インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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9.一方的な暴虐

 暗い。深い暗闇の中にそれはいた。

 

「………………」

 

 いつ頃からこうなのかは覚えていない。ただ、生まれた時から闇を理解していた。人は生まれて最初に光を見るというが、この少女は違う。闇の中で生まれ、影の中で生きる。そしてそれは今でも変わりようのない事実。

 光のない部屋では常に闇が支配しており、赤い瞳が鈍く光を放っている。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 それが自分の名前だとは知っているが、その名前に何の意味もないことを理解している。

 

 けれど、その中でも例外はある。その一人が教官――織斑千冬に呼ばれる時は、その響きが特別な意味を持っている気がして、心が高揚するのを感じていた。

 

 そして、もう一人。兄と呼べる存在がいたことを記憶のどこかで覚えていた。

 

 織斑千冬と同じく、自らの師であり、絶対的な力を持っており、遺伝子強化試験体としてのあるべき姿。

 いつかは辿り着きたいと感じた存在。

 それが不完全であることが許せない。

 

(織斑一夏――。教官に汚点を残させた張本人)

 

 なればこそ、あの男の存在を認めるわけにはいかない。

 

(排除する。どのような手段を使っても……)

 

 心の闘志を研ぎ澄まし、ラウラは静かに瞼を閉じる。闇と一体化する感覚に身を預け、少女は深い眠りの中へと沈んでいく。

 

 夢の中だけは……幸せな夢であるように……。そう願いながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「そ、それは本当ですの!?」

「う、ウソはついてないでしょうね!?」

 

 月曜日の朝、教室へと向かっていたオレの耳にまで届く大きな声に驚く。

 

「なんだ?」

「さあ?」

「さあな……大方、女子特有の噂話で盛り上がってんだろうさ」

 

 オレの隣を歩いているのは、一夏とシャルルだ。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ち切りなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら深見くんや織斑くんと交際でき――

「俺がどうしたって?」

「「きゃあああっ!」」

 

 いま、こいつら交際がどうとか言わなかったか?

 

「で、何の話だったんだ? 俺と静馬の名前が出ていたみたいだけど」

「う、うん? そうだっけ?」

「さ、さあ、どうだったかしら?」

 

 鈴とセシリアの二人があははうふふと奇妙に笑いながら話を逸らそうとする。

 オレは大体を把握したが、一夏はそうではないらしく……気になる様子。

 

「じ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

「そ、そうですわね! わたくしも席につきませんと!」

 

 そそくさと二人はその場から離れていく。その流れに乗って、他の女子たちも同じように自分のクラスや席へと戻っていった。

 

「……なんなんだ?」

「さあ……?」

 

 せっかくなので、オレは隣の女子に聞いてみようか。

 まあ、大体は把握できてるんだがな……。

 

「で、なんだったんだ? セシリア」

「し、静馬さん!? べ、べつになんでもないで、ですわよ?」

「――月末の学年別トーナメントで優勝したらオレや一夏と男女交際ができるってぇ?」

「き、聞いてらしたんですの!?」

「いや、単語を繋ぎ合わせてカマかけただけ」

「う、うう……」

 

 セシリアの反応で完全にビンゴだ。そんな変な噂が学園中に広まっているらしい。

 しかも、学年別トーナメントってことは上級生も含まれているのだろうか……ほんと、女子は噂話や色恋沙汰に過敏だな。まあ、どうでもいいけど。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 オレはラウラに呼び出され、第三アリーナへと訪れていた。

 なのだが、非常に厄介な場面に呼び出されてしまったようだ。

 

 この場にいるのは、オレとラウラの二人組とセシリアと鈴の二人組。

 険悪な雰囲気に包まれており、まさに一触即発の状態にあった。

 

(確かにさあ……人のいないところでやれとは言ったけどさあ……これはないだろ)

 

 事の発端はラウラの威嚇射撃に始まる。

 学年別トーナメントに向けて、訓練しに来たセシリアと鈴を見つけたラウラはオレを呼び出し、オレが来たタイミングで威嚇射撃を始めたという次第だ。それだけに留まらず、ラウラは二人を煽るような言葉を発したのだ。ああ、もう滅茶苦茶だ……胃が痛いよ。

 

 しかしまあ、オレも協力するといった手前、断りづらいわけで……。

 

「部外者の静馬は引っ込んでてよ!」

「そうですわ! 静馬さんはわたくしたちの勇姿を見ていてくださいな」

「ふん。二対一でなければ勝てんと見える。所詮は下らん種馬を取り合うようなメス共だな、私の敵ではないな」

 

 ――――そこへ、ラウラは大きな爆弾を投下した。

 向こう側の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。

 

「――今なんて言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけボコってください』って聞こえたけど?」

「この場にいる人だけでならず、場にいない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで矯正してあげましょう」

 

 ……セシリアも似たようなことをしてたけどな?

 

 思っていたことが顔に出ていたのか、オレにセシリアが恥ずかしそうに抗議してくる。

 

「入学当時のことは忘れてくださいな!」

「あー。そうだな。お前は反省したもんな、うん」

 

 頭を掻きながら、適当に返事を返す。

 

「とっとと来い」

「「上等!」」

 

 お互いが同時に駆け出し、それに遅れてオレがISを展開する。

 展開にはもう慣れたもので、即時展開が可能となっていた。といっても、記憶が戻ってきた影響が大きいのだろうが。

 

 最初に攻撃を仕掛けたのは、ラウラではなく鈴だった。

 いつの間にかチャージされていた龍咆をぶっ放したのだ。それはラウラに直撃するかのように思えたが、ラウラが右手を前に出しただけで龍咆は霧散した。どういう原理かは知らないが、その隙をラウラがすかさず攻撃へと踏み込む。両肩に搭載されていたブレードが射出され、鈴の機体へと飛翔する。ワイヤーとブレードが一体化した武装のようで、クネクネと捉えづらい軌道を描いてから、鈴の足へと絡みつく。

 

「させませんわ!」

 

 鈴を援護するように、セシリアが四機のビットを展開。二機がワイヤーを焼き切るように、そして残り二機が本体へと向かい、ビットからレーザーが放たれる。

 

「無駄だ」

 

 避ける素振りすら見せず、ただ右手を前に突き出す。更にラウラは大口径レールカノンを即時展開し、拘束されている鈴に容赦なく放つ。それは直撃し、鈴の機体が大きな爆発音と共に大きく爆ぜたのだった。

 

 そこへ、一夏とシャルルと箒が駆けつけてきた。

 

 アリーナは観客席やフィールド外に被害がいかないように、特殊なエネルギーフィールドが張られている。当然、向こう側の声もこちらの声も届かない。もしかしたら爆発音くらいは届いたかもしれないが。

 

(つうか、オレって必要か……?)

 

 三人の間には明確なレベル差はないものの、非常に相性が悪かった。その中でも一番相性が悪いのが鈴だ。鈴の武装は変更がなければ、双天牙月(そうてんがげつ)龍咆(りゅうほう)を積んだ完全近接格闘タイプ。燃費性に優れ、大抵の敵には対応できる実戦型だが、ラウラとは非常に相性が悪いように見えた。なんせ、不可視の一撃である龍咆(りゅうほう)が効かないのだ。

 

 さて、本当にどうしたものか。

 

 適当に上空で停滞しながら、オレは三人の戦闘を眺めていた。

 

「その程度で第三世代型とは笑わせる!」

 

 ラウラが鈴を拘束していたワイヤーを操り、鈴を掴んだままセシリアへと投げ飛ばす。

 実に単純な攻撃だが、非常に効果的な攻撃と言えた。

 

「きゃああっ!」

 

 その衝突で隙を見せる二人に、ラウラはすかさず間合いを詰める。

 

『――瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 一夏の口がそう動く。一夏にとっては一撃必殺に繋げるための技能であり、十八番だった。

 しかし、その練度は一夏の比ではない。一切の予備動作を見せず、ほぼノータイムで二人へと接近していた。その間に展開されていた両手首から延びる超高熱のプラズマブレードでもって、左右から鈴を攻撃していく。

 

「くっ……この……ッ!」

 

 前進し続けながらブレードを振るうラウラに対して、鈴は交代しながら幾度となく躱していく。うまく壁に追い詰められないように動き回る鈴だが、ラウラの攻撃に先程のワイヤーブレードによる攻撃が加わる。しかも今度は二つだけでなく腰部左右に取り付けられたワイヤーを含めて計六つ。それがプラズマブレードと同時に襲いかかってくるので、鈴はじわじわと追い詰められていく。

 

「くっ!」

 

 状況を変えるために再度、衝撃砲である龍咆(りゅうほう)を超至近距離で展開し、エネルギーを充填させていく。しかし、これは悪手でしかない。

 

「この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとはな」

 

 その言葉の通りで、衝撃砲はチャージが完了する寸前にラウラの実弾砲撃によって爆散。

 

「獲った」

「――!」

 

 肩を吹き飛ばされて大きくバランスを崩した鈴に、ラウラがプラズマブレードの一撃を突き刺す。

 

「させませんわ!」

 

 まさに間一髪。ラウラと鈴の間に割って入ったセシリアが、《スターライトmkⅢ》を盾として使用し、必殺の一撃を逸らす。同時にウェイト・アーマーに装着された弾頭型(ミサイル)ビットをラウラへ向けて射出させる。

 

 ドガアアアアンッ! 

 

 超至近距離で爆ぜたミサイルが爆ぜ、凄まじい轟音を立てて爆発した。それは三人全員を巻き込み、衝撃によって鈴とセシリアは地面へと叩きつけられる。なんて無茶苦茶な……。

 

(前々から思ってたけど、セシリアって妙に肝が座ってるよな……)

 

「無茶するわね、アンタ」

「苦情は後で聞きますわ。けれど、流石のラウラさんも確実にダメージが――」

 

 セシリアの声が途中で止まる。なぜなら――

 

「………………」

 

 煙が晴れた先にいたのは、無傷のラウラの姿だったのだから。

 

「この程度で終わりか? ならば――私の番だ」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で地上へ移動、鈴を思いっきり蹴り飛ばし、セシリアに砲を突き刺した一撃を当てる。さらにワイヤーブレードで二人を捕まえて地面へと叩きつける。そこからは一方的な暴虐が始まった。バスケットボールのように地面をバウンドさせ、時にはお手玉のように鈴とセシリアの位置を投げて交代させ、蹴りをお見舞いする。

 

 ――流石にやり過ぎだ。

 

 既に二人のダメージは機体維持警告域(レッドゾーン)を突破しており、操縦者生命危機域(デッドゾーン)へと到達していた。これ以上は強制的にISが強制解除され、そのままラウラが攻撃を加えた際は生命に関わる大惨事になってしまう。

 

 だから、オレはラウラに向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)からの空中回し蹴りを放った。それと同時に白式を展開した一夏がエネルギーフィールドを割いて入ってくる。

 

「お前、いくらなんでもやり過ぎだ!」

 

 オレの攻撃によって倒れ伏すラウラに一夏が言うが、ラウラは口端を歪めて挑発する。

 

「お前――ッ!」

 

 一夏が怒りを露わにするが、それをオレが軽く止める。

 

「悪い。側で見ていたのに止め時を忘れていたオレの不始末だ。それなのに厚かましいお願いをするが、ここは一旦落ち着いてくれないか?」

「静馬……」

 

 納得いかない様子の一夏。

 仕方ないので、オレはISの展開を解除する。

 その場で土下座をした。

 

「悪い。お前の気持ちが収まらないかと思うが」

「……わ、わかったよ。早く立ち上がってくれ」

 

 一夏が引いてくれたので、オレは立ち上がろうとして――

 

「邪魔をするなあああ――!」

 

 オレの背後からラウラが襲いかかってきた。

 

(や、やべぇ……流石にこの姿勢じゃ展開が間に合わないぞ……?)

 

 まさに絶体絶命の状況。

 ガギンッ!

 激しくぶつかり合う音が鳴り響いて、ラウラは攻撃を中断させられる。

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れるんだ」

「千冬姉!?」

 

 その人物は予想通りと言えば予想通りで、予想外と言えば予想外の人物だった。

 しかも、織斑姉は生身の状態でIS用近接ブレードを握っており、ラウラの攻撃を受け止めていた。なんという化け物だ……。

 

「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊させるような事態は黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「教官がそう仰るなら」

 

 織斑姉の言葉に頷き、ラウラはISを解除する。そのままスタスタとアリーナから立ち去っていく。

 

「織斑、デュノア、深見、お前たちもそれでいいな」

「あ、ああ……」

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」

「は、はい!」

「僕もそれで構いません」

「オレも問題はありませんよ」

 

 一夏とシャルルに倣って返事をする。

 

「では、学年別トーナメントまで一切の私闘を禁ずる。解散!」

 

 パンパンッ! と手を叩く。その音と共に他のアリーナの生徒たちも解散していく。




兄と呼べる存在って誰なんでしょうね……?

よく考えたら主人公のカッコいいシーンがない件について。
というか、タグの平凡な主人公とはなんぞ。遺伝子強化試験体の時点で平凡とか飛んでいってる……まあ、そのうち平凡の出番があるかもしれませんね。



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