インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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今回は戦闘回ではありません。
次回をお楽しみにお待ちください。


12.Valkyrie Trace system

 ――敗北を目前にし、鼓動が弾む。

 

(こんな……こんな場所で負けるのか、私は……!)

 

 慢心があったことは認める。それは耐え難いことに事実だ。しかし、だからといって――

 

(私は負けられない! 勝利を手にしなければならない……!)

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名だ。識別上の記号(なまえ)

 最初に付けられた記号は――遺伝子強化試験体C‐0037。

 人工合成された遺伝子から作られ、戦闘を想定して生み出された生体兵器。

 

 ――暗い。深い暗闇の中に私はいた。

 

 戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

 根幹を成すのはいかにして人体を効率的に壊すかという戦闘知識。状況に応じた戦略知識。

 ありとあらゆる格闘技を覚え、銃術を習得し、各種兵器の操縦技術を極めた。

 私は優秀な生体兵器であった。性能面においても、追随を許さないほどに。

 

 それがある時を境に途絶えた。

 それは世界最強の兵器――ISの登場によって世界が変貌したからだ。

 

 それに適応させるために『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の移植処理を行うことになった。

 『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』は脳への視覚信号伝達速度や脳の処理速度を爆発的なまでに向上させ、超高速戦闘状況――または音速戦闘状況下における最適な反射反応の強化を施すもの。

 危険性はまったくない。失敗はありえない。そう、理論上の上では言われていたはずだった。

 しかし、この処置によって私は右目は黄金の瞳へと変質し、常に稼動状態のままカットできない制御不能の状態へと陥った。

 その結果によって、私は部隊の中でもIS訓練において遅れを取ることとなる。それは一般戦闘でも遅れを取ることと同義だった。

 

 各部隊員からは嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印を押されたのだった。

 

 ――暗い。深い暗闇の中ではなく、より深く――深淵の中へと片足を突っ込んでいった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 そんなある日、私は別の研究所へと移送されることとなる。

 

 ――私が存在する理由はあるのだろうか。いっそ何の意味も持たない木偶だったならば。

 

『……お前は私と違って才能があるのだな』

 

 銀髪に黄金の瞳を持つ同じ――遺伝子強化試験体の少年に言った。

 少年にそのようなことを言ったところで、何の意味もない。私同様に無意味でくだらない言葉。

 しかし、私は言葉を吐き出さずにはいられない。なぜならば、

 

 ――彼こそが完璧な『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の処置に成功した完成形なのだから。

 

 更に言えばIS不適合者である男の子だったのだから。

 

『私は見ての通りの出来損ないさ』

 

 自嘲するように私が言うと、少年は困ったような笑みを浮かべ、何かを考え始める。

 私はこんな子供にまで気を遣わせているのか。本当にくだらない存在だな、私は。

 

 何を思ったのか少年は私の手を取り、

 

『じゃあ、此処にいる間は……オレが守ってやるよ』

『出来損ない? そんなのは勝手に言わせておけばいい』

『だから、そんな言葉で自分を否定するな……』

『今日からは、オレがお前の味方だ』

 

 そう言ってから、私をそっと抱き締めたのだった。

 

 突き放すのは簡単だった/優しい拘束だったから

 拒絶するのは簡単だった/今日出会ったばかりだから

 否定するのは簡単だった/軽い言葉だったから

 何もかもが簡単だった/本当に簡単だったから

 

 逃げるのも、拒絶するのも、否定するのも――すべてが簡単なことだった。

 

 しかし、私にはそれが出来なかった。

 その言葉が私を初めて受け入れる言葉だったから。

 涙が溢れ、鼓動が高まり、腕に力が入って――私は初めて泣いたのだった。

 

 研究所で過ごす数ヶ月の間、私は少年に様々なことを教えてもらった。

 そこでは失敗作のラウラではなく、普通のラウラとして存在できていた。本当に平和な日々の連続で、私はこのまま――何気ない日常を過ごしていくのだと思っていた。

 

 何事にも終わりは来るのだ、と。

 

 私はこの研究所へと移送された意味を忘れていたのだ。いや、正確には知らされていなかった。

 その理由は、私にとって残酷な理由だった。

 

 ――同じ遺伝子強化試験体の男女を引き合わせ、同調現象(シンクロ)を引き起こさせるため。そうすることによって、互いの精神面や感情をコントロールすることが目的だった。その目論見は成功しており、用が済んでしまった私は元の場所へと戻されることになる。

 

 だから、私は少年に言った。

 

『私の味方だと言ってくれたのは嘘だったのか!』

『命令されて、仕方なく私と仲良くしていただけだったのか……!』

『嘘、だったのか……!』

 

 裏切られた叫びに対して、少年は何も言わない。

 ふざけるな……! 私は……! 

 襟首を掴み、最近まで忘れていた尋問の技術を駆使してでも、吐かせたかった。

 ただ、私は『嘘じゃない』と言ってくれればよかったのだ。しかし、彼は答えない。どんなに首を締めようと、何をしても言葉を発しない。なぜならば、彼もまた戦闘のために生み出された生体兵器なのだから。

 

 だったら、この場で――と思った時、異変に気付いた研究者たちが私を止めにきた。

 全力で抵抗する私だが、訓練された軍人数人相手に抵抗できるはずもなく、私は研究所から連れ出されてしまう。

 

 その間、少年は私をただ見ているだけだった。

 

 ああ、私はどう足掻いても――出来損ないなんだ。

 

『安心しろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 研究所の一人である大男が唐突に言う。

 大人の戯言などどうでもよかった私は、適当に聞いていた。

 人の言葉を信じて良いことなどない。

 

『お前が想うアイツこそが『出来損ない』だ』

 

 なのに、その言葉にイラっとした。

 

『いや、だからこその『完成形』なのだろう』

 

 何を言っているのか理解できない。

 

『Rシリーズは男性でありながら、IS適性を持たせた完成形だからな』

 

 男は自慢するように、私に聞かせるように言葉を続ける。

 

『その実験の一回目は不適格だったが、今回のニ回目は恐らく成功だろう。だから、安心しろよ? お前はアイツに想われてたさ。だからこその成功だ』

 

 その言葉に愚かな私は喜びそうになる。しかし、寸でのところでその感情を押さえ込む。

 

『おや? 反応しないのか? もしかしてお前の方が『どうでもいい』って思ってたのか?』

『ふざけるな! そんなわけがあるか!』

 

 両手足を拘束され、口以外が動かない状況。

 

『ああ、それでこそ実験成功だ。お前はよくやったさ。『出来損ない? そんなのは勝手に言わせておけばいいんだ』

『貴様がその言葉を口にするなあああアアアアアアッ!』

 

 ミシミシと音を立てながら全力で噛み付こうとする。しかし、この完全な拘束具を着た状態では不可能なことだった。

 

『おお、怖いなあ……絶対に動けないとわかっているのにも関わらず、この威圧感には恐れ入るよ』

 

 そんな時、男が携帯を取り、嬉々とした声を隠さずに言葉を返した。

 

『――実験成功。これより全力で防衛しろ、死んでもだ』

 

 何やら辺りが騒がしくなっていた。銃声が聞こえ、悲鳴が聞こえてくる。

 

 何が起きているのか? そう思った私に答えたのは、私を運んでいる男だった。

 

『騎士の登場だよ? こちらの数はISが三機に兵士が数百名。一方で向こうは騎士が一人だ。さて、勝つのはどちらだろうか? まあ、オレたちが負ければ実験失敗になっちゃうんだけどね』

『何の話だ!』

『愛しの少年の話だよ』

 

 ――絶対にお前を救い出す

 

 そんな言葉が聞こえ、目を向けると――そこにいたのは鮮血で全身を染め上げ、ナイフとアサルトライフルを持った少年の姿だった。

 

『ご苦労。よくぞ短期間でここまでの進軍を果たしてくれた』

『こんなんでオレを止められると思わないでくれ』

『ISはどうしたのかな?』

『――壊した。操縦者は無事だが、目覚めるかどうかは不明だよ』

『素晴らしい。完璧な実験体だよ、キミは』

『……………』

 

 私は思わず涙を流した。

 

『お前は……助けに来てくれたのか』

『悪いな、遅くなって』

 

 その瞬間、耳鳴りが――。

 意識が堕ちていくような感覚を覚え、必死で抵抗する。

 目を見開き、助けに来てくれた少年の姿を確認しようとして、

 

 ゴトリ。

 

 鈍重な音を鳴らし、何かが目の前に落ちてきた。

 べちゃっ、と音を奏でながら熱い液体が頬に降り注ぐ。

 夜だからか、その正体がイマイチわからない。

 しかし、その正体を察してはいけない。それが何かを知ってはいけない。

 

『ああ、感動の対面だ』

 

 正面をライトで照らされ、目の前の正面を肉眼に焼き付けてしまう。

 

『ああ、アア……アアあぐあああああぎああっ!!』

 

 目の前に転がっていたのは、少年の頭蓋だった。

 

 ――暗転、

 

 

 ◆

 

 

 

 

 私が()()()目にした光。それが教官との……織斑千冬との出会いだった。

 

「最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

 その言葉に偽りはなかった。特別扱いなどはなかったが、あの人の教えを忠実に実行するだけで、私はIS専門へと変わった部隊の中でも再び最強の座に君臨した。

 

 しかし、安堵はなかった。何かを重要なことを忘れている気がする。

 

 ■■■■■■■(ノイズが走る)――

 

 私は強烈に、深く、あの人に――憧れた。

 その強さに。堂々とした様に。自らを信じる気高さに。焦がれ、憧れた。

 

 ――ああ、こうなりたい。この人のようになることで、守るべき何かを。

 

 そう思ってからの私は、教官が帰国するまでの半年間に時間の許す限り話をしていった。

 ただ側にいたかった。その姿を見つめ、脳裏に焼き付けたかった。次は失わぬように。

 

 ■■■■■■■(ノイズが走る)――。

 

 ある日、教官の力の根源が気になった。

 

『どうして、そこまでに強いのですか? どうすれば強くなれますか?』

 

 その時だ。鬼のような教官厳しさを持つ教官が、隙だらけの笑みを浮かべた。

 その笑みに何かが刺激され、耳鳴りした。

 

『私には弟がいる』

『…………弟』

『あいつを見ていると、わかる時がある。強さとは何なのか、その先にある何かがあるのかを』

『……………』

『わからないか。今はそれでいいさ。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい。だが一つ忠告しておくぞ。あいつに――』

 

 更に隙のある表情を見せる。どこか気恥ずかしそうな表情。

 

(それは私が憧れる教官ではない。あなたは強く、凛々しく、何者にも負けないのがあなたなのに)

 

 力こそが全てだ。それに歪みを入れてしまう存在が許せない。

 そんな風に教官をダメにする弟が許せない。認められない。認めるわけにはいかない。

 

 だから――

 

(排除すると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力でもって……完膚なきまでに叩き伏せると!)

 

 ならばこそ――こんなところで負けていられない。あの男はまだ、倒れてはいないのだ。壊せ、壊せ、壊せ――動かなくなるまで徹底的に壊す。そのための――

 

(力が、ほしい)

 

 鼓動が弾む。ドクン、ドクン、ドクン――と脈動し、私の奥底で何かが蠢く。

 ――最初に初めて、受け入れる言葉を、言ってくれたアイツが言う。

 

『――オレが力を貸してやるよ。全てをねじ伏せるだけの力を……オレが、お前に与えてやる』

 

 ああ、私の味方はお前だけだ。その力で、今度こそは全てを手に入れる。空っぽの私などで良ければ、何から何までくれてやる!

 だから、力を……比類なき最強の力――唯一無二の絶対を私によこせ!

 

 Damage Level ……E.

 Mind Condition ……Uplift.

 Certihcation ……All Clear.

 

《Valkyrie Trace system》…………Boot.

 

 

 殻を破り捨て、姿を見せたのは――最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)

 

 

 




ラウラの過去話です。

ちなみに今回で明らかになった部分と主人公の静馬が覚えている記憶は別物です。
あんな別れ方で冷静でいられるはずないですしね。


*三機のIS
一機目は第二世代型IS――打鉄(うちがね)
二機目は第二世代型IS――ラファール・リヴァイヴ
三機目は試作機型IS――クアッド・ファランクス

 の三つです。

クアッド・ファランクスはアメリカ・ドイツの共同制作。
移動のできない不沈艦とも呼ばれ、最強の攻撃力を誇る。
30mm7連砲身ガトリング砲五門+対戦車ミサイル二門を積んだロマン砲台。
後に改良されるきっかけとなるのが、今回の話
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