「解った!!」
インデックスの声が響く。
夜宮の魔術の解析が終了したようだ。
近接戦闘をしていたレッサーと五和もその声に反応しインデックスの近くまで下がる。
件の夜宮は三人を注視していた。
こちらの情報が漏れているか、それとも間違った解析なのか確認するため。
しかし、そのような形をとるのも、今三人のところへ攻めることができないからである。
普通は、こちらの情報が正しかろうが間違っていようがとりあえず、話せないように妨害する。
しかし、彼女たち三人には隙がない。
下手に体制を崩せない。
それが夜宮の攻めれない理由。
もう一つ理由がある、それは今回の勝利条件。
夜宮にしては時間が稼げれば勝ちなのである。
その時間もそこまでは多くない。
だから、自分に不利になっても、より時間をかける。
その中で、インデックスは解析結果を言った。
「あの人に刻まれた術式は、人間の術式じゃないの。」
「「は?」」
「術式は吸血鬼、カインの末裔の術式をメインに使用者の血液に術式の核があるの。」
その結果に二人は驚愕し、当人は表情を崩さなかった。
それでも、時間が惜しい中、インデックスは続ける。
「血液に刻むというのは、吸血鬼が噛むことで吸血鬼になってしまうというのを再現しているから。おそらくその偶像崇拝の術式で、自分自身を吸血鬼としているの。もちろん、それだけで吸血鬼になれるはずがない。むしろ不完全な吸血鬼のレプリカを作り上げている。………でも、多分そっちの方が都合がいいの。この術式、理論上使用可能なのは夜で、日光に当たると吸血鬼の力を失うようにできている。灰になる危険性を排除しているのかも。不完全な分、弱点まで不完全にしていて、さらにそれを補っているんだと思う。そして、偶像崇拝によって吸血鬼の不死の力の一部を得ている。そして無限の魔力の一部も。」
その一言、ただ一言の意味。
魔術師である以上、保有する魔力が多ければ大きいほど使える魔術の幅、威力は上がる。
単純なこと。生命力も高ければ戦闘に関してはかなり驚異となるだろう。
無限の魔力と生命力。
その一部。
つまり。
「無限の一部なんて………………無限に決まってるじゃないですか…。」
ふと漏らしたレッサーの言葉。
インデックスの解析結果。
簡単に言ってしまえば、彼は日光以外の弱点を排除した―――――吸血鬼そのものである。
現在の時刻は夜。
まさに、吸血鬼の独壇場だ。
不完全な吸血鬼ながらに吸血鬼の力を得た魔術師、夜宮神也。
おそらく血液に触れない限り、『
それが夜宮の“血の霊装”の効果。
吸血鬼の偶像崇拝。
強力で、おそらく研究を繰り返したであろう術式。
なお、インデックスの知らないことだが、この術式には名前がある。
その名は、『吸血鬼の陣』である
(ばれた………、でも、“弱点”が知られたとしても時間は稼げているし、強力な魔力も味方してくれるから、負けはない!)
夜宮の心情はほとんど間違っていない。
私闘とは勝利条件が違うのだから、この条件での判断としては正しい。
ただ、『
「弱点があるの。」
その一言。夜宮にとっては予想通りで、レッサーと五和にとっては救いの手である。
「おそらく太陽の術式が有効。それだけは、たとえレプリカでも避けられなかった弱点だから効くと思う。」
例を挙げれば夜宮自身の術式がそうである。
だが、夜宮自身が神木の刀という霊装を使うのは当然理由がある。
太陽の光という特性を逆に利用し、強い力でかき消してしまうのだ。
言ってしまえば、強い太陽光で電灯の光を喰ってしまうようなものである。
夜宮の霊装はかなり強力で、魔力に関しては吸血鬼のそれを利用している。
夜宮自身弱点を把握しているため、対策はもちろん立てているのだ。
そうなると正面から切り崩すのはかなり難しい。
さらにもう一つ、夜宮の魔術には秘密がある。
だが、それらでさえ、進化したインデックスには完璧な隠蔽ではなかった。
「あと、太陽の術式を浴びることで吸血鬼の力を失った中途半端な吸血鬼っていうのは一つのものを表すの。」
(!?っだと)
夜宮の心中がぶれる。
この血の霊装、たしかに複数の効果をもたらす術式である。
相手が、自分の術式を無効化する術式を使用するのならそれを打ち消し、無効化されても二つ目の効果がある二段構えの霊装。
だが、そんな魔術サイドでさえ半ば伝説である吸血鬼の術式を見破れるものなどいない。
ましてや、その効果を深読みすることなどできやしない。
それが前提である術式を“完全に把握”したインデックスの絶対解析。
その
「ダンピール。吸血鬼と人間の間に生まれた吸血鬼ハンター。それが、この術式の二つ目の力。不死身で強力な吸血鬼を殺すことのできる吸血鬼と人間のハーフの力を得ること。人間に近い存在だから偶像崇拝が効果を発揮しやすくできる。これで、昼はダンピール、夜は吸血鬼として力を振るうことができるの。」
「………………。」
無言の夜宮、そして五和、レッサー。
彼女の解析能力もそうだが、夜宮は術式を完全に当てられてしまったこと。
二人は『海を守護する大樹』の扱う前代未聞の術式に絶句している。
インデックスは、夜宮の予想を超えていた。
「そしてその弱点。彼自身が太陽の術式を振るうのはこちらの太陽の術式をかき消すため。だから、太陽の術式をただ当てるだけじゃ意味がない。」
死角無き吸血鬼。
それを打ち破るインデックスの策。
それがこれである。
「まず、いつわは太陽系の術式を“浴びせて”彼をダンピールにして。レッサーは十字架の用意。私が彼の術式をこじ開ける。」
頷いた二人はすぐさま行動に移す。
その中で夜宮は怪訝な顔をしていた。
(どういうことだ。いくらダンピールにしたと言え、対策は吸血鬼とは全く違う。十字架なんて効かない。いや、そもそもダンピールの伝承が少ないんだ。ヴァンパイアハンターのダンピールに弱点の伝承はない。いや、なんであれ………………させなきゃいい。)
夜宮の霊装が
その光は強い。
吸血鬼の陣による莫大な魔力の力を得て神木の刀による太陽の侵略が行われ、夜宮の弱点が消えていく。
その言葉が当てはまるだろう。
また、インデックスは説明を省いたが、夜宮自身が自分の術式で影響を受けないのは彼自身の魔力と現在の時刻に起因する。
現在の時刻は夜。
そして夜宮の扱う魔力は吸血鬼のものだ。
もし、夜宮が吸血鬼の陣を発動させていなかったら、彼の魔術は太陽の力を得ていただろう。
だが、吸血鬼の陣によって彼の魔力は吸血鬼のものとなっていたため、彼は太陽の術式が構築できなくなっているのだ。
ならば、なぜ彼は神木の刀を扱うことができるのか。
実は、吸血鬼は太陽光を全く浴びていないわけではない。
とあるものを経由することで太陽光による消滅は防ぐことができるのである。
それは“月”。
月は、太陽光を反射させて輝く。
そして、月の光では吸血鬼は消滅しない。
しかし、光そのものは正真正銘の太陽光。
正確にいえば、彼の扱っている術式は月の術式と太陽の術式を組み合わせたものである。
月というフィルターを通すことで彼の術式は安定しているのだ。
閑話休題
インデックスは、詠唱をはじめる。
その詠唱は魔力が込められていない。
込めることができない。
それが彼女の魔術。
おそらくは『
夜宮の術式はかけ続けられているもの。
夜宮は自分の術式の主導権の奪取が目的と推測。
(俺の術式を改変させて十字架の攻撃が有効な術式に組み替えるつもりか?いや、過信は禁物。)
どんなことがあっても油断はしない。
それは“彼ら”にとっては当たり前のこと。
土御門は言った。
魔術師は戦闘などにおいてはド素人、核ミサイルのボタンを中学生に握らせるようなもの、世界に裏切られて泣きながら震える子供がナイフを握っている。
戦いに私情を挟む。
無駄の多い戦い。
だが、彼らは違う。
彼らの優秀なリーダーの恩恵か。
はたまた学園都市の科学者と友人関係だからか。
それとも、単に彼らが現実主義者なだけか。
この中の複数、あるいは全て当てはまるのか、もっと他の何かなのか。
ともかく、彼らの心構えに油断などない。あるのは事実。
とにかく彼らに、油断などないのだ。
「はあぁっ!」
五和の術式が舞う。
インデックスの要求は太陽の術式。
だが彼女の術式は“氷”。
その氷結晶は一直線に夜宮へと向かう。
この氷の術式。
モチーフは
凍った諏訪湖の表面の亀裂で、これは神の通り道と言われたものである。
その術式を再現するは彼女の服装。
ジーンズの“亀裂”のような模様。
ジャケットの“水色”。
インナーの“細いボーダーライン”。
天草式十字凄教特有の隠れた術式。
そして氷をひたすらに放つ。
これだけで炎によって上がっていた温度が一気に冷めていく。
だが、怪訝な表情をする夜宮。
それも当然。
実際にただ一直線へと放たれるだけなので、簡単に躱される。
彼に届いていないのだ。
そして、五和の魔力は夜宮と違い無限ではない。
これだけの量の氷をバカスカ撃つのは魔力の無駄遣いである。
そう、夜宮は気づけなかった。
実はインデックスが詠唱しているのは夜宮の術式への侵入ではない。
少なくとも“今”は。
実際の効果は五和の術式の強化である。
術式そのものに意味や効果を示す増強や、化学反応を起こす相乗効果。
コストパフォーマンスの最適化。
五和の術式を理解し、なぜその術式を選択したかまで読み、その強化を行なったインデックス。
そして彼女のアプローチに気づいた五和。
彼女たちのチームワークは完璧だった。
それでも彼女の魔力は無限ではない。
だが、彼女は無駄撃ちをしたわけでもない。
(っ!?しまっ――)
そして放つ五和の術式。
それが放つは太陽の恵の光。
五和の『
その木を利用し受けた恵みを放出する。
その光は朝日。
そして、
その光は当然、氷によって乱反射した。
「ぐっ!」
相性のあった氷は眩しき朝日を再現し、強い光量を放つ。
そして夜宮の体は、吸血鬼からダンピールへと変わる。
だが、彼にダメージはない。
当然だが、五和の放った術式は攻撃魔術ではない。
もともとは恵みの光による回復魔術を変容させたものに過ぎずただ、彼の術式を吸血鬼からダンピールへと変化させただけ。
そう、“浴びせた”だけなのだ。
でも、それで十分。
『
『
術式を解読した時点で彼女による術式侵入など容易。
“そもそも彼女に準備など必要なかったのだから”。
その効果は、生と死の変換。
吸血鬼は正と死を二つとも司る、それを利用した自爆の誘発。
たとえそのハーフであるダンピールでもだ。
そして、ダンピールの死後、意味するのは―――――吸血鬼への転生。
当然、その吸血鬼に弱点の補強などない。
「準備オッケー。」
レッサーは十字教の魔術を使う魔術師ではない。
実際は北欧系の雷神の魔術を利用した霊装を扱うのを得意とする。
だが、全く使えないわけではない。
彼女の扱う鋼の手袋。
その手にあるのは光による巨大な十字架。
手袋によって“掴まれた”光である。
即興の光の十字架による術式。
だが、偶像崇拝に素材など関係はない。
ただ、利用ができるだけ。
しかし、吸血鬼である夜宮にとって、最大級の弱点であることに変わりはない。
「はあああぁぁぁぁああああ!!」
レッサーの十字架の一撃。
夜宮は目が見えない中、なんとか躱そうとするのだが―――だが、インデックスがそれを許さなかった。
『その光は悪しきを封じる鎖となる』
『
レッサーが用意した術式を部分的に切り離し、別の術式へと組み替える。
本来の『強制詠唱《スペルインターセプト》』は、魔術を妨害したりするレベルでしかない。出来ても、その攻撃力によって自爆させたりする程度だ。
しかし、それが味方を補強するのならどうだろう。
彼女が発するノタリコンはうまく絡まり、レッサーの光を利用して別の魔術が完成する。
一つの水流が二つに分かれるように。
威力は減るだろう。
しかし、レッサーが準備した術式は儀式系。
時間をじっくりとかける代わりに膨大な力を持つ。
その力の一部、――光が鎖となりて敵を縛る。
「かはっ。」
弱点である太陽の光によって目がくらんだ夜宮にこれを交わすすべはない。
でたらめに動いては見たが、そんな簡単に逃げられはしなかった。
縛る鎖が容赦なく肺から空気を絞り出す。
「これで終わりですよ!!」
そして、光の十字架が吸血鬼に炸裂した。