ナツノウタ   作:夏草

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始まりはある春の日に 6

 

「今日も全員出席と……」

 

出席簿に丸を付け終り、そう呟く。新学期が始まり今日までこのクラスは欠席がゼロ。非常にいい出だしを切っていた。まぁ、欲を言えば遅刻欠席ゼロだったらまだ嬉しいのだが、高海と渡辺が朝のバスを乗り遅れて数分ばかり遅刻が一回あったので、二学期はその辺は期待しておこうと思う。

 

まだ、学校が始まって数週間と言え、欠席ゼロと言うのは喜ばしい。学生の時は何とも思わなかったが、教師になってみると、生徒が体調を崩さずに登校してくれている、ということは嬉しいものだ。もし、これを読んでいる奴で学生がいるのなら是非学校に毎日登校してくれ。成績が多少悪くても先生は内心、非常に喜んでくれているに違いない。

 

「滝本先生、今日も全員、出席です」

 

教壇の横で腕を組んで立っている滝本先生へと引き継ぐ。

 

いつも通りの背丈の合っていない白衣を羽織り、肩甲骨辺りまで伸びる髪をポニーテールにした何処からどうみても小学生にしか見えない担任は俺の報告を満足そうに聞くと、そのまま教壇へと上がる。

 

動きは常日頃から堂々としたものなのだが、いかんせんその見た目に迫力がなさすぎる。動さと見た目が合っていないと言うべきか、その様子は背伸びをしたい小学生そのものだ。

 

「皆、静かに!」

 

タンタンと滝本先生が机を二度ほど叩く。

 

するとざわついていた教室が徐々に落ち着きを取り戻す。流石は長年教職についていた手腕は伊達ではない。

 

そしてクラスが落ち着きを取り戻したのを確認すると、

 

「今日は皆にお知らせがある」

 

滝本先生はそう切り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー誰も見つからないよー」

 

私、高海千歌はそう言いながら机に突っ伏す。

 

「大変なんだねスクールアイドルを始めるのも……」

 

重心を机に預けながら首だけを横に向ければ、同じく机に突っ伏している曜ちゃんの姿が見えた。

 

作曲が出来る人を探し始めて早数日。出来る限り多くの人を当たってはみたけど、作曲が出来る人はさっぱり……。

 

田舎の小さな高校である浦の星だと、もう声を掛けていない人の方が少ないのではないかと思うまでになっていた。

 

 

 

「こうなったら!」

 

私は机の中にしまい込んでいた本を取り出す。

 

――小学 4年 おんがく

 

「私が何とかして……!」

 

プロの人に依頼をすれば、お金がかかる。それはとてもじゃないが私が払える金額では無いらしい。

 

昨日、先生に聞いた話だと私のお小遣い十年でも足りないそうだ。それでは、前借何ていうレベルじゃどうしようもない……。

 

ならば、私が作曲を……っ!

 

「出来ることなら卒業していると……思う」

 

「だよねー」

 

そんな決意は曜ちゃんに速攻で切って捨てられた。まぁ、確かにそうだよね……。

 

幾らなんでもそれは無理だ。曜ちゃんの言う通り、今からそれ一本に絞っても真面な曲が

出来るまでには卒業しているはずだ。

 

「はぁ……」

 

ため息を一つ。作曲だけじゃない。問題はまだまだ山積みだ。

 

人数が足りなければ部活動として申請も出来ないのに、その部活動申請に必要な人員も揃っていない。作曲も大事だが、人員集めも重要。今のところ人員は曜ちゃんと私の二人だけ……。後、三人も足りていない……。

 

まぁ人員に関してはある程度かわいい子の目星はついているのだが、作曲に関していえば完全に暗中模索の状態。八方ふさがりだ。もしかしたら、生徒会長が言うように、この学園には作曲が出来る生徒なんて一人もいないのかも知れない……。それならもうお手上げだ。ラブライブ!には出場すら出来ないことになる。

 

――嫌だ。

 

それだけは嫌だ。せっかく、やりたいことが出来たのにそれを途中でやめるどころか、始められないなんて絶対に嫌だ。私は必ず、スクールアイドルになって……そして、μ’sのように……

 

「そう言えば千歌ちゃん、昨日なんか言ってじゃん。チャンスがどうとかって」

「あぁ、それね……」

 

昨日の放課後の話を思い出す。

 

「先生と話をしてたんだけど、何だかよく分からないけど近いうちにチャンスがあるんだって」

 

「先生って副担任の先生のことだよね」

 

「うん、その先生」

 

「それでそのチャンスって何なの?」

 

首を傾げる曜ちゃん。私だって同じ気持ちだ。いきなりチャンスとかどうこう言われても正直分からない。私がそれを聞きたいくらいだ。

 

「さぁー? 聞こうと思ったけど先生それから直ぐに図書室に行っちゃったし……とりあえず、ホームルームが終わったら聞きに行こうかなぁーって」

 

先生が点呼を取り終われば後は担任の滝本先生が引き継いで今日の連絡事項を伝えてホームルームは終了する。滝本先生の話は短く端的で分りやすい。だからきっと今日も何時も通り早めに終わることだろう。

 

その後に先生に昨日の話について聞きに行って見よう。

 

しかし、私の疑問はその前に解決することになる。

 

「皆、静かに!」

 

タンタンと滝本先生が二度教壇を叩くと、それを皮切りに教室が静かになる。

 

滝本先生はそれを見て満足そうに二度ほど頷くと、

 

「今日は皆にお知らせがある。何と転校生の紹介だ」

 

その言葉にクラス中がまたざわめきを取り戻す。

 

「はいはい、嬉しいのは分かるが、少し静かにしろ。他のクラスにも迷惑だ」

 

「先生、男子ですか、女子ですか?」

 

何処からかそんな声が飛んだ。

 

「男子なわけないだろ。女子だ女子!」

 

そんなボケを滝本先生は笑いながら流すと、

 

「それじゃあ、入って来ていいぞ」

 

その言葉をうけ教室の扉が開けられる。

 

次の瞬間、昨日先生が言っていたチャンスの意味が漸く分かった。

 

入って来たのは一人の女子生徒。

 

――――っ。

 

思わず息を飲んでしまった。

 

「東京の音ノ木坂という高校から転校してきました――」

 

彼女はここまで言うとクシュンと可愛い咳を一つ。

 

「――桜内 梨子です。よろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇跡だっ!」

 

そんな声がざわめいている教室の中でもひときわ響いた。

 

そちらに目をやれば案の定と言うべきか、席から立ち上がっている高海の姿。周りの生徒も一斉に注目していると言うのには本人はテンで気にしていない模様。これでは転校生よりもある意味で目立出っている。これは将来大物になるかもなぁ……。

 

高海はそんな周りの状況など気にも留めていないと言う風な装いで転校生の元まで向かう。

 

その足取りは軽い。

 

その様子だと、俺が昨日言ったチャンスの意味が分かったようだ。

 

そう、そのチャンスとは彼女、桜内梨子の転入だ。

 

あぁ、そうだ桜内 梨子といきなり言われても分からないよな。すまんすまん。説明不足にも程があった。桜内 梨子とはこの前俺と高海が季節外れの海水浴にと洒落込んだ時にいたもう一人の女の子だ。あの海の音が聞きたいとか言っていたあの子。 

 

あの後、結局意気投合してすっかり話し込んでいた桜内と高海はもはや傍から見ても友人関係だった。そして、その時の話で桜内は言っていた。作曲もしていると……。それに成績を見せて貰ったが全国レベルと来ている。これ以上のチャンスはない。高海にとって千載一遇の好機だろう。

 

――本当、似てるよなぁ、アイツに。

 

高海は作曲を出来る人を望み、そして桜内梨子が転校してきた。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。本当に高海を見ているとアイツを思い出す。

 

高海はそのまま足を進めると、桜内の前に立ち手を伸ばす。

 

「一緒にスクールアイドル始めませんか?」

 

――でも、しかし。

 

あの海辺での会話を思い出す。

 

『……スクールアイドル? なにそれ?』

 

あの桜内の言葉の意味を

 

「ごめんなさい!」

 

まぁ、俺はチャンスがくると言っただけだしな。それを物に出来るかどうかは高海しだいだ。

 

「え、ええええええええええええええええええええええ!?」」

 

高海の絶叫が浦の星に響き渡った。

 

そんなに大声だしたら、滝本先生に怒られるぞ、と俺が止める暇もなく。

 

「高海、うるさい」

 

「――ぐへっ」

 

滝本先生の凶器(出席簿)で沈黙した。

 

ほら言わんこっちゃない。

 

まぁ、今から振り返っても彼女たちの起源はきっとここに違いなかった。

 

でも、しかし彼女たちの本格的なスタートまではもう少し待ってもらおう。劇の幕が開くのはもうすぐだ。

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