インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
「あー…………」
朝のSHRの後すぐに、一時間目のIS基礎理論の授業が始まったのだが、どっと疲れてしまった。ある程度は理解が及ぶ範囲で助かったが……それでも、所々で不明な点が多い。
(はあ、マジで勘弁してくれ……もう、帰りたいんだが)
やる気を失っている俺の元へ、誰かが訪ねてきた。
「よっす深見」
俺に気さくな感じで話しかけてきたのは、同じ男性操縦者である織斑一夏。イケメンはコミュ力が高いというのは本当だったらしい。平凡で凡庸な俺には出来ない芸当だ。
……まあ、話しかけられたら返事ぐらいは返すさ。面倒だけどね。
「織斑一夏か。なんか用か?」
「数少ない同性だから挨拶しようと思ってな」
「あー、なるほど」
なるほど、という言葉しか出てこない語彙力の低さを許せ。
「それにしても織斑先生の弟か。家でもあんな気が強い感じなのか?」
「いや、家では結構だらしないぞ」
「そうなのか……想像できねぇわ」
「よかったら名前で呼んでいいか?」
急に距離を縮めてこようとする織斑。
ああ、これ次の言葉を先読みできちゃったわ。
どうせ『千冬姉と被るだろ?』とか言うに違いない。
「俺のことは一夏でいいからさ。それに、千冬姉と被るだろ?」
ほら、来た! というか、被ることは被るけど織斑先生のことを呼び捨てにできるわけないし、その論理展開は隙だらけすぎるだろ。まあ、いいけど。
「わかった、一夏」
「おう、よろしくな静馬」
自然と手を差し出してきたので、軽く握手を交わす。
「ちょっといいか?」
そこへ、黒髪ポニーテールが現れた。
どうやら、一夏の方に用事があるらしい。一度もこっち見ていないし。
えっと、名前は何だったか。教科書に似たような名字が載ってたっけ。
……ああ、
こっちから会話を切り出すのは面倒なので、黙って見てることに決めた。
「箒?」
「…………」
あー、
やめてくんない? 空気が重いんですけどー。
耳を塞ぎたい気分になった。
「ちょっと、来てくれ」
「ほ、箒っ?」
一夏は篠ノ之に引っ張られ、どこかへ行ってしまった……。
大丈夫だろうか、アイツ殺されたりしないかね。
まあ、そんなことあるわけもないが。
「ちょっとよろしくて?」
「んあ?」
「まあ! なんですの、そのお返事は! わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というものがあるのではないかしら?」
なんだ、コイツは……。急に傲慢なやつが現れたな。って思ったら隣の席の金髪ロングヘアだった。イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
……名前は席が隣だから覚えていた。別に特別な興味があるわけでもないし、関わりたいとも思っていなかったのだが、まさか向こうからコンタクトを取ってくるとは。
「悪いね、謝るよ……で、なんか用か?」
「貴方の授業態度が目についたのですわ! なんですかあのやる気のない姿勢は!」
机を力強く叩き付け、高圧的な態度で注意をしてくる。
――あ、これ面倒くさいパターンだ。
適当にあしらうつもりだったけど、それは逆効果になってしまいそうだ。ではどうするべきか、それは簡単だ。こういう手合いは妙に承認欲求が高く、それが地位的に劣っているはずの男性であろうとも自分を高く見せたくて仕方がないのだ。
つまり、俺は真摯に言葉を受け止めながら相手にとって都合のいい言葉で返事をすればいいだけなのだが……ほんと、面倒くさい。
「えっと、授業内容が難しくてね。ほら、俺って男だろ? 本来なら男はISには乗れない……それが常識だったわけで、いざISのことを学べと言われても難しい。だからさ、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットさんが教えてくれないか?」
――これが模範解答じゃないか?
仮にこの提案を断られたとしても、こちらは特に困ることはない。そして、セシリア・オルコットが直接教えてくれるのであれば、メリットしかないはずだ。まあ、彼女の性格が少しデメリットかもしれないが。
「……そうですわね、このわたくしが特別に教えて差し上げますわ!」
「ああ、助かる」
「なんてことないですのよ。優秀であるわたくしが、無知な人間に教えるのは当然の務め。入試で唯一教官を倒したのですから!」
「すげえな、俺なんて瞬殺だったぜ」
そこだけは本当に尊敬する。入試の内容は全部で三つあった。一つ目の簡易適性試験は、本当に簡単なものでIS適性ランクが測れるというものだ。
二つ目は筆記試験。一般的な高校入試問題で、どの学校でも行っているやつだ。当然、ここで躓く人間はふるい落とされるのだが……男子は例外中の例外だった。俺は全問白紙で答案用紙を提出したのである。しかし、普通に合格してしまった。理由はたぶん、貴重な男性適性者のサンプルを学園側が欲しているからと思われる。……できれば、その段階で不合格にしてほしかった。
で、最後の試験が先程セシリア・オルコットが言った教官との模擬試験である。まあ、結果はさっき言ったように瞬殺。時間にして30秒も掛からなかったのではないだろうか? どちらにせよ、俺は負けてしまったのである。というか、セシリア・オルコットが唯一という時点で、俺に勝てる見込みはなかったわけだが。
「教えてもらうのは放課後とかで問題ないか?」
「ええ、問題ありませんわ」
と、そこで予鈴のチャイムが鳴る。
「また後で来ますわ……あら、席が隣でしたわね」
……少し天然が入ってるのか? それとも実は緊張していたとか?
そうだとすれば、傲慢な彼女も少しは可愛く見えるというもの。
◆
二時間目は、副担任である山田先生が担当していた。
山田先生は教師に似合わぬ見た目をしているが、教科書をすらすら読み上げる山田先生の姿は、まさに先生である。……できれば、もう少しだけテンポを落としてほしいと思う。一夏なんて教科書を捲るだけで精一杯の様子。俺も人のことは言えないが。
(帰りてぇな……)
頬杖をつきたいながら、外の景色を眺めるのに時間を費やしたいが……隣の視線が痛い。
サボらないから鋭い視線でこっち見るなって。
「織斑くん。何かわからないところがありますか?」
あからさまについて行けてるか怪しい一夏に山田先生が尋ねる。
「わからないところがあれば、言ってくださいね? なにせ私は先生ですからっ」
心なしか、山田先生は先生であることに胸を張っているように見えた。
山田先生は自分の容姿にコンプレックスでもあるのだろうか? たしかに、生徒からは『先生って先生っぽくありませんよねー』なんて言われてても不思議ではない。
そんな可哀想な先生を、更に可哀想にする発言が一夏の口から飛び出してきた。
「全部わかりません」
「ぜ、ぜ、ぜんぶ……ですか?」
ああ……可哀想な先生。まさか自分の授業を『全部わからない』と、バッサリ言われるとはまったく予想もしてなかったんだろう。
つか一夏、全部わからないのか。今話してたのってアラスカ条約っていう条約の内容だぞ? 少しぐらいは理解できるだろうが。
俺の中で一夏が馬鹿であると確定した瞬間だった。
「え、っと……織斑くん以外でわからないところある人いますか?」
山田先生は周囲を見渡し、皆に確認を取る。しかし、誰も手を挙げる生徒はいなかった。つまり、一夏以外はみんな理解が及んでいると見て間違いないだろう。そりゃあそうだ。男子である俺はともかく、女子は入学する前から前もって予習してきてるだろうからなあ。
手を挙げなかった俺に対して、一夏とセシリア・オルコットが非難するような目で見ていた。
(一夏はともかく、セシリア・オルコットはどういう意図だ……? まさか、理解してないのはお前もだろ! っていうことか? ……嫌だよ、手を挙げるなんて。目立つじゃないか)
俺は一夏たちから目を逸らす。それを一夏は裏切られたと勘違いし、セシリア・オルコットは理解が及んでいるのだと認識したらしい。……悪いな、面倒なことは嫌いなんだ。
「おい、織斑。入学式前の参考書は読んだか?」
織斑姉はそんなものを弟に渡していたのか? それがあってなお、理解できなかったということか?
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パシーンッ!
「必読と書いておいてやっただろうが馬鹿者」
うわあ、漫才だこれ。てかあまり頭を叩くと、脳細胞が死滅するぜ?
……電話帳と間違えるってどういうことだ? そんなに部屋が散らかってたのか?
「後で発行してやるから一週間以内で覚えろ、いいな」
「い、いやぁ、一週間であれはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい」
まあ、これは一夏の自業自得だわな。
織斑姉は、小さく溜息を吐いてから口を開いた。
「ISはその機動性、攻撃力、防御力と既存の兵器を遥かに凌ぐ。そういった兵器を深く理解せずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。覚えろ、そして守れ。規則とはそういうものだ」
まさに正論。ぐうの音も出ない。
自動車だって当たり前のような知識を頭に叩き込むのだから、ISだって例外ではない。
そんなことは、一夏にだって理解できてるだろう。が、一夏は『望んでここにいるわけではない』と思っている様子。ああ、それも正解だよ馬鹿野郎。俺だって、こんな場所に来たくなかったさ。
「貴様ら、『自分が望んだ結果ではない』と思っているな」
どうやら、思っていたことが顔に出ていたらしい。おかしいな……努めて平静でいたつもりなんだけどなあ。織斑姉の観察眼が素晴らしいってことかな。
「望む望まないは関係ない。人は集団で生きる生き物だ。それを放棄するのであれば、人間であることをやめることだな」
辛辣な発言。まあ、間違ってはいない。要は『運命だから諦めろ』ってことだ。……ったく反吐が出る言い分だな、ほんと。
「さて、細かいことは放課後にでも山田先生に聞け。さ、山田先生、授業の続きを」
「はいっ!」
山田先生は慌てて教壇に戻ろうとして、転けた。
「う、うー、いたたた……」
……大丈夫か、この先生。
中途半端なところで終わってしまった……。
たぶん、執筆時間よりもサブタイトル決めに時間を使ってしまった気がする。
結局すごい無難なところに落ち着きましたが。
さてさて。このあとがきでは今後、作中の内容に対して軽い注釈でも書いていこうと思います。
*静馬のIS適性は"A"と少し高めの設定です。