インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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7.遺伝子強化試験体

 

 朝の気配を感じ取り、意識が夢の中から浮上していく。

 いつもは気怠げな朝だったが、今日の朝は妙にスッキリとしている。

 気持ちいい朝の訪れだ。そう感じて、オレは布団を剥ごうとする。が、違和感を感じた。

 

(ん……?)

 

 オレは何かを抱き締めていた。その正体を把握するべく、ゆっくりと瞼を開いていく……すると、オレの目前にはたっちゃんがいた。

 

「…………」

「…………」

 

 目が合った。やや顔が赤く、睡眠不足のような瞳のたっちゃん。

 十秒。二十秒。三十秒――そして、一分もの間を見つめ合い、オレはようやく言葉を発したのだった。

 

「……おやすみ」

「いい加減に起きてよ!?」

 

 頭突きが入り、オレは一気に意識が覚醒した。

 

「ったぁ……静馬くん石頭すぎ……」

「アホか。オレの方が痛かったわ……だがまあ、目は覚めた」

「そ、そう……?」

「ああ……。で、この状況はなんだ?」

 

 オレは気になっていた疑問を率直に投げかけた。

 すると、たっちゃんが不機嫌そうな顔で言う。

 

「あ、あのねぇ……これは静馬くんがやったのよ! おかげで寝不足なんだけど?」

「はあ? オレがお前を優しく抱き締めながら、安眠してたとでも?」

「ええそうよ!」

 

 テンションの高い様子のたっちゃん。朝からうるさいやつだな……。

 そう思いながら、オレは抱き締めていた腕を離す。

 

「あー。めっちゃ肩が凝ってるなあ……」

「それはこっちのセリフなんだけど!?」

「落ち着けよ。オレと寝たかったんだろ? だったらいいだろ」

「想定していたパターンと全然違うのよ!」

 

 ああ、いつも以上にうるさいなあ……。何が問題なのやら。

 というか、オレはオレでどうして抱き締めて寝てたんだっけ……。

 いつも以上にクリアな頭で、昨日のことを思い出す。

 

(ああ、たっちゃんの言葉に従うままに寝たんだったか)

 

「やっぱりお前が悪いんじゃねえか」

「何がよ!?」

 

 適当に相槌を打ちながら、朝の支度を済ませる。

 

 

 ◇

 

 

 

「お前とメシを食うのって始めてか?」

「ええ、そうね。私は基本的に生徒会室で食べてるから」

 

 起きたら既にいなくなっているのは、そういう理由だったのか。

 オレが抱き締めて寝ていた件を水に流す条件として、たっちゃんが出したのが『朝食を共に摂る』ことだった。

 ぶっちゃけ、オレはそんなに悪くないはずなんだが……いつもの冗談に乗ってしまったオレも悪いこと悪いので、付き合うことにしたのだった。

 

「それにしても意外と食べるんだな」

「そう?」

「女子ってのはパンしか食べないのかと」

「朝はちゃんと食べた方がいいわよ。って朝からラーメンはどうなのよ」

「美味しいだろ」

「財布がピンチなんでしょ」

「ぐっ……」

 

 痛い所を突かれる。

 

「仕方ないわねー、今日はおねーさんが出してあげる♪」

「そうか? サンキュー」

「遠慮ないわねー。普通だったら『いや、遠慮する』とか言うところじゃない」

「据え膳食わぬは男の恥ってやつ」

「もう静馬くんはえっちなんだからぁ」

「本当の意味で喰うぞ」

 

 オレが真面目な表情で言うと、たっちゃんが固まった。顔が徐々に赤くなり、食べごろのイチゴのようになっていた。

 

「先輩をからかうなんて悪い子ねー」

「たっちゃんにしか言わないって」

「うっ、えっ!?」

 

 持っていた箸を落とし、驚きの声を上げている。

 当たり前だろ。他の人にそんな変なこと言えるわけない。そんな軽口が言えるのは、似たようなことをしてくるたっちゃんくらいなもんだろう。

 

「そ、そう……なの。あ、あはは」

「なんか今日のたっちゃんは色々とおかしいな」

「どれもこれも静馬くんのせいなんだけど!?」

「いや、人のせいにされても……」

 

 そんな風に周りの迷惑も考えずに、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるたっちゃんの相手をしていると、誰かがオレたちの席に近づいてきた。

 

「賑やかね……静馬」

「悪いな、ティナ。コイツがアホみたいにうるさくて」

「コイツって何よ! しかもアホって……静馬くんは一体どんな目で私を見てるのよ」

「痴女。人をからかうことでしかコミュニケーションのとれない女子。そのくせして突発的なアクシデントに弱い。」

「う、ぐっ……ぅ」

 

 我ながらなんて的を射た発言なんだろうか。

 そんなオレたちに、ティナは若干呆れた顔をしてる。

 

「悪い悪い。この人は我がIS学園の生徒会長で、更識楯無だ」

「こほん。初めまして、ティナちゃん。生徒会長とか気にせず、フランクに接してくれると嬉しいわねー」

「ど、どうも……初めまして」

 

 流石は生徒会長。咳き込む一つで完璧な笑顔に戻れるとは……プロいな。

 

「ん。おねーさんは生徒会業務があるから、二人でゆっくりと朝食食べなさいな。あ、静馬くんお金はここに置いとくから」

「生徒会業務? そんなのあったのか?」

「あ、あったのを思い出したのよ!」

 

 慌てるように席を立ち、お金を置いてその場を去っていく。

 ……生徒会業務を忘れるなよ。というか、朝食食べる前に「今日はフリーなのよ」とか言ってたような?

 まあ、いっか。

 

「で、ティナはこれから食べるのか?」

「あ、うん」

「じゃあオレも付き合うわ」

 

 既に食べ終わっていたが、せっかくなのでティナと会話しながら朝の時間を潰すことにした。

 

 

 ◇

 

 

 午前中の授業が滞りなく終わり、昼休みの時間。

 昼食は手短に購買のあんパン(こしあん)とたい焼き(クリーム)で簡単に済ませた。

 簡単に済ませたのは、別に財布が寂しいからなどではなく、昼休みの時間に済ませておきたいことがあったからだ。

 そのために、オレはIS学園の射撃場を訪れていた。学園の射撃場は全部で三箇所あり、そのうちの一つはIS用の射撃場だ。あと二箇所は室内射撃場と野外射撃場。そして、オレがいるのは室内射撃場だ。

 

 ここで補足説明しておくと、IS学園では全生徒が基本的に銃の所持を許されている。とはいっても、安全や管理の問題から利用する生徒は射撃場の使用申請書のサインが求められるのだが、その使用申請書も形だけのもので、余程の問題がなければ申請が通るようになっている。まあ、ISに生身の人間が持つ銃よりも規格の大きいものを標準装備しているわけだし、そこまでおかしい話でもないだろう。

 

 オレは射撃をするわけでもなく、適当に射撃場を歩く。

 ほとんど誰も利用していないのか、オレはすんなりと目的の人物を発見した。

 その人物は、イヤーマフを装着し、ストレスを発散させるかのように熱心に射撃を繰り返していた。

 その手に握られているのは、汎用自動拳銃だ。製造国はドイツで、.45ACP弾にも対応している。そして、彼女が握っているのは明らかにタクティカルモデルであることがわかる。その理由はサプレッサー装着可能のネジが付いていることだろう。まさにドイツ軍IS特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長にふさわしい装備だと言える。

 

 そんな風にオレが観察していると、観察対象だった彼女がオレの存在に気付く。しかし、オレのことはどうでもいいのか、こちらを向きもせずに言葉を投げかけてきた。

 

「貴様……何の様だ」

「久し振りだな、ラウラちゃん」

「馴れ馴れしく呼ぶな。何も用がないのであれば、さっさと失せろ」

「そんなツンケンすんなって。可愛さ半減だぞ」

「…………」

 

 オレのからかうような態度に、ラウラは付き合いきれんといった感じで返事をやめてしまう。オレとしてはコミュニケーションを取りたいので、ラウラが食いつきそうな話題で釣り上げることにした。

 

「――織斑一夏」

 

 その名前にラウラの肩が少しだけ反応したように見えた。

 

「――織斑千冬」

 

 さっきよりも大きく揺れる肩。

 

「遺伝子強化試験体」

「貴様……」

 

 オレが発した決定的なワードにようやくラウラが振り返る。

 完全に警戒されており、今にも噛み付いて来そうなほどだった。

 

「ようやくこっちを見てくれたな」

「そんなことはどうでもいい! なぜ、私の出自を知っている? アレは機密事項のはずだ……!」

 

 遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)

 人工合成された遺伝子から作り出し、戦闘を想定して生み出された生体兵器。

 その身体は完全に戦闘用に調整されており、ありとあらゆる格闘に対する知識が備わっている。それがラウラ・ボーデヴィッヒという少女だ。本来の正式名称は遺伝子強化試験体C‐0037だったか。

 

 ドイツ最強の生体兵器だったが、それも長くは続かなかった。

 

 ISの登場によって、彼女の立場は急変したからだ。

 

『ヴォーダン・オージェ』――所謂疑似ハイパーセンサーを肉眼へ移植処理をされることとなる。研究段階での危険性はなく、失敗の可能性さえもないと言われていた。

 しかし、ラウラの左目に移植処理された『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』は正常に作用しなかった。より具体的に言えば、常に稼働したままで機能をカットできなかったのだ。いくら彼女が生体兵器だからといって、片眼だけが常に高性能センサーとして機能していては、普通に日常生活を送ることでさえ困難だ

 

 そして、ラウラは『出来損ない』の烙印を押されることとなる。

 

「知りたいか?」

「…………」

「先に言っておくが、オレのことは覚えていないか?」

「何を言っている? 私は貴様のことなど知らん」

「まあ、仕方ないことだな。オレも思い出すのに時間が掛かったし」

 

 まあ、完全とは言えないが。

 

「早く言え。貴様は一体何者だ」

 

 仕方ないなあ……そう言葉を零してから、オレは左目に手を当てる。

 片眼が隠れる形になるが、意識的にスイッチを入れるには必要なことだった。

 

 ――片眼に意識を集中させ、神経を繋ぐようなイメージを行う。

 

 そうすることによって、オレの中で一つのスイッチが入った。

 

 ゆっくりと左目から手を離し、オレはラウラに瞳を見せる。

 

「なっ……」

 

 ラウラの顔が驚愕に染まる。

 それも当然だろう。なんせ、オレの瞳はラウラと同じ『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』を宿していたのだから――

 

 オレ、深見静馬の正体は――遺伝子強化試験体なのだ。

 

「知らない……私は貴様のことなど知らないぞ! ふざけた冗談で私を愚弄するな! 嘘だ……お前が……」

 

 急に頭を押さえ、額に汗を浮かべながら狼狽しだす。

 

「落ち着け、ラウラ。思い出せないのなら、別に思い出す必要はない……」

「だ、黙れ……ッ! 私は、私は……!」

「いいから落ち着けって」

 

 そう言って、オレはラウラを軽く抱きしめた。

 たぶん、こうするのが一番だと思ったのだ。本当に思い出せないのなら、思い出す必要性はないのだから。オレだって、昨日のあの時まで完全に忘れていたのだから。いや、正確に言えばオレは完全に記憶を取り戻したわけではない。何か肝心な記憶を忘れている気がする……これ以上考えるのはやめておこう。

 

「オレはお前を知っている。だからといって、お前が覚えていないことは何の問題もない……だって、そうだろ? オレたちが会ったのは、こないだが初めてだ」

「…………そうだ。私は、お前を知らない」

「それでいい。だから、今日からオレたちは仲間だ。同じ『越界の瞳』持つ者同士の」

「そう、だな……」

 

 本当は再会を喜びたい、というのがオレの心境だったが……それはラウラが思い出した時までに取っておこう。

 

 オレはラウラを離し、改めて向き直ってから本当の目的を告げる。

 

「それで話なんだが」

「なんだ? これ以上驚く話があるのか?」

「いや、驚くことじゃない」

「そうか」

 

 一呼吸を置いて。

 

「オレと二人組(バディ)を組んでくれ」

 

 ラウラに右手を差し出し、そう口にした。

 




唐突に明かされる主人公の真実。
とはいっても、明かされていない秘密はまだまだあります。

例えば……主人公がラウラと同じ出自だとは明かされましたが、ラウラとはどういう関係なのか。どうして日本人である静馬が同じ遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)であるのか……などなど。

まあ、急展開感はありますが……今後ともよろしくお願いします。


*汎用自動拳銃について。
正式名称は『Universal ale Selbstlade Pistole(汎用自動拳銃)
製造国はドイツ。製造社はヘッケラー&コッホ。
使用弾薬:9mm x19 Parabellum弾(装弾数:15+1発)
.40S&W弾(装弾数:13+1発)
.45ACP弾(装弾数:8+1発)

ドイツ軍では『P8』という名称で呼ばれており、特殊部隊ではタクティカルモデルが好んで使われているケースが多い。理由はサイレンサーとの相性が非常に良いからである。ちなみにタクティカルモデルでは.45ACPが使用されている。


*二人組(バディ)について
二人組(バディ)とはその名の通り、二人組のことである。
より具体的に言えば、相棒といった感じの使い方もする。
要は『オレと友達になろう』といった感じ。

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