インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
1.生徒会室でのティータイム
俺は生徒会室で紅茶を飲みながら、生徒会役員である虚さんと話していた。
会話の内容は紅茶のことで、主に淹れ方や飲み口の話。今飲んでいる紅茶は、俺が虚さんと代わって淹れた紅茶だった。紅茶の淹れ方はお姉ちゃんから教えられてはいたが、実際にお姉ちゃん以外の人に淹れるのは初の試みだったわけで、虚さんがソーサーを片手にカップを運ぶ様子を凝視していた。
「……あの、そんなに見られると飲みづらいわ」
「あ、すいません」
流石に凝視しすぎだったようだ。
軽く目を逸すが、視界の角で見るのを忘れない。
「――美味しいです」
「…………お」
その言葉が嬉しくて、俺は内心ガッツポーズを取る。
現実の俺は軽く声を漏らしただけだったが、今年一番と言っても過言ではないくらいには嬉しかった。
やっぱり、自分でやったことが人に肯定されるのは嬉しい。お姉ちゃんに初めて紅茶を淹れた時も、我を忘れる勢いで喜んだものだ。
「普通に私が淹れるよりも美味しいと思う」
「……いやいや、それはないでしょう?」
「少なくとも、本音やお嬢様が気付くことはないでしょう」
「……あー、そう言われると微妙ですね」
確かに。たっちゃんはともかくとして、虚さんの妹である本音は気付かないかもしれない。……てか、俺も気付かない可能性があることは黙っておこう。
「……でも、俺は虚さんの方が淹れるのが上手いと思いますよ。手付きとか、温度管理とか……あとはリーフ分量とかですかね」
「そこら辺は経験の差ですね。静馬君もそのうち気にならなくなるでしょう」
「いつから紅茶を淹れてるんですか?」
「幼少の頃からです」
「そうでしたか」
「静馬君はいつから?」
「あー、俺は三年前ですかね」
「……さ、三年前」
三年前という言葉がやたらと響いた様子の虚さん。一体どうしたのだろうか。だから拙いんですね。ってことだろうか。まあ、仕方ないとは思う。俺が紅茶を淹れるようになった原因はお姉ちゃんだ。ある日、高校から帰ってきたお姉ちゃんが突然言ったのだ『静馬。お姉ちゃんと紅茶しよう』と。もちろん、お姉ちゃんに紅茶を淹れた経験はなかったはずで、最初に淹れた紅茶はそれはそれはマズいものだった。……大量生産された紅茶を二人で消化した時にお腹を壊したのも良い思い出だ。だが、俺よりお姉ちゃんの上達速度は早かった。
結局、最後はお姉ちゃんに色々と指導されながら紅茶の淹れ方をマスターしていったのだ。懐かしいな。
「そういえば、今日って二人共いないんですね」
「お嬢様は別件で席を外してて、本音は……たぶん、そこら辺にいるでしょう」
「……別件?」
「詳しいことは聞いてませんが、食堂のメニュー替えの件だったはずです」
「あれって生徒会で何とかなるもんなんだ」
「お嬢様から聞いてませんか? この学園の生徒会は大体のことを企画することができるのです」
「……いや、たっちゃんは大体がからかいモードだから」
「……それは心中お察しします」
本当だよ。昨日もたっちゃんは俺をあの手この手でからかいに来るのだ。別に心の底からやめてほしいわけでもないが、それでも頻度は落としてほしい。毎日やられたんじゃあ身体が持たない。
ちなみに昨日は三択のように見えて一択の選択肢を突きつけてきた。
『わたしにする? わたしにする? それともわたしぃ?』
なんてことを帰ってくるなり言い放ったのだ。本当に痴女なのかと疑いたくなる。しかも、真剣モードのたっちゃんは完全に茶目っ気を見せなくなるのだから困る。
「……まあ、たっちゃんのことはどうでもいいですね」
「……ええ、お嬢様のことはどうでもいいですね」
二人でそんなことを呟きながら、紅茶へと口を付ける。
自画自賛するようでアレだが、紅茶が美味しい。
今回淹れたのは、キーマンという茶葉を使用した紅茶。苦味や渋みが少なく、甘い糖蜜のような甘さが特徴の紅茶だ。個人的に飲みやすい紅茶で人にもオススメしたい。と同時に淹れるのは結構難しく、色々と細かい工程が必要となってくるのだが……今飲んでいる茶葉は安物であるため、そこまで難しいということもない。
「虚さん。なんの茶葉でもいいんですけど、少し分けてもらうことってできます?」
「大量でないなら構わないです」
「あー、50グラムで大丈夫ですから」
「それなら。何の茶葉でもいいんです?」
「……個人的にはディンブラがいいんですけど」
「ディンブラ? 確かあった気がしますので持ってきますね」
「……ありがとうございます」
ディンブラはお姉ちゃんが好きな茶葉。そして、俺の好きな茶葉でもあった。別にお姉ちゃんが好きだから好きというわけではない。本当だ。
ディンブラは万能紅茶とも呼ばれ、ストレートやミルクティーまたはアイスティーといった様々な飲み方ができる優れた茶葉なのである。とある理由でそのディンブラも切らしていたのである。元々結構飲んでいたので、結局は切れていた。買いに行くタイミングもなかったので、そのままにしていたが……。
数分も経たないうちに虚さんが戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「……ん? 多くないですか?」
「別にこれぐらいは構いませんよ? お嬢様がお世話になってるお礼です」
「……そうですか。じゃあ有難くもらいます」
俺は大きめの瓶に入った未開封の茶葉を受け取る。たぶん、500グラム前後だろう。
てか未開封か。この生徒会室は茶葉の貯蔵でもされているんだろうか。
残っている紅茶を飲み干し、テーブルの上にそっとソーサーとカップを置く。
虚さんの方を見てみると、いつの間にか飲み干されていた。
……美味しいというのはお世辞ではなかったのだと言われているようで、嬉しさがこみ上げてきた。
「……そろそろ昼休みも終わるので、俺は教室に戻ります」
「いつでも来てくださいね。いっそのこと生徒会役員にでも」
「それは考えておきます」
考えても生徒会役員になることはないけどね、と内心で付け足す。
だって面倒だし。仕事大変そうだし。
「じゃあまた来ます」
「うん、またね」
別れの挨拶を交わし、俺は教室へと向かった。
始まった新章。ではなく、空白の数週間を扱った幕間の物語です。
比較的短めでテンポ良く更新していこうと思ってますので。
よろしくお願いします。
*キーマンについて。
正式名称は