ。

 

しかし、アマテラスが男たちを制し、再び口を開く。

 

「あなた方の要求は分かっています。しかし全国統一は我々の悲願。卑怯と言われようが、引く気はありません。」

 

やっぱり全国統一ですか……仕方がない。

 

「では、交渉は決裂ですね。」

 

「残念ですが……。我々は王国諏訪に宣戦布告を致します。」

 

その言葉を聞いた俺は何も言わずに外へ出る。

 

そしてだだっ広い建物の外に出た瞬間、武装した男たちに囲まれた。

 

「なんですか? 随分と物騒な。」

 

「八坂様がお前に話があるそうだ。おとなしく来てもらおう。」

 

とりあえず、嫌な予感しかしないので

 

「断る。」

 

と短く言って、諏訪子の社までジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりただの人間ではなかったか。

 

部下から奴が目の前で消えたと聞かされた時は自分の推測が正しいのだと結論付けた。

 

神を、特に戦いに秀でているこの八坂神奈子を目の前にして全く物怖じしないあの態度。

 

トヨウケがバカにしていたが、奴は諏訪を攻める際に最も大きな障害になるに違いない。そう私は思う。

 

奴とも戦ってみたい。見た目20歳程度の人間であそこまでの強い心を持っているのだ。さぞや強いに違いない。

 

また私の楽しみが一つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、諏訪子に伝えなければな。

 

やらないよりましと言ったが、これはやらない方がましだったな。

 

俺は社に帰還すると諏訪子の元へと向かった。

 

社に入って扉をあけると、諏訪子はサバ缶をつついていた。マヨネーズをかけて。

 

「どうだった? ……その様子だと失敗したようだな。」

 

「ああ、見事にな。ヤッコさんは最初から交渉する気なんかなかったらしい。初っ端から宣戦布告されたよ。」

 

それを聞くと諏訪子は、ほれ見ろと言わんばかりの表情で言った。

 

「だから言っただろう? 奴らが話し合いで納得するわけないんだって。」

 

「まあな。しかしあそこまでバトルマニアばかりなのかねぇ? 大和は。」

 

「ばとるまにあ? 何の事だ? 時々お前は意味の分からない言葉を使うのだな?」

 

「ああ、すまん。要は戦闘狂の事だ。戦争ばっかやってるだろう?」

 

「ははは。違いない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間は何事もなく、戦争のせの字すら見当たらない程であった。

 

その間に諏訪子は戦争に向け着々と準備をし、万全の態勢を整えた。

 

あちらも同じことをやっているのだろう。

 

住民を地下シェルターに避難させた方がいいのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、戦争は唐突に勃発した。

 

国境付近に大和神の軍隊が現れたとの情報がミジャグジより入った。

 

今はミジャグジ達が抑えているが、破られるのは時間の問題らしい。木端神であろうと人間からすれば一騎当千である。

 

何せ数がヤバい。まさかの5万の大軍勢とのこと。

 

俺も救援に行かなくてはならない。

 

何とかなるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国境付近に激しい剣と槍の交わる激しい音がする。

 

ミジャグジと大和の神の戦いである。

 

大和神はミジャグジにあらん限りの力をこめて剣を突き刺し、ミジャグジは防具もろとも相手を噛み潰し、身体を巻きつけ圧殺する。

 

ミジャグジは強い。確かに強い。しかしその力をもってしても数の暴力には負けてしまう。

 

「穢れた祟り神め! 死ねええええええ!」

 

「この愚かな大和神よ。土に還るが良い!」

 

ある者は雄たけびを、ある者は痛みに耐えかね悲鳴をあげる。

 

俺はミジャグジを、この土地を守るためにその戦いへと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いは我々の勝ちだと。そう思っていた。いや、確信していた。数で勝り、みな優秀であったのだから。

 

巨大な蛇のようなミジャグジ。それは確かに強かった。だが所詮は多勢に無勢であり、我々の攻撃に瞬く間に数を減らしていった。

 

そして勝利まであと一歩というところで異変が起きた。今までいたミジャグジが地面へ溶け込み退却したのだ。

 

その光景を勝利だと確信した者も多くいた。事実、私もその一人だった。

 

しかしその訪れた高揚感は一瞬にして消し飛んで行った。

 

突然、太陽の光が遮られたのだ。

 

そして空から、巨大な何かが落下して、我々は激しい光と炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃をする際にミジャグジを巻きこまないために退却させる。

 

そして俺は上空100メートルにて容量20万立米のガスホルダーを8基創造し、打ち込む。

 

「こいつを食らええええええ! ゲス共めええええええええ!」

 

そして、奴らのいる地面に直撃する寸前にBLEVEを起こし起爆させる。

 

ホルダー内で高温高圧になっていた液化天然ガスが常圧に解放され一気に液体から気体になり、空気と混合され爆発する。

 

すさまじい衝撃波と光、炎がホルダーを中心として広がり、敵をバラバラに吹き飛ばし、焼き尽くしていく。

 

現段階での俺の限界の攻撃だ。これ以上の攻撃はまだ不可能だ。

 

敵は密集していたため、相当数を葬り去ることができたようだ。死んだ神は煙のように消えていく。だが、神は信仰がある限り寿命も復活も自由自在だ。

 

そして、火が収まるのを待って地上に降り立ち、わずかに残った神に向かって言った。

 

「次に攻めてくるときは本気で来い。お前たち木端神なんぞ洩ヤ様が出張るまでもない。俺一人で十分だ。」

 

俺はそう言い放つと、後をミジャグジに任せ社へとジャンプした。

 

社に着いた瞬間、俺は疲れのあまり倒れこんでしまった。

 

あそこまで大規模な攻撃をしたのは自分でも初めてだ。そして創造した規模としても初めてだ。

 

俺が床に倒れこんでいると諏訪子がやってくる。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ああ、何とかな。敵の出鼻はくじいた。少し疲れ過ぎてヤバい。勝ちはしたが、お前のミジャグジも相当やられてしまったようだ。すまない。もう少し早く救援に行けばよかったな。」

 

そういうと諏訪子は

 

「よい。今はゆっくり休め。そのあとで詳しく聞こう。」

 

と、優しい声で俺を労った。

 

「なら休ませてもらおう……まあ大して何もしてないのだけど。所詮は人間って事だな俺も。」

 

そう言って目を閉じる。次は誰が動くのだろうか? そんな事を考えながら意識は深い闇の中へと落ちて行った。

 

 

 

 

 




とりあえず、夏コミで投稿できない分は纏めて投稿しました。では、また。

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