インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
「なあ、ラウラって留学生のこと知ってるか?」
「突然どうしたのよ?」
俺は自室に帰ってくるなり、ベッドの上でくつろいでいる生徒会長であるたっちゃんに尋ねた。
ラウラ・ボーデヴィッヒとは、本日、IS学園へと留学してきた銀髪の美少女で、一夏に全力の平手打ちをかました話題の生徒だ。実際、貴族然としたシャルル・デュノアといい、ラウラといい、色々と女子の話題に事欠かない生徒たちだ。
しかし、俺が気にしているのはそんな一般的なことではなく、ラウラという人物の詳細についてだ。それも生徒会長としての役職柄知っていそうな情報……それが俺は知りたかった。
そんな情報をどうして俺が知りたいのか、それはわからないが……俺はどうしてもラウラのことが気になっていた。
「……突然って今日入学してきた留学生の話だぞ?」
「それならもう一人いるじゃない?」
「まあ、そうだが……。アレだ。もう一人はともかく、ラウラの方は口が固そうでな」
「だから知りたいの?」
「ああ」
「でもダーメ。そんなの個人情報よ」
そりゃそうか。タダでは教えてくれるわけないか。
「では……どうしたら教えてくれる? 出来ることなら何でもしよう」
「何でもしてくれるの?」
「……嫌な予感はするが、大抵のことなら何でも、な」
「そうねぇ……」
そう言って、たっちゃんはニヤニヤと笑いながら、首を傾げて考え始める。口から出てくるのはろくでもなさそうだ……。
「おねーさんとしては、可愛い後輩のお願いは聞いてあげたいのよねぇ……」
「だったらタダで教えろ」
「それはダメよ。可愛い子には旅をさせよって言うじゃない?」
何だか使い方が間違っているような……。いや、自分で苦労して情報を手に入れろってことなのか。
「というか、だな。俺とお前ってタメだろ」
「今は一年生と二年生じゃない」
「正直に言うと、全くこれっぽっちも先輩には見えない」
「なにそれひどくない!?」
だって、そうだろ? 出会ってから既に二ヶ月近く経つが、俺の知っている生徒会長更識楯無という人物は色々と自由奔放な人だ。出合い頭に裸エプロン的なやつで迎え入れるし、人の布団には茶目っ毛たっぷりで潜り込んでくるし、生徒会業務は抜け出すし……。これでどうやって先輩を感じろというのか。むしろ、後輩のような気がしてならない。いや、後輩というのもどうだろうか。精々が同学年の女子という立ち位置が一番正しいだろう。
「いいわよ別に。おねーさんだから、後輩の酷い発言くらい華麗に受け流せるのよ」
「すごいですね先輩」
「うわ……こんなに気持ちのこもってない先輩呼びは始めて聞いたわよ……」
だってこれっぽっちも思ってないから。
「で、先輩。どうすれば教えて下さるのでしょうか?」
「……まずそれをやめて。ちょっと怖いから」
「はあ。わがままだな、たっちゃん」
「納得がいかないけど……まあ、いいわ」
何か思うところがあるみたいだったが、嬉しそうに笑顔へと切り替えるたっちゃん。
「じゃあこうしましょうか。ラウラちゃんの情報を教える対価として、静馬くんの情報を貰うということで」
「俺の情報?」
「そ。静馬くんの情報と同じような情報だけ教えるわ。それでどう?」
"対価"と描かれた扇子を広げ、得意気に言うたっちゃん。
つまり、こういうことだろうか。俺が名前を教えれば、ラウラ・ボーデヴィッヒという情報を教えてくれるというわけか。
「……たっちゃんが濁すという可能性は?」
「あるわね。それなら聞くの諦めればいいわ」
「……まあ、いいけどな。っと、その前に……」
「まだ何かあるのかしら?」
「いや、別に重要なことじゃない」
そう言って、俺はカバンからある物を取り出す。
それをたっちゃんに渡した。
「あ、弁当箱」
「悔しいことにめちゃくちゃ美味かったぞ」
本当に残念なことに美味かったのは事実だ。セシリアの後ということもあったかもしれないが、俺には非常に美味しく感じたのだ。こればっかりは嘘ではない本音だ。
「悔しいって何よ!?」
「そのままだが? それに美味しいのは嘘じゃないからな」
「その一言が聞けたし満足しますか」
「上からだな」
「おねーさんですからー」
「あっそ」
残念ながら、俺はたっちゃんの弟ではない。別に残念ではないが。
お互いの話(この場合は俺とラウラの話)で長くなりそうだったので、俺は二人分の紅茶を淹れることにした。今回使ったのは前に虚さんから貰ったディンブラだ。
「さて。たっちゃんが知ってるような情報はわざわざ言わなくてもいいよな?」
「いいわよ」
許可を得たので、簡単な情報から聞いていくことにする。
「ラウラはIS学園に来る前はどこに居たんだ? 予想では軍関係だと思ってるが」
「ええ、その予想で間違ってないわ。ドイツ軍IS特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長ね。ついでに言うと、階級は少佐ね」
「……それはすごいな」
たしか、少佐は日本の陸上自衛官で言うところの三等陸佐に値する階級で、簡単に言うとエリートだ。それも特殊部隊の隊長を任されているのであれば、ラウラの実力は折り紙付きだろう。であれば、どういった理由でIS学園に入学してきたのだろうか……? 隊長であるなら学ぶことなどないだろうに。
「ちなみに『シュヴァルツェ・ハーゼ』はどういった部隊なんだ?」
「何ってドイツ軍の女性で構成されたIS特化の部隊よ?」
「いや、それならドイツ軍IS部隊でいいんじゃないか? わざわざ特殊部隊と付いている以上は特殊な何かがあるんじゃ?」
「むー、鋭いわねー」
たっちゃんがおどけた声で不満そうな顔をする。しかし、実際には作った偽の顔であることを俺は理解していた。これが人心掌握術というやつだろうか。違うか。
「実のことを言えば、特殊部隊なだけあって軍の機密だから深くは知らないのよね。彼女たち特殊部隊が何らかのIS適性処置を受けていることは把握してる。これでどう?」
「特殊措置か。IS適性値をワンランク上げるような感じか……」
一体どんな措置なのか。それはわからないが、これ以上深く聞くのはマズいと感じていた。その先を知ってしまえば、
ざわついた心を落ち着かせるように、紅茶を軽く口に含んだ。そうして、俺は
「『シュヴァルツェ・ハーゼ』については理解した。まあ、あまり深く踏み込んで裏の陰謀に巻き込まれても困るしな。何より面倒だ」
「危ないとかじゃなくて『面倒』って言うのが静馬くんらしいわね……」
「そりゃ危ないって気持ちも多少はあるけどな。だけど危なくなったら守ってくれるんだろ?」
「ほんと可愛くない後輩ね……」
俺が満面の笑みでそう言うと、たっちゃんは苦笑いで返事を返す。
一体全体可愛くない反応なのはどちらなのだろうか。
「次の質問だけど、ラウラと一夏の間にどんな関係性があるんだ? ああ、あと織斑姉との関係性も」
「その質問に答える対価として、貴方のことを先に聞くわね」
「ああ、そういう約束だからな」
どういう質問をされるのかはわからないが、同じような情報を対価とすると言っていた。つまり、俺と誰かについての関係性だろうか。
「じゃあ聞くけど、静馬くんとラウラちゃんはどういう関係なの?」
「は?」
「だから静馬くんとラウラちゃんの関係よ! だっておかしいじゃない? 最初は口が固そうって理由だったけど、そんなの静馬くんらしくないじゃない」
「俺らしくない……?」
それはいったいどういうことだろうか? 俺がラウラのことを気にするのが変なのだろうか。俺としては当たり前のことなんだが……。
「そうよ。だって静馬くんって来る者は拒まずだけど、去る者は追わずなとこあるじゃない? 気付いてないの?」
……言われてみれば、そんな気がしてきた。
今のところラウラとは一切関係性がないといっても過言ではない。それどころか、ラウラの方は俺を有象無象の一人としてしか捉えていないだろう。それなのに、俺はラウラのことを知ることが
それは何故だ? 傲岸不遜な態度を取り、クラスから浮きそうな生徒だからか?
――いや、違う。
ではクラスメイトである一夏を遠慮なく平手打ちしたからか?
――それも、違う。
ラウラが美少女だからか?
――それも否だ。
ではどうして俺はラウラのことを気にかけている……?
俺が気にかける理由はないのではないか?
「……っ、ぅ……」
「ちょっと、静馬くん大丈夫?」
頭が痛い。寒気がする。吐き気がする。目眩がする。
――もう何も、考えたくない。
だと言うのに、俺はその先の答えを探していく。重く感じる頭を必死に回転させ、思考を加速させていく。それに比例して頭の痛みが増していく。たっちゃんの心配するような声も、顔も、視界に入る色彩も、何もかもが失せていく。にも関わらず、俺の身体だけは認識できていた。
まるで、この世界にいるのは俺だけなのではないか。
そう錯覚させるほどに、の思考は深く、更に深く潜り込んでいく。
「――――」
これ以上は危険だ。まるでそう言わんばかりの耳鳴りが脳内に響く。
もう、少しだ。あともう少しで……オレは……。
――
耳鳴りに混じり、どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
つい先日、いや……それよりも前に……聞いたことのある声が……。
たしか、名前は――。
『適合率50パーセントを突破。これより
無機質な声が淡々とそう告げ、オレは記憶の扉を開いた瞬間、
『アボート』
その声と同時に、意識を強引に現実へと引き戻された。
「――静馬くん大丈夫!?」
オレが現実に引き戻され、最初に見たのはたっちゃんの心配そうな顔だった。
(たっちゃんでもこんな顔するんだな……)
「あ、ああ……大丈夫。たぶん、大丈夫だ。オレは問題ない」
「本当に? ちょっと顔を見せて」
目眩のせいでクラクラしていたが、言われたようにたっちゃんへ顔を向ける。
ほんの一瞬、本当に一瞬だけたっちゃんが驚いたような顔を見せた。
すぐにいつも通りの顔に戻り、「大丈夫そうね」と呟いていた。
「悪いな……話の途中で……」
「私は全然構わないわよ。そんなことより、今日はもう寝た方がいいわね」
「そう、だな……なんか一瞬で疲れた」
何もしていないのに、身体の疲労が半端ない。おまけに精神的な疲れも同時にオレを襲っている。明日に響くし、すぐに寝た方がいいだろう。
――それに、必要な情報は得た。
「今日こそは一緒におねーさんと寝ましょう♪」
「――そうだな。一緒に寝るか」
「へっ?」
間の抜けた声を上げ、きょとんとした顔をしているたっちゃんに構わず、オレはたっちゃんの手を引いて、布団の中へと引きずり込んだ。
「きゃっ。ち、ちょっと静馬くんっ!?」
オレの腕の中で、なにやらじたばたと暴れるたっちゃんを両腕で抱き締め、身体を密着させながら器用に足で掛け布団をかけた。
いつもは断っていたが、こういう日も悪くはないだろう……。それに、たっちゃんはすごく抱き心地がよかった。
「こ、こらっ。静馬くんってば!」
「んー? オレはもう眠いんだが……」
「いやいや! 本気!? 本気でこのまま寝るつもりなの!?」
「もちろん……。いつも断ってたし、本当は一緒に寝たかったんだろ……?」
眠気に抗いながら、返事を返す。
「こ、このパターンは想定外というか……その、うう……」
「…………」
「き、聞いてるかな静馬くん!?」
「…………」
「あ、あれ……? も、もう寝たの!?」
声だけは聞こえていたが、意識がもう完全に落ちかけていた。喋るのも怠く、適当に聞き流す。
「っ……ぅう、優しいのに拘束が取れないんだけど!?」
そんな声を最後に、オレの意識は眠りへと落ちていった。
この日、オレは珍しく深い眠りにつくことができたのだった。
お久しぶりです。前回から間が空いてしまいましたが、
この小説のことを覚えていますか? 覚えていたのであれば、幸いです。
静馬くんの一人称が「俺」から「オレ」変わっているのは、仕様ですので。