移動中 車内
周りは夕暮れ、およそ1,2時間で完全に夜になるであろうこの時間。
一同は車内にて、作戦会議中である。
「『海を守護する大樹』?」
「ええ、英国でも有名な魔術結社です。」
「数年前、友好的だったイギリス清教との交友を切りそれから、姿をくらませていたんだにゃー。それが、ひょっこり現れた。学園都市の一研究機関と手を組んでな。」
「あと、彼らの個人的な付き合いも調べさせてもらいましたよ。」
「そこまで…、よく調べたな。」
「今回は、表向きが調査であるため、大々的には行動できません。なので、行動できない皆さんが綿密な調査を行っています。」
「ああ、だから情報が多いのか。あと、有名だって言ってたしな。」
「イギリス清教の規模で調査に特化しているなら、そこらの国の諜報機関より情報収集は優秀かも。」
(すげぇ…。)
「今回の中心である、二つの組織。魔術師のリーダーである、デューイ=奇水=ウルフィック、科学者のリーダーである仁代数樹。この二人が親友で幼馴染であることが分かっています。」
「今回の中心人物が、旧知の仲ってことか。」
驚くほどのことではない。
互いが、違うサイドであっても友達になってはいけないなどという法則は無いのだから。上条としても、ここにいるメンバーが一人でも欠けることは絶対に嫌だと思っているからこそよく理解できる。
だが、ほかの魔術師や、研究者と能力者となれば違う評価を下していただろう。
「科学サイドの状況も説明させてもらうぜい。」
土御門がそう切り出した。
彼女たちの中では、土御門は学園都市へのスパイだと評している。
だからこそ、科学サイドの情報が出てくると思っている。
実際のところ、多重スパイのため微妙なのだが学園都市での詳しい情勢を知っているのは、この中で土御門だけである。
「こっちの主観では、学園都市にある一研究機関が離脱。そしてつい先ほど、学園都市から完全撤退。ついでに、カミやんを入手しようとしたが失敗。その際に、治安維持の学生が入院。奴らは、学園都市から外に出ることが多かったみたいでその際に、外で計画を練り、実行。現在もその計画とやらは終わっていないらしい。学園都市も奴らが外で動いていたから狙いを突き止められなかった。また、研究機関の人間が自分達の技術で開発を行った。そして、そこの研究施設にいた『置き去り(チャイルドエラー)』出身の何人かが自己判断で一緒に撤退。そのため、能力者を複数確認。ちなみに残った子たちは、数日前に別の学校への編入手続きを済ませている。」
こっちの話になるとやはり土御門は声の調子が変わる。
そして、土御門以外は知らないが学園都市には『
空気中を漂い対流による自家発電で半永久的に機能する極小サイズの情報収集機器。
その数、およそ5000万。
学園都市外での計画。
それは、つまり『
それだけで、もはやただの科学者という位置づけでは無いだろう。
(やっぱ、スパイやってんだなー。)
そんなことは知らない上条はただ、そんな感想を持つ。
ただ、土御門が高い情報収集能力があることは確かだ。
だからこそ、
「ではこちらの説明もいたします。」
運転しながらであるため、(土御門にしてもそうなのだが)五和はメモなどを見ていない。おそらくは、本人の頭の中にすでに入っているのであろう。
「『海を守護する大樹』、この組織は特定の思想を持たず、術式どころか宗派までバラバラの集団です。創設者は現在のリーダー、デューイ=奇水=ウルフィックであるため、かなり新しい魔術結社となっています。最も得意とするのは術式や霊装の開発。英国の魔術師の中でも有名な組織で、魔術師たちもかなりの実力者ぞろいです。また、この組織に入るのに明確な条件がなく特定の思想を持たないので、それも実力者を集めたり、彼らが成長する要因になっているそうです。ただ、その方式である以上、常に裏切りやスパイの危険性をはらんでいますがそれが起こったことがないそうです。おそらくは、リーダーの手腕だと言われています。」
一呼吸置いて、五和は続ける。
「では、今回の重要人物をピックアップしていきたいと思います。」
「
その言葉を皮切りに、レッサーがカバンから資料を取り出すと、それを上条とインデックスに一つ、土御門に一つ、自分一つと回していた。
資料には写真も入っており上条が知る顔もあった。
「まず、『海を守護する大樹』のリーダー、デューイ=奇水=ウルフィック。魔術の腕だけならば、英国でも十指に入るほどです。さらに、持ち前の頭脳で数年前姿をくらますまで組織を英国王室御用達にまで伸ばしました。実際、未だに彼らの術式や霊装は王室ではいくつも見かけることがあります。」
「弱点が無ぇな…。」
「どんな魔術を使うか聞きたいかも!」
「彼は現象を利用した魔術を使用するそうです。」
「現象?」
「物理現象の魔術的操作といったところですね。」
レッサーがそう言うが、正直よくわからない。
「つまりだなーカミやん。地球上にある重力、大気圧、風圧、水圧、温度、水蒸気量、磁場、空気中の帯電、空気の成分、とかどこにでもある物を利用しているってわけだ。相手の立ち位置の重力を部分的に増やしたり、確認できてるのでも大気圧による大砲なんかがある。」
「じゃあ、自分のとこの重力を減らして身軽になることも可能だってことか。」
学園都市での仲間を連れた跳躍。
そのビジョンを上条は思い出していた。
「理屈上ではそうなるにゃー。どこにでもある物で戦え、不得意な戦場がない。それどころかその戦場自体で攻略法が変わってしまう。厄介な相手なんだぜい。で、五和。」
「は、はい!?」
「詳しい術式はわかるか?」
「いえ、利用している術式や霊装まではわかりませんでした。」
「というか、こちらとしてはそれが一番知りたいポイントでもありますね。」
「方法としては、重力や空気を魔術的に吸い込んだり放出するとか、重力や空気のバランスを崩して強いところと弱いところとコントロールするみたいなのがあげられるかも。」
「彼はあまり関係者以外の人前で魔術を使いませんから、術式どころか十字教であるかでさえ分かっていません。また、名前からわかると思いますが、日本人とのハーフで約二十年前に日本から英国へ移り住んだそうです。」
「住んでたのは学園都市なのか?」
「いえ、学園都市とはあまり関係なかったそうです。当時は魔術の関係者ではなく一般的な子供で、英国に渡ってから魔術を身につけたそうです。」
何か少しだけ、引っかかるような感じがしたが上条は特には気にしなかった。
次に行きますと五和が号令したので次のページに移る。
そこに写っていたのは、美しいといわれる容姿を持つ少年。
年下かと上条は予測する。
少しツリ目の美少年だ。
「
以上です、とここで話し終える。
魔術サイドの重要人物はここまでのようだ。
「じゃあ、
「盗みに入ったって、大丈夫なのか?」
「やばいかもしれない。でも、すでに情報盗難事件として『
「なら、一安心かも。」
「話を進める。仁代由香里、名字からもわかるが仁代数樹の妻。旧姓は白海。今回のリーダー格二人とは幼馴染の間柄だ。まあ、夫婦であり研究者であるから夫の研究に詳しいか、二人で研究したとも考えられる。それに、彼女自身が能力者であることもカミやんとの戦闘で分かっている。『
「なんか、リーダー二人は不明ってことが多いな。」
「それは当然ですよ。今回の件は、計画そのものが不明。リーダーが計画の情報を持っているなら、その情報は自分ごと隠すでしょうからね。自分が相手に知られては、やりづらいものですから。」
レッサーも同様に「新たなる光」という組織に属しているからこそわかるのだろう。
隠すという一点のみでは、天草式である五和の方が秀でているが。
隠しながら、大きな何かを計画するということならばレッサーの方は実際にそのような行動をしていたのだ。
土御門ならまだしもイギリス清教という隠しきれないほど(もしくは、隠す必要がない)大きな組織の人間であるインデックスや、一般人である上条当麻ではあまり思い浮かばないだろう。
「まあ、不明な点が多いからこそ、これから調査を行いますから。…っと、そろそろ到着です。」
「あっ、そういえば!どこに向かっているんだ、俺たち。」
「あー…、言い忘れてたにゃー。今向かっているのは、科学者のやつらが外に用意したらしい研究所。正確には研究所跡地。奴らはすでに撤退済み……と言われている所だぜい。」
「撤退済みの研究所に行ったところで、何か有力な情報があるのか?」
「確かにただの研究所に行ったところであまり意味はない。だが、やつらがその研究所を撤退したのはつい最近。急ぎ気味だったからか残っているものもあると考えられる。そして、やつらは魔術師と手を組んだ。研究所をほかの科学組織から隠すために魔術の痕跡が残っている可能性が非常に高い。となると、有力な情報がある可能性は十分ある。」
学園都市の技術は、外に比べて二十年から三十年ほど科学技術に差ができている。
外の科学者、科学組織の耳に、学園都市の科学者が外で何かを研究しているという情報が入れば確実に狙われるだろう。
情報を隠すにしても学園都市の科学者が頻繁に出入りしたら一発でばれてしまう。
そこで、研究所を魔術的に隠す。
そうなれば、魔術師ならともかく外の科学者どころか学園都市の人間にもほとんど見つからない。
その魔術的なカモフラージュもかなり高度と考えてよいだろう。
事実、長くかかるであろう研究期間を何一つばれることなく隠し通せたのだから。
ただ、イギリス清教が本腰を入れての調査でばれてしまったのだが。
そして魔術が施された研究所。
ただの魔術の形跡を、おそらく最も解析できるであろうインデックスがいる。
そうなれば、魔術サイドの情報も入手できるだろう。
そして、物理的な“物”である、科学サイドの情報も同様だ。
「研究所が見えました!」
今回の目的地であるその研究所。
魔術で隠されていると聞いてどんな見た目かと思っていたが至って普通の研究所だ。
だが、この研究所にヒントがあるかもしれない。
上条当麻は動く。
今回の事件は、初めに上条当麻に白井黒子が巻き込まれてしまった。
学園都市でも、ジャッジメントが二次的な事件に巻き込まれているかもしれない。
上条は、原因では無い。
が、事件の一角に関係してしまっている。
だから、それは彼の手で終わらせる。
依頼されたからでは無く、自分の意志で。
これ以上だれも傷つかず、この事件を終わらせるために。
学園都市の外へと出て、放棄された研究所へと足を運ぶ上条当麻一行。
そこの研究所に残されていた資料は、とんでもないものだった。
『第4章 研究所 first_stage』
科学と魔術が交わるとき、物語は始まる。