「到着しました。」
五和の声の後、4人は車を降りる。
それに続いて五和も運転席から降り、どうやらその車を縮小しているようだ。
その車はミニカーサイズにまでなる。
懐に武器を持つ天草式十字凄教ならではといえる技術だが、上条にはあまり詳しいことはわからない。
すぐさま、そのミニカーをカプセルにいれ保管していた。
現在、5人がいるのは研究所の門の前。
すでに撤退済みの研究所となっているらしいので人気はない。
なかなか大きな研究所のようだ。
だが、どこか存在感が無い。
薄いのではなく、無いのだ。
おそらく、周辺にある民家の人たちは意識していないだろう。
できたとしても、あれ?こんなところにこんなものがあったんだと考え、そこで思考が終わる。
たとえそれが研究所の隣であっても…。
「とりあえず、っと。おっじゃま、しまーす!」
土御門が大声であいさつしながら入っていき、レッサー、五和、インデックスも続いて入る。大声に対して注意もしていない。
(……って、おい。)
いくら、撤退済みの研究所といっても建前は調査であり潜入だ。
そんなに堂々としてていいのか?
(まあ、人はいないから、いいかな?)
まず始めにこういう簡単な調査から始めていくのかもしれない。
いきなり何も知らず相手の本陣に行くより、あらかじめ何か調べておくべきだ。
こちらの動きがばれてしまえば、情報を入手するのが一気に困難になってしまう。
そう考えると、相手のいないところでの情報収集から始めてもいいのだろう。
そんなことを思っていたが、インデックスの声が聞こえる。
距離が空いており置いてけぼりを喰らいそうだ。
「とーま、早く来ないと置いてくよー。」
「ああ、今行く。」
現在、研究所の通路。通路の電灯をつけており、中は十分明るい。
外がもう夜が始まる様子であるのも、中が明るく感じる要因になっているであろう。
上条は、複数に分かれて捜索するかと思ったが、そうでもないらしい。
それをしないのも、このメンバーと状況にある。
今回は魔術サイドの情報と科学サイドの情報が混線している可能性が高い。
その状況の中で上条と土御門の二人は科学技術をすべて理解できるわけではない。
魔術に関してはインデックスがいれば魔術を完全に理解、解析ができる。
が、科学サイドの二人は、科学を極めてはいないのだ。
今回、科学サイドの情報の確認と整理が二人の仕事。
そのような状況である以上、二手に分かれてこのメンバーの科学サイドの情処理能力を半減させるより、まとまってその情報を一つずつ確認したほうが賢明なのだろう。
「ここ……なんですかね?」
科学に疎いレッサーが確認するのは『第1研究室』のプレートが貼られた扉の前。
ここでなら、少なくとも科学サイドの情報はまずあると言っていいだろう。
「とりあえず、ここの探索と行きますかにゃー。」
扉を開け、中へと入る。
「研究室っていうか、資料室って感じだな。」
部屋の中の様子は本棚にパソコン、CD-ROMやメモリースティックなどが数多くそろっていた。
上条がそう思うのも間違いでは無い。
これだけのデータがあるのであれば、研究室兼資料室としても扱っていたであろう。
「………木を隠すなら……森の中…。」
「ああ、これだけのデータがあるからな。どれが重要か分かりにくいな、これじゃ。」
五和がつぶやいたように、ここにあるデータは膨大だ。
かなり資料が多く、本棚にもびっしりと本が詰まっている。
そして研究は非常に多くの情報が交差する。
この部屋の中に、あいつらにとって重要なデータがある可能性はおそらく低い。
いや、そもそも撤退済みの研究所であるため、核心に迫るデータはおそらく持ち去られているだろう。
しかし、今回の目的は最初に少しでも情報を集めることだ。核心に迫る情報でなくとも、今の上条達にとってここは重要な情報源。
少しでも、彼らを止めることができる可能性があるのなら、とことん調べ上げる。
それが今できること。
「いえ、そっちの意味ではありません。」
「そうなんだよ、とうま。」
「ん?どういう意味なんだ、二人とも。」
そっちの意味では無い。
『そっち』というのは、おそらくこの膨大なデータの状況。
しかし、上条ではもう一つの意味というのが理解できない。
だが、インデックスと五和(特にインデックス)が反応しているのなら、もう一つの意味とはおそらく―――――魔術。
「本や棚は木から製造されるものです。そして、ここの部屋の本棚の配置。いいえ、この研究所内のすべての本棚の配置に意味があります。おそらくこの研究所自体を隠している隠密術式。本棚を木に見立て、ここを一種の森……じゃないですね、林として機能させています。」
「そしてそれは一部、この町そのものを森としてここの認識を周りの民家と同じレベルにしているの。街の住人はここをほかの民家のようにしか認知できないし、他の所から来た人やここを直接見た人にはこの術式の副産物である森の中の木のような存在感で認識を隠してしまうんだよ。」
「えーと、つまり?」
「たとえば、この研究所を特に興味がない人間にはここをほかの人の家と同じように認識される。認識を微妙に残しているんだ。ここを探そうとしている人間は、『不自然にここの存在を無視する人間』の様子から調べ上げられない。この研究所を、直接探そうとしている者にだけ、ここの存在を否定させる。カミやんも感じなかっただろ、…ここの存在感を。」
「しかし、撤退して少し術式が崩れていてもなお、ここの存在感をなくせるほどの力を残した術式。しかもそれに霊装やルーン、記号の類を使わずして発動していますね。これは、かなり高レベルな魔術師たちですよ。噂通り、いや…それ以上ですね。」
「この術式……。私たち、天草式の術式の構成と似ています。本棚の配置をメインに通路、部屋割り、そしておそらく電気系統の配線など、使えるものを全て使った、多重構成魔方陣。まさか、………ここまでできるなんて……。」
「流石は、様々な情報、技術を習得する、英国屈指の魔術結社。やりづらいったらありゃしないぜい。」
それがレッサー、五和、土御門の評価。
そして彼らは、魔術師としてはかなり優秀な人物である。
いや優秀以上だろう。
レッサーは結社予備軍『新たなる光』のメンバーである。
『新たなる光』は、イギリスのクーデター時では、王族に依頼をされたほどの金の卵達。
その中で最も優秀な魔術師でもある。
五和は、イギリス清教所属、天草式十字凄教のメンバーだ。
隠れることに特化し、そして実績としては、黄金期の後方のアックアを仕留めた人物でもある。
土御門元春は、
そんな、人物たちでさえそのような評価を下す。それだけで、彼らの実力が通常のレベルとかけ離れていることがわかるだろう。
「ひとつ聞くけど……。」
「何でしょうか?」
「そんな大きな術式、俺の右手で触っていいのか?」
かつて、
それもまた、多重構成魔方陣。
それを、一部だけ破壊すると別の危険な術式に変化してしまうため、すべて同時に破壊する必要があったのだ。
今回もそれと同様なのでは…。
上条はそう思った。
「それに関しては、問題ないんだよ。この術式は、放棄するところまで計算して作っていた術式なの。それに、術式はすでに少し崩れてしまっている。崩れていくにしても、壊れるにしても、効力が弱まっていくだけだから。とうまの右手で触っても特に問題ないんだよ。」
「ただ、学園都市の情報を回収したいから、少し手加減してほしいぜい。学園都市外の研究機関には持って行かれたくないからにゃー。」
「了解。できるだけ、左手を使うよ。」
「じゃあ、手分けして探していきましょうか。」
「そうですね、私達はあまり科学技術に詳しくありませんので、お二方に苦労をかけますけど、がんばらせていただくのでよろしくお願いします。」
「OK。そんな頭良くないけど、がんばってみるよ。」
「俺達は、落ちこぼれって言う立ち位置だからにゃー、期待はしてほしくないが、何とかやってみるぜい。」
「私には、魔術に関する書籍を回してほしいかも。」
「じゃあ、それぞれの得意分野で調査開始って言うことだな。」