ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
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月面:放棄施設
青髪の少女は、静かに私を睨みつけた。
「……この領域の構築、結構手間かかったんだけど。こんなに早く気づくなんて……ちょっと頭、おかしいと思う」
「……そりゃどうも」
返答を投げ返しながら、少女の手にあるものを見る。
フル=
こちらの世界では名の知れた作家。オークゥと同じ、年若くして才を認められた人間だ。
そして作家というからには、操る具現武装はやはり、
(本、か……)
フルが抱えた本に、視線を向ける。今の幻術は、間違いなくあの具現武装の仕業だ。
「言いぶりから察するに、アンタが作った『物語』を具現する領域か…全く、アメリアスがいて助かったぜ」
「いえ、ただちょっと経験があったものですから」
眉をひそめるエンガさんを尻目に、オークゥへと視線を移す。
不機嫌そうにこちらを見つめる顔を見た途端、私は思わず、
「で、そっちの負け組さんは、そんなフルさんのサポートですか?」
すかさず、渾身の挑発を叩きこんだ。
「っ……!るっさいるっさい!!そもそもフルの物語に気づくなんて、100%どうかしてるわよアンタっ!!」
……思ったより食いついた。こういうのは苦手なんだけども。
辟易した顔のオークゥは、ハッ、と誤魔化すように笑う。
「別にこっちもわかってんのよ。アンタたちの目当ては、この子でしょ?」
パチンと、フルが指を鳴らす。
一瞬障壁が掻き消えるようなエフェクトが走り、二人の背後の風景が変わる。
「なっ………!!」
私は声を失った。
そこには、ストレッチャーのようなものに寝かされた、ヒツギの姿があった。
「ヒツギ……!」
「こらこら、落ち着いて」
駆け出そうとしたエンガさんの足元に、フルが具現武装から放った光弾が弾ける。
「くっ………!!」
「あんまり調子に乗らない方が身のためよ?さもないと……」
オークゥが嗤う。
「この子、どうなっても知らな」
いわよと、声が続くことは無かった。
イル・ザンがオークゥの手前で弾け、声を掻き消したからだ。
「彼女に手をかけてみろ……『使徒』だけじゃ済ませない」
「こっわ……ジョークよジョーク。こっちも言われてるのよ、アイツに手は出すなって」
氷点下を越えて絶対零度まで落ち切った私の声に、オークゥはやれやれと手を上げる。
「フル、一応匿っといてあげて」
「……流石に趣味悪いよ、クゥ」
フルが呆れた様子で腕を振るうと、ヒツギの姿は一瞬で消えた。
「返してもらうには……直接叩きのめすしかない、か」
焚きつけられる感情を抑え、眼前の敵を睨みつける。
「叩きのめす……?逆よ。あたしたちが直々に、100%叩きのめしてあげる」
「……貴女は、危険。絶対に、マザーの障壁になる……だから」
振り上げられたオークゥの腕に呼応し、巨大な光球が顕れる。
そこから生まれ落ちるのは二頭の悪魔。日の使徒が統べる眷属。
私は小さく息を吐いた。
思い出すのは、昨晩のマトイとの会話。
『わたしが信じたあなたは、それに縛られるような人じゃない』
(———じゃあ、ちょっとだけ)
自分のために——この誓いを通すために、戦おう。
「マザー・クラスタ『日の使徒』!オークゥ・ミラー!!」
「マザー・クラスタ『月の使徒』!フル=ジャニース・ラスヴィッツ!」
「……行きますよ、エンガさん」
「ああ……とっとと終わらせよう」
金に染まった瞳は、エンガさんの構える双機銃を捉える。
「100%じゃ足りないなら、200%で迎え撃つ!」
「この命もこの力も……全ては、マザーのために!」
ラプラスの悪魔の雄叫びが、開戦の口火を切った。
AP241:4/16 1:20
アークスシップ:艦橋
「うわあああああっ!!?」
突如艦橋を襲った揺れに、シエラはワークチェアから滑り落ちた。
「いったた……!あ、アル君にステラさん!大丈夫ですか!?」
「う、うん……」「大丈夫、だけど……」
咄嗟にアルを庇っていたステラは、ゆっくりと顔を上げる。
あり得ないほどの揺れだった。スペースデブリでも直撃したのか。
困惑するステラの視界に映ったのは、全く予想だにしていなかった景色だった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいシエラさんこれって!?」
無数のアークスシップに囲まれる、光を放つ巨大な宇宙船———
「現在座標、マザーシップ周辺!?オラクル側の宇宙に戻された!?」
アークスシップ8番艦は、オラクル船団のど真ん中に転移していた。
「ど、どうなってるんですかこれ!」
「わ、分かりません!とにかく今は管制管理を……!」
起き上がって、コンソールの前に立つシエラ。
無数のエラーコードが並ぶウィンドウに向かって、とにかく今はマザーシップへの確認と手を動かしかけ……
「……っ!?通信できない!!?」
慌てて管制を確認する。
マザーシップとの通信、他シップのシエラタイプへの緊急連絡、ともに
「インタラプトコードも、エマージェンシーコードも、全部手を打たれてる……何よ、これ……!!」
思考停止しかけたシエラの前で、また新たなアラートが表示される。
「シエラさん、このアラート……!」
アークスシップへの、侵入者の警報だった。
—————
並び立つ使徒と巨獣を前に、アメリアスは。
「上等———!!」
何の躊躇もなく、先制した。
光に弾かれるように飛び上がり、身構える使徒の目の前に——着弾する。
「こいつ……っ!」
「そういえば、答え合わせがまだでしたね!」
息を呑むオークゥに告げ、アメリアスはその眼前を蹴り上げる。
ブーツの切っ先は、オークゥの脇にいたマクスウェルの悪魔に突き刺さった。
「そう、貴女の失敗はこいつに他ならない……!」
見上げる先のオークゥの顔が、苦く歪む。
あの時、シエラからの報告を読んで感付いていた。
オークゥがラプラスの悪魔と呼ぶあの幻創種は、「物理法則の全てを知る」という
同じようにマクスウェルの悪魔は……「既存の物理法則を否定する」存在。
元より矛盾する存在が、一斉にその力を使えばどうなるか。
「ただ『役割』しか与えられない、貴女の具現武装の限界だ……!」
アメリアスは手を伸ばし、光を放つマクスウェルを掴む。
そして全力で———投擲。
マクスウェルの悪魔の断末魔は、ラプラスの目の前で炸裂。
視界を覆った光に、アメリアスは有効打を確信し———
「………えっ!?」
眼前に振り下ろされる、ラプラスの頭を見た。
「っああ…!!」「アメリアス!!?」
巨体から繰り出される頭突きをもろに喰らい、エンガの横まで吹き飛ばされる。
「な、んで……!」
「……アンタの言う通りよアークス。あたしの考え方は、100%足りてなかった」
オークゥはため息を吐き、ラプラスの悪魔を撫でる。
「でもね、それならこの子を完璧にしてあげればいい……100%じゃなくても、マクスウェルと矛盾しない程度にはね」
ふっと微笑んだオークゥの発言を、二人はすぐに理解できなかった。
「何言ってんだテメェ……!?熱力学第二法則の否定は、まだ誰も……!」
「簡単よ。解はマザーが『教えてくれた』」
『マザー』が、教えてくれた。
アメリアスはその瞬間、全てがつながるのを感じた。
(マザーに教えてもらえばいいんだよ!)
という、コオリの信頼も。
(少し、いびつな感じがします……)
という、シエラの疑念も。
(この命もこの力も……全ては、マザーのために!)
という、彼女たちの信仰も……!
「まさか、マザーは地球の……!?」
思い至った可能性に、愕然としていたアメリアスは。
「……その答えは必要ない!」
フルが伸ばした腕の先に広がった、紫紺の結界を見切れなかった。
「アメリアス———!」
弾かれたように、エンガは走り出す。
「『グリモア・メルヒェン』……しばらく、消えてッ!!」
フルの叫びと同時に、結界が輝く。
「エンガ、さん……っ!!」
そしてエンガの目の前で、アメリアスは姿を消した。
エンガの足元で、エーテルの残滓が散る。
「テメェら……!!」
「よーっしフル、ナイス!」
満足げに頷くオークゥの横で、フルは冷徹に告げる。
「……今書き上げたのは、隔絶の
その声音は、言外に宣言していた。
これでチェックメイト。お前たちの手は、もう無いと。
「ふざ、けろ……!」
ギリ……と、奥歯を噛む。
もう何だっていい。とにかく早くこいつらをぶっ飛ばして、二人を助け出す……!
「ああそうだ、もう一ついいこと教えてあげるわ。70%色男」
その反応が心底楽しいとでも言いたげに、オークゥは笑う。
「アークスの最大戦力であるアイツをこうやって隔離した意味……PSO2の正体を知ってるアンタなら、わかるんじゃない?」
「……クゥ、あんまり余計なことを言わない方が」
エンガに、フルの声は聞こえなかった。
アースガイドの、そしてオラクルの最大の懸念……最悪のシナリオ。
それはすぐ目の前で起こっていると、エンガは悟った。
—————
緊急アラートの鳴り響くショップエリアに、二つの光柱が灯る。
通常の転送……あるいは「PSO2」の
「PSO2を介してなら幾たびか来たが……こうして直接来るのは、初めてじゃな」
白い髭を蓄えた老爺が、飄々と呟く。
「ふむ、未知の素材や技術ばかり……あちらこちらに目移りしてしまうのう」
「翁、我々の目的をお忘れなきよう」
傍らの男……オフィエルは、憮然とした声で老爺を制した。
「無論じゃよ、オフィエル。オークゥとフルのおかげで、こちらから仕掛けられるんじゃからのう」
「八坂火継につられて、奴らが月に来てくれたからこそです。座標さえつかめば、私の能力での転移は容易」
「後はマザーの計画通りに、か。さてと……」
老爺は辺りを見渡し、首をかしげる。
「……何じゃ、一人も挑んでくる者がおらぬのう」
警報が鳴り続けるショップエリアに、人影は殆どない。
数人のアークスは残っているが、武器を抜くことなく、こちらを見ている。
オフィエルは少し左手を持ち上げ、ふむ、と頷いた。
「エーテルの集合に、やや抵抗のようなものが生じているか……恐らく、フォトンに対するリミッターのようなものでしょう」
「この場では、アークスは戦えぬという事か。些かつまらぬのう……」
老爺は一歩前に出て、大きく両腕を広げた。
「………遠からん者は音に聞け!!近くば寄って、目にも見よッ!!!」
フォトンで構成されたモニュメントが揺らぐほどの大音響が、ロビーに響き渡る。
「我が名は、『アラトロン=トルストイ』!!マザー・クラスタが『土の使徒』!!!」
老爺……アラトロンが振り上げた右腕に、光が集まる。
「この『トール・ハンマー』を、破壊を恐れぬならば!いざ参られい!!!」
振り下ろしと同時に顕れた巨鎚が、周囲を砕き、揺らした。
「……む?翁っ!」
オフィエルが声を上げる。
瞬間、飛来した無数の光弾が、舞い上がった瓦礫を吹き飛ばした。
「何っ……!?」
続けざまに放たれた光の槍を受け止め、アラトロンは後ろに引き下がる。
「———今のは警告。このまま、帰ってもらえないかな」
吹き飛ばされた塵を払い、舞い降りるのは純白の錫杖。
マトイは握りなおしたクラリッサを、使徒へと突きつけた。
—————
「……ダメよシエラ、思考停止してはダメ」
ぱちんと、シエラは自らの頬を打った。
今は何よりもこの場を解決するのが先決———そのために、シエラタイプはアークスシップを任されているのだから。
一度タスクを切り、再演算を開始する。
事実を否定せず、与えられた情報から、この状況を作り出した元凶を探る———
「———っ!?管制に、マスターキーでの侵入形跡……!!」
導き出された足跡は、予想だにしないものだった。
「マスターキー……?それって、シャオ管理官でもないと持ってないんじゃ……」
震え声のステラの問いは正解だ。シエラより上位の権限を持っているのは、オラクルそのものを管制するシャオのみのはず。
「データ解析……!これ、シャオに似てるけどシャオじゃない……!!」
その時、シエラが想起した人物は一人だった。
ハイ・キャストを生み出したシャオを生み出した、シエラタイプの祖母とも言える人物。
人間にフォトンの力を伝えた、正真正銘の「
「—————シオン!!?」
シエラの声と同時に、ゲートが爆ぜた。
「っ!?シエラさん!!!」
アルを庇って、ステラはゲートを前に身構える。
「———正解だ、私の同胞。いや……姪孫と言うべきか」
魔剣を握る少女を従え、それは現れる。
深い青髪の少女の姿を取った———しかし、人間のそれとは明らかに違うもの。
ステラも、アルも、その異質さを感じ取っていた。
「やっと合点がいきました……!かつてのフォトナーが生み出し、制御しきれずに亜空間に投棄した、シオンの模倣体……!!」
「それが、『
使徒を統べる聖母は、静かに「いかにも」と告げた。
「拝啓ドッペルゲンガー」
拝啓ドッペルゲンガー それはそれは僕
蝕まれた存在に世界が気付こうが
もう鳴り止まない 醒め止まない 奇跡の輪廻が
狂った正解を染め上げるさ
—————
ここすき(シエラがマザーの正体を看破するところ)