インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
「すまない。今日は本当にすまなかった……」
場所は保健室。第三アリーナでの一件から約一時間が経過していた。ベッドの上では包帯の巻かれたセシリアと鈴が寝っ転がっている。
「頭を上げてください、静馬さん。別に怒ってませんわよ」
「そうよ。アンタがわざわざ謝ることじゃないっての。悪いのはドイツのラウラって子なんだから。それに助けてくれなくてもよかったのに」
「ええ、あのまま続けていれば勝っていましたわ」
それだけはない、と断言するのは簡単だが、オレはあえて指摘することはしない。
「お前らなあ……。でもまあ、怪我が大したことなくて安心したぜ」
「こんなの怪我に入らな――いたたたっ!」
「そ、そうですわ! 横になっている必要は――つっぅううっ!」
大した強がりだな……。
隣では一夏が『バカなんだろうか』って顔をしている。
「バカってなによバカって!」
「一夏さんこそ大バカですわ」
「まあ、一夏はバカだろうなあ」
顔に出ていた一夏にセシリアと鈴が反撃する。ついでにオレもバカにしておく。
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
「ん?」
シャルルが飲み物を買って戻ってきた。
部屋に戻ってくる際にシャルルが言った言葉に対して、二人がかぁぁっと顔を真っ赤に染める。
「ななな何を言ってるのか、これっぽっちもわかんないわね! こ、これだから欧州人って困るのよねえっ!」
「ば、べ、べべっ、別にわたくしはっ! そのような気持ちなんてもっていませんわ、わ!」
キョドりすぎだろ……。
「はい、ウーロン茶と紅茶。落ち着いて、ね?」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
「ふん!」
慌てるようにして飲み物を一気にごくごくと飲み干す。
「ま、先生も怪我は軽いって言ってたし、しばらく休んだら――」
ドドドドドドドッ――!
地鳴りのような音が廊下の方から響いてくる。しかもそれは段々と近づいてきているようで、ドガーンと音と共に保健室のドアが弾け飛んだ。……おい、器物破損だぞ。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「深見君!」
ドアと共に雪崩込んできたのは数十名にも及ぶ女子生徒たち。比較的広い保健室にも関わらず、室内はあっという間に埋め尽くされた。しかもオレたちを見つけるなり一斉に取り囲み、一斉に話し掛けてくる。さながら、アイドルのような気分だ。
「な、なんなんだ!?」
「ど、どうしたの、みんな……お、落ち着いて?」
「はあ…………」
「「「「これを見て!」」」」
そう言って見せてきたのは告知文だった。そしてセットで申請書のようなものまで持っている。
「な、なになに……?」
「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは――』」
「ああ! そこまででいいよ!」
「私と組もうよ! 織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「組んでください、深見君!」
……なるほどな。
しかし、オレは既に決まっているので断ることにしよう。
「悪いな、オレは既に決めてんだ」
「あ、ああ。俺もシャルルと組むから諦めてくれ!」
そんなオレたちに、女子生徒はしーんと沈黙した。
「まあ、仕方ないかあ……」
「先客がいるんじゃあ、ね」
納得してくれた女子生徒たちは、一斉に保健室から去っていく。
「ふう…………」
「あ、あの、一夏――」
「一夏っ!」
「静馬さんっ!」
安堵のため息をついた一夏にシャルルが声をかけようとして、それを遮る形でセシリアと鈴が興奮した様子でベッドから飛び出してきた。
「あ、あたしと組みなさいよ! 幼馴染でしょうが!」
「ぜひ、静馬さんはわたくしと!」
……つうか、なんでセシリアはオレと? 一夏とじゃなくて?
まさか、オレに気があるんじゃあ……? いや、ないか。
それよりも、だ。こいつら怪我人なのにアグレッシブだな……。
「ダメですよ」
近くで様子を見ていた山田先生が声を上げる。
「おふたりのISの状態はさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。なので当分は修復に専念しないと、重大な欠陥を残す要因になりえますよ。身体を休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
そんなにダメージが生じてたか……ぐっ、本当に申し訳ないな……。
しかし、こいつらがその理由で納得できるのか?
「う……! し、仕方ないわね……」
「不本意ですが……非常にっ! 不本意ですが! 参加を辞退いたします……」
……ん? すっごいあっさりだな。
「わかってくれて先生嬉しいです。無理させるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。こんなところで優秀な生徒たちのチャンスが潰えるのは、とても残念なことです。できれば、あなたたちにはそうはなってほしくありません」
「はい……」
「そうですわね……」
いつも以上に真面目な口調の山田先生。過去に何かあったんだろうか?
「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三項は?」
「え、えーと……」
「『ISは戦闘訓練を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼働も含まれ、ISのダメージレベルがCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態でも特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時でも稼働にも悪影響を及ぼす可能性がある』」
「おお! それだ! さすがはシャルル!」
本当にさすがはシャルルだ。生きる辞書みたいなやつだな。オレも一応は把握しているが、一語一句覚えているわけではない。そんなのは優等生にでも任せればいいし、テストでは大まかな部分さえ知っていれば困ることなどない。
「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ……?」
「それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドが、ですわね……」
「ふーん?」
ああ、一夏のことをバカにされたからだったな。
なんて単純なやつらなんだ、とは思ってしまった時点でオレはラウラと似たような感想ではある。流石に種馬云々はひどすぎるが。
「ああ、もしかして二人のことを――」
「ああっ! デュノアはいちいち一言多いわねえ!?」
「そ、そうですわ! 口を謹んでくださいませんか!? おほほほー!」
たしかにシャルルは口が軽いところあるよな。
「こらこら。ケガ人のクセに動き回りすぎだって。ほら、痛いんだろ?」
そう言って一夏はセシリアと鈴のケガをしている部分をポンポンと叩く。
「「びぐっぅ!」」
うわあ……鬼畜だな、一夏。
「………………」
「………………」
「す、すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」
流石に一夏もやり過ぎたと思ったのか、すぐさま謝っていた。こういうところは潔くて好感が持てる高校生なんだがなあ……鈍感すぎるところがたまに瑕って感じだ。
「い、いちかぁぁ……あんた、おぼえてなさいよぉ……」
「な、なおったら……かくご、してくださいな……」
手が出ない鈴は珍しいな。
それに関しては同意見だったのか一夏は苦笑していた。
◇
「はあ…………」
「あらあら、珍しくお疲れの様子ねぇ」
「……ああ、お前を見たらもっと疲れた」
「ちょ、ちょっとどういう意味よっ!」
どういう意味ってそのまんまの意味だが?
オレは夕食を簡単に摂ってから、夜食用にカツサンドを買ってから部屋に帰ってきた。今日は珍しくたっちゃんが普通の制服で部屋にいた。いつもは誘惑するかのような奇抜な服装をしている(裸エプロンとか裸ワイシャツ)のだ。まあ、若干の役得であることは否定できない。
「そういえば派手にやらかしたみたいねえ……」
「ああ……ラウラがあそこまでやるとはな」
オレも予想していなかったのだ。ラウラの一夏に対する敵対心があそこまで高いことに。そのためなら手段すら
「まあ、セシリアたちも怪我はしてたけど大事に至らなくてよかった」
「そうね。そうなったらラウラちゃんの立場も非常に悪いことになるから」
「それどころか向こうの国と問題になる可能性も」
「それは大丈夫よ? IS学園は例え何があっても干渉のできない地帯だから」
「……それにも限度がありますよね?」
「まあね。特定の国に攻撃を仕掛けたりでもしない限りは問題されないわ。それこそ人が死んでも、ね」
……その事実にオレは固唾を呑む。
なんて恐ろしい場所にオレはいるんだろうか。
「なーんてね。流石に死人までは隠蔽できないわよー」
「…………はあ。マジで張っ倒すぞ」
「いやーん♪」
本当にこの人は……。
「学年別トーナメントで優勝すると静馬くんと付き合えるって本当ー?」
「事実無根の噂だから。もしかして二年生の間でも広がってんのか?」
「もちろん♪ これでも意外と人気なのよ?」
「はいはい。どうせ珍しい男の子ってことで人気なんだろ?」
「そうとも言えるわね」
二年生で会ったことがあるのは新聞部の黛薫子ぐらいか。そういえばクラス代表就任パーティー以来会ってない気がするな。たしか彼女もオレと同じく「たっちゃん」と呼んでいる内の一人だったか。うーむ、なんか親近感を感じる……オレ同様に迷惑をかけられていると見た。
そんな風に考えていると……。
「で、静馬くんは誰かと付き合う気はないのかしら?」
「あ? 別にそんな気はねーよ」
「でも選り取り見取りじゃない?」
「そうか? オレの知ってるヤツらは一夏に好意あるぞ」
「ティナちゃんとか」
「あー、アイツは違うかもな。話してるところを見たことないし」
だからといってオレに好意があるわけじゃないだろう。
「別に誰かを好きになることは罪じゃないのよ? 興味くらいはあるでしょ?」
「まあ、な。これでも男だしな」
「だったら好きな子ぐらいいるんじゃないの?」
「はあ……」
「もしかしたら、静馬くんのことを好きになったりするかも」
「…………はっ」
たっちゃんがしなだれかかってきて、変な冗談を言う。
はっ、コイツがオレを好きになる? 何を変なことを言ってんだ? たっちゃんが気になってるのはもっと別のことだろうが……。
たっちゃんがオレのことで何かを探っていることに気付いたのは、つい最近だ。というよりもオレが記憶が蘇ったことでそういうのに鋭くなったともいう。だから、オレのことを好きになる以前の問題というわけだ。もしかしたら……生徒会長という立場ゆえにオレと敵対する可能性があるかもな。
まあ、そんな先のことはわからないが。
「あー、なによその反応は。おねーさんでも傷付くのよ?」
だから、今はお互いが気付かないフリをしているのが一番なのだろう。
「そうか。絶対にお前を恋愛的な意味で好きにはならねえよ……」
「あー! 言ったわね!? もしも好きになったとか言ったら絶対バカにしてやる」
「はいはい」
でもまあ、別に嫌いではないんだよな。どちらかと言えば好きな方ではある。それは友達的な意味で、だが。
「――話は変わるんだけど」
たっちゃんは声のトーンを落とし、真面目な口調で言う。
「ああ、なんだ?」
「単刀直入に聞くけど、貴方って何者?」
「――何者、とは?」
本当に単刀直入だな。少しだけ驚いて言葉が出るのに数瞬だけ時間がかかった。
それの間に気付いたかは知らないが、続けてる。
「この間、貴方がラウラちゃんのことを質問した日のことよ。貴方の様子が少しだけおかしかったのがキッカケかしらね。まあ、前々から奇妙な点はいくつかあったけど」
道場で実力を見てもらった時だろうか。確かにあの時は確かにおかしい点ばかりだっただろう。武術の嗜みがないと言う素人の動きではなかっただろう。そして、使ったのは柔道に近い技だったはずだ。
「それで?」
「うん。その時に静馬くんの片眼が黄金の瞳だったのを見たわ。過去に見たことがあったから、資料を漁ってみたら『
「…………」
「否定しないのね」
「まあ、間違ってないですし。誤魔化せる気もしなかったんで」
オレは片眼――左目に手を当て、
「これで満足か?」
「ええ、十分に理解できたわ」
「そうですか。それで? オレがドイツの遺伝子強化試験体であることは知った
「ん? 別にどうもしないわよ? ただ聞いてみたかっただけよ」
「はあ? オレが察するにお前は日本の暗部に関わっていると思うんだが」
「ええ、その認識で間違いないわね。じゃあ、改めて自己紹介するわね――」
一旦間を置いてから、
「IS学園最強の生徒会長にして更識家十七代目当主――更識楯無よ」
"当主"と描かれた扇子をドヤ顔で広げるたっちゃん改め、更識楯無。
更識という家がどんな家なのかは知らないが、十七代目当主の座にいるということは中々の実力者というわけだな……。
「じゃあ、オレも改めて自己紹介をしてやるよ」
右目にも手を当て、もう一方の
「最強の遺伝子強化試験体にしてヴォーダンの名を冠する者――深見静馬だ」
――そう名乗った。
この日、オレたちは改めて自己紹介を交わしあったのだった。
自称最強を名乗る主人公。
片眼だけでなく、両眼が黄金の瞳――
しかも……ラウラの常時発動型とは違って、ISの有無関係なしに任意発動ができる完成型。
最強と言うだけの実力があるのか、それは学年別トーナメントで発揮されることでしょう。ラウラに積まれてる例のシステムもありますし。
次の更新はできるだけ早くしたいですね……。
ところで、お前を好きにはならない的な発言をした人って大体好きになりますよね?
どうなるのかは今後の展開次第ですが。