インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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鈴ちゃん登場回


第二章 中国からの来訪者
1.凰鈴音との出会い


 四月も下旬になり、入学から約一ヶ月が経とうとしていた。

 そして、授業中に織斑姉が言う。

 

「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。深見、オルコット。試しに飛んで見せろ」

 

 断る――なんて織斑姉に言えるわけもなく、渋々と了承する。

 そのISだが、一度フィッティングされたISはずっと操縦者の身体にアクセサリーとして待機状態に置くことができる。隣のセシリアは右耳にイヤーカフ。俺のは右薬指に嵌められた銀狼のリングがそれに当たる。……リングを嵌める指によって色々な意味があるんだけど、薬指は神聖な誓いや結婚指輪としての意味があるらしい。で、男性操縦者である俺たちは街を歩くだけでもナンパやらがしつこい可能性が高いのだとか。それでセシリアが右薬指にリングを嵌めていれば面倒ごとを避けれると言っていた。

 

 腕を前に出し、意識を集中させる。

 

 更に集中を重ね、リングへと意識を集中――

 

(――来い、ヴォルフ)

 

 心の中でISの愛称をつぶやく。瞬間、リングから青白い光が発する。

 光の粒子が全身を包むように溢れ、光が全身に集結する。これでISは展開される。

 展開時間――0・9秒。

 ハイパーセンサーが接続され、俺の視力は跳ね上がる。

 

「飛べ」

 

 織斑姉の指示に從い、急上昇させる。

 同タイミングで上昇させたにも関わらず、上昇速度はセシリアの方が俺よりも早い。

 近接格闘型である俺の『シルヴァリオ・ヴォルフ』はセシリアの『ブルー・ティアーズ』よりも機動力は上なのだが……。

 ……流石は代表候補生。

 

「静馬さん、速度とイメージ力はイコールですわ。疾いイメージであればあるほどに本来の機動力を発揮できますのよ?」

「……なるほど」

 

 以前のセシリアであったなら、その発言に嫌味が含まれていただろう。しかし、今のセシリアに嫌味は感じられない。それどころか真剣に講義をしてくれている。なんともありがたい。

 

 ――イメージだ。より疾く、より加速できるイメージをイメージしろ。

 

 瞬間、俺のISは爆発的なまでに加速しはじめる。それもセシリアをぶち抜いて遥か先まで。

 

「馬鹿者。どこへ行くつもりだ」

「……すいません」

 

 ゆっくりとスピードを落とし、セシリアのいる方へ戻る。

 

「ふふ、慣れるまでは大変ですわね。よろしければ放課後に指導してさしあげますわ。そ、そのときはふたりで――」

「ふたりで?」

「い、いえ。なんでもありませんわ!」

 

 何でもないって言われると気になるよな……? まあ、指導をしてくれるってのは嬉しいけどたっちゃんがいるしなあ……。

 

「いや、指導は間に合ってるからいいや」

「それはどういう――」

「深見、オルコット、急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表十センチだ」

「……り、了解です」

 

 話を遮られ、不満そうな顔をしていたセシリアが渋々と答える。

 私語厳禁ってことだな。

 

「静馬さん、見ていてくださいね」

「おう」

 

 俺の返事を聞き届けてから、すぐさまにセシリアは急下降にはいった。綺麗な姿勢での急下降は流石だな……。

 ハイパーセンサーによる視力でセシリアの足元をズームさせ、目標の十センチを達成していることを確認した。

 

「さて……俺か」

 

 急下降なんてできるだろうか。

 上昇とは逆の要領でスラスターを吹かせ、一気に地表へ――

 

「うお、おおっ……!」

 

 地表との距離は七センチ。

 ――ギリギリセーフ。

 もう少しで地面を抉る勢いで落下してしまうところだった。

 

「まあ、及第点だ」

 

 渋い顔をしていたが、及第点をもらうことができた。

 

「急下降の方はうまくできたようですわね」

「ああ、少し危なかったがな……」

「地面に突っ込まなかったのは幸いですわ」

「そうだな……ってセシリアは綺麗な着地だったよな。流石代表候補生」

「あ、ありがとうございます……」

 

 俺の褒め言葉に頬を赤らめ、照れたように顔に手を添えるセシリア。

 うーん、本当に丸くなったよなあ……急に成長したというか、憑き物が取れたというか。……いったい、一夏と何があった? 説教&説得でもされたのか? ……後で記録映像見てみるか。

 

「深見、次は武装を展開してみせろ」

「はい」

 

 全身の力を抜き、手のひらにブレードを握るイメージを頭の中で構築する。

 イメージを現実へ変換するかのように、手のひらには単分子ブレードが握られていた。

 我ながら武装の展開速度は早いと思う。……まあ、軽い武装展開は脳内シュミレートしてたからな。だって試合の時に武器が出せないとか論外だろ?

 ちなみに単分子ブレードの展開速度は0・3秒。

 

「…………セシリア、展開してみろ」

 

 セシリアを名前で呼んだ? 何かに動揺しているのか……?

 ハイパーセンサーで見る織斑姉の表情は微妙に瞳が揺れている。それはハイパーセンサーでなければわからないほどの変化――。いったい、何に?

 

「展開します!」

 

 ほんの一瞬。光っただけでセシリアの手には《スターライトmkⅢ》が握られている。

 流石に早かった。俺よりも0・一秒は早い展開だ。たかが0・一秒の差に思えるかもしれないが、その差は実戦においては致命的なレベルに状況が変わる。

 

「流石だな、代表候補生。ただし、そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開するな。あくまで自然体、もしくは正面に展開できるようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージに必要な――」

「口答えするな」

「……はい」

 

 今は俺が隣にいるが、別に横に展開したっていいだろ。実際じゃあ横に人はいないし。なんていうか、織斑姉って強引だよな。

 

「……セシリア、次は近接用の武装を展開しろ」

「えっ!? あ、は、はい……!」

 

 なぜ二回目の展開を要求するんだ……?

 セシリアは《スターライトmkⅢ》を収納させ、新たに近接武装を展開させようとする――

 が、なかなか武装は展開されない。

 

(あー、なるほど。普段は使わない武装だからイメージができないのか)

 

「くぅぅ……っ」

「まだか?」

「も、もうすぐですっ! ああ、もうっ!《インターセプター》!」

 

 音声コールによる武装展開。いわゆる初心者用の手段であり、セシリアにとって音声コールに頼るという行為はかなり屈辱的のように思えた。まあ、いいじゃないか。代表候補生であるセシリアにも苦手なことがあるってのもさ。この考えが既に屈辱かもしれんがな。流石に声に出して言うのは憚られる。どうせ怒られるし。

 

「いったい何秒もかかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では間合いに入らせません!」

「ほう? 織斑や深見の時は初心者に入らせてたように見えたが?」

「ぐぬぅ……あれは、その……ですね」

 

 俺と一夏をちらちらと見ながら、言葉に詰まらせていた。

 ……まあ、俺にその記憶はないんだけどな。何故かVSセシリア戦の試合映像を見せてくれないのだ。ほんと、どうして?

 

「今日はここまでだ」

 

 その言葉と共に、セシリアから個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)が送られてくる。

 

『よかったらお昼休み、一緒にお食事でもどうですか?』

『あー、あー。えっと、個人間秘匿通信ってこうか?』

『聞こえてますわよ。さすがは静馬さんですわね」

『…………まあ、な』

 

 妙に褒めてくるセシリアに少し恥ずかしくなる。

 頬を掻きながら、誘いの返事を返す。

 

『……昼は空いてる』

『約束ですわよ! 忘れないでくださいね』

 

 俺には約束を破ったという前科があり、セシリアは念を押してくる。 

 

『おう』

 

 個人間秘匿通信は他の人には聞こえない秘匿回線の通信である。やり方は少し複雑で、回線を秘匿回線に切り替えた状態で話しかけるのだが……この時、脳内で言葉を喋らなければいけない。感覚としては相手に意識を集中させ、強く言葉を念じればいい。脳裏で喋るような感じ……とも聞く。

 次の授業に備えるためにISを解除してから、教室へと向かった。

 

 

 ◇

 

 

「ここがそうなんだ……」

 

 夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な少女がボストンバックを持って立っていた。

 まだ暖かな四月下旬の夜風になびくツインテールは、金色の留め金がよく似合っている黒髪。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

 上着ポケットからメモ用紙を取り出す。くしゃくしゃのしわしわなそれは、少女の大雑把な性格を如実に表わしていた。

 

「本校舎一階総合事務受付――って! それがどこにあんのよ!」

 

 重要なことが一切書かれていないメモ用紙をされにくしゃくしゃにさせ、少女は憤慨する。

 もう既に字が読めないレベルのメモ用紙だったが、書かれていないに等しいメモ用紙がいくら汚くなったところで関係のないことだった。捨てなかっただけでも感謝してほしいくらい。

 

 考えるよりも即行動。『実践主義』である少女は、とりあえず足を動かす。

 ――異国から来訪した十五歳を放り込んで、挙句に案内もない。それどころか案内版もないIS学園ってちょっと問題ないわけ?

 容姿こそ日本人に似ているがよく見ると違う。鋭角的で、艶やかさのある瞳、それらの特徴は中国人である。

 とはいえ、この少女は日本で何年も過ごした経験があり、それはもはや第二の故郷でもあった。

 

(誰かいないかな。生徒とか、先生とか、案内できそうな人)

 

 学園の敷地を彷徨いながら、きょろきょろと人影を探す。とはいえ時刻は八時過ぎ。どの校舎も灯りが落ちており、当然生徒は寮で休んでいる時間だった。

 

(あ……誰かいるわね)

 

 休憩室のようなところから、人影がこっちへ歩いてくるのが見える。身長は160センチ前後で、常に曲がっただらしない猫背の人影がそこにはいた。その人物は少女に気付くと、『あ』と小さく声を漏らした。

 

「……誰だ?」

 

 面倒くさそうな顔をしていたが、目の前の人物は頭をがしがしと掻きながら少女に尋ねる。声からして男性であることがわかり、一瞬だけとある男子のことを思い出してしまう。が、アイツはこんなに気だるそうなやつではなかったのだと頭を振る。

 

「アンタこそ誰よ」

「……それはこっちの台詞なんですが」

「…………」

「はあ。わかったわかった。俺の名前は深見静馬だ」

「男性操縦者の?」

 

 よく目を凝らしてみれば、ニュースで放送されていた男性操縦者の顔写真にそっくりだった。

 

「ふーん。まあいいわ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)よ」

「…………そうか」

「そうかって何よ! もっと違う反応とかないの?」

「あー。代表候補生なのか。すげーな」

「……アンタ、喧嘩売ってるわけ?」

「…………あー、もう面倒だなあ……おれ、眠いんだよね」

 

 大きな欠伸をしながら、目の前の男子は怠そうに踵を返す。

 

「ち、ちょっと!?」

「こっちだ。本校舎一階総合事務受付に用があるんだろ」

「え、あ……うん」

 

 静馬の発言の意図が一瞬だけ理解できなかった。どうやら、彼は鈴を案内してくれるのだと遅れながらに理解した。見た目と違って、静馬は観察眼に優れているのだと。

 鈴音は静馬を軽く警戒しながらも、後を付いて行く。

 

 ポケットに両手を突っ込みながら、鈴音の歩幅に合わせて歩く静馬の後ろ姿。その姿になぜか、頼りがいのようなものを感じてしまう。初対面の態度からして、そんなことはありえないはずなのに。

 

「……こんな夜中にご苦労様だな」

 

 とつぜん、静馬が話を振ってきた。

 暗がりで、しかも男子と二人っきりという状況に気遣っての発言なのだろうか。鈴音は軽くそんなことを考えながら、返事を返す。

 

「飛行機の都合でね。そんなアンタはこんな時間まで何してたのよ?」

「俺は適当にIS展開の練習をしてた。展開速度は重要だからな」

「ふーん? どれくらいIS使えるのよ」

「全然だ。生身とISでの差が激しくて慣れなくてな」

「……へぇ。ところで、織斑一夏って何組か知ってる?」

 

 さっき、静馬と勘違いした幼馴染の男子のことを尋ねてみる。二人しかいない男性操縦者のことを知らない人間がIS関係者、それもIS学園の生徒が知らないわけがない。だから、鈴音は思い切って聞いてみた。

 

「一組だ」

「アンタは?」

「俺のことは別にいいだろ。で、ここが目的地の本校舎一階総合事務受付だ。後はもういいな?」

 

 ――いつの間にか、鈴音は目的地へとたどり着いていた。

 気怠そうにしながらも、ここまで案内してくれた静馬にありがとう――と、そう言おうとして、

 

「あ、あれ?」

 

 そこにはもう既に静馬の姿はなかった。




最後は鈴から見た深見静馬という男の印象。

それにしても鈴の口調も安定しないかも……たっちゃんよりはやりやすいけどね。
はやくたっちゃんの出番を増やしてあげたい。

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