電Lv1
某年、12月8日。
陸海軍合同海岸防衛特殊部隊所属、一尉浅宮弘也を海軍少佐に昇格し、新設された横須賀攻略鎮守府の司令官に任命す。ついては━━━━
「来てみたはいい、酷い有様だな。たかが6年じゃ完全に、とはいかないもんだな」
横須賀の海岸には既に堤防や港など必要設備は整っているらしいのだが、内陸のこの有様を見ると、若干不安になってくる。
この街は6年前、5日間に渡る、後に「横須賀大侵攻」と呼ばれる深海棲艦の大侵攻の戦場だった場所。浅宮もその戦闘に参加し、多く戦果を上げて多くの仲間を失った。その戦闘を経験した者も今となっては数人しか生き残っていない。
「あら、随分と遅い到着じゃない。久しぶりのお墓参りに感慨深くなってるのかしら?」
「やめてくださいよ。こんな所で墓参りしてたらキリがないです。迎えは叢雲さんだけですか?」
キョロキョロ辺りを見回す浅宮に艤装を付けてない制服状態の叢雲は苦笑する。
「こんな時までアイツの事なのね。……全く、あんなのの何処がいいんだか」
「ケッコンしてる叢雲さんがそれ言いますか?」
「……ッ、冗談よ。アイツのいい所は私が一番よく分かって……る、つもり……」
言ってる途中で恥ずかしくなったのか、真っ赤になりながら俯く叢雲。
「絶ッ対に、アイツには言わないでね!?」
「わかってますって言いませんよ。それで、鎮守府へ向かうんですよね。もう人員は揃ってますか?」
「ええ。初期艦、工蔽班、事務班に初期設備。とりあえず鎮守府運営に支障は出ないはずよ」
叢雲に渡された資料を浅宮は捲った。中には、鎮守府の見取り図、設備や周辺地理が記されており、浅宮は数回見た後に資料を閉じてバッグに直す。
「もう質問はない?じゃあ、行くわよ。車に乗り込みなさい」
ジープの後部座席に乗り込み、叢雲が隣に乗る。程なくしてジープは出発し、整備された場所と荒地とを交互に走り始める。
「航さんは……やっぱり忙しいですか?」
「今まで唯一の攻略鎮守府である呉でずっと前線にいたのよ。貴方が緩和してくれると信じてるわ」
朱星航。呉攻略鎮守府の司令官であり、浅宮の先輩。叢雲が言う「アイツ」で、会話から分かる通り叢雲とケッコンカッコカリをしている。ちなみに叢雲と浅宮は面識があり、浅宮の士官学校時代に何度か顔を併せて意気投合し、飲みに行く仲。ちなみに仲良くなってから朱星の部下であることを知ったらしい。
「叢雲さん今レベルは?」
「……102」
「愛されてますねぇ~」
「からかわないで」
ぷい、と顔を背ける叢雲を見て、朱星が叢雲に惚れた理由がわかる気がした浅宮だった。
「着いたわ。ここが横須賀攻略鎮守府よ」
「……おおー」
予想していたのとは違い、しっかりした設備と、レンガ造りの建物があった。コンクリートを敷いただけの更地もあるが、造設予定地だろう。
「それじゃあ、私は大本営に報告をしてくるわ。今日はこっちに泊まるから夜は鳳翔さんとこね。すっぽかしたら雷撃するわよ」
酒を煽る動作をしてからジープに乗り込み、去っていく叢雲を見送りつつ、改めて鎮守府を見回す。
「とりあえず執務室にみんな待ってるらしいから行くか……あれ?どこだったかな」
資料を見直し、執務室の位置を確認して、歩き出す。執務室はレンガ造りの建物の、3階にあった。
「今日から俺も提督……ねえ。実感湧かないな」
いや、いつも通りだ。刀をペンに持ち替えただけで戦うことは同じだ。と思い直し、ドアノブを捻る。
「はわわわわわっ!?」
「へっ?」
かくして、浅宮提督の着任初日は小、中学生位の女の子にバケツの水(使用済み雑巾入り)をぶっかけられる所から始まるのだった。
「………」
「ご、ごめんなさいなのです~!!」