ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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今回出てくる「ラプラスの悪魔のバリアを破る方法と理由」、自分なりに結構頑張って考察しました。



SB5-6「拝啓ドッペルゲンガー」

AD2028:4/16 1:16

月面:放棄施設

 

青髪の少女は、静かに私を睨みつけた。

「……この領域の構築、結構手間かかったんだけど。こんなに早く気づくなんて……ちょっと頭、おかしいと思う」

「……そりゃどうも」

返答を投げ返しながら、少女の手にあるものを見る。

 

フル=J(ジャニース)・ラスヴィッツ。

こちらの世界では名の知れた作家。オークゥと同じ、年若くして才を認められた人間だ。

そして作家というからには、操る具現武装はやはり、

(本、か……)

フルが抱えた本に、視線を向ける。今の幻術は、間違いなくあの具現武装の仕業だ。

 

「言いぶりから察するに、アンタが作った『物語』を具現する領域か…全く、アメリアスがいて助かったぜ」

「いえ、ただちょっと経験があったものですから」

眉をひそめるエンガさんを尻目に、オークゥへと視線を移す。

不機嫌そうにこちらを見つめる顔を見た途端、私は思わず、

「で、そっちの負け組さんは、そんなフルさんのサポートですか?」

すかさず、渾身の挑発を叩きこんだ。

「っ……!るっさいるっさい!!そもそもフルの物語に気づくなんて、100%どうかしてるわよアンタっ!!」

……思ったより食いついた。こういうのは苦手なんだけども。

 

辟易した顔のオークゥは、ハッ、と誤魔化すように笑う。

「別にこっちもわかってんのよ。アンタたちの目当ては、この子でしょ?」

パチンと、フルが指を鳴らす。

一瞬障壁が掻き消えるようなエフェクトが走り、二人の背後の風景が変わる。

「なっ………!!」

私は声を失った。

そこには、ストレッチャーのようなものに寝かされた、ヒツギの姿があった。

 

「ヒツギ……!」

「こらこら、落ち着いて」

駆け出そうとしたエンガさんの足元に、フルが具現武装から放った光弾が弾ける。

「くっ………!!」

「あんまり調子に乗らない方が身のためよ?さもないと……」

オークゥが嗤う。

「この子、どうなっても知らな」

 

いわよと、声が続くことは無かった。

イル・ザンがオークゥの手前で弾け、声を掻き消したからだ。

「彼女に手をかけてみろ……『使徒』だけじゃ済ませない」

「こっわ……ジョークよジョーク。こっちも言われてるのよ、アイツに手は出すなって」

氷点下を越えて絶対零度まで落ち切った私の声に、オークゥはやれやれと手を上げる。

「フル、一応匿っといてあげて」

「……流石に趣味悪いよ、クゥ」

フルが呆れた様子で腕を振るうと、ヒツギの姿は一瞬で消えた。

 

「返してもらうには……直接叩きのめすしかない、か」

焚きつけられる感情を抑え、眼前の敵を睨みつける。

「叩きのめす……?逆よ。あたしたちが直々に、100%叩きのめしてあげる」

「……貴女は、危険。絶対に、マザーの障壁になる……だから」

振り上げられたオークゥの腕に呼応し、巨大な光球が顕れる。

そこから生まれ落ちるのは二頭の悪魔。日の使徒が統べる眷属。

 

私は小さく息を吐いた。

思い出すのは、昨晩のマトイとの会話。

『わたしが信じたあなたは、それに縛られるような人じゃない』

(———じゃあ、ちょっとだけ)

自分のために——この誓いを通すために、戦おう。

 

「マザー・クラスタ『日の使徒』!オークゥ・ミラー!!」

「マザー・クラスタ『月の使徒』!フル=ジャニース・ラスヴィッツ!」

双人(ふたり)の使徒が、それぞれの武器を構える。

「……行きますよ、エンガさん」

「ああ……とっとと終わらせよう」

金に染まった瞳は、エンガさんの構える双機銃を捉える。

 

「100%じゃ足りないなら、200%で迎え撃つ!」

「この命もこの力も……全ては、マザーのために!」

ラプラスの悪魔の雄叫びが、開戦の口火を切った。

 

AP241:4/16 1:20

アークスシップ:艦橋

 

「うわあああああっ!!?」

突如艦橋を襲った揺れに、シエラはワークチェアから滑り落ちた。

「いったた……!あ、アル君にステラさん!大丈夫ですか!?」

「う、うん……」「大丈夫、だけど……」

咄嗟にアルを庇っていたステラは、ゆっくりと顔を上げる。

 

あり得ないほどの揺れだった。スペースデブリでも直撃したのか。

困惑するステラの視界に映ったのは、全く予想だにしていなかった景色だった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいシエラさんこれって!?」

無数のアークスシップに囲まれる、光を放つ巨大な宇宙船———

「現在座標、マザーシップ周辺!?オラクル側の宇宙に戻された!?」

アークスシップ8番艦は、オラクル船団のど真ん中に転移していた。

 

「ど、どうなってるんですかこれ!」

「わ、分かりません!とにかく今は管制管理を……!」

起き上がって、コンソールの前に立つシエラ。

無数のエラーコードが並ぶウィンドウに向かって、とにかく今はマザーシップへの確認と手を動かしかけ……

「……っ!?通信できない!!?」

 

慌てて管制を確認する。

マザーシップとの通信、他シップのシエラタイプへの緊急連絡、ともに不能(ネガティブ)

「インタラプトコードも、エマージェンシーコードも、全部手を打たれてる……何よ、これ……!!」

思考停止しかけたシエラの前で、また新たなアラートが表示される。

「シエラさん、このアラート……!」

異常事態(フェイタルエラー)、不正ID探知。

アークスシップへの、侵入者の警報だった。

 

 

—————

並び立つ使徒と巨獣を前に、アメリアスは。

「上等———!!」

何の躊躇もなく、先制した。

光に弾かれるように飛び上がり、身構える使徒の目の前に——着弾する。

「こいつ……っ!」

「そういえば、答え合わせがまだでしたね!」

息を呑むオークゥに告げ、アメリアスはその眼前を蹴り上げる。

ブーツの切っ先は、オークゥの脇にいたマクスウェルの悪魔に突き刺さった。

 

「そう、貴女の失敗はこいつに他ならない……!」

見上げる先のオークゥの顔が、苦く歪む。

あの時、シエラからの報告を読んで感付いていた。

オークゥがラプラスの悪魔と呼ぶあの幻創種は、「物理法則の全てを知る」という役割(ロール)を与えられた存在。

同じようにマクスウェルの悪魔は……「既存の物理法則を否定する」存在。

 

元より矛盾する存在が、一斉にその力を使えばどうなるか。

「ただ『役割』しか与えられない、貴女の具現武装の限界だ……!」

アメリアスは手を伸ばし、光を放つマクスウェルを掴む。

そして全力で———投擲。

 

マクスウェルの悪魔の断末魔は、ラプラスの目の前で炸裂。

視界を覆った光に、アメリアスは有効打を確信し———

「………えっ!?」

眼前に振り下ろされる、ラプラスの頭を見た。

「っああ…!!」「アメリアス!!?」

巨体から繰り出される頭突きをもろに喰らい、エンガの横まで吹き飛ばされる。

 

「な、んで……!」

「……アンタの言う通りよアークス。あたしの考え方は、100%足りてなかった」

オークゥはため息を吐き、ラプラスの悪魔を撫でる。

「でもね、それならこの子を完璧にしてあげればいい……100%じゃなくても、マクスウェルと矛盾しない程度にはね」

ふっと微笑んだオークゥの発言を、二人はすぐに理解できなかった。

 

「何言ってんだテメェ……!?熱力学第二法則の否定は、まだ誰も……!」

「簡単よ。解はマザーが『教えてくれた』」

『マザー』が、教えてくれた。

アメリアスはその瞬間、全てがつながるのを感じた。

 

(マザーに教えてもらえばいいんだよ!)

という、コオリの信頼も。

(少し、いびつな感じがします……)

という、シエラの疑念も。

(この命もこの力も……全ては、マザーのために!)

という、彼女たちの信仰も……!

 

「まさか、マザーは地球の……!?」

思い至った可能性に、愕然としていたアメリアスは。

「……その答えは必要ない!」

フルが伸ばした腕の先に広がった、紫紺の結界を見切れなかった。

 

「アメリアス———!」

弾かれたように、エンガは走り出す。

「『グリモア・メルヒェン』……しばらく、消えてッ!!」

フルの叫びと同時に、結界が輝く。

「エンガ、さん……っ!!」

そしてエンガの目の前で、アメリアスは姿を消した。

 

エンガの足元で、エーテルの残滓が散る。

「テメェら……!!」

「よーっしフル、ナイス!」

満足げに頷くオークゥの横で、フルは冷徹に告げる。

「……今書き上げたのは、隔絶の脚本(シナリオ)。筋書きも何もなく、ただ孤独と虚無があるだけの空間…どうあがいても、彼女は戻ってこれない」

 

その声音は、言外に宣言していた。

これでチェックメイト。お前たちの手は、もう無いと。

「ふざ、けろ……!」

ギリ……と、奥歯を噛む。

もう何だっていい。とにかく早くこいつらをぶっ飛ばして、二人を助け出す……!

 

「ああそうだ、もう一ついいこと教えてあげるわ。70%色男」

その反応が心底楽しいとでも言いたげに、オークゥは笑う。

「アークスの最大戦力であるアイツをこうやって隔離した意味……PSO2の正体を知ってるアンタなら、わかるんじゃない?」

「……クゥ、あんまり余計なことを言わない方が」

 

エンガに、フルの声は聞こえなかった。

アースガイドの、そしてオラクルの最大の懸念……最悪のシナリオ。

それはすぐ目の前で起こっていると、エンガは悟った。

 

 

—————

緊急アラートの鳴り響くショップエリアに、二つの光柱が灯る。

通常の転送……あるいは「PSO2」の侵入(ログイン)とも違うその光から現れたのは、白い正装を纏った『使徒』だった。

「PSO2を介してなら幾たびか来たが……こうして直接来るのは、初めてじゃな」

白い髭を蓄えた老爺が、飄々と呟く。

 

「ふむ、未知の素材や技術ばかり……あちらこちらに目移りしてしまうのう」

「翁、我々の目的をお忘れなきよう」

傍らの男……オフィエルは、憮然とした声で老爺を制した。

「無論じゃよ、オフィエル。オークゥとフルのおかげで、こちらから仕掛けられるんじゃからのう」

「八坂火継につられて、奴らが月に来てくれたからこそです。座標さえつかめば、私の能力での転移は容易」

「後はマザーの計画通りに、か。さてと……」

 

老爺は辺りを見渡し、首をかしげる。

「……何じゃ、一人も挑んでくる者がおらぬのう」

警報が鳴り続けるショップエリアに、人影は殆どない。

数人のアークスは残っているが、武器を抜くことなく、こちらを見ている。

オフィエルは少し左手を持ち上げ、ふむ、と頷いた。

 

「エーテルの集合に、やや抵抗のようなものが生じているか……恐らく、フォトンに対するリミッターのようなものでしょう」

「この場では、アークスは戦えぬという事か。些かつまらぬのう……」

 

老爺は一歩前に出て、大きく両腕を広げた。

「………遠からん者は音に聞け!!近くば寄って、目にも見よッ!!!」

フォトンで構成されたモニュメントが揺らぐほどの大音響が、ロビーに響き渡る。

「我が名は、『アラトロン=トルストイ』!!マザー・クラスタが『土の使徒』!!!」

老爺……アラトロンが振り上げた右腕に、光が集まる。

「この『トール・ハンマー』を、破壊を恐れぬならば!いざ参られい!!!」

振り下ろしと同時に顕れた巨鎚が、周囲を砕き、揺らした。

 

「……む?翁っ!」

オフィエルが声を上げる。

瞬間、飛来した無数の光弾が、舞い上がった瓦礫を吹き飛ばした。

「何っ……!?」

続けざまに放たれた光の槍を受け止め、アラトロンは後ろに引き下がる。

 

「———今のは警告。このまま、帰ってもらえないかな」

吹き飛ばされた塵を払い、舞い降りるのは純白の錫杖。

マトイは握りなおしたクラリッサを、使徒へと突きつけた。

 

 

—————

「……ダメよシエラ、思考停止してはダメ」

ぱちんと、シエラは自らの頬を打った。

今は何よりもこの場を解決するのが先決———そのために、シエラタイプはアークスシップを任されているのだから。

 

一度タスクを切り、再演算を開始する。

事実を否定せず、与えられた情報から、この状況を作り出した元凶を探る———

「———っ!?管制に、マスターキーでの侵入形跡……!!」

導き出された足跡は、予想だにしないものだった。

「マスターキー……?それって、シャオ管理官でもないと持ってないんじゃ……」

震え声のステラの問いは正解だ。シエラより上位の権限を持っているのは、オラクルそのものを管制するシャオのみのはず。

 

「データ解析……!これ、シャオに似てるけどシャオじゃない……!!」

その時、シエラが想起した人物は一人だった。

ハイ・キャストを生み出したシャオを生み出した、シエラタイプの祖母とも言える人物。

人間にフォトンの力を伝えた、正真正銘の「全知存在(アカシックレコード)」———!

 

「—————シオン!!?」

シエラの声と同時に、ゲートが爆ぜた。

「っ!?シエラさん!!!」

アルを庇って、ステラはゲートを前に身構える。

 

「———正解だ、私の同胞。いや……姪孫と言うべきか」

魔剣を握る少女を従え、それは現れる。

深い青髪の少女の姿を取った———しかし、人間のそれとは明らかに違うもの。

ステラも、アルも、その異質さを感じ取っていた。

 

「やっと合点がいきました……!かつてのフォトナーが生み出し、制御しきれずに亜空間に投棄した、シオンの模倣体……!!」

「それが、『(マザー)』……!?」

使徒を統べる聖母は、静かに「いかにも」と告げた。

 




「拝啓ドッペルゲンガー」
拝啓ドッペルゲンガー それはそれは僕
蝕まれた存在に世界が気付こうが
もう鳴り止まない 醒め止まない 奇跡の輪廻が
狂った正解を染め上げるさ


—————
ここすき(シエラがマザーの正体を看破するところ)

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