インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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13.覚醒段階

「なんだよ、あれは……」

 

 そう呟いた一夏。それはオレの代弁でもあり、シャルルの代弁でもある呟き。

 

 ISは原則として、変形をしない。正確には、できないと言った方が正しいか。

 ISが形状を変えるには『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』の二つだけ。パッケージ装備による多少の部位変化はあっても、基礎の形である形状からは変化することができないのだ。その理屈で考えると――

 

 目の前ではありえないことが起きている。まさに異常事態だ。

 さらに言えば変形などという生易しいものではなく、粘土のようにぐちゃぐちゃに溶けてから再度構成し直しているように見える。

 シュヴァルツェア・レーゲンが正体不明の何かに塗り替えれ、その正体不明の何かは心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、操縦者であるラウラの全身を飲む込んでいく。

 

 そして完成したのは、漆黒の全身装甲のIS。しかし、先月の木偶人形(ゴーレム)とは似ても似つかない。

 

 見た目はラウラをベースにしており、土偶少女のそれであり、片手には武器が握られている。その形態はとある武器に似ており――

 

「《雪片》……!」

 

 一夏が呟いたように、一夏の握る雪片弐型とそっくりだった。

 一夏が構え、それに反応して漆黒のISが一夏の懐へと飛び込む。瞬時加速(イグニッション・ブースト)ではない加速にも関わらず、その速度は恐るべき速度だった。

 

「キエロ」

「ぐうっああああッ!」

 

 一夏はなんとか雪片弐型で防ぐが、衝撃によって大きく弾き飛ばされた。そこから蹴りで一夏を遥か上空まで蹴り上げる。それを追いかけ、更なる追撃をかける正体不明のIS。

 

「があああッ!」

 

 トドメとばかりにヤツの剣が一夏を地面へと叩きつける。その一連の動作が完全に熟練操縦士のそれだった。

 

「それがどうした……」

 

 けれど、一夏は気合だけで立ち上がっていく。

 

「それがどうしたああああ!」

 

 雪片弐型を片手に正体不明(アンノウン)へと駆けていく。

 既にシールドエネルギーは枯渇気味だから、瞬時加速は使用できないが一夏は翔ける。

 

(ちっ……猪突猛進が許されるのは同格か格下相手だけだ)

 

 ラウラが一夏と同格かどうかは置いておくとして、オレは一夏の身体をこちらに引っ張る。

 

「何をしてやがるッ! 死にてぇのか!?」

「離せ! あいつ、ふざけやがって! 絶対に破壊してやる!」

「いいから落ち着けって……」

「どけよ、静馬! 邪魔するならお前から――」

「上等だこの野郎。沸騰した頭が冷えないって言うならオレが冷ましてやんよ」

 

 一夏の手首を捻り上げ、抵抗したところで一気に地面へと叩きつける。

 

「なにやがる!」

「邪魔だよ、今のお前は。正体不明の敵相手に猪とかやる気があるのか? もう少し冷静になれって言ってんだ」

「ッ……!」

 

 オレが説経のようなものをしていても、正体不明は一向に攻撃の気配を見せずに高みの見物を決め込んでいる。

 どうやら、ヤツは敵性判別プログラムのような物で敵味方を判別しているのだろう。つまり、武器の類を動かさなければ狙われることはない。実際、一夏の拳には反応を見せていなかった。

 

「あいつ……あれは、千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 

 どうやら一夏は千冬姉の真似に対して腹が立ったらしい。シスコンも状況を考えてやってほしいもんだ。

 

「くそ……千冬姉を真似するラウラも許せねぇ……! 一回ぶっ叩いてやらねえと気がすまねえ」

 

 ああ、その気持ちは何となくわかる。オレも似たような気持ちだからな。

 力を求め、力に振り回されてるようじゃ失格だ。

 

「だが、お前の状況で何ができる? はっきり言えば足手まといなんだよ」

「……っ」

 

 射撃による援護もできなければ、瞬時加速ができるほどのシールドエネルギーも残ってない。そんな一夏が前線に出たところでお荷物以外の何者でもないんだよ。

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止し、状況レベルをDと認定、鎮圧のために教師部隊を送り込む! 来賓、観客、生徒は直ちに避難してください。繰り返します!』

「というわけだ。オレたちの出番は終了なんだよ」

「だから、俺たちは安全地帯で黙って見てろって?」

「そうだよ、わかったらさっさと……」

 

 教師部隊がやることをわざわざ生徒であるオレたちがやる必要性はない。それどころか、事態を却って悪化させる可能性がある。そりゃあ、オレだってラウラを助けたいさ。でもな、状況を考えて行動をしなければいけない。それが兵器を扱う大人としての責任ってもんだ。

 

「違うな静馬。全然違う。お前は勘違いしてるぜ。俺たちが『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ。他の誰かがどうだとか、知るか。大体なあ、ここで引いちまったらそれは俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」

「ああ、そうかい。オレは理解できたよ、お前ってヤツが」

「――静馬!」

「お前が本当の馬鹿野郎だってな。俺がやりたいからやるだァ? 自惚れるのもいい加減にしろ! 今のお前には何もできねェよ! ゴミみたいに蹴散らされ、いらねェ心配をかけて迷惑をかけるだけなんだよ! 今のオレたちに出来るのは、速やかな撤退なんだよ。それぐらい分かれ」

「お、落ち着いてよ。二人共」

 

 ああ、クソッ。オレも人のことが言えねぇよ。頭に血が昇って、周りが見えちゃいなかった。

 シャルルに止められなければ、感情のままに行動しちまうところだったぜ。

 

「サンキューな、シャルル。おかげで頭が冷めた」

「俺は行くったら行くんだよ! アイツを止めて、さっさと千冬姉の真似をやめさせてやる!」

「お前はまだ――!」

 

 ――織斑一夏、排除する。

 

 瞬間、底冷えするような声が脳内に響き渡り、後ろを振り向くと……。

 そこには正体不明が一夏に向かって武器を振るっていた。

 回避は間に合わない。ならば、守るしかない。

《単分子ブレード》を構え、一夏を守る。重たい一撃が腕に伝わり、骨の芯に響くような振動が伝わる。

 

「クソがッ! 重たすぎるんだよ、これがブリュンヒルデの実力なのかよ……!」

 

 耐えるのが精一杯で、攻撃を弾くことが短いブレードでは難しかった。

 弾け、正体不明が上空を舞う。個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を使い、一瞬のうちにオレの背後――一夏へと攻撃を放つ。雪片弐型と同様の性能であれば、正体不明の持つ武器はエネルギーを裂く一撃のはずだ。それが今の一夏に放たれたとしたら、命の危険がある。

 

(ちぃッ――!)

 

 両目を瞑り、強引に両目の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を発動させる。脳に電流が直接奔ったかのような感覚が襲いかかり、顔を顰める。だが今は痛みで止まっている場合ではない。

 宙に軽く浮き上がり、身を翻す。翻している間に《ヴァナルガンド》を展開し、トリガーを引く。一夏には当たらないように照準をきっちり定めながら。ヴァナルガンドが火を噴く。

 

『ウセロ――!』

 

 正体不明が咆哮し、ただそれだけで弾丸が見えない壁に阻まれるように停止していく。

 

「まさか……慣性停止能力か!?」

 

 そのまま一夏に蹴りを入れ、

 

『排除排除排除排除――!』

「あ、ッがあああアアアッ!」

 

 咆哮によって一夏の機体がミシミシと音を立て、一夏の機体にヒビが入っていく。

 

《白式のダメージレベルがEに到達。直ちに攻撃をやめてください》

 

「これ以上は一夏が死んじゃうよ!」

 

 シャルルが六九口径パイルバンカーでもって迎撃しようとするが、素早く反応して上空に逃げていく。それをシャルルが追いかけるが――高速旋回し、シャルルの背後に回り込んだ正体不明が背中に蹴りを入れる。一夏同様に地面へと叩きつけられて、大きなクレーターを作る。

 

「きゃあああっ!」

 

 ……織斑姉の模倣? オレは織斑姉が活躍していた頃の映像を見たことはないが、これが織斑姉の模倣ではないと気付く。理由は単純明快で、この戦法をオレは深く知っている。

 

 ――それはオレの格闘スタイルと似ていたからだ。

 

 そうなのだ。最初に一夏を蹴り上げた時の動作に既視感を覚えた。そして、もっと違和感を覚えたのが個別連続瞬時加速の使用だ。少なくとも、織斑姉は個別連続瞬時加速を使っていないはずだ。それが出来るのは、今のところはオレぐらいのはずで……それを実行して見せた正体不明はオレの模倣をしているのだ。

 いや、正確に言うならば織斑千冬の型を取りながら、深見静馬の動きをトレースしている。理由はラウラとオレが同じ遺伝子強化試験体だからだろう。

 

 しかし、オレのISは個別連続瞬時加速に付いていけるほどのシールドエネルギーが残っていない。まさに絶体絶命のピンチだった。

 

「それでも、やるしかないんだ」

 

 撤退の出来るタイミングは当に過ぎ去った。いや、オレだけならば簡単に撤退できるだろう。

 だが、それは二人を見捨てることになる。暴走状態のコイツをアリーナ内部に残し、撤退するのは見捨てるのと同意義だ。ならば、やるしかないのだ。

 

 鼓動が早まり、

 視界が鮮明になり、

 感覚が強化され、

 意識が覚醒に近づき、

 オレは力を開放する――。

 

『適合率70パーセントを突破。これより覚醒段階(アウェイクニング)移行(シフト)。記憶領域内の■■記憶(Unknown Code)を開放――次回更新適合率は未定』

 

 無機質な声が淡々と脳裏で告げ、オレの力が更に一段階開放されていく。

 

『勝つのは、オレだ――ッ!』

 

 この力の使い方を、身体が覚えている。

 心臓の鼓動が増し、それは顕現した。

 オレの持つ《単分子ブレード》が蒼色の光を放つ。

 この瞬間だけ、オレは零落白夜と同じ力を手にしたのだ。

 

(悪いな、一夏。お前の力を借りるぜ?)

 

 単分子ブレード以外の機能を停止させ、ISの各種機能が落ちていく。それは身体を守る装甲も同じで、ハイパーセンサーによる支援も途切れる。だが、オレにはこの瞳がある。

 

 意識を研ぎ澄まし、ブレードを纏う力を調節する。必要なのはラウラに纏わりつく正体不明の泥だけを吹き飛ばす力だ。相手を倒す力ではない。ブレードを構え、身体を落とし、体術のみで間合いを一気に詰める。足りない飛距離は瞬間的な部分展開で事足りる。

 

『砕けろ、偽物風情が。ラウラに触れてるんじゃねぇよ』

 

 刹那の間に間合いを詰め、一気に跳躍。常識からは考えられない高さにまで飛躍したオレは一気にブレードで一閃。

 

『ギ、ギギ……ナゼ、ダ――』

 

 ジジジッ――と紫電が走り、漆黒のISが真っ二つに割れる。露出したラウラとオレの目が合う。眼帯が外れ、露わになった瞳はオレと同じ黄金の瞳。ひどく寂しそうな表情を浮かべながら、必死でオレに助けを求めていた。そのまま空中でラウラの身体を受け止め、地面へと着地する。

 

「ああ、オレは今度こそ守れたんだな……」

 

 ラウラを決して離さぬように強く抱き締め、オレは意識を手放した

 




とりあえずは第三章の山は今回で終了です。

色々と突っ込み所は満載ですが、主人公の能力についてはまだ秘密です。

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