ナツノウタ   作:夏草

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きりのいいところまで言ったら話を一話にまとめて次の話に行きたいと思います。

そして漸く前の話から、アニメ二話に入れた……。作者の力量がなさすぎるせいで、原作を見ていない人には何や何やらさっぱりな作品になってしまっていますね……。これは遂行してドンと話をつけ足さないといけないかなぁ。

一人称以外苦手な作者が悪い。


始まりはある春の日に 8

「ん、高海か……。今、帰りか?」

 

それはある日の放課後の話だった。この日は小テストの採点や職員会議、そしてノートチェックなどで仕事がいつもより多かった。ふと、息抜きにといつもお世話になっている校舎の屋上へ向かっていた時だった。

 

見慣れた後ろ姿が目に入った。

 

「あっ……先生……」

 

声を掛けてみれば、返って来たのは少しばかり落ち込んだ声色。

 

何時もは元気はつらつといった高海だが、明らかに元気がない。

 

「どうかしたのか……?」

 

「実は今梨子ちゃんを勧誘しているんですけど……」

 

「上手くいかないってか……」

 

桜内が転校してからと言うもの校舎の至るところで高海が桜内を勧誘している姿が目に入った。あのホームルームで一度断られていると言うのに高海はまったく諦める気がないようで、毎日ただひたすらに勧誘をし、そして断られ続けているらしかった。

 

「……はい。何度言ってもやっぱりダメで、もうやっぱり梨子ちゃんはスクールアイドルなんて……」

 

そう話す表情は暗い。高海は非常に顔に気持ちが出やすい生徒のようだ。本人は平気を装っているつもりらしいが見る人間が見ればすぐに分かる。きっと、嘘をつくのも苦手なんだろう。

 

――本当に、見れば見るほどアイツにそっくりだな。

 

しかし、何処かが違う。アイツと同じでありながら、決定的までに違う。それが何処か、それが何なのか、愚かな俺がそこに気付くにはもう少し時間がかかった。

 

「そうか。よし、高海少しばかり暇か?」

 

「え……? まぁ、用事は特にないですけど……」

 

そうか、それなら良かった。

 

仕事がいくら立て込んでいるとはいえ、生徒の悩みにアドバイスをするもの教員の立派な仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、お茶で良かったんだよな」

 

ここ浦の星の屋上は学校では珍しく解放されており、生徒教員関係なく訪れることができる場所だ。静岡にあるこの高校では窓からでもよく富士山が見えるが、ここ屋上で見る分にはさらに別格。まさに幽玄壮語な光景を見ることが出来る。さらに、その後ろには壮大な海をも眺めることが出来、俺のお気に入りのスポットなっている。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「このことは内密にな。滝本先生にバレたらなんてどやされるか……」

 

本当言えば、こんな風に生徒に何か物を奢るなんていう事はタブーなのだが、まぁ少しくらいいいだろう。ばれなければ問題ないという奴だ。完全犯罪とはばれないことをいうのだ。

 

まぁ実際、滝本先生あたりならばれた所で問題はないのだが、他の先生なら困る。冗談が通じない先生もいるし、下手をすれば職員会議で吊し上げを食らう可能性すら……。大げさだとか言われそうだが、実はこれあながち洒落になっていない。ここは女子高で俺は男性教員、そういう事には非常に厳しかったりする。

 

まぁ、バレた時はバレた時だ。どうにかなるだろう。

 

「あ、はい。分かっています」

 

「それなら良かった」

 

そう言って手にもつ缶コーヒーを開ける。屋上の自動販売機で買った物だ。勿論、ブラックコーヒー。

 

一口啜れば苦みが口の中に広がる。うん、美味い。

 

「綺麗な風景だな、高海」

 

荘厳な富士を見ながらそう呟く。時刻は既に黄昏時、西に沈む夕日を受け、富士はその身を赤く染めていた。東京では富士山というのは晴れた日に少しばかり見えるだけでこんな風にまじまじとその雄大さを認識できる機会はない。

 

「…………そうですね」

 

高海のこの言葉を皮切りにお互いに沈黙が続く。

 

「…………」

 

「……………」

 

瞳に入るは、紅く染まる富士に、その周辺の山々、そして空に伸び伸びと浮かぶ雲。まるで一枚の名画のような風景。

 

耳に入るは、春風のせせらぎに、運動場から聞こえる運動部の声。

 

鼻に入るは、塩の香りと校庭から漂う桜の香り。

 

沈黙は一体どれほど続いたのだろうか。一分のなのか、十分なのか、それとも数時間なのか、それは分からないが、幾らかの沈黙が流れたあと、

 

「……先生。先生はどう思いますか? 梨子ちゃんはやっぱりスクールアイドルには興味ないんですかね? やっぱり入って貰えないんですかね?」

 

「どうだろうな。桜内の内情は俺には分からない。分からないが、高海があれだけ勧誘してダメだと言うことは――」

 

「やっぱり、ダメかー」

 

「今のところはな……。でも高海にも足りない物があるのも事実」

 

「足りない物……?」

 

「そう、足りない物。まぁ足りない物というよりも、桜内を勧誘するに当たって足りないものと言うか足りない行程と言うか順番……そういった所かな……」

 

「……梨子ちゃんを勧誘するのに足りないもの……? 行程……? 順番……?」

 

そう言って高海は頭を捻り考える。

 

「うーん、お金かなー、それとも一生懸命さ? ……うーん」

 

「お金ってわいろでも送るつもりか……。それに勧誘は傍から見ても一生懸命にやっていると思うけどな」

 

むむ、と唸る高海を見るとどうやら正解にたどり着くには暫くかかりそうだった。

 

「例えば高海。お前、桜内の好きな食べ物知っているか?」

 

「梨子ちゃんの好きな食べ物……?」

 

「そう、好きな食べ物。まぁ、食べ物じゃなくてもいい。例えば、好きな色、好きな物、好きなスポーツ……。お前は知っているか?」

 

「……っ」

 

息を飲む音が隣から聞こえる。

 

「確かに、私、梨子ちゃんのこと何も知らない」

 

「そう、お前は桜内と一緒にいるが、それはただ勧誘しているだけで、桜内について何も知らないんだ」

 

人にお願いごとをする時に大事なことはまずは仲良くなることだろう。知らない相手からの何か物事を頼まれた時に、それをはいはいと請け負う人間はよっぽど性格のいい聖人君子の様な人間か、もしくは、よっぽどのお人よしのどちらかだろう。

 

中々に出来ることではない。

 

俺はどうだって?

 

まぁ、俺はあれだ。自分に困らない範囲で人には優しくしたいとは思っているよ。

 

 

「知らない相手からの頼みごとをそう易々と引き受けるか?」

 

「…………」

 

「そう、つまり高海が今しているのはそういう事だ」

 

「確かにそうだ。先生の言う通りだ。私、梨子ちゃんのこと何もしらないまま、ただ自分の事だけ考えて行動してた……。でも、じゃあどうやってこれから……」

 

「じゃあ、どうするか――」

 

その答えは単純にして明快、

 

「その答えは簡単だよ。――知ればいい、桜内のことを。そして、知って貰えばいい、自分のことを」

 

知らないなら知ればいい。知って貰えてないなら知って貰えばいい。難しく考える必要はない。ただ単純に、ただ真っ直ぐに、ただありのままに。

 

「赤の他人の頼み事なら聞いて貰えなくても、友達の頼み事ならどうだ?」

 

――きっと何倍も何十倍も耳を傾けて貰えるだろう。

 

「そっか、友達になればいいんだ!私間違えてた! まずは友達になることから始めないと!」

 

「それに、さっき高海は桜内について何も知らないなんて、言っていたが、それは間違いだよ」

 

「間違い?」

 

「高海は知っているだろう。あの日、桜内がなんで海に飛び込もうとしていたのか」

 

あの日、桜内は言っていた。

 

「海の音を聞きたくて」

 

「ここに長く住んでいる高海なら知ってるだろ? ダイビングショップや潜るのに適した場所なんていうのは……。一緒に泳いで来たらどうだ? 渡辺あたりを誘ってさ」

 

「そうか! ダイビング! それなら果南ちゃんに頼めば……っ!」

 

手すりに体重を預けていた体制をぐっと戻すと、高海は残っていたお茶を一気に飲み干す。

 

その顔には先ほどの憂いはもう感じられない。

 

そして、屋上から去るときにこんな言葉を残して。

 

「先生ありがとうございましたっ!」

 

――青春だな。

 

そう呟いて飲んだコーヒーは何時もより何故か少しだけ苦く感じた。

 

さてさて、俺のアドバイスが功をそうするか、どう転ぶか……。その答えを知るには、もう少し時間を置かないといけないようだ。

 

今はまだ、神のみぞ知るってやつだ。

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