インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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8.シャルル先生

 ――オレと二人組(バディ)を組んでくれ

 

 そう宣言してから、数日が経った。

 ラウラは仕方なしといった感じで、オレの手を握ってくれたのだった。

 しかし、あれからオレとラウラはほとんど言葉を交わしていない。それどころか、オレと行動を共にするのさえ嫌がっていた。納得がいかないので、理由を尋ねたところ。

 

『私は織斑一夏を打倒するという大事な使命がある。教官にふさわしいのは私であると、教えるためにもな。だから、そういうのは全部終わってからにしてくれ。別に二人組(バディ)を解消したわけではないぞ』

 

 と、言っていた。

 ラウラの比較的前向きかつ柔らかい態度にひとまずは納得することにしたのだった……。

 

 そして、今日は土曜日。

 午前中が理論学習の従業で、午後からは完全に自由時間だった。なのだが、土曜日のアリーナは全開放がされているので、シャルルが一夏にIS戦闘のレクチャーをするというので、オレも一緒にレクチャーを受けていた。

 シャルルの説明は非常にわかりやすく、下手をしたら織斑姉よりも説明が上手いのではないだろうか?

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんたちに勝てないのは、単純に射撃の特性を把握できてないからだよ」

「そ、そうなのか? わかっているつもりだったんだが……」

「うーん、知識としては知ってると思うんだよね。さっき戦ったときもほとんど間合いを詰められていなかったよね?」

 

 それはシャルルの射撃能力が高いからだと思う。先の戦闘で見せた『高速切替(ラピット・スイッチ)』はかなりの技だった。十数近くある装備を状況に応じて、瞬時に呼び出せる技術は並大抵の才能じゃない。

 

「うっ……『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』も読まれてたしな……」

「一夏は近接格闘オンリーの機体だから、やっぱり射撃武器の特性はきちんと理解しないと負けちゃうよ。特に一夏は直線的だから、予想もしやすいからね」

「う、うーん」

「あ、でも瞬時加速中の無理な軌道変更はしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力とかの影響で機体に負荷がかかると、骨折したりもするからね」

「なるほど……」

 

 そんな風にオレたちはシャルルが一夏に教えているのを見ていた。

 オレはともかくとして、他の奴らがそんな光景を黙って見てられるわけもなく……。

 

「ふん。私のアドバイスを無下にするからだ」

「あーんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ」

「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら? 静馬さんは理解してましてよ?」

 

 ……二人はともかく、セシリアの教え方はまだマシだな。といっても、初心者に教えるには向いていないタイプだ。熟練者に教えるのならば、もっと効果を発すると思う。

 

「一夏の『白式』には後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

「ああ。何度も調べてもらったんだけど、拡張領域(バススロット)が空いていないらしい。だから量子変換(インストール)は無理なんだって言われた」

「たぶんだけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量(リソース)を割いているからだよ」

「えっと、ワンオフ・アビリティーってなんだっけ?」

「言葉通りだよ一夏。唯一仕様(ワンオフ)特殊才能(アビリティー)。各ISが操縦者との相性が最高に達したときに自然開放される能力のこと」

 

 ちなみにオレのシルヴァリオ・ヴォルフのワンオフ・アビリティーは発現していない。それどころか、一夏以外に発現している生徒はいないはずだ。たっちゃんはどうか知らないが。

「でもね、普通は第二形態(セカンド・フォーム)から発現するんだよ。それでも発現が見えない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の方法で特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズがそれに当たるね」

「なるほど。じゃあ白式のワンオフって『零落白夜』なのか?」

 

 この中での唯一のワンオフ・アビリティーが『零落白夜』だ。

 エネルギーで構成されていれば、それが何であれ無効化・対消滅させることができる攻撃能力。

 しかし、その発動に使われるのが自身のシールドエネルギーであり、つまりは諸刃の剣。

 

「第一形態なのにアビリティーがあるってだけでものすごい異常事態だよ。前例が一切ないからね。それは一夏と静馬もだけど。しかも、その能力って織斑先生のと同一だよね?」

「姉弟だから、とか?」

「ううん。姉弟だけじゃ理由にならないと思う。さっきも言った通り、操縦者との相性が条件だから、いくら姉弟だからといっても再現することはできないんだよ」

「そっか。でもまあ、その原因は俺たちが考えても仕方ないし、そのことは保留にしようぜ」

「そうだね。そうしよっか。じゃあ、射撃の練習をしてみようか。はい、これ」

 

 ……姉弟で全く同一のワンオフ・アビリティー。

 誰も疑問には思っていなかったが、考えてみると不思議だ。白式を担当した倉持技研は把握しているんだろうか? ……いや、そもそも白式の性能に絡んでいるのは倉持技研だけではないんだとしたら?

 

 ――篠ノ之博士。

 

 白式の製作に絡んでいるんじゃないのか? たしか、暮桜の開発は篠ノ之博士じゃなかったか?

 そもそも、だ。ワンオフ・アビリティーはどういう原理で発現させている? 元々が機体に組み込んでいるんだとすれば、疑似的に開放することが可能なはずだ。しかし、それが不可能で第三世代ができた……。その秘密はいったいどこにあるんだ……? 

 

 いや、一つだけブラックボックスの解明されていない代物があるじゃないか。

 

 コアだ。インフィニット・ストラトスを動かす上で必要不可欠な代物だ。

 ……まあ、それがわかったところで何の意味もないが。

 

 そんな風にオレが考えていると、何やら周りが騒がしくなっていた。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソ! ひょっとしてドイツの第三世代型?」

「まだトライアル段階だって話を聞いてたけど……」

「なんか不穏な雰囲気ね……何もなければいいけど」

 

 そこにいたのは、ISを展開したラウラだった。

 そんなラウラが、一夏の姿を捉えると、

 

「おい」

 

 開放回線で声を掛けてきた。当然、オレにも声が届く。

 平手打ちをされたことに対して、思うところがある一夏は不機嫌そうに返事を返す。

 

「……なんだよ」

「ふん。貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

 いきなりの宣戦布告に対し、一夏は即座に切り捨てる。

 

「イヤだ。理由がねえよ」

「貴様にはなくとも私にはある」

 

 その理由は知らないが、よほどの因縁があるらしい。

 

「それはまた今度な」

「ならば――戦わせるまでだ!」

 

 言うが早いか、ラウラは漆黒のISを戦闘状態へと移行(シフト)させる。刹那、左腕に装備された大型の実弾砲が火を噴く。

 

「……っ」

「――――」

 

 鋼と鋼が打ち合うような音が鳴り、ラウラの大型砲を弾く。

 先に動いたのは、オレだった。シャルルも動こうとしていたが、オレの方が先に対応していた。

 

「……あのなあ、こんな人が密集してる場所でぶっ放すなんて、常識がないのか? 因縁があるからって何でもしていいって理由にはならないぞ?」

「……なぜ、邪魔をする」

「今言った通りだぜ? 一対一なら協力ぐらいはしてやるよ」

 

 マシンガン。正式名称《ヴァナルガンド》を構えて、牽制する。

《ヴァナルガンド》の先端には短剣が付いており、刃先は弾丸の先端と同じ多結晶ダイヤモンドで構築されている。

 

「その前にお前を倒すまでだ!」

 

 オレから距離を取り、再度実弾砲を放とうとして――

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 スピーカーから聞こえる教師の声によって止められる。

 

「……ふん、今日は引いてやる。覚悟していろ織斑一夏!」

 

 興が削がれたのか、あっさりとその場か立ち去っていく。その向こうでは怒り心頭の教師が待ち構えているだろうが、逆に教師の方が心配だった。トラウマを植え付けられて辞めてしまわれないだろうか……。

 

「一夏、大丈夫?」

「あ、ああ……助かったよ。静馬も」

「まあ、気にするな。身体が動いただけだ」

「静馬って実は相当IS操縦が上手い?」

「そんなことないだろ。シャルルも動こうとしてたみたいだし」

「よくわかったね。あの状況で」

「無駄に周囲把握能力だけはあってな」

 

 まあ、記憶が戻ってきたあの日以降、遺伝子強化試験体としての身体がそうさせたのだろう。記憶と身体の感覚にまだ齟齬があるが、そのうち本来のスペックを発揮できるようになるはずだ。

 

「今日はもう終わりにしよっか。四時を過ぎてるし、もうアリーナも閉館時間が近いしね」

「おう。そうするか。銃サンキュな。色々と勉強になった」

「それはよかったよ」

 

 にっこりと微笑み、一夏がドギマギしたような顔を見せる。

 うーん、これは仕方ないよな。

 

「えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

「たまには一緒に着替えようぜ」

「い、イヤ」

「つれないこと言うなよ」

「つれないっていうか、どうしてそんなに僕と着替えたいの?」

「というかどうして俺と着替えたがらないんだ?」

 

 質問に質問で返しているが、一夏の疑問ももっともだと思う。

 

「ど、どうしてって……その、は、恥ずかしいからだよ……」

 

 まるで女の子みたいなことを言うシャルル。顔も赤いし、身体を両手で押さえていて男の反応としては微妙な感じだ。いや、いないこともないだろうけど。

 

「なーに、慣れれば大丈夫。さあ、着替えようぜ」

「ええ……えーと」

 

 流石に一夏がしつこいので、シャルルがオレに目で助けを求めていた。

 はあ。仕方ねえな……それぐらい自分で対応してほしいもんだ。

 

「それぐらいにしとけ。人の嫌がることはしないのが男だろ?」

 

 一夏の肩を引っ張り、引き離す。

 

「静馬も一緒に着替えようって思わないのか?」

「思わねえよ……つーか、女子だったらともかく男とは極力着替えたいとか思わねえから。普通はな。お前ってやっぱりホモなんじゃねーの」

「ち、ちげえよ! わかったよ……」

「ありがとね、静馬」

 

 助けたオレに感謝してくるシャルル。

 

「別にいいけどさ……少しくらいは一夏に付き合ってやってもいいんじゃね?」

「だ、だって恥ずかしくて……」

「はあ……別に女子ってわけじゃないだろうし」

「へっ!? ち、違うけどさ!」

「だったら気にしなくてもいいんじゃね? 流石に一夏もガチでホモじゃないだろうし、下半身をひん剥かれるわけじゃないだろ」

「ひ、ひん剥かっ……!?」

 

 顔を真っ赤に染め、こないだのたっちゃんみたいになっているシャルル。

 ま、まさか……。

 

「もしかして、お前が逆にホモなのか?」

「それは違うよ!!」

「お、おう……そうだよな」

 

 大きい声で否定するもんだから驚いてしまった。

 

「こ、こほん。静馬さん? 女子と一緒に着替えたいのでしたら、一緒に着替えて差し上げても――」

「はいはい。セシリアは女子更衣室で着替えましょうね」

「り、鈴さん!? 首が締まって――い、いきます! 行きますから離してください! 

 

 有無を言わさずに鈴がセシリアをずるずると引っ張っていく。

 窒息しないかが少しだけ心配だったが、軽く手を振って見送った。

 

「じゃあ先に行ってるな」

「あ、うん」

 

 シャルルにそれだけ言って、一夏はゲートを通って更衣室へと向かっていった。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「静馬も先に行ってて!」

「ああ、オレもか」

「もう……」

 

 半分冗談で居座っていたが、先に行っててと言われたのでオレも更衣室へと向かった。

 

「はー、風呂に入りてえ……」

「なにおっさんみたいなこと言ってんだよ?」

 

 汗で張り付いたスーツを脱ぎながら、一夏にツッコミを入れる。

 

「なんだよ。静馬も風呂に入りたいだろ?」

「そうだが……入れないものは仕方ないだろ」

 

 着替えを簡単に済ませてしまう。脱いで服を着るだけだし、簡単だな。

 

「あのー、織斑君と深見君とデュノア君はいますかー?」

「はい? シャルルだけいません」

 

 ドア越しに遠慮がちな声が聞こえる。山田先生だ。

 

「入っても大丈夫ですかー? 着替え中だったりしますー?」

「いえ、大丈夫ですよ。オレと一夏も着替えは終わってます」

「そうですかー。じゃあ失礼しますねー」

 

 スライド式のドアがパシュッと開いてから山田先生が入ってくる。

 

「デュノア君はどうしたんですか? 一緒だと聞いてましたけど」

「あー。まだアリーナにいますよ。どうかしましたか?」

「そうでしたか。話というのはですねー。今月下旬から大浴場が使用できるようになります。時間帯別にすると問題がでそうなので、男子は周に二回の使用日を設けることにしました」

「本当ですか!」

 

 大浴場が使えるようになる。という話を聞いて、一夏が顔を綻ばせる。

 

「嬉しいです。感動しました。助かります! ありがとうございます、山田先生!」

「い、いえ、仕事ですから……」

 

 ガシッと両手で山田先生の手を包み、感動を伝える一夏。

 どんだけお風呂に入りたかったんだ、コイツは……。

 

「いやいや、先生のおかげです! いやあ、本当にありがとうございます」

「そ、そうです……か? そう言われると先生冥利に尽きますね。あはは」

 

 ……うーん、なんか雰囲気が。いつもなら『なにやってんよ一夏!』と鈴が言いにきたり、箒に蹴られたり……といったイベントが発生しそうな感じだ。

 

「……静馬? 一夏? 何してるの?」

 

 オレと同じことを思っていたのか、一夏が驚きながら手を離す。山田先生は恥ずかしかったのか、一夏から反対へと向いて背中を向けてしまう。

 

「まだいたんだ。それで? 先生の手なんて握って何してるの?」

「あ、いや。なんでもないんだ」

「一夏、先に戻ってって言ったよね」

「お、おう。すまん」

 

 心なしかシャルルが不機嫌っぽく見える。

 

「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

「そう」

「あ、あれ……?」

 

 両手を広げて大事そうに話すが、淡白な返事で返される。

 そんな一夏を見ながら、シャルルはタオルで頭や顔を拭き始めた。

 

「静馬も先に行っててって言ったよね」

「あー。悪いな」

 

 どうやら本当に機嫌が悪いみたいだ。言ったことをオレたちが聞かなかったからだろうか?

 怒らせるのも悪いのでオレは一足先に戻ることにした。

 

「あ、ちょっと待って下さい」

「ん?」

「静馬君には書いてほしい書類があるんで、職員室まで暇な時に来てもらえますか? ISに関する重要な書類なんですけど」

「あー、問題ありませんよ。後で部屋に戻ってから行きます」

 

 そう言って、オレは今度こそ更衣室を後にした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「………………。はあっ……」

 

 ドアを閉め、寮の自室に一人だけになったところでシャルルは吐き出すようにため息を漏らした。それまで我慢していたせいか、無意識に出たそれは思ったよりも大きく、シャルル本人も驚くくらいには溜まっていた。

 

(何をイライラしてるんだか……)

 

 さっきの更衣室での自分の態度を思い返して、今になって恥ずかしくなってきた。きっと一夏や静馬も驚いていたと思うと、更に自己嫌悪してしまう。

 

(……。それに、静馬……)

 

 シャルルはクローゼットから着替えを取り出してシャワールームへと入った。

 シャワーノズルを高い位置で固定し、熱めのお湯を頭の上から浴びる。汗で冷えた身体が暖まって自然と気分が落ち着いてくる。

 

 考えるのは一夏と同じ男性操縦者の静馬のことだ。彼に言われた『別に女子ってわけじゃないだろうし』という言葉が気になっていたのだ。もしかして、静馬は知っているのだろうか……? シャルルの秘密を……。

 

(ううん。ないよね……もしも、気付いてるなら言ってくるはず……)

 

 自分の中で出た疑問をそのまま飲み込むことにしたのだった。

 




ちょっとサブタイトルに悩んだ……。

二人組(バディ)を組んだ静馬とラウラですが、
一夏に喧嘩を吹っかけた時に敵対する形になってしまいましたが……。
ラウラの貴様呼びがお前呼びになっているかと思います。まあ、ラウラの中でも多少はマシな人間扱いになったのではないでしょうかね。


*ヴァナルガンドについて。
静馬が使っていたマシンガンの正式名称です。
以前は短剣部分はついてませんでしたが、静馬が強化申請を出したところ、このような形で返ってきた。マシンガンの弾丸も多結晶ダイヤモンドが先端に尖るように埋め込まれている。

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