とある覚悟の魔術結社(マジックキャバル)   作:赤川島起

15 / 29
第4章 研究所 first_stage 5

インデックスは、恐怖で震えていた。

しかし、その恐怖は身の危険ではない。

力の差による絶望的な恐怖でもない。

ただ、ありえない、わからないという、未知への恐怖。

魔術師である五和、レッサー、土御門もまた、多量の嫌な汗が出ている。

「あ、あなた、なんですか!?そんな、混沌とした魔力は!」

「おかしい、絶対おかしいですよ!あなたの魔力は人のものじゃない!」

「気味が悪いな…。おかげで、異様なまでの威圧感まで出てやがる。」

「おやおや…。まったく、初対面なのにひどい言い草だな…。まあ、自覚しているが。」

それに、今からするのは話し合いではないしな、と言い繋ぎ、後方の仲間へと指示を出す。

「ここは、俺と夜宮で食い止める!皆(みな)は証拠隠滅を、数樹は逃走経路の確保を頼む!」

「みなさん、お願いします!僕とデューイさんで何とかつなぎますから!」

「「「「「了解!」」」」」

完璧なチームワークを彷彿とさせる団結の姿勢。

だが、デューイの出した指示は自分も含めた2対5の戦闘だ。

上条たちの中に半端な戦闘能力の持ち主はいない。

彼らも、それぐらいの調べはついているだろう。

それを踏まえた上で、おそらく、デューイの出した指示は、―――“ここは二人で食い止められるから、ほかの全員での追跡阻止”―――そう、考えられるだろう。

後ろの五人は、素早く動き始め、先程のファイルやメモリースティックを回収している。

壁を砕き、ほかの部屋へ移ったものもいる。

その仕事は丁寧で迅速。

通常の人間ではありえない運動能力をも駆使して行動している。

おそらく魔術なのだろう。

由香里と数樹はおそらく能力。

そんな中でさえ、上条たち五人は動けないでいた。

彼らの動きを止めたくないわけではない。

止めたいと思っているが…。

この二人から注意をそらせば、自分自身が危険だ。

すぐさま彼らの餌食になる。

その中での最良の選択肢を模索すれば、皆(みな)結論は同じだった。

彼らは、資料を“持ち去ろうとしている”のだ。

ならば、その資料は一点に集められる。

それが達成されれば、戦闘の決着にかかわらず、逃走を図るだろう。

 

つまり、上条達の勝利条件は、“彼らの撤退作業が終わる前にこの戦闘に勝利すること”だ。

 

そうなれば、一点に集められた情報を回収し、うまくすればリーダーの撃破によってこの騒動は終結するだろう(自ら体を張っているリーダーを止められるだけで終結するとは思えないが…)。

ならば、時間は限られる。

 

すぐさま、戦闘は始まった。

 

先手必勝、と言わんばかりに土御門が先行、レッサーもそれに続く。

だが、夜宮とデューイは左右に別れ、二人を挟んだ形になる。

その中で上条は、(上条達から見て)左にいるデューイへと突進する。

土御門も上条と同様。

レッサー、五和は夜宮へとそれぞれの武器を持って攻撃する。

夜宮は、それを流れるように躱す。

 

そして二人を無視し、インデックスへと魔術を“発動せず”木刀で攻撃する。

 

「インデックスっ!」

上条が叫ぶが、夜宮の攻撃は止まらない。

その木刀で鳩尾を狙い一発で気絶させようとしているようだ。

対するインデックスは、構えてはいたものの、その姿は余りにも無防備だ。

彼女は対魔術師戦においては、たとえ『自動書記(ヨハネのペン)』を起動せずとも、魔力を使わない魔術を駆使し、高い戦闘能力を発揮する。

しかし、彼女は女の子の体力しか持っていない。

しかも、『強制詠唱(スペルインターセプト)』は魔術への割り込みで、『|魔滅の声(シェオールフィア)』も相手が一定の思想を持つ集団で、なおかつ味方の魔術師がいないことが発動条件だ。

そんな中で、ただの木刀で襲いかかってくる男に対しては防御ができない。

そう考えるのが普通だ。

そして彼の木刀はもはや目前まで迫っていた。

もはや躱せる距離ではない。

彼女の危険は火を見るよりも明らかだった。

 

しかし、聞こえたのはインデックスの声ではない。

「ぐあっ。」と、夜宮のうめき声が響いたのだった。

 

そして、インデックスには傷一つでさえついていない。

そう、あの状況の中でインデックスは“防御したのだ”。

件(くだん)の夜宮は吹っ飛ばされており、仰向けに倒れこんだが、素早く立ち上がり体制を立て直す。

一体何が起こったんだと思った上条だが、インデックスに説明する暇はない。

彼女はそのまま夜宮へと向けて走り出す。追撃するのだろう。

立ち上がったばかりで体制の悪い夜宮へと近づくのはそう難しくなかった。

そして、小さな夜宮にしか聞こえないようにとある“囁き”をつぶやく。

またもや、夜宮は吹き飛ばされる。

しかし、今度は仰向けにさえならず、くるりと一回転して既に立っていた。

それでもかなり有効だったようで、夜宮の表情は険しい。

上条達4人はこの攻防を理解できていなかった。

ステイルがこの場にいれば理解できただろう。

実際に、インデックスの防御と攻撃の正体を理解したのは、敵であるデューイと、実際にダメージを負った夜宮の二人だけだった。

 

彼女の使った攻撃は『|魔滅の声(シェオールフィア)』。

 

宗教の教えの矛盾点を10万3000冊の知識を総動員して、徹底的に糾弾する囁きだ。

この攻撃をまともに食らえば、一時的に行動不能にまで追い込まれてしまう。

ただ、この攻撃には弱点がある。―――それは純度。

集団心理に働き掛けることによってこの攻撃は完成する。

それが、相手が一人では純度が下がり、味方がいることでさらに純度が下がってしまうのだ。

ゆえに、単体相手では全く効果が上がらない。

ならばどうするか。

この際、相手が一人である状況での低純度は諦める。

実際、夜宮も行動不能にまでは陥っていない。

それぐらいが本来の攻撃力だが、下がってしまっている。

ならば、“攻撃力を引き上げる”。

宗教の教えの矛盾を囁く際、徹底的に糾弾するのに加えて“相手の精神を不安定にする言葉”を放つ。

悪口と言えばそれまでだが、催眠術のシチュエーションのように戦闘や疲労はその精神攻撃を引き上げる。

ストレスを感じる者ほど効果が有り、“何かを心に秘める魔術師”にはより顕著である。

実際には、攻撃力を引き上げるというより、相手の防御力を下げているのだが。

そして、味方には聞かせないように、隙を見て夜宮にしか聞こえない声で囁く。

隙を見ながら、彼の操る日本神道の矛盾を調べ上げ、それをほかの人に聞かせない声に調節する。

そこまで高度なことが行えるのも、彼女が魔道書図書館である所以なのだろう。

そしてもう一つ。彼女が始めに行なった防御。

 

その名は『儀式防護(ホーリーステージ)』。

 

攻撃される瞬間にインデックスが歌っていた数節のメロディ。

それが防御の正体だ。

彼女が歌っていたのは10万3000冊の知識を活用した特殊な聖歌。

それを歌う彼女は宗教の教えによって魔術を使う者にとって侵すことのできない聖なる行為となっていた。

魔術を使う以上、宗教のルールは無視できない。

無論、宗教によって聖歌はまちまちで、聖歌の無い宗教もある。

それをも考慮し、即興で作り上げ、侵すことのできない儀式を完成させる。

夜宮はその聖歌に攻撃できなくされたため、自ら攻撃を停止するように仕向けられたのである。

しかも、ほんの数節で効果のある曲を。

ここまで高度な操作を、戦闘というめまぐるしい状況の中で使うこの技は『魔滅の声(シェオールフィア)』や『強制詠唱(スペルインターセプト)』以上の難易度を持つ。

だが、この技もまた、対象が一つの宗教にしか絞れないことが弱点だ。

宗教によってルールが違うので、ひとつのルールを設定すれば他の儀式を重複することはできない。

なので、多数の宗教が入り交じった集団には相性が悪い。

彼らの組織には、完全に当てはまることだ。

しかし、この技には純度を考える必要がないため、発動においては、味方の有無に気を遣う必要はない。

使い勝手は、魔術にしか効かない『強制詠唱(スペルインターセプト)』や集団心理に気を遣う『魔滅の声(シェオールフィア)』よりもかなり上だ。

しかも、『儀式防護(ホーリーステージ)』は相手が単体である状況において大きな効果を出す。

現在の構図は1対2と1対3が存在する状態だ。

上条と土御門が、デューイを止めてさえくれれば、インデックスの実力が発揮される。

集団戦闘の『魔滅の声(シェオールフィア)』と、単体戦闘の『儀式防護(ホーリーステージ)』。

この二つを扱うインデックスは、もはやただの魔道書図書館の枠さえも超えている。

並の魔術師では、『自動書記(ヨハネのペン)』を使用されずとも、止めることなどできないであろう。

本人も自覚していなかったが、彼女の真価が、――この戦いで発揮されているのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。