「逃げられたか……」
土御門のつぶやき通り、彼ら『海を守護する大樹』は立ち去っていった。
追いかけることはできなかった。
そもそも、インデックス、五和、レッサーの3人は夜宮との、上条、土御門の2人はデューイとの戦闘で疲弊している。
5対2でこの状況。
これでは、5対6では勝ち目などない。
しかし、逃すのが良かったのかと言えばそうではない。
ここまでの戦闘を行なった。
彼らが『
だが、彼らの目的に関しては一切わからないのだ。
たしかに、互いのサイドの情報漏洩は大きい。
だが、それでも、現状では混じりすぎた彼らを裁く機関など存在しないのだ。
はっきりとした危険がなければ行動できない。
あくまで、逃がすしかなかったのだ。
「どうしますか。本日の連戦は避けたほうがいいと思いますが。」
「ですね。休養がなきゃ流石にきっついですよ。」
五和、レッサーの意見には他の3人も頷き、同意した。
土御門は何度か攻撃をもらい、インデックスは火炎の高熱に体力を奪われ、自らの技で精神力もすり減らしている。
レッサー、五和はインデックスの『
多少のダメージは受けているのだ。
この戦いで、最もダメージが少ないのは上条だろう。
デューイは遠距離攻撃を主体とし、上条はそれを消し去り、受け流した。
疲労こそあれ負傷はほとんどしていない。
デューイ。
上条は彼の不自然な行動と、“科学者”数樹の使った技を思い出していた。
「なあ。あの仁大…っと、夫婦だったけ。数樹とかいう科学者が使ってたチカラってさ、………もしかして。」
「うん、魔術だよ。」
インデックスの肯定。
魔術においては間違う訳もない、絶対判定。
仁代数樹。
彼は完全に世界のルールに背き、おそらく世界最高の魔科学者となった。
科学を極めた若き天才科学者。
彼はその頭脳を持って、魔術の研究を行なった。
考えてみれば至極当たり前だったと思う。
科学と魔術の新たな可能性を知るのに、互いが互いの技術や情報を知らずに行うなど出来る訳もない。
しかも、
たとえそれが自分が使用し、完全に把握している自分の術式だったとしてもだ。
「まあ、サヴァン症候群なら当然っちゃ当然だがな。」
まあ、奴の言うことを鵜呑みにはできんが、それしか考えられんしな。と続ける。
土御門の言うことに疑問符を出す魔術サイドの3人。
上条は、偶然テレビ番組を見たことで、その“症状”は知っていた。
ちなみに、サヴァン症候群は能力開発の授業で習っているはずなのは―――――ご愛嬌である。
「サヴァン症候群って何なんですか?」
レッサーが質問する。
答えるのは土御門。
上条も知ってはいるが、教えられるほどではない。
「サヴァン症候群ってのは、知的障害や自閉性障害のある者のうち、ごく特定の分野に限って、常人には及びもつかない能力を発揮する者の症状のことだ。だがな、仁代数樹が障害持ちっていう情報はない。だったら病院や施設の受診履歴が残る。」
「ちょっと待てよ………。障害は無い、それなのにサヴァン症候群持ち。それって…。」
「ああ。“サヴァン症候群のみ”を持っているってことだな。」
驚愕する上条。
今だ理解しがたい3人。
その3人に簡単な例を挙げる。
「サヴァン症候群の発揮する能力ってのは、…個人差にもよるが、言ってしまえば学園都市の脳の開発“無し”で、学園都市最強、つまり最高の頭脳を持つ能力者と同等レベルの頭脳を持つぐらいすごい能力ってことだ。」
学園都市最高。
複雑なベクトル計算をこなす、
「しかも、サヴァン症候群は普通、脳に障害があるから、その全貌がわからないんだ。しかも、サヴァン症候群の能力は様々な分野でみられて一定に測れない。数学の天才、記憶の天才、音楽の天才、芸術の天才、文学の天才、未だその片鱗しか見せない天才まで様々だ。そもそも狭義のサヴァン症候群は世界で数十人しか例がない。だが、その中でも、“障害なしのサヴァン症候群なんて聞いたことがない”ぜい。」
言ってしまえば、メリットのみの享受。
弱点なき天才。障害無きサヴァン。
「そんな人が、………魔術を研究しているなら……。」
「まあ、“魔術の天才”だろうですたい。既に、“科学の天才”でもあるわけだしにゃー」
五和の一言をあっさり肯定する土御門。
重々しいから、軽く言おうとしたが、あまり意味はないようだ。
そして、上条にはもう一つの疑問がある。
デューイが戦闘中に、上条の右手を過剰にも避けた理由。
彼自身に魔術がかかっているとか、触れられると霊装の効果が切れてしまうなどが考えられるだろう。
上条はインデックスにそのままあったこと質問したが、その事実は上条以外の3人まで動揺させた。
「とうま以外は彼の魔力の異常に気づいていたと思う。そもそも、あの魔力は“理論上、ヒトが出せない魔力”なの。人が息をしないくらいありえない、って言えばわかりやすいかな。」
「まあ、人は呼吸しないことも、毒ガスを吐くこともできんわな。」
「でも、あれはそんな理論上、ううん、常識ではありえない魔力を発しているの。」
「それが、触れられたくなかった理由にはどのように繋がるんですか?」
「つまり、人には出せない魔力。人“だけ”では出せない魔力。」
だけ、と強調する彼女の言葉に、身を構える。
能力術師、吸血鬼、天才。ガラガラと常識が崩れていく中、もう一つ、常識が壊された。
「彼、デューイ=奇水=ウルフィックは“彼自身が霊装なの”。」
ここは『彼ら』のアジト。
彼らがふと、言葉を漏らす場所。
次回『第4.5章 行間二』
科学と魔術が交わるとき、物語は始まる