とある覚悟の魔術結社(マジックキャバル)   作:赤川島起

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第4章 研究所 first_stage 7

(…………ぐっ、情けねぇ。)

戦闘不能に追い込まれた土御門は思考していた。

もともと、気絶していたわけではない土御門は、この戦闘の状況は確認していた。

彼の成すべきことはいくつかある。

 

1秒でも早く、戦闘に復帰すること。

倒れながらでも何かしらの策を実行すること。

このまま何かしらの魔術を使用すること。

 

だが、そのどれも、脳を揺さぶられコンディション最悪の土御門には難しかった。

特に、魔術に関して、今は実行すべきではない。

彼は魔術師でありながら、『無能力者(レベル0)』の能力者だ。

魔術の使用は肉体の破壊を意味している。

そしてこの戦いは、最終決戦ではない。

相手の目的も分からず、ただ危険であろう魔術師たちと交戦しているだけでしかない。

このまま奴らが逃げ去ってしまわれては、援軍も期待できないままで調査の続行である。

そんな状況で、自らを犠牲にした魔術の行使は愚策であろう。

つまるところ、彼に行えるのは肉体をもっての戦闘か、頭を使っての策の思案。

(こいつらの魔術の謎は、禁書目録が解析してくれる。………なら、今俺がすべきは、………………立ち上がることだ!!)

土御門の身体は、まるで脳の停止命令を無視するかのように震えていた。

すぐさまにでも立ち上がり、あの素人の少年を援護するために。

だが、強く脳を揺さぶられ、気絶寸前だった土御門が立ち上がれる可能性は低い。

そしてこの時に、土御門が頼ったのは―――――自分の能力だった。

土御門の能力『肉体再生(オートリバース)』。

無能力者(レベル0)』であっても、その能力は、名前通り肉体の再生。

本来、能力は演算能力でその強度が上がり、逆に阻害されれば能力は発動しない。

土御門の演算能力は現在最悪とも言っていいだろう。

何しろ脳を揺らされたのだから。

だが、土壇場の頭の回転は土御門の世界では必須とも言えるスキルだ。

火事場の馬鹿力とも言えるだろう。

そして、土御門が行なったのは、脳の回復。

もともと、顎にこそ傷があるが、そこが不調の原因ではない。

そして、脳には傷が付いておらず、幸いとも言うべきか、傷の回復に演算能力を割かなくても済んだのだ。

だとしても、土御門が行えたのは、ほんの少し脳の再生による頭の回復。

たったそれだけだった。

無能力者(レベル0)』であるこの能力では本当にわずかな変化でしかない。

もともと、血管に薄い膜を貼る程度でしかない能力なのだ。

 

ただ、土御門が立ち上がるのはそれだけで十分であった。

 

(うおおおおおぉぉぉぉおおお!!)

 

その心の叫びに呼応するかのように、気合を回復した土御門が立ち上がっていた。

「!?土御門っ!!」

上条と、上条の声に反応したデューイの視線と意識が土御門に向く。

(やるじゃないの………土御門元春。)

その様子を見たデューイが思ったのは、敵である土御門に対する侮蔑でもなく、敵が復活したことによる嫌悪でもなく、信念を貫く男に対する純粋な賞賛なのだった。

サッ、と、土御門が折り紙を取り出していた。

その手の中にあるのは、筒に入っている紙吹雪、真円に折られた折り紙。

土御門の魔術、陰陽術を使用するための魔術器具だった。

「土御門っ!ダメだっ!!」

上条の制止も尤もだ。

このタイミングで土御門が魔術を使用するのは愚策である。

いや、それ以前に上条は土御門が魔術を使うことを良しとしていない。

彼の魔術行使は即死の可能性を持つのだから。

 

それでも、彼の行動は止まらなかった。

筒の蓋を外し、中の紙吹雪が舞い、そして光り出す。

 

「カミやんっ!!俺が撃つから、奴が逃げたり当たったとこに追い打ちしろっ!!」

苦々しい表情、煮え切っていないその態度、それでも上条は頷いた。

土御門の覚悟を、土御門の信念を信じて。

「はっ!当たるかよっ!」

会話していたため当然であろうが、デューイはすぐさま低空跳躍し、上条から遠ざかる。

土御門の一撃は、躱すことも防ぐことも彼には不可能ではない。

むしろ彼にとっては防御不可能な上条の一撃の方が脅威だ。

ならば上条から遠ざかる。

それは当然の策だ。

だが、この場では少し難しかった。

まずここは研究所の一室でしかないということだ。

たしかにここは広い。

下手すれば小さな体育館ほどあるだろう。

だが、それも踏破出来ない距離ではない。

しかも、仲間である夜宮の戦闘を邪魔することも。

また、巻き込み、巻き込まれることもあまりよくはないだろう。

そのため、結局のところあまり距離は取れずじまいだ。

だが、土御門の魔術を防ぎ、なおかつ上条の右手を躱すことのできる余裕が彼には取れていた。

土御門の折り紙の光が増す。

今にも、はちきれそうな光が満たす。

 

そんな中、ようやくながら………デューイは自分の失態に気づいてしまった。

 

「しまっ!!」

それ以上の言葉は、放つ余裕もなかった。

完全に土御門の天邪鬼(ウソツキ)に騙されてしまった。

おかしいところがいくつかはあったのだ。

 

土御門の周りから魔力が感じられないこと。

土御門はいかにも魔術をはなとうとしているのに彼の体に傷が見当たらないこと。

土御門ほどのものが大声で自分らの策を漏らしていたこと。

 

だが、気づけないのも最もであろう。

もともと、魔力を感じるというのは高等技能だ。

禁書目録(インデックス)であれば魔力の痕跡から、術式、宗派、あるいは媒体まで理解できる。

だが、そんなことは出来ないのが普通だ。

普通の魔術師では相手が大技を出そうとしているところから大きな魔力を感じるということぐらいしかできない。

それでさえ隠した暗殺系の術式もあるのだからこれを鍛える魔術師などほとんどいない。

 

能力を持つ者の魔術行使による負傷。

彼らの研究分野でもある。

 

だが、彼らは実際に能力者が魔術を使っての研究は一切していないのだ。

故に彼らは、傷つくことは知っていても、どう傷つくかは理解していない。

そして土御門の性格。

ウソツキということを彼らは少し、一部しか知らないのだ。

ウソツキ自称する土御門は、それに恥じないほど嘘がうまい。

今まで嘘をついた人間のほとんどは彼に嘘をつかれたと思わずに騙されたまんまなのだ。

つまるところ、土御門がウソツキだと本気で思っている人間が少ないということだ。

噂にさえならない。

いや、それでさえ甘いだろう。

彼が本物の天邪鬼(ウソツキ)であることを知っているのはほとんどいないというのが正しい。

それでさえ、土御門の嘘かもしれないが………。

 

土御門の紙吹雪、折り紙の光は学園都市特性の発光体だ。

酸素に触れることで酸化し、光を放つ。

それも時が経つにつれてより強く。

その中で土御門が取り出したのは、――――学園都市製の拳銃。

もともと、対魔術の守りを固めていたデューイに対して拳銃による物理的な攻撃は有効だ。

対物理攻撃術式はあまり強化していなかったのだから。

ある程度はあるにしても、対するは“学園都市製”の拳銃だ。

威力は彼自身もよく理解している。

この状態では、既に躱すことはできない。

ならば急いで術式を対物理攻撃に移行する。

 

パンッ!!っと、乾いた音が響く。

 

デューイはどうやら術式の構成に成功したらしい。

銃弾が逸れ、床に小さな穴があいていた。

だが、術式の変更で、時間が取られてしまった。

踏破する力をもった上条にとって、その時間だけで、……十分だった。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

上条の雄叫びが響き、デューイに肉薄する。

デューイが動き出したときには、既に上条は右腕を振りかぶっていた。

もともと、彼は土御門がウソツキであることをよく理解している。

上条は、あの中で土御門を信じていた。

 

土御門の“天邪鬼(ウソツキ)”を信じていた。

 

“あの”土御門がそんな単純な作戦をバラして行うはずがないと。

 

だから上条は演技をした。

これが上条のもつ喧嘩スキルの一つ、演技力である。

二人の嘘がシンクロしたから、上条は土御門の騙し討ちに瞬時に反応できたのだ。

「!っく!!」

上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が決まる直前に、デューイは緑色をした不形の盾を出す。

消しきれない、その数瞬を利用し、なんとかバックステップで回避する。

「!!」

しかし、それでも上条は迫る。

 

既に、再び“右手”を振りかぶっていた。

 

しかも体の軸を無視し、左手ではなく右手を構えている。

普通、右からの攻撃後、体の軸の回転で、攻撃しやすいのは左からの攻撃だ。

しかし、上条は消しきれないデューイの盾を“押して”再び右手を構えていたのだ。

押すタイミングが早過ぎれば盾が残り、遅過ぎればバランスを崩していただろう。

その刹那のタイミングで上条は追い詰めていた。

これは偶然ではない。

彼に“幸運”にも偶然でタイミングを決めることなどできない。

これは正真正銘、彼の経験値によって成した技だ。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ふっ!!」

しかし、それでも『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が決まることはなかった。

緊急回避なのだろう。

デューイ自身、コントロール度外視の異常なバックステップで上条から遠ざかった。

 

その回避直前の刹那、とある可能性が頭をよぎった上条が、その右手を―――“伸ばした”。

その中に、威力など無い。

ただ、触れようとしただけ。

 

にもかかわらず。デューイはその右手を避けた。

まるで“触れられてしまってはいけない”かのように。

 

緊急回避によって大きく離れたデューイ。

しかし、その離れた距離でも、上条ははっきりとその苦々しい表情を見た。

(こりゃバレたかな…。まあ、禁書目録がいる以上“コレ”はバレるだろうと思っていたが………。まあ、それなりに対策を練ればいいだろうかな。)

当のデューイはおそらくの大きな弱点を知られてしまいそうにも関わらず。

余裕という表情のポーカーフェイスを崩さない。

相手にこっちが不利と知られないための技術だ。

だが、その技術である表情に本人が感じている余裕も――あくまで多少だが――混ざっている。

知られても、対策が打てること。

そして何より、本人がまだ全力を出し切っていないことに起因するだろう。

それでも、大きな弱点が露見したことは変わらない。

(こいつ、まさか………)

上条はすぐさまそれを突いてくるのだから。

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