ナツノウタ   作:夏草

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何時もより文字数多いかなぁと思ったんですけどあまり変わりませんでした……。


今の私では一時間半でこれが精一杯みたいです……。昔は1,5倍から2倍近く書けてたのになぁ……。勘を取り戻すために頑張ります。


始まりはある春の日に 5

「先生っ!」

 

それはある日の放課後の話だった。

 

職員室で仕事をある程度終えた後、何時ものように図書室に向かおうと向かっていた時、廊下で声を掛けられた。元気のいい、聞きなれた声。

 

「どうした、高海?」

 

「いや特に用事はないんですが……つい先生をみつけたから」

 

そう言って高海は照れているのか少し顔を朱に染めて、右手で頭を掻く。

 

教師を初めてまだ短いが、こういう風に何もなしに声を掛けて貰えると嬉しい。初めは女子高と言うことで、酷く警戒していたが、この高校は生徒も元気でいい子が多く、高海のようにこうして新米の俺にも声を掛けてくれる生徒が多い。ほら、女子高って酷い女性文化で男性の教員なんて、合わないとすぐに虐められそうなイメージがあるし……。

 

まぁ、そんな俺の心配は杞憂に終わりそうだ。

 

「そうかそうか」

 

「で、先生はどこに向かっているんですか?」

 

「図書室だよ」

 

「そっか、先生確か、図書委員会でしたもんね」

 

「そう、だから用がない時は図書室に行くっていうことだ」

 

「へぇー先生も大変なんですねー」

 

「まぁな」

 

こうして教員になってみたからこそ分かる教員の大変さ。学生時代はそんなことも知らずに呑気だったなぁ……と。思い返してみれば随分と先生に迷惑をかけた高校時代だった。滝本先生の言う手のかかる可愛くない生徒とは俺のような生徒を比喩した言葉に違いない。俺だってあんなガキは勘弁してほしい。

 

それに比べて高海なんて手のかからないいい生徒だよなぁ……。元気だし、笑顔も絶えないし、愛想もいい。もし、この学校が共学ならきっとモテていたに違いない。

 

俺がもし、同じ高校だったら、告白して振られていた自信がある。

 

いや、根性のない俺の事だ、卒業するまで片思いということも十分にあり得るぞ……。いや、間違いなくそうだ。

 

「それで高海はこんな時間までどうしたんだ?」

 

すでにホームルームを終えて三十分は経っている。部活のある生徒は部活へ行き、委員会の仕事がある生徒は持ち場へと向かい、何もない生徒は既に帰宅していても可笑しくない時間帯。

 

春と言ってもまだ日は短い、既に窓からは西日が差し込み、廊下は赤く染まっていた。

 

「実は勧誘を……」

 

「そうか、まだ人数集まっていなかったもんな」

 

高海が職員室に部活動設立届を持ってきたのは記憶に新しい。あれから一応同じクラスの渡辺が入部したらしいが、それでもまだ二人。部活動設立に必要な五人には三人以上足りていない。

 

高海なら何となく簡単に人数集めそうだったが、どうやら難儀しているようだ。

 

まぁ、いきなりスクールアイドル始めませんか? と聞かれても確かに困るな……。

 

「はい……。それとそれ以外に問題もあって……」

 

「問題……?」

 

「はい、実は曲作りが……」

 

「なるほど、な」

 

スクールアイドルをやる上で一つのハードルになるのが、曲作りだ。

 

スクールアイドルの全国大会「ラブライブ!」。その大会に出場するに当たっての規定として、オリジナル曲でなければいけないと言うものがある。要はコピーバンドじゃダメって単純な話なのだが、これが非常に高く重い壁として圧し掛かってくる。

 

まず、一般の生徒では作曲何て出来っこない。それなりに音楽に精通して、尚且つアイドル活動に手を貸していいと言う人材が求められる。大きな学校ならば数打てば何と見つかるかも知れないがこんな田舎の学校ではどうか……。

 

最悪、作曲出来る生徒がいないことすら考えられる。

 

「衣装作りは渡辺が出来るんだっけ?」

 

それともう一つの難関。衣装作り……。全てを一から作る必要があるこの衣装作り。

 

曲作りと並んで二大難関に指定されるこの衣装作りだが、これに関していえば高海と同じクラスの渡辺が引き受けてくれるらしい。自己紹介で言っていたが、渡辺は何でも制服が好きで、それが転じて色々な制服を自作するまでなったらしい。精度も中々な物で、一度写真で見せて貰ったが、販売できるレベルだった。

 

「はい、そこは曜ちゃんが……」

 

渡辺が衣装作りとなればとりあえず衣装面は大丈夫だ。となるとやはり問題は曲作りと言うことになる。

 

「先生、作曲とか出来たり……」

 

「――する訳ないだろ」

 

「ですよねー」

 

生徒の力にはなってやりたいが出来ない物はどうしようもない。

 

残念ながら、俺は自他ともに認める芸術的センス壊滅、才能の欠片もない人間だ。絵を書かせても歌を歌わせてもダメ。絵は自分でも分からない内に印象派の絵のようになるし、歌に関していえば友人に「見苦しい」の一言をもって切って捨てられた人間だ。

 

どうやら、俺がその辺りの感性を手に入れるのは来世まで待たないといけないらしい。

 

ついでに言えば、文才の方も皆無らしく、国語の教師をしている癖に文章は書けないという体たらくぶり……。本はある程度は読んで来たつもりだが、本人が書いた文章がこんな感じだ。恥ずかしくて言えやしない。

 

それにこういうことは俺がやっても意味がない。本人たちが頑張るから意味があるのだ。

 

「うーん、どうしようかなぁー。最悪、お金を払ってプロの人に……」

 

高海は顎に手を当て、むむむ、と頭を捻る。

 

ラブライブの規定ではオリジナル曲とあるが、これは別に生徒が作った曲でなくてもいい。単純な話、外部にお願いすることも許されるのだ。そりゃそうだ、高校生の内で作曲が出来て、しかもそれがそれなりの完成度になる曲を作れる人間なんてそうやすやすとはいない。出来る人間がいるとすれば、小さい時から音楽に慣れ親しみ、真剣に向き合ってきた人間……。

 

例えば、ピアノで全国大会に出場した人間とか……。

 

そう言えば、あいつもピアノやってたっけ……。高校時代の後輩のことを少しばかり思い出した。

 

閑話休題。

 

すまんすまん、少しばかり話が脱線したな。話を戻すとしよう。

 

つまりだ。作曲を出来る人間がいない学校でもラブライブ!に出場できるように考えられた救済処置がこの外部の人間が作った曲でもいいということになってくるのだが、これにも大きな問題があったりする。

 

「先生の知り合いに作曲できる知り合いがいたり……」

 

「いるぞ」

 

「ですよねー。やっぱりいないですよねー……っているんですか!?」

 

「あぁ、一応な」

 

「それじゃあ、曲とか作って貰えたり……」

 

ガバりと俺の手を両手で掴んでぐっと顔を近づける高海。

 

「嬉しいのは分かるがとりあえず離れてくれるか」

 

俺は先生で、高海は生徒。そして、ここは廊下で誰がどこで見ているか分からん。

 

俺と高海は何もないのだが、今の状況を傍から見れば勘違いされるやもしれん。そうなってしまえば俺の教員生活はおしまいだ。

 

火のない所に煙は立たぬ。つまり火種はなるべく蒔かないに限る。

 

先生というのは意外に大変なのだ。

 

「あっ、すみません」

 

自分の状況に気付いたのか、パッと手を離す。その顔が朱に染まっているのはきっと夕日と羞恥心のせいだろう。

 

「いるにはいるが……」

 

「是非紹介を……!」

 

「でも、高いぞ」

 

外部に発注する時の一番の問題と言えば費用である。高い質を求めれば、当然プロが出てくる。殆ど全ての物に果てはまるが、値段に比例して質は上がる。その値段が問題で、とても学生では払えるレベルじゃないことが多い。

 

俺の知り合いと言うか後輩には確かに作曲が出来るやつがいると言えばいるが、アイツに正当に依頼したら……。

 

「具体的にどのくらいに……」

 

「まぁ、間違いなく高海の小遣いだと十年かかっても払えないな……」

 

俺の年収でも多分無理だろうなぁ。

 

「ぐはっ!」

 

よっぽどショックだったのかその場で膝をつく高海。

 

見れば見るほど行動はアイツに似ているなぁ……。似ているが、どこか違う。どこが違うのだろう……。はっきりと分かるのに、それが何処かが分からない。決定的までに違うのにその差異がどこなのか、それが俺には分からなかった。

 

「まぁ、でも意外とチャンスはあるんじゃないか?」

 

「……チャンスって」

 

「高海ならどうにか出来る気がするぞ」

 

――もし、高海が彼女と少しでも同じものを持つのなら……

 

「どうにか? チャンス?」

 

――俺の目に狂いがなければ、高海はきっとこのチャンスを物にするはず。

 

「そうそう」

 

その確信が俺にはあった。

 

「先生それって……」

 

「まぁ、その内分かるよ。それじゃあ悪いな俺はもうそろそろ行かないといけなから」

 

首をひねって考えている高海に含みのある言葉を残しながら歩き出す。

 

「ちょっと、先生!」

 

「高海も何もないなら日が暮れる前に帰れよー。どうせ、今頃残っている奴らはみんな部活やってる奴らだし、勧誘はほどほどにしておけよ」

 

「先生、その内分かるっていつですか!?」

 

背中に振って来た声に、

 

「まぁ近いうちにチャンスは来るから大丈夫だって」

 

――そう、例えば明日とかにね。

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