インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
月曜日の朝。
「ハヅキ社製は最高よね」
「え? ハヅキって性能が低くない?」
「何いってんのよ! デザインが一番でしょ!」
「ええ……。私は性能的にも抜群のミューレイ製がいいと思うよ。特にスリムモデル」
「あー。アレね。ぶっちゃけ高くない?」
「まあ、そうね。でも値段に見合った価値があるわよ」
クラスの女子がISスーツのカタログを手に盛り上がっていた。
ISスーツとは文字通り、IS展開時に装着が推奨されている特殊フィットスーツのこと。もちろん、スーツを装着してなくても展開には問題はない。が、スーツを装着することで得られる効果で伝達速度の向上というものがある。その他にも防弾性や防刃性などもあるのが特徴。ただ、本来ISスーツは女性向けということもあって……男が装着するには色々と不便がある。特に股間部分。しかも生理現象が発生した際には柔らかい生地ということもあって……。
「そういえば織斑君と深見君はどこのスーツなの?」
「あー。特注品だってさ。どこかのラボが試験的に作ったとかなんとか。えー。たしか元はイングリッド社のストレートアームモデルだとか」
「……俺のも特注品だな」
詳しい内容は聞いていないが、作った会社はドイツにある企業であることは知っていた。
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きを各部位に伝達することで機微のある動きが可能になります。また、ISスーツは耐久に優れ、小口径拳銃程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんから注意してくださいね?」
饒舌に説明をしてくれたのは、、山田先生だった。
衝撃は殺せないというのは防弾チョッキでも同じなので、そこら辺は不思議ではない。といっても衝撃をある程度なら殺すことが可能だったりもする。まあ、当たりどころが悪ければ骨折なんてこともありえるわけだ。
「山ちゃん詳しい!」
「一応先生ですから。……え? や、山ちゃん?」
「山ぴー見直した!」
「今日は皆さんのスーツ申込み開始日ですからね。予習は完璧です。えへん……え、山ぴー?」
先生を愛称で呼ぶのはどうかと思うが、この山田先生は仕方ないとも言えた。普段の言動が先生には見えないという点が後押ししているのだろう。それでもやる時はきちんと先生をやれる山田先生は先生として優秀なのではないか?
少なくとも俺はひっそりと山田先生を尊敬している。
「……ちなみにISスーツの機能だが、フィッティングが行われている専用機には量子変換された状態でデータ領域に格納されている」
俺は山田先生の説明に補足を加える形で説明をした。
そんな俺の説明に、山田先生が軽く拍手をしていた。
「流石です深見くん。テストなら満点ですね」
「……どうも。もっとも、ISスーツ展開にはエネルギーを消費するとかで推奨はされてない……でしたよね」
「そうですねぇ。なのでみんなは事前にスーツを装着してからISを使用しましょうね」
「はーい」
俺と山田先生の解説にクラスのほとんどが返事をしていた。
「深見くんの方が先生っぽかったね」
「ええっ!? そ、そんな……」
「……いやいや。俺はただの学生ですよ」
「謙虚なところがまた大人! まーやんも頑張って!」
「ま、まーやん……うう、生徒よりも子供っぽいなんて……」
……なんだこの流れは。
俺は悪くないはずなんだがなあ……。
「と、とりあえずですね。先生のことはちゃんと呼んでください。わかりましたか?」
「はーい」
返事だけは良いクラスメイトの女子たち。
先生ってなんだかんだで疲れる職業だよなあ……ストレスとか心労が半端ないだろうし。
「諸君、おはよう」
清々しい顔で教室に現れたのは、このクラスの担任である織斑姉。
がやがやとしていた教室が一斉に静まり、姿勢の低い感じで挨拶を返すクラスメイト面々。
これがIS学園の一年一組担任織斑千冬の威厳とカリスマ性だった。大変素晴らしいが、その挨拶はどうにかならないのだろうか……。
「今日からは本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるが、ISを使用した訓練であることを頭に入れておけ。各人のISスーツが届くまでは学園指定のものを使うのでな。忘れるなよ? 忘れたら代わりに指定水着で訓練を受けてもらうからな。ああ、それすらも忘れたやつは下着でも構わんだろう?」
平然とした顔でとんでもないことを言い出す。まあ、このクラスには男子がいるという前提で言っているんだと思う。流石に男子の前で下着で訓練を受けることを良しとする女子はいないだろうし。きっと、女子は忘れないことを心に誓っただろう……。これで俺や一夏が忘れたら笑える……笑えないぞ。一生変態のレッテルを張って過ごすことになるだろうことは目に見えている。
ちなみに指定水着はスク水のこと。しかも、絶滅したと思われる旧スクがIS学園では指定水着として選ばれている……絶対に学園上層部の人間は好き者の集まりだろうな。体操着もブルマーだし。
ISスーツも似たようなもので、スク水によく似たレオタードのようなもの。もっとマシなデザインはなかったのだろうか? 人体に限りなくフィットさせるという意味では必要な措置なのかもしれないが。
「では山田先生」
「は、はい!」
山田先生が慌てたように返事をして、いつも通りにHRの進行をバトンタッチされる。
「……ええと、ですね。今日は転校生が来ています! それも二名の生徒です!」
「……は?」
「「「えええええええっ!!?」」」
俺の間髪入れない間の抜けた声の後、クラス中が一気に驚きの声を上げた。
当たり前だ。一切の噂話が立つこともなく、唐突に宣言された転校生という単語に噂好きの女子が反応しないわけがないのだ。もちろん、そんなのは関係なしに俺も驚いた。まさか、このタイミングで転校生とは。それも二人だ。
(……いや、おかしいだろ。このクラスに生徒が密集しすぎだバカ)
学園長は何を考えているのだろうか。織斑姉がいるからという安直な理由だったりするのか?
そんなことを考えている内に、教室のドアが開いた。
「失礼します」
「……………」
まるで織斑姉が教室に入ってきた時と同じように、クラスが静寂に包まれた。
チラっと周りを見てみれば、皆同様に放心している。セシリアでさえぽかーんとしている有様。
何故ならば、入ってきた生徒のうち一人が――男子だったのだから。
しかし、俺が驚いたのは男子の方ではなく、もう一人の生徒の方だった。
――その顔を見た瞬間、俺の鼓動が跳ねた。異常な速度で心臓が跳ね、全身が焼石のように熱くなる。
あまりの脈動に心臓を押さえる。
――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――
(なんだ……これは……っ)
周りから切り離され、俺だけが取り残されたような感覚。
まるで、俺だけがスローモーションになったかのような……。
「はあっ……はあッ……!」
その感覚は徐々に収まり、周りの時間が普通に戻り始める。
そんな様子の俺にクラスの誰も気付く様子はない。
さて。俺が見た生徒は銀髪の美少女だった。
輝くような銀髪が腰元まで長く伸びている。あまり整えられている風ではなく、所々にクセ毛やら寝癖のようなものが見て取れる。左目には黒眼帯。某ゲームの大佐が付けているような眼帯だ。右目は俺のお姉ちゃんと同じく血の一滴みたいな赤い瞳。その瞳に宿す温度差は似ても似つかない。圧倒的なまでに冷酷な印象を持たせる冷たい瞳をしている。まるで周りが全て敵であると断言しているかのような。
その印象から想起させるのは、まさに『軍人』という他にないだろう。しかし、軍人にしては彼女の身長が些か低いようにも思える。隣にいる男子と比べてみると、彼女の身長が150センチ未満であるように見える。しかし、高校一年生の平均身長としては妥当なのかもしれないが。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
転校生の一人である男子がにこやかな笑みを浮かべて言う。
その様子はまるで『男装の麗人』といった感じだ。彼に直接言えば怒られてしまうかもしれないが、それほど彼の顔は美形な男子だったのだ。最初に男子と言われていなければ、女子だと勘違いしてしまいそうな程でもある。
「……男?」
俺ではない誰かが呟く声が聞こえた。
「はい。こちらには僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入をさせていただきました」
――男装の麗人ではなく、正確に言うならば貴公子がピッタリだろう。礼儀正しく、落ち着いた口調。そのどれもが貴族を想起させる。貴族特有の嫌味っぽさはなく、どこまでも気さくな少年の姿だった。
そんな男子の姿に、クラスの女子が反応しないわけもなく――、
「っきゃあああああああああ――っ!」
耳が割れんばかりの黄色い声が教室中に響いた。
「男子!」
「しかもうちのクラスよ!」
「美形……仕えて欲しい……」
「ああ! このクラス最高よ~~!」
「もう死んでもいいくらいだわ!」
……それはダメだろ。
「騒ぐな。静かにできんのか……」
面倒くさそうにに織斑姉が言うが、静まる様子はない。流石のカリスマ性や威厳もこういう場では役に立たないらしい。その様子に織斑姉は心底嫌そうな顔をしていた。
「み、みなさん! まだ自己紹介が終わってませんから! 静かにしてください」
織斑姉の次は山田先生。流石はみんなと一番親しんでる先生ということもあって、生徒たちは落ち着いていく。
まだ自己紹介は終わっていないのだ。俺として銀髪の少女のことが知りたい。理由はわからないが、
「………………」
当の本人は射殺さんばかりの瞳で沈黙を貫いている。心なしか教室の温度が下がっていくような錯覚まで覚える。
「……はあ。挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
軍人ような敬礼を織斑姉にしてから、ラウラと呼ばれた転校生が教団の上で肩幅まで脚を広げて立つ。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではない。ここでは先生だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解」
そんなのが横にいるにも関わらず、シャルル・デュノアはにこやかなな笑みを浮かべている。俺個人としてはその笑みの方が怖いような気もするが。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
(ラウラ……ボーデヴィッヒ……)
心の中で呟いてみた。何故か妙にしっくり来る名前で、不思議と悲しい気持ちになってきた。
「い、いい、以上……ですか?」
「以上だ」
実に簡潔な自己紹介だった。それ以上もそれ以下もない。
自己紹介を終えたラウラが、一夏の姿を見つけた。
「……! 貴様が――」
殺気じみた瞳で一夏を射抜く。一夏は不思議そうな顔をしているが、俺には相当な殺気が感じられた。
今まさに殺そうってほどの殺気を……。
すたすたと歩き、一夏の前で――
パッシーンッ!
予備動作を感じさせない無駄に軽やかな平手打ち。
一夏の方は真っ赤に腫れ上がり、殴られた一夏はぽかんとした顔をしている。
それは他の生徒も例外ではなく、全員が一夏のように呆けていた。
「私は認めない! 貴様があの人の弟であるなど、断じて認めるものか!」
静かながらも強い意思がこもった言葉だ。
「いきなり何しやがる!」
「ふん……っ」
その場で翻し、空いている席に向かってすたすたと歩き出した。
空いている席――それは俺の後ろの席であり、必然的に俺の横を通ることとなる。
「……貴様、なんだ」
じっと見ていた俺にラウラの瞳が射抜く。
「……俺とお前って会ったことがあるか?」
「貴様のような人間にあったことなどない」
「……そうか」
「ふん」
会話も終わり、ラウラは俺の後ろの席へと座った。
……本当に会ったことがないんだろうか。
それはわからない。わからないが、オレはラウラのことが何故か放っておけない。そんな気がしたんだ。
この出会いが、俺の運命を大きく変える出来事であることを俺はまだ知らない――
◇
"運命"からは逃げられない――
オレがオレである限りは、決して、逃げられない。
第三章のヒロイン候補であるラウラ・ボーデヴィッヒの登場回です。
ISスーツの説明も挟みましたが、あのスーツってフィット感が売りなわけで……大きい胸の人でも窮屈な感覚がないように設計されてると思うんです。感覚としては「肌」のような感触なのではないかな? って。
だとしたら、男性的象徴であるナニはどうなるのだろう。
……うーん、勃った日にはヤバいこと間違いなしでしょうね。
まあ、そこら辺は心の目で補完してください。
*静馬のISスーツはドイツにあるバルドル社が静馬のために作った特注品。静馬のISとは別会社。カラーリングは漆黒に真紅のラインが入っている。