東方高次元   作:セロリ

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89話 まあそれはそうだけれども……

ひょっとしたらそろそろかもなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が経つのは早いモノである。

 

特に俺のように人間で更には不老となるとなおさら。更には地底でのゴタゴタが解決されたとなると一気に早く感じてしまう。

 

とはいっても、紫達の相手などを務め、血を提供したり、化閃の酒屋で働きつつヤマメに茶化されるというのが殆どといった感じである。

 

まあ、その中でも面白かった事件などは特には無いのだが、化閃の店で得た給料を賭博で溶かしてしまったという苦い事件ではあるが。

 

あの時の俺は阿呆だった。初めて経験する賭博。実際に眼にする丁半。何故か分からんがこの時代に丁半。江戸時代でもないのに丁半。

 

んな阿呆なと思いながら入ってみると、妖怪達がワーワー言いながら賽を回している。この時代にサイコロってのもおかしいだろと突っ込みを入れつつも、周りの妖怪にやってみろと言われやってみた。

 

すると、その面白さにハマってしまい、給料のほとんどを飛ばしてしまったのだ。

 

あの事件は未だに俺の中では納得がいかない。物凄く納得がいかない。何であの時10回連続で負けたのか分からない。

 

高い授業料だと思いながら、あれ以来賭博はもうやってはいないが。アレはイカサマだ絶対。

 

そして妖怪と言うのも案外さっぱりしているわけではなく、人間よりもしつこい奴もいる。つまりはまあ、結構仲良くなれはしたが、商店街の妖怪達とは未だに隔たりを感じる部分がある。

 

とはいっても、地底に来た時よりは圧倒的に壁は薄くなったが。

 

俺のような人間がいる事自体地底にとっては異常事態なのは分かっている。だとすれば、俺に対して同類に接するように接してくるヤマメやさとりなどは異端だと言うべきなのだろうか?

 

何て阿呆な考えも浮かびはしたが、それは唯単にヤマメの大らかな性格も持つが故に、俺にも平等に接してくれているというものだろう。そして、さとり達は元々性格は厭味ったらしい等と言われているが、俺は心を読まれないから、普通に接する事ができるからであろう。

 

心を読まれるのは流石に俺だって勘弁してもらいたい。本音を言ってしまえばではあるが。

 

そして、そんなこんながあり現在に至るのだが

 

「で、紫……何で幻想郷を創ったとかそういうのを教えてくれなかったんだい……いやまあ、教える義務とかそんな物は無いけれども。あ、3ねこれ」

 

そう、紫がついに幻想郷を創ってしまったのである。地底にいる俺にとってはそんな事を露とも知らず。と言う感じである。

 

そして、それを教えてくれたのは幻想郷ができてから約20年後。もうそろそろ西暦1500年頃といったところか。

 

そう俺が何気なく聞くと、紫は少しへの字に眉を傾けながら、見事な艶の黄金の髪を手で払いながら、俺に返答してくる。

 

「それはまあ……言いたくは無いけれども、耕也は地上の人間にも妖怪にも広く知られてしまっているし、幻想郷にいる人間は退魔の家系が多いから耕也とはかなり相性が悪いと思ったからよ。あ、これ4よ。めくりたい人はどうぞ?」

 

一枚のカードを山に置いて宣言する紫。確かに俺は地上の妖怪達には広く知られているし、人間にも未だに根強く俺の事が伝わっているらしい。厄介なことである。

 

まあ、紫の言いたいことは分かるし、俺に対して配慮してくれたのも十分に分かる。

 

何と言うか、でも歴史の節目となる部分は流石に知りたかったと思っている俺からすると、ちょっと不満になったりしてしまうのは仕方のない事であった。

 

でもまあ、それで紫に起こったりすることなどあり得なく。

 

「ああ、まあ配慮してくれたのはありがとう。もしも機会があれば、ちょこっとだけ地上に出てみたいなあ」

 

俺がそう言うと、紫の左隣に座っていた白蓮が微笑みながら、俺に話す。

 

「もう少し年月を置けば耕也さんもいけると思いますよ? 多少でも記憶などが薄れれば誤魔化しは効くのではないでしょうか? あ、これ5です」

 

そう言いながらカードを置いて行く白蓮。

 

そして、その白蓮の返答に賛同するように、紫もコクリコクリと頷きながら、俺に口を開く。

 

「まあ、耕也もそのうち幻想郷を出歩けるように整備しておくから、我慢して頂戴な」

 

「ありがとうね。……んで、ああ、幽香の番か。カードを置いてね」

 

すると、先ほどから何とも不機嫌そうな幽香は、ぶつくさ文句を言いながら置いて行く。

 

「はい6。と言うよりも、耕也。外部領域広げたままで進行させるのやめなさいよ。力が抜けて違和感だらけよ。藍、あんたもそう思うでしょ?」

 

どうやら先ほどから不機嫌だった理由は、俺が施した外部領域だったようだ。

 

幽香の言葉を受けた藍は、困ったように笑いながら俺と幽香を交互に見ながら、口を開く

 

「ま、まあ確かに力は抜けてしまうが……7だ」

 

どうやら藍もこの妖怪の力が封じられる事に大きな違和感を感じているようだ。

 

その返答を受け取ったのか、まるで鬼の首を取ったかのようにドヤ顔をしながら、幽香が俺に注文してくる。

 

「ホレ見なさい。違和感覚えるのよ耕也。サッサと外しなさいな外部領域を!」

 

と、息巻く幽香。

 

だが、此方としても外部領域を張っている理由はある。

 

「いや、これは外せないよ、これはイカサマ防止だからね。解除したらやられる可能性が非常に高い」

 

そう言うと、幽香が不思議そうな顔をして聞いてくる。

 

「イカサマ? そんなことする奴なんていないわよ?」

 

と、何とも幽香らしくない発言。何時もなら少し考えてから発言するのにも拘らず、今回は反射的に答えてくる。そんなに嫌だったのか。

 

幽香にすまないと思いながら、その訳を話す為に紫に声をかける。

 

「ええと、紫ー?」

 

と、俺が尋ねると紫は露骨に身体をびくりと反応させて俺に聞き返す。

 

「え!? わ、私がイカサマなんてするわけないでしょ?」

 

「いやいや、ばれてるから。あの時幽々子に教えてもらったから」

 

そう、幽々子の所にいたとき、俺は紫がイカサマをしていたという事を聞いていたのだ。あのUNOをした時。

 

隙間で俺達のカードをすべて見て、自分の思い通りの戦いができるように工作していた紫。

 

「ゆ、幽々子から? ……やられたわね。だから今回は領域を展開してたのね? ……はあ」

 

と、諦めたように下を俯き、苦笑する。

 

「紫はイカサマなどというモノをしていたのですか……全く。な……8……です」

 

と、映姫が紫の事を咎めながら、カードを差しだす。

 

「まあ、今回はできないので。ああ、それと映姫様ダウトです」

 

「ぐっ……これが全部私のモノになるのですか……?」

 

いやだって、映姫物凄い分かりやすいんだよな。閻魔だから嘘を付けない。嘘をつこうとしても物凄く分かりやすく出るのだ。態度に。

 

「こ、耕也。私という閻魔にこのような数のカードを押しつけるのですか……?」

 

その枚数、大凡ではあるが、20枚以上は超えているだろう。

 

映姫は、そのカードと俺の方を交互に見ながら、なんとも悔しそうな顔をしている。負けず嫌いなのかそうでないのか。

 

「いやまあ、ゲームですから。これ」

 

そう言いながら、俺は映姫にカードを寄せていく。

 

「むむむ……」

 

と、カードの山が自分に寄せられるのを見ると、なんとも悔しそうな顔をしてくる。それと同時に、俺の方を見てなんとも恨めしそうな顔をしてくる。

 

仕方がないので、とどめの一言を言ってやる。

 

「映姫様、本当に分かりやすいんですよ。いやホント」

 

それを聞いた映姫は、なんとも力の抜けたため息をしながら、カードを整えて自分の手札に加えていく。

 

だが、そこは閻魔と言うべきか何と言うべきか。前に俺がやらかしたカードの散乱とは違い、スッと綺麗に扇形にしていく。

 

しかし、その表情は少々不機嫌。まあ、勿論俺のダウトという発言が原因ではあるが、そこはこのゲームのルールなのだから従ってもらうしかあるまい。

 

と言うよりも、このダウト。映姫だけしか引っ掛かっていないのだ。

 

紫達は勿論、感情的になりやすい幽香ですら、嘘を嘘とばれない様に淡々とカードを出している。無論、俺も何とかばれない様に出してはいるが。

 

だが、映姫は全く違う。自分のカードの提出の番が来るたびに、一喜一憂するのだ。番号が合っていると、あからさまにホッとした安堵感を漂わせ、その該当するカードが無いと、露骨に眉をへの字にして、しばらく考えた後にカードを提出する。

 

勿論それでダウト。面白がって幽香がダウト。ニヤニヤしながら紫がダウト。申し訳なさそうに藍がダウト。のほほんと微笑みながら容赦なく白蓮がダウト。そして、話の片手間に俺がダウト。

 

能力を使えれば一発で見破れるのだが、それはゲームの趣旨に反するので俺が封じている。普通だったらリアルファイトに発展しそうなレベルではあるが。

 

とはいってもまあ、他のカードゲームではかなりいい成績を保っているのだからこれくらい負けても何の問題も無いだろう。常に低空飛行な俺と違って。

 

「耕也、私は閻魔として此処に存在しているのですから、嘘を吐くという事はですね……」

 

とはいっても、小さい声でぶつくさ文句を垂れながら、渋々カードを自分の手前に掲げる映姫。

 

「まあ、こういう娯楽ですので、何とか我慢して下さい。これが終わったら神経衰弱でもしますから」

 

そういうと、おおっ、とでも言いそうなほど表情が好転してくる。もちろん、映姫は頭も人間よりは遥かに良いし、記憶力も段違いである。

 

対する俺は……この人外ズに勝てる方法があればぜひ教えてほしいモノだ。神経衰弱で俺が勝てる可能性は100万回やって1回も無いだろう。

 

それぐらいの格差が生じているのだ。この場に。

 

だからこそこのダウトでは負けてもらいたい。

 

「ええ、では。はい、9―――」

 

「耕也ダウトです」

 

……ま、負けてもらおう。このニコニコしてる人に負けてもらおう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

紫達はまだ仕事があると言って、早々と帰ってしまい、幽香も花達の世話をしなくてはならないと言って、帰っていく。

 

「では、私も。一輪達が待っていますので。ありがとうございました」

 

そう言って、白蓮も帰ってしまった。

 

残されたのは映姫と俺。映姫は、非番なので此処に居ても問題ない。

 

先ほどまでにぎやかであったこの居間がとんでもなく静かになってしまい、少々さびしく感じてしまう。

 

何と言うか、あるべき物が無くなってしまった時の虚無感に似た感じだ。

 

上手く言えないが、彼女達と深く関わっていたいという気持ちが根付いているのだろうか?

 

いや。ずっと昔から根付いているのだろう。それが抑えきれはするが、時折考えてしまうほどにまで成長していると言う事だろう。

 

やっぱりこうも一人暮らしが多く続くと、寂しい物もあるもんだなあ。

 

だがまあ、俺としては映姫がいるだけでも物凄くうれしい。

 

 

「耕也。貴方に少し話があります。いいですね?」

 

勤務時間でもないのに、映姫が物凄く堅い口調で俺に話しかけてくる。

 

先ほどのゲームの結果を恨むほど狭量な方ではないし、何より俺もあの後神経衰弱でぼろ負けしてしまった。

 

だからそれはあり得ない。

 

ならば一体彼女の口調を此処まで堅くさせる要因は一体何なのだろうか?

 

と、そんな疑問を持ちながら、俺は映姫に返答する。

 

「良いですよ映姫様。あー……ですが、何故にそんな堅苦しい口調なんですか?」

 

と、何気なく俺は映姫に聞いてみる。まあ、この口調から察するに、それほど穏やかな話題ではないのだろう。

 

何か、俺に対して重要な話題か、それともこの地底に関しての話題か。映姫自身に対する話題なのか。現時点ではこのような適当な予測しかできないが、とりあえず穏やかではないのだろう。

 

そんな事を考えながら、映姫の返答をひたすら待つ。

 

「口調はこの際あまり関係ありません。そうですね、すでに貴方たちの交わした契約についてです。これで分かりますね?」

 

と、一気に話してくる。

 

ああ、この事か。

 

かなり前ではあるが、俺の血肉を貪った紫と藍、幽香と交わした血を提供するという契約。

 

血を提供するのは一月に一度で約10cc程度という軽いもので収まっている。

 

ただ、その10ccから生み出される力と言うのはとんでもないものがあるらしく、その一月に限界まで力を消費したとしても、全開してもまだお釣りがくるほどらしい。

 

だったら減らせとは思うが、まあ、特に体調がヤバくなるわけでもないから気にはしていない。

 

ただまあ、血を吸われる時がくすぐったいのは仕方が無いのかどうなのか。

 

とまあ、そんな事を考えながら

 

「ええ、血の契約についてですね?」

 

そう普通に返しておく。

 

そう俺の返答に対してすぐにコクリと頷き、更に口を開く。

 

「そうです。そのことで少し話があります」

 

何だろうか? 血を提供していると言う事に関して俺を咎めるのだろうか? もしも、ソレをしてくるのなら、色々と言い訳やら何yらを考えなければならない。

 

のだが、実際のところ咎められたとしても、彼女らと話しあって解決しなければ何にもならない。

 

「じゃあ、お願いします映姫様」

 

と、何か意見するまでも無く、彼女に話を進めるよう返事をする。

 

すると、彼女は俺の言葉を受けて、すぐに本題に入りだす。

 

「では、耕也。私は特に貴方がたの事を咎めるつもりはありませんが、これは円までは無く、私自身が耕也の身を案じて聞きます」

 

そう口を閉じてから、少々呼吸をしてから、また話し始める。

 

「はっきり言いましょう。今まで貴方の事を多くの時間見てきましたが、貴方が血を与えるという契約を交わしてから、少々変わったように感じます。それは……」

 

そう言うと、映姫は此方にまでスススッと近づき、俺の手に右手を重ねて一言呟く。

 

「少々恐怖を覚えていますね……? その血を提供する日の前後で……」

 

その瞬間に、ピンポイントで聞かれたことと、その声が耳元で囁かれた事に、ビクリとなりそうになる。

 

が、不思議とそうならなかった。何故か映姫の声は、今まで聞いたことも無いほど優しい声であり、俺の精神を落ち着かせようと配慮しているようにも感じられる声だったのだ。

 

そして同時に俺の手を強く握り、落ち着かせようとする映姫。

 

いや、実際のところ、素で吃驚したというのがほとんどだったので、トラウマが蘇っただの云々ではない。

 

「いやまあ、確かに血を提供する時は、何と言いますか、悲しい時もありますが……まあ、大丈夫ですよ? 最初の方は流石に怖いと思ってしまった部分はありますが……」

 

と、映姫の期待していた答えとは違う答えを言う。

 

とはいえ、最初の方は本当に怖かった。これは事実である。

 

あの時は本当に酷かった。紫達の表情を気にしながら、内部領域を全開にして血を与えていたのだから。

 

何時紫達が噛みつくのかとビクビクしながら、血を与えていた時にこの事を聞かれていたら、迷いなく首を縦に振っていただろう。

 

ただ、現在では特に紫達とのトラブルは無く、きょうだってこうして皆と共にトランプをしていたのだから、問題は無いとみても良いだろう。

 

「本当にですか?」

 

と、訝しげな表情で俺の方を見て確認をとってくる。

 

その表情は何とも俺を信じていない事が読めるものであった。まあ、仕方が無い。俺が溜めこんでしまっているという可能性も捨てきれないからであろう。

 

まあ、これ以上引き延ばすのもアレだろうと思いながら

 

「本当です。嘘はついてませんよ」

 

と、彼女にしっかりと聞こえるように少々大きめの声でゆっくりと言ってみる。

 

自分の言っている事は紛れも無く真実であり、この言葉は嘘ではないぞと言う念を込めつつ。

 

すると、ソレを感じ取ってくれたのか、少々ため息を吐きながら映姫は俺から離れる。

 

「分かりました。ふう…………、どうやら私の思い込みだったようです。ですが、無理はしない様に。あなたは少々溜めこむ癖がある。もっと人を頼りなさい」

 

と、まあありがたい言葉を同時に添えて。

 

特に俺としても反論する部分は全く見当たらないため、俺は素直に感謝する。

 

「はい、ありがとうございます映姫様」

 

その後は最近の裁判は人が多くなった。また、地底の治安はどうなのだ等といった他愛も無い会話が続き、映姫は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化閃さん、配達全て終わりました……。ヤマメさん、燐さんいらっしゃいませ」

 

ジャンプで配達から戻ってきた俺は、化閃さんに報告すると同時に良くこの店に顔を出すヤマメと燐に挨拶をする。

 

「まあ、私達は結構前からいるんだけどね。あ……だからー、敬称は要らないって言ったじゃないか耕也」

 

と、ヤマメは呆れたように俺の事を見ながら口を動かす。

 

その表情は、全く学習能力の無い奴だねえ、とでも言いそうなくらいな顔。

 

「いやいや、今仕事中ですから。流石に区別は付けないと駄目でしょうよ」

 

と、まあ此方にも仕事中であるという理由があるのだが、早くも語尾で崩れてしまった。

 

「いや~、こんな地底でそんな堅苦しくやられてもねえ。そうだろう化閃?」

 

と、ヤマメは後ろに座っている化閃に話を振る。

 

いや、流石に店主がそんな事を許可するわけが……

 

「好きにするとええわい……親しみのある方が楽だしのう」

 

おいおい許可しちゃったよこのお爺さん。良いのかい。仮にも客に向かってそんな馴れ馴れしいのはマズイ気が。

 

とは思ったが、結構フランクな店主も俺が現実世界にいたときにもいたなあと思いだし、化閃の言葉に賛同するようにした。

 

「まあ、化閃さんがそう言うなら……」

 

そう言いながら、俺はヤマメと燐の方に向き直り、口を開く。

 

「んじゃあ、いつも通りの口調ってやつだね。これで」

 

「そうそう、耕也はその方がいいのさ。卑屈すぎる人間ってのは良くない」

 

「いやいや、それは違うでしょうに。区別してただけ……まあ、他のお客には敬語を使うがね」

 

と、俺が言うと燐とヤマメは大変満足したようで、2人してシンクロしながら首を縦に振りながら

 

それが良いそれが良い、と言ってくる。

 

と、そこで俺はある一つの事に気が付いた。

 

ヤマメや燐は結構前から此処にいるのに、何も商品等を持っていなかった。

 

家がかなりはなれている燐とヤマメが、唯の世間話で此処まで来たりすると言う可能性は低いのではないかと思った。

 

何かしらこの酒屋に用があって、ソレを全うするために此処にいるのではないかと。つまり現在は商品を選んでいるのか。

 

そう予想した俺は、燐とヤマメに話しかける。

 

「んで、御二人さんはどんな酒が欲しいんだい?」

 

と、彼女らに聞いてみる。

 

が、ヤマメは俺の方を見ながら首を横に振り、両手を頭の後ろで首ながら、壁に寄り掛かる。

 

「いやいや、違うんだよ。実は唯単に暇だったから此処に来ただけなのさ。まあ、さっきまで化閃と世間話してただけさね」

 

「そうそう。ヤマメの言うとおり、世間話するだけってのも偶には良いと思うけどねえ? どうだい耕也?」

 

と、2人の美人に言われては此方の意志も傾きそうになってしまう。

 

だが、此方は仕事の最中であり、彼女達との世間話に費やしているほど暇なわけではない。

 

「いや、ごめん。流石に仕事中だから……って、化閃さんと?」

 

そう思って彼女に断りを入れようとしたのだが、化閃と世間話をしていたというヤマメの言葉に、俺は思わず聞き直し、そして化閃の方を見てしまう。

 

すると、化閃は俺の方を見ながらニッコリとして、口を開く。

 

「おお、そうじゃった。今日はもう寛いでいていいぞ。今日はする事は殆ど無いからのう」

 

と、俺は時間を確認するように腕時計と苔の光り具合を見てみる。すると、腕時計では4時50分を過ぎたあたり。そして苔の光は少々オレンジ色を帯びている。

 

つまりは夕方。夕方に仕事が終わるのは非常に珍しい。まあ、余り店を開かない化閃の酒屋としては余り間違った方針ではないのだろう。

 

と、一人勝手に納得しながら化閃に返事をする。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきます……」

 

そう言って、ヤマメの方に振り返り、話を進めることとする。

 

と、俺が話そうとするとヤマメが先に口を開いてくる。

 

「よし、化閃の許可も出たという事で…………ああ、そうだ。何か最近何か地上が物凄い騒がしいねえ。知ってる?」

 

「いや、特にそんな情報は……」

 

と、そんな事を咄嗟に言ってはみるが、実際のところは検討が付いている。それは、紫達が地上に幻想郷を創設したという事が起因していると言う事である。

 

恐らくその創設の際にあったイザコザ等が話のもとであろう。

 

そう俺が言うと、ヤマメはドヤ顔をしながら話し始める。

 

「やっぱり情報通のヤマメさんには敵わないようだねえ。仕方が無い、このヤマメお姉さんが教えてあげようじゃないか」

 

と、何とも年上ぶった偉そうなというかお茶らけた口調で両腕を腰に当てながら、更に話し続ける。

 

「ほらほら、お前さんも聞いてないのかい? 八雲紫達が地上に幻想郷なるものを創設したって事さ。もうかれこれ20年ぐらいかなあ。余り地底の連中に話すのも良くないから話さなかったけれども、あれ、実は結構壮大らしくてね。全国に散らばっている、いや、もしかしたら世界中の妖怪がその幻想郷を目指してくる可能性があるって事さね」

 

なんともまあ、地底からと言う少ない情報を元によくぞ効果範囲まで推測できるものだと感心しながら、相槌を打つ。

 

「ほうほう、ならそれは人間に効果はあるのかい?」

 

ソレを質問してみると、ヤマメは少し引っかかるものがあるのか、腕を組んで少々唸り始める。

 

そしてそれが続く事約数十秒。

 

「う~ん……あっそうだそうだ」

 

と、その声と共に手をポンとたたき、俺の目を見ながら話し始める。燐は俺と同じくヤマメの話に聞き入っている。

 

「人間にも効果あるはずだよ?……いや、たしか境界云々と言っていたから多分……」

 

と、最後の方は余り聞き取れなかったが、境界云々と聞こえたので、紫の施した術の事を言っているのだろう。博麗大結界ができるのはまだ数百年後なのだ。

 

いまは認識に関する境界だけのはず。

 

まあ、陰陽師や退魔の家系などは段々と幻想郷に惹かれていくのだろう。

 

そんな事を思いながら、ヤマメに返答する。

 

「へえ、人間にも効果があるのか……じゃあ、その他に何か変わった事とかある? 俺地上に殆ど行かないから全く分からなくて……」

 

と、半分事実半分嘘のような事を言って、彼女に返答を求める。

 

とりあえず多角的に見た地上の情報が欲しい。紫や幽香からもたらされる情報がほとんどだが、それはあくまでもその個人から見た地上であり、情報が偏りやすい。だから、また別の妖怪から見た情報と言うのも欲しいのだ。

 

すると、ヤマメは

 

「あっ!!」

 

と、唐突に大声を上げて蹲る。

 

そして、頭をガシガシ掻き毟りながら、忘れてた~、等と言いながら一人でウンウン唸る。

 

とにかく彼女の思い出した事はとてつもなく重大な事なのだろう。それが今の彼女を作りだしていると言うのは分かる。

 

だが、ただ唸っているだけでは分からない。言葉に出してくれなければ、伝わるものも伝わらないので俺から話す。

 

「ええ、何をそんなに唸っているんだい?」

 

そう言いながら、彼女に顔を近づけ、声が聞こえるようにする。

 

すると、彼女が立ちあがり、俺の方を見てくる。当然、俺もそれに従って姿勢を直す。

 

ソレを見た彼女は、準備ができたのかと察したのか、俺の方を見ながらゆっくりと話し始める。

 

「地上から鬼が此処に来るっぽい……」

 

あ―――――

 

 

 

 

 

「――――っマジで!? やべえ忘れてた!!」

 

 

 

 

 

 


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