インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
『ちょっと、起きてよ』
聞き覚えのない声がオレを呼ぶ。
しかし、非常に眠い。起きる必要はまだないだろう。
『そろそろ起きてよ』
心で考えていたことに返事をされてしまった。
む……? オレの心を読んでる?
『そうね。貴方は私、私は貴方だから』
何を言っているのか、意味がわからん。
つまり、オレがお前でお前がオレってコトか。
『そうよ。なんだ、理解が早いじゃない』
……そんなわけないだろ。
お前、女だろ。オレは男だ。
実はオレが女だったって言いたいのか?
オレはいつの間にか正体不明の相手と目を瞑りながら心で会話をしていた。
『違うの? 貴方ってば乗れるじゃない』
確かに。女性にしか乗れないはずのISにオレは乗れている。そこから考えれば、オレが女性であるという言い分にも納得が……いや、無理だろ!
思わず目を開き、目の前にいるであろう人物を見ようとして――
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『――っッ!?』
目を開いた瞬間、頭の中に正体不明の情報に、意識が正体不明の何かに上書きされそうになる。目を閉じると、頭を割るような情報の嵐が止む。
『ちょっと、安静にしてなさいってば』
……それを早く言え、こちとら頭が吹っ飛ぶかと思ったぞ。
『悪いわね』
全くこれっぽっちも悪びれる様子のない声色。
本当に謝る気があるのか。
『ないわよ』
……ないのかよ。
というか考えてることをナチュラルに読まないでくれ。
いったい、どこまで考えてることを読めるんだ?
『そうねぇ……貴方が声から私の姿を想像して卑猥な妄想を繰り広げてることも丸わかり』
そんなことは一切想像してないが……?
言われてみれば、声の正体は相当の美少女のように思える。声だけの想像だが。
思わず想像してしまう。美少女のあられもない姿を――。
『な、何考えてんのよ! バカ!』
思いっきりオレの頬を叩かれる。まるでISで叩かれたかのような強烈な威力。その威力のせいで、想像の美少女がゴツい筋肉女へと変質する。そんな想像をしたもんだから、正体不明の誰かが更にオレの頬をビンタ。
……なんだ、これ。非常にやり辛い。それにしても痛みはあるのに、すぐに引いていく。
『冗談はここまでしておくわ。少し調整するから待ってね』
そう言って、ひんやりとした手のひらが額に触れる。まるで洗い物をした後のような冷たさ。それが妙に心地よく、心が落ち着く。本当に誰なのだろうか。少なくとも知っている人物ではないはずだ。……いや、お姉ちゃんに似ているような……?
『…………もう、大丈夫。目を開けてもいいわよ」
言われた通りに瞼を開く。
瞳に少しづつ光が射し、視界が広がる。
――群青の世界があった。
天地共に青く、地平線まで雲一つとない蒼穹が続いている。大地の薄い水が張っており、鏡写しのようにオレの姿が映っている。まるで現実ではなく、夢の世界。
そして、目の前に立っているのは天使のような少女。小雪のような真っ白な髪に、絹のようなきめ細かい純白の肌。身にまとうは白のワンピース。何もかもが真っ白な少女だが、瞳の色だけは黄金に輝いている。直視すれば失明してしまうかのような太陽と紛う黄金の光。まさに天使、神が降臨したかのような姿だった。
『…………えと、そんな風に言われると照れるんだけど』
心の声を読んだ少女が、照れたように目を逸らして頬を掻いた。
……本当に心が読めるんだな。
『言ったじゃない? 私は貴方で、貴方は私なんだから』
「どういう意味だよ、それは」
次は言葉を口に出す。
思ったことがそのまま伝わるのは面倒がなくていいが、人と話す時はやっぱり口から声を出した方がやりやすく感じる。
「ちなみに私は人間じゃないけどね」
「……まさか、オレの妄想の少女だとでも?」
「そういうわけでもないんだよね。説明したいのは山々なんだけど、それをすると貴方が壊れちゃうから」
オレが喋るのに対して、少女も同じく声を出して喋り始める。
その声は甘く、優しく、冷たい声。とても不思議な声だった。オレにとっては毒にも感じられる声で、あながち妄想の少女という線も間違っていないように思える。
「だから妄想じゃないってば。……まあ、いいわ。好きに解釈して」
「そうか。で、名前は? あとオレに何の用で、此処はどこだ? そもそも……」
「ストップ。質問は一回に限り一個で。貴方のお姉ちゃんも言ってたでしょ?」
「……お姉ちゃんを知ってるのか?」
「だから貴方のことが理解できるんだってば。頭の先から爪先まで全部、ね」
なにそれ、怖いんですけど。
……ストーカー?
「もう一度引っ叩くわよ」
「…………」
「話が進まないから戻すわね」
いちいち心を読むお前が悪いだろ。
……考えた瞬間、少女の眉がピクっと動いた。が、自制したのか話を続ける。
「で、私の名前だけど……本当の名前は嫌いだから、ヘルとでも名乗っておくわ」
「へ、へる?」
どう考えても偽名だった。
ちなみにヘルというのは北欧神話に登場する女神の名前だ。ヘルはニヴルヘイムと呼ばれる死者の国を運営していたと言われ、神話における死の象徴でもある女神の名。目の前の少女の見た目からして、ヘルという名前は似合ってないように思える。どちらかと言えば、神族の名前を付ければいいのに。
「別にいいでしょ。嫌ならいいのよ」
「……わかったよ、ヘル」
「じゃあ次ね。貴方に会いに来たのは、貴方の意識が飲まれたからよ」
「……飲まれた、とは?」
心当たりはあった。対抗戦に乱入してきた無人機と戦う際、オレの意思が違う何かに塗り替えられるような感覚があった。自分の身体能力、IS技術、思考速度……そのどれもが自分でも驚くレベルで上がっていた。それがヘルの言う"飲まれる"ということなんだろうか。
「概ね正解ね。正確には、今も半分飲まれた状況ね」
そう言って、ヘルは手のひらに手鏡を発生させた。どういう原理なのかはわからないが、ISの量子変換みたいなものだろうか。
「これで自分の顔を見てみなさい」
「…………ぁ?」
オレは手鏡を受け取り、自分の顔を鏡に写してみる。
――黒髪黒瞳ではなく、銀髪金瞳の男がいた。
雰囲気がまるで違う別人。
「これが、オレ……?」
「そうよ。それが今の貴方の姿。詳しい理由は話せないけどね」
「……治るのか?」
「もちろん。目が覚めたら元通りね」
「……そうか」
元に戻るならば、特に気にする必要もないか。
こんな見た目だったらお姉ちゃんにも、セシリアにも、鈴や一夏などに心配されるからな。
「そして、最後の質問に答えるわね。此処は無我の境地よ。簡単に言えば、境界線とも言えるわね」
「…………」
「別に場所の名前はどうでもいいわよね。無我の境地でも、深層領域でも、
「……決まった名前は特にない。ってことか?」
「そうなるわね」
……つまり、この世界はオレの深層領域のようなもので、オレは飲まれそうになったから此処にいる。そういうわけなのだろう。疑問は尽きないが、理解はした。この少女の正体は不明だが、それでも害意のある存在ではないということだ。
「そして、時間切れ。現実の身体が目覚めようとしているわ」
「――――!」
意識が急激に遠くなり、視界が不鮮明になっていく。
朝から風景が夜に切り替わり、世界は暗闇に閉ざされていく。
「また、ね。■■■」
少女の寂しそうな声を最後に、
――ぷつり。
意識は完全に落ちた。
……この作品はインフィニット・ストラトスの二次創作で間違いありません。
間違いないったら間違いありません。
ということで、今回が初のオリキャラ登場(主人公を除いて)です。
……しかも、主人公に深く関わってそうな意味深キャラとして。
彼女は一体何者なんですかね。
ちなみにヘルと名乗った少女が完全に読み取れるのは、表層意識の思考だけ。
深層心理の思考はチラっとしか読み取れない。それでも感情機微程度なら余裕で読み取れるという……。
てか私ってばどんだけ銀髪(白髪)キャラの追加してんねん。