ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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レポートは犠牲になったのだ…
スムーズな次話投稿の犠牲にな……

*前話に加筆しました。
(ボード079C、エンガの「言っとくが、お前は留守番だぞ」まで)
元のムービー中の会話と流れはほとんど変えていないので、まあ飛ばしていただいても問題ないと思います。


SB4-3「イドラのサーカス」

A.P241:4/8 15:20

アークスシップ:艦橋

 

「なっ……留守番ってどういうことよ!」

唐突に告げられた指示に、ヒツギは思わずエンガにかみついた。

「どういうったって、お前マザー・クラスタだろ」

「もう抜けたわよ!それどころか今じゃ追われてる身だし…!!」

「だったらなおさらだろうが。ここで匿ってもらっていた方が安全だ」

 

さもありなんといった体で答えるエンガ。

「で、でも…あたしだって戦えるんだし……!」

「出来る出来ないの話じゃねぇ。もっと根本的な問題だ」

エンガはヒツギの発言を両断し、一つの問いを投げかけた。

 

「―――だったら聞くが。お前が戦う目的はなんだ?」

「え………?」

「お前は、何のためにその力を使う。その力で何をする?」

 

ヒツギは言い淀んだ。

それはあの時、ベトールにも問われたことだった。限られたものしか扱えないこの力を、何を果たすために振るうのか。

「あ、あたしは、ただ……」

「ただ?」

「あたしはただ、何が起ころうとしてるのか知りたくて……それで……!」

 

ヒツギがそう答えた時。

アルの横でずっと成り行きを見守っていたアメリアスは、答えを聞いたエンガの眉根が、ごくわずかに吊り上がるのを確かに見た。

 

「……自覚しろヒツギ。自分がやりたいから、じゃねえ…今のお前は、周りに合わせて動いてるだけだ」

「そ…そんなことないわよ!あたしは、あたしの意思でここに来て、みんなと一緒に……!」

「みんなと一緒に、か。そうやって周りについていくだけだと、マザー・クラスタにいた頃と何も変わりゃしねぇぞ」

ヒツギの態度を蔑むかのように、エンガは言う。

 

「単刀直入に訊くぞヒツギ。テメェは本当に、アルを助けたいって思ってんのか?」

「っ!?どういう意味よ兄さん!」

「テメェにとって、アルは本当に守り通したい存在なのかって訊いてんだ……!」

エンガの語気が強まる。

 

「あ、あたしは……!」

「お、お兄ちゃん!もうやめてよ……!!」「黙ってろアル!!」

思わず声を上げたアルを、エンガは怒鳴りつける。

「俺にはな…絶対に守り抜きたいものがあるんだよ!ハンパな覚悟で場に流されてるテメェと違ってな!!!」

「―――――!!」

 

エンガの怒声に気圧され、ヒツギは後ずさる。

「な、によ……」

放たれた茨のような言葉に、耐えられなくて。

「あたしだって、あたしだって……っ!!」

ヒツギはダッと、艦橋を飛び出した。

 

「お姉ちゃん……!!」

ゲートの向こうに消えていくヒツギに、アルが叫ぶ。

「エンガ、さん……」

シエラは何も言えずに、エンガを見つめる。

 

その中で、アメリアスはうつむいていた頭を上げ、

「……エンガさん、話があります」

射貫くような金色の視線と共に、口を開いた。

 

 

A.P241:4/8 15:54

アークスシップ:ショップエリア

 

艦橋での、会話の後。

「バカバカバーカ、兄さんのバーカ!!何よあたしの気も知らないで!!」

ショップエリアの一角で、ヒツギは盛大にぶうたれていた。

 

分かっている。自分に、戦う理由がないことなど。

「でもそんなの、動きながら決めるもんでしょ…!!)

ひとりになって我慢できなくなり、つい愚痴をこぼす。

ヒツギはそれでも我慢できずに、

「だーもうっ!頭冷やすほど腹立ってきた!!兄さんのバー――カ!!!」

立ち上がり、ショップエリアの巨大モニターに向けて思いっきり叫んだ。

「………」

しかし、何が変わるわけでもない。

はあっと大きなため息をついて、ヒツギがまたベンチに座り込んだ――その時だった。

 

「―――ふふっ。楽しそうだね?」

――吹き抜けるような笑い声。

「え………?」

ヒツギはふと、その声がした方を見る。

 

目の前に立っていたのは、ヒューマンの女性だった。白髪をループテールにまとめ、白地に赤の入った戦闘服を身に纏っている。アークス…なのだろう。

「あっ…ご、ごめんなさい。騒がしかった、ですよね……」

「ううん、気にしないで。わたしも知り合いを探してたら、たまたまここに来ちゃっただけだから」

紅い瞳をヒツギに向け、その女性は朗らかに言う。

 

ヒツギはその姿に、妙な錯覚を覚えていた。

まるで太陽のような…もっといえば、照り付ける日差しではなく、暖かな陽光のような、そんな光。

それが、彼女から発せられるように感じたのだ。

 

「そしたらたまたま、面白いことを叫んでる人がいて、目が離せなくなっちゃって……あ、続けていいよ?」

「へ…?あのいや、別に叫びたかったわけじゃなくて……」

我に返って、わたわたと答えるヒツギ。

先ほどまでの雰囲気とは一転した、どこかとぼけたような言い草…彼女は、いったい何者なのだろう。

 

「あの、アークス、なんですよね……?」

「うん。わたし、マトイっていうの」

マトイ。

どこか記憶に引っかかる―PSO2の調査中に出てきたような―名前だったが、思い出せずにそのまま流す。

 

「あまり見ない顔だけど、あなたたちは?」

「あ…あたし、ヒツギっていいます。ちょっと訳ありでここに来てて…」

「ふふっ、そんな改まらなくていいよ、ヒツギちゃん」

優し気に微笑むマトイ。

その表情に、ヒツギは何となく、心が落ち着くのを感じた。

 

「それでヒツギちゃん、大丈夫?何か悩み事がある感じがしたよ?」

マトイの瞳が、心配そうにヒツギをのぞきこむ。

「あ、え……?」

「さっき叫んでたのだって、いろいろと我慢できなくなっちゃったんでしょ?わたしでも、話し相手くらいにはなれるよ」

 

我慢せずに話してみてと、マトイはヒツギを諭す。

ヒツギ自身、今の気持ちを誰かに話したい気はあった。しかし…

「……どうして、初対面のあたしにそこまで?」

「わたしもため込んじゃう人だから、よく怒られるんだ。だからなんとなく、気持ちがわかるの」

ヒツギは小さく、頷いた。

「じゃあ…話したいことがあるんだけど、いい?」

 

 

マトイの雰囲気に、いつの間にか心を許していたのか。

気づけばヒツギは、自分の悩みをほぼほぼ打ち明けていた。

「戦う目的、かぁ……」

ヒツギの隣に座ったマトイが、考え込むように口元に手を当てる。

 

ヒツギは俯いて、

「……やっぱり、おかしいよね」

「ううん。今のあなた、昔のわたしとそっくりだなぁって」

「え……?」

ヒツギは驚いて、マトイを見つめる。

 

「わたしもね、そうだったんだ……指示を受けて動いて、指示通りにやって、ずっと……目的なんてないまま、動いてた」

そう、それはまさに、今までのヒツギと同じだった。

実際、それは楽だったから。

自分では何も、考えずにいた。

 

「……でも重要なのは、自分が何をしたいのか、だよ」

「何をしたいのか…それが、はっきりとわかれば苦労しないのに……」

溜息をついたヒツギの手に、何かが当たる。

はっとして見下ろすと、それはマトイの手だった。

 

マトイは瞑目し、少しの間をおいて、告げる。

「……例えば、誰かを守りたいって思うんだったら、それはれっきとした、ヒツギちゃんの意思だよ」

「誰かを、守りたい……」

蝋燭に火が灯るように、忘れていた願いが頭をめぐる。

 

そう。

全ての始まりのとき。あの剣を手に取ったとき。

自分は一体、何を願っていたのか。

「……ありがとう。いつの間にか、大切なことを忘れちゃってたみたい」

ヒツギは苦笑して、マトイに言った。

 

「あと…ごめんマトイ。一つやらなきゃいけない事があった。もう行かなきゃ」

「うん。そういえばわたしも、ちょっと用事が残ってるんだった。じゃあ、また今度ね」

テレポーターへ走るヒツギ。

マトイはそれを見送って、小さく欠伸をした。

 

「ふぁあ……なんかまだ眠いよぉ……」

目をこすって、立ち上がったその時。

(ん……?)

ショップエリアの上層をとてとてと歩く、背の低い少年の姿を見とめた。

 

マトイは、困惑した。

あの金髪の少年に、見覚えはないはずなのに。

 

どこかその姿に、冷たい記憶を引きずり出されるような、違和感を覚えた。

 

A.P241:4/9 16:00

アークスシップ:アメリアスのマイルーム

 

少し、時は戻る。

 

「……本当に、あれでよかったんですか?」

応接間のスツールに座り、私は入り口近くに立つエンガさんに問いかけた。

 

あの後……私はエンガさんを、あえて自室に呼んだ。

あの激昂の意味、彼の真意を聞き出すために。

「ったく……男一人容赦なく連れ込むとか、お前さんも肝が据わってるっつうか何というか……」

「ちゃんと話してください…なんで、あんな突き放すような真似をしたんですか」

エンガさんを見つめ、改めて問いただす。

珍しく、私は本気で怒っていた。単純にエンガさんがきつい対応をしたからだけではない。あれでは、アル君だって傷つきかねなかったからだ。

 

エンガさんは溜息をつくと、

「……あいつはまだ、迷ってる。どちらにつくか決めあぐねてやがる。お前さんだってわかってんだろ」

私は頷いた。

「何が起こってるのか、知りたい」。その言葉の裏には、まだ迷いがある。今までの日常と、暴かれた真実の間で、彼女はまだ揺れている。

 

「具現武装…エーテルの真髄は、本当に大きな力だ。そしてその力を使うためには、同じくらい強い『意志』がいる……まだ、あいつにはそれがない」

だから連れて行くわけにはいかないんだと、エンガさんは言った。

「だったら…ちゃんとそう言えば良かったじゃないですか。あんな言い方しなくたって」

「それについては俺も反省してる。だが…あいつにはああ言うしかなかったんだ」

 

エンガさんの声が、慚愧の念を帯びる。

「値踏みするのだって仕方ねぇ。あいつはずっと『どれだけ他人に必要とされるか』で生きてきたんだ」

…その呟きに、私は何も返せなかった。

だって、それはまるで……

 

「…アメリアス?」

「あ、いえあのっ……」

一度はあっと息を吐いて、エンガさんの方を向く。

「やっぱり……幼少期の事故で」

「……ヒツギから聞いてたか。まあ、そんなところだ」

 

エンガさんの目が、無機質な天井を向く。

「俺たちが両親を失ったあの事故は、結構な規模だった。デパート丸々の崩落…生き残ったのは、命と引き換えに両親に救い出された、俺達だけだった」

「………」

「その時、俺は親父とお袋に約束したんだ…絶対に、ヒツギを守るって」

 

私は目を見開いた。

彼に…八坂炎雅にとって、「誰かを守り抜く」という誓いの重さは、それだけのものだったのだ。安易にアルを助けると言ったヒツギを、突き放してしまうほどの。

「そこで俺は具現武装が発露し、後からアースガイドにスカウトされた。大した身寄りのない俺たちに、必要な援助もしてくれた」

おかげで楽させてもらったぜと、エンガさんは笑った。

 

「んで、俺はマザー・クラスタの調査のために、天星に入ったんだが…次の年に大問題が発生した」

「ああ…馬鹿な妹が追っかけてきて、あろうことかマザー・クラスタに入ってしまった」

「あの時は、さすがに肝を冷やしたぜ……」

そりゃあ、そうだろう……

 

さらにエンガさんが言うには、自分がもっと力を付けたら、強引にでもマザー・クラスタから引き離すつもりだったらしい。その点では、今回の件は結果オーライだったそうだ。

「ここに居る限りは、安全だろうしな」

ずっと、心配していたのだろう。そう言ったエンガさんは、どこか安心した口調だった。

 

「……そこに、頼りになるナイトだっているしな」

「頼りになるって…別に私はそんなたいしたものじゃ」

「何処がだよ、ベトールと戦ってた時なんか、どういう絡繰りだったんだありゃ」

本当に不思議そうに問いかけるエンガさん。そういえば、この人は私の出自を知らないんだった。

 

「まあ、たいしたことじゃないんですけど……」

かいつまんで説明すると、エンガさんは顔を驚愕に染めた。

「十分たいしたことあるっての…道理で、無茶苦茶強かったわけだ」

納得した様子のエンガさん。

ふと時計を見ると、いつの間にか1時間近く経っていた。

 

「あ……!すいません、長々と引き留めてしまって!」

「いいんだいいんだ。誤解も解けたし、そろそろヒツギも頭を冷やした頃だろうしな」

適当に探してくるぜと言って、エンガさんはドアの方へ歩いていく。

「……エンガさん。最後に、一つだけ」

部屋を出ようとしたエンガさんを、私はもう一度だけ引き留める。

 

「……残念ながら私には、親の愛というものがわかりません…家族だって、ついこの間会ったばかりのような妹しかいません」

だけど。私は顔を上げ、エンガさんを見つめ、

「だけど……貴方と同じくらい、守りたい、大切なものはあります」

はっきりと、そう告げた。

 

「……そうか。なら、お互い頑張ろうぜ」

「……はい!」

エンガさんは笑って、部屋を出ていく。

私は軽く手を振って、それを見送った。

 




「イドラのサーカス」

I know I know 君の本性
また綺麗事並べて 君はきっとピエロがお似合いさ

―――――――

かなり思い切ってエンガ兄さんキレさせてみました。
彼がヒツギを守りたいという意思は、ヒツギのアルに対するそれとは(今のところ)明らかにレベルが違うので、これくらいは言わせてやってもいいかなと思ったんです。


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