インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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14.更なる始まり

「う、……ぁ」

 

 天井からの光を感じて、ラウラは目を覚ました。

 

「気が付いたか」

 

 聞き覚えのある声。むしろ、この声を聞きたくて頑張ったほど、憧れる教官だった織斑千冬。

 

「私は……いったい……?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉剥離や軽い骨折がある。無理をするな」

 

 千冬ははぐらかしたつもりで言うが、千冬に憧れを抱き続けていたかつての教え子は、簡単に気付いてしまう。

 

「何が起きたのですか……?」

 

 無理に上体を起こすラウラは、全身を駆け巡る痛みに顔を歪める。だが、この程度の痛み何百回と経験済みだ。瞳に意思を込め、露出している黄金の瞳を真っ直ぐに向けて問いかける。

 

「やれやれ……。この件は特秘案件なのだがな」

 

 そう言ったところで納得のできる相手ではないことを千冬は知っている。声を押さえ、ラウラに近づき、ゆっくりと話し始める。

 

「VTシステムは知っているな?」

「はい。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステムで、IS条約によって禁止されている代物です」

「そうだ。それがお前のISには積まれていた」

「…………っ」

「巧妙に隠蔽はされていたがな。精神状態、ダメージレベル、そして何よりも操縦者の意志……強い勝利への渇望が揃った時に発動するようになっていたらしい。現在はドイツ軍にも問い合わせている。近いうちに委員会からの強制調査が入るだろう」

 

 千冬から口から出る真実を聞かされ、ラウラは痛みを無視してシーツを握りしめた。なんという不甲斐なさ……力に溺れ、問題を起こしてしまうなんて。VTシステムが積まれていたのが問題ではないのだ。これは自分の意志なのだから……望まなければ、発動のしないシステムなのだから。

 

「……私の、せいですね……」

 

 力に溺れ、周囲に迷惑をかけた。

 その中に千冬にとって大事な人が含まれている……。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「はい」

 

 名前を呼ばれる。如何様な処罰でも受けるという覚悟で見据える。

 

「お前は誰だ?」

「ぇ……? わ、私は……。……」

 

 その言葉の意味は理解できた。自分がラウラ・ボーデヴィッヒであると、言うだけの詰問。だがしかし、簡単に言うことができなかった。模倣し、自分の力を諦めてしまった私に……。

 

「言えないのか? だったらよ、お前の名前は――」

 

 千冬の後ろから、男が姿を現す。

 その男の声には聞き覚えがあった。今ならきちんと思い出せる。初めて、ラウラを認めてくれた男だ。

 静馬は片手にギプスを巻いており、サングラスをしている。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。不満があるか? だったら、オレがお前に名前を付けてやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。それがお前の名前だよ。わかったか?」

 

 ラウラの前まで近づき、頭を軽く撫でながら言う。

 その手のひらは思っていたよりも大きく、暖かった。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ。そうだ、私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ」

「おう。久し振りだな、ラウラ」

「あ、ああ……久し振り、だな」

 

 満面の笑みを浮かべる静馬に対して、ラウラは気恥ずかしさから目を逸らすが……再会の言葉は言うことができた。そんなラウラに静馬から少しだけ離れてから、改めて言葉を口にする。

 

「ラウラ」

「なんだ?」

「いや、何でもない。しっくり来てなさそうなお前の名前を呼んでみただけだ」

「そ、そうか……。し、静馬……私も名前で呼んでもいいか?」

「あ? 何か問題があんのか?」

 

 その質問がおかしかったのか、静馬は軽く笑った。

 むぅ……。

 

「静馬」

「……おう」

「これからもよろしく頼む」

「ああ、これからもお前を守ってやるよ」

「……守られるだけの私ではないぞ」

 

 その言葉は嬉しかったが、これからは守られるだけではダメだと思った。困った時には、お互いが支え合うような関係になりたいと心の底から思うのだ。

 

「そうか。まあ、困った時は頼れ……以上」

「ありがとう、静馬」

 

 静馬はもう言いたいことはないのだろう。背を向けて保健室から去っていった。

 その間に照れるように頭を掻いていたのが、可笑しくて痛みが身体を駆け巡ってしまう。

 

「ふふ……ははっ」

「いい顔で笑えるようになったな」

「はい! 今度、織斑一夏にも謝りたいと思います」

「考えた末に選んだ選択ならばいい結果に繋がるだろう。精進しろ、小娘」

「……はい!」

 

 千冬も言うべきことが終わったのだろう。ベッドから離れ、保健室から立ち去っていった。

 誰もいなくなった保健室で、ラウラは一人独白する。

 

「完全敗北したにも関わらず、こんなに清々しい気分なのは生まれて初めてだな」

 

 ああ、それもアイツのおかげだ。

 アイツと別れてから止まっていたラウラの時間が、これから再び動き出すのだ。

 そのために、まずは迷惑をかけた奴らに謝罪することから始めようか――。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 翌日。朝のホームルーム。

 昨日の事件は生徒会長であるたっちゃんの暗躍などもあって、オレの正体が露見することもなく無事に収束したのだった。流石にオレの正体が委員会やお偉いさん方に露見してしまえば、強制送還などの措置を取られてしまう可能性が高い。それは非常に面倒なので、たっちゃんに頼んで誤魔化してもらった。だがまあ、たっちゃん相手に借りを作ってしまったのは最善と言えるのだろうか……? まあ、いっか。

 

「み、みなさん……おはようござい、ます……」

 

 既に満身創痍な山田先生がふらふらと教室に現れる。いったい、何をしてきたのだろうか。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といっても、すでに紹介済みといいますか……ええと」

 

 転校生という言葉に、一斉に騒がしくなる。しかし、オレには一人心当たりがあった。

 

「じゃあ、入ってきてください」

 

 その声に一夏が驚き、周りの生徒たちも驚きの表情を浮かべる。

 だって、そこにいたのは――

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 みんなが男だと思っていたはずシャルルで、現れたのはシャルロットと名乗る女の子だったのだから。

 だがまあ、オレはシャルルが女性であることは知っていた。というよりも……遺伝子強化試験体であるオレにとって、男女の判別程度は朝飯前。単なる男装程度は瞬時に見抜くことができる。そうでなくても、男性が女性の仕草を真似ていたとしても声質、歩く姿勢、顔付き、外見、歩幅、髪の毛、口調などの要因から判断が可能なのである。

 

 だから、記憶を取り戻した時に理解してしまったのだ。知っていながらも指摘しなかったのは、単に面倒だったから。昔から知っているラウラに関わるのはともかく、無関係のシャルルの事情にまで首を突っ込む気はなかった。それにラウラの身元を把握しているたっちゃんが、シャルルのことを知らないの不自然だし、そのたっちゃんが気にしていないのであれば、別に問題はないと思っていた。

 

「え? デュノア君って女……!?」

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね」

「って織斑君、同室なのに知らないわけが……」

「ちょっとちょっと! 昨日って確か、男子が大浴場を使ったよね!?」

 

 そこで、女子の視線がオレと一夏に集まる。

 言っておくが、オレは怪我をしていて大浴場は利用していない。汗を流すためにはシャワーを浴びただけなのだ。だから、セシリアもどうかオレを睨まないでくれ。

 

 そして、廊下から一人の足音が聞こえてくる。ついでに言うと、オレは足音で人物の特定をすることも可能。この足音は鈴だ。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 教室のドアを蹴破っての登場。その顔は怒りに溢れており、背後にはオーラさえ漂っていた。ああ、この後の展開が用意に想像できる……。

 

「死ね!!」

 

 ISアーマーを展開し、それと同時にフルチャージ済みの衝撃砲が放たれる。

 

(ああ、ここに織斑姉がいたらなあ……)

 

 なんて考えながら、オレは現実逃避を始める。

 が、一夏は予想外の人物によって守られていた。

 それは『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開したラウラが一夏を守ったのだ。

 昨日の機体ダメージのせいか、肩に積んであった大型レールカノンはない。どうやら、有り合わせのパーツで組み直したのだろう。

 

「助かったぜ、サンキュ。ってもう身体は大丈夫なのか?」

「……あ、ああ。私の身体は特別治りが早くてな」

「へー。そうなんだ」

 

 一仕事を終えたとばかりにため息を吐く。

 まだ完全に身体が治ったわけではないのだろう。

 そんなラウラがオレの下へ向かってくる。

 

「無事か、静馬」

「見りゃわかるだろ……」

「それはよかった。静馬を守れたのであれば、私は満足だ」

「で、身体はまだ完全じゃないんだろ?」

 

 オレの言葉に一瞬だけたじろぐが、観念したように白状する。

 

「う、うむ……」

「まっ、あまり無理すんなよ? ってなわけで、後は織斑先生に任せてラウラは席に座れよ」

「わかった」

 

 ラウラが素直に頷き、ISを解除して席へと着席する。

 そして、暴れている三人が「織斑先生」という単語に反応し、間の抜けた声を発する。

 

「うぇ?」

「なんて?」

「……嘘だよね?」

「……ほう、私の姿が目に入らないと?」

 

 一夏と鈴の頭がアイアンクローされ、ミシミシと音を立てながら目を剥く二人。

 そんな二人の姿を見せられ、次はお前だぞと言わんばかりの織斑姉の姿に対して、シャルロットは絶望の顔で膝をつく。

 

 自業自得とはいえ、色々と可哀想になってくる光景だった。

 

「やれやれ、ですわね……」

 

 セシリアが小さな声で呟いた後、ホームルームは潰れて三人の絶叫がクラスを支配した。

 この日、我がクラスの生徒たちは織斑先生には逆らわないようにしよう、と心から誓ったのだった。

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

「むぅ………」

 

奇妙な部屋。部屋の至る所には機械が転がっており、ケーブルが血管のように広がっている。

 金属の根の上を歩いて行くのは、機械仕掛けのリスだ。床に転がっているボルトを、ドングリのようにガジガジと齧っている。

 

 ガリガリガリ……。

 

 不要な部品を識別し、その構成素材を分解して吸収、別の形状へと再構成するリスは、世界中を探してもここにしか存在しない。

 

 だから、ここは――IS開発者である篠ノ之束、その秘密ラボ。

 

「おー? おおー」

 

 篠ノ之束、彼女もまた異色の姿をしていた。

 スカイブルーのワンピース。まるで『不思議の国のアリス』のアリスをモチーフとしており、エプロンと背中の大きなリボンが目を引く。

 顔立ちは、やはり妹の箒と似通っている。が、厳しさの中に凛々しさを兼ね備えた箒に対して、束の真っ白な肌には、寝不足から来るクマが染み付いている。なのにも関わらず『美少女』という容姿から大きく逸脱はしていないのが束である。

 

 そんな束ではあるが、その身体は均整の取れたプロポーションを保っていた。

 

 そして何よりも目立つのが、彼女の大きな胸の膨らみ。サイズのイマイチあっていない衣服のボタンが引っ張られ、白いブラウスの隙間からは大人の肌が覗いている。

 それに加えて頭にはそれまた大きなカチューシャ。白ウサギを想起させるそれは、より『不思議の国のアリス』を際立たせている。

 

 ちなみにそれは束の趣味であり、先月は『ヘンゼルとグレーテル』を身に纏っていた。

 

 そして、束は奇妙な椅子の中に埋まっていた。

 その椅子は大きく歪んでおり、束の身体を取り囲んでいる。が正しい表現か。

 音を奏でながら、束の指先に連動してカラクリが動く。指先のわずかな動きが各パーツを動かし、まるで生き物のような脈動で動き周り、小さなパーツ同士が組み合わさっていく。

 

 ――ISのプラモデル。それもナノ単位で組み上げられた云わば本物の造形。

 

 完成した瞬間、それを一気に崩す。完全に意味のないガラクタへと変え、機械仕掛けのリスが大好物の食べ物を求めるよう嬉々として食べていく。

 

「あーあ」

 

 今まで行われていたそれは、完全な暇つぶしである。各国の技術者が聞けば、泣いて懇願するほどの傑作があったのだ。

 

「ひまぁ……」

 

 着信音。それも微妙な。

 ゴッド・ファーザーのテーマが流れ出したのだ。彼女の年齢から考えて、一体何十年前の作品なんだ、と思いたくなるほどに古い作品だ。

 

「こ、この着信音はぁー!」

 

 跳躍し、携帯端末へ向かってダイブ。その衝撃でガラクタが吹き飛ばされ、機械仕掛けのリスもまた同様に吹き飛ばされる。が、束にとってはどうでもいいことである。すぐさま携帯を耳に当てる。

 

「もすもすぅ? 終日?」

「……………………」

 

 通話が終了した。

 

「わー! 待って待って!」

 

 再度鳴り出す携帯端末。

 

「はーい、みんなのアイドル束ちゃんだよー! って待って待ってぇ! ちーちゃん!」

「その名で呼ぶな」

「おーけーおーけー。ちーちゃん!」

「はあ……。まあいい。今日は聞きたいことがある」

「なーにー?」

「お前はこの件に関わっているのか?」

「こ、今回?」

 

 思わず首をかしげる。まるでわからない。

 

「VTシステムだ」

「ああ。アレか。うふふ、ちーちゃん。あんなシロモノ、この私が作ると思うかな? もしも作るんだとしたらそれこそ完璧な代物に仕上げるよ? だから、作るものが完璧でない代物は意味のない代物だよ」

「ていうか。開発元は既にこの世にありませーん。ああ、死亡者はゼロだよ? かんたんだよぉ? あはは」

「そうか。邪魔したな」

「いやいや、邪魔だなんてとんでもない。私はちーちゃんのためならいつでもどこでもウェルカムミーだよ!」

「そうか……では、もう一つ聞いていいか」

「んん? 遠慮はいらないよ! さあ! さあ! ハリー!」

 

 電話の主――千冬が一呼吸置いてから言う。

 

「深見静馬という男を知っているか?」

「――だれ?」

「知らないのか? 世界で二人目の男性操縦者だが」

「そんな名前は知らないよ。いっくん以外の男性操縦者なんて」

 

 おちゃらけた口調をやめ、底冷えする声で断言する。

 それこそ、束をよく知らぬ人間が聞けば卒倒するほどの声だ。電話相手である千冬ですら、今の彼女には何か言い様のないものを感じていたほどだ。

 

「そうか」

「ああ、それでソイツがどうしたの?」

「いや、どうしたってことではないがな。VTシステムが積まれていた生徒と同じ瞳を持っていたのでな」

「同じ瞳? まさか遺伝子強化試験体なの? それこそありえないよ、ちーちゃん。あいつらは例外を残して全員が死んだからね。これは本当だよ? 私が認識しているのは3人だけ」

「そうなのか?」

「そうなのだよー! だから私は知らない。気になるし、私の方で調べておくよ」

「ああ、頼んだ」

「たのまれたー!」

「……では、またな」

 

 通話が終了した。今度は一方的な切断ではなく、きちんと会話を終えた上で。今度はもう掛かってくることもなく、束は名残り惜しそうに端末を眺めたが、数秒後にはケロっとしていた。

 

「やー、久し振りに声が聞けて束さんは嬉しかったねぇ。ちーちゃんも相変わらずだったし。水平線の向こう側へは行かないでね」

 

 織斑千冬と篠ノ之束。二人の出会いは小学生の頃だ。

 しかし、二人の関係はそんな薄いものではない。

 千冬が高校生の時にISが発表され、以降は研究や開発のために千冬は操縦者として協力していた。つまり、千冬が部門受賞者として君臨できたのは元々の状況からして他の操縦者とは一線を画していたのだ。つまりは、最初から条件が違うのだ。

 という理由があるにしても、あの実力は千冬のものであり、努力の結果であることを束は理解している。

 

「どーして引退しちゃったんだろーねー」

 

 その原因は不明だ。実力からしても才能からしても、第一線級で通用する腕前を有している。それどころか、復帰したのならば他の操縦者に追随を許さないだろう。

 

 ――だからこそ、その理由が深く知りたい。世界で三人だけが束の興味対象だから。

 

「さて、頼まれたことを調べないとねー」

 

 端末を素早く操作し、目にも留まらぬ速さで必要な情報をかき集める。

 数分。ほんの数分で必要な情報が網羅され、深見静馬という人物に纏わる情報は簡単に出てきたのだった。

 しかし、彼が遺伝子強化試験体である情報は一切出てこなかった。

 

「これはおかしいねぇ……?」

 

 その中には彼の生まれてからの経歴が書かれており、それを読む上では至って普通の人間。後ろめたいこともなければ、情報改竄がなされた形跡も見当たらない。いや、彼の情報は普通すぎて怪しく見えてくるほどでもあった。一切の素行不良がなく、成績は平均。家族は病死しており、姉が一人いる。その姉とも仲が良く、問題のない家族だ。高校二年生の頃に全国で一斉に行われたIS適性検査によって、IS学園へ入学。

 

「その時の情報を見てみよっか♪」

 

 端末を弄り、静馬が実際に触れたコア情報にアクセス。

 そこで束が見たのは、衝撃的の事実だった。

 

「アクセス形跡なし……? どういうことなの」

 

 ISが自動で起動。つまりはそういうことである。

 深く情報を読み込んでいけば、このISがコアの意志によって起動したことが判明する。コアには独自の意志があるとされているISコアだが、その現象は操縦者との相性が最高に達したときぐらいしかコアの意志は確認できないのだ。しかし、このISは初期状態でありながら意志を見せていることになる。

 

「――――」

 

 そう考えていた時、またもや着信音が鳴る。音楽で相手を判断した。出る前から相手が誰かなのか既にわかっていた。

 

「まあ、いっか」

 

 そう言った束の脳内からは、深見静馬という人間のことはすっかり消え失せていたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 夜の帳が完全に下りた頃。

 

『…………オレだ』

 

 一人の大男が昔ながらの携帯を耳に当て、誰かと会話している。

 

『彼の記憶が戻り始めている。適合率70パーセントに到達し、覚醒段階(アウェイクニング)へと移行(シフト)した。――ああ、これより計画を進めたいと思う』

 

 通話相手の声はノイズで包まれており、端々から聞こえる声は繋ぎ合わせのボイスレコーダーのようだ。

 

『……篠ノ之束の介入によって、幾らか計画に支障は出ているが問題はない。問題があるとすれば、アレが精神の負荷に耐えられずに計画が破綻する可能性だ。その場合の判断はそちらに任せるさ』

 

 …………。…………。

 

『ああ、始めよう』

 

 ノイズが強くなり、大男が弾むような声で言う。

 

『――オーディン化計画を』




今回で第三章「ヴォーダン・オージェ」は終了となります。

次回からは第四章へ突入となります。
最後のは意味深な会話的なのをやりたいなあ……と思った結果。

どうも私は締めというのが苦手で、締めになると途端に執筆速度が低下していくんですよね……。なので、今回の話は色々と薄いかもしれませんね。
まあ、第四章に期待してもらいますか!

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