インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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2.妹攻略作戦 前編

 IS学園整備室。各アリーナに隣接した位置に存在し、整備科のための設備が整っている場所。

 本来であれば、整備科は二年生から行われる選択教科で選ぶことで初めて利用する場所。そこへ楯無の妹である簪は私室のように入り浸っていた。

 更識家であることに加えて、彼女が技研にISの製作を取り下げられてしまったという理由のため、特別に滞在許可を貰っていた。

 

 そんな整備室で昔ながらのメカニカル・キーボードを打っている簪だったが、その手の動きに迷いがあった。

 

「どうして……。各駆動部の接続が上手くいかない……」

 

 彼女が現在行っているのは、未完成の機体を独力での実用化。

 

 それは、かつて姉である楯無が自身の機体である『ミステリアス・レイディ』で行ったことだ。

 姉にできたのだから、私にも可能性がある。少なからず簪はそう思っていた。そうでなければ、あの姉に追いつくことなど夢のまた夢。故に、簪はどれだけの時間を掛けてでも実現させようとしていたのだった。

 

「……コアの適性値が低い。コアが拒否反応を示している……?」

 

 リヴァイヴの汎用性。それを基に全距離対応型(マルチロールタイプ)を組み上げていた。その名は『打鉄弐式』と言う。

 しかし、思ったように作業が進んでいない。それどころか、コアの指向性を与えるという初期段階ですらクリアできていないという状況。そんな状況に簪は歯噛みしていた。

 

「………………ふう」

 

 ため息を吐き、あんパンの包装を破りながらディスプレイとキーボードを片付ける。

 

(帰ってヒーローアニメでも見て一息入れよう……)

 

 簪の密かな趣味の一つ。それは古今を問わないアニメを見ることだ。その中でもヒーロー・バトルものは彼女のお気に入りだった。

 悪を挫き、正義を成す。そのシンプルで王道な作品が大好きなのだ。

 余談だが、子供の頃に好きだった絵本は『桃太郎』や『金太郎』。姉の楯無は『浦島太郎』が好きなのだとか。

 

 そんなことを考えていると、後ろの自動ドアが開く。そこにいたのは、静馬だ。

 両手にたくさんのジュースとあんパンやシュークリームといった食べものを抱えている。

 

「休憩か? 疲れた頭のために甘いものを持ってきたんだが、食べるか? こないだのやつも食べてくれたみたいだし」

「…………これは自分で買ったやつ」

 

 いらない、と言ってしまったにも関わらず、それを食べているのが恥ずかしくて咄嗟に言い訳をしてしまう。それが更に恥ずかしくて目を逸らす。

 

「気に入ったんだな」

「…………っ」

 

 気に入ったのだと勘違いされ、更に恥ずかしくなる簪。

 そんな簪には一切触れず、無言で静馬は紙パックの牛乳を作業机に置く。

 少しばかり喉も乾いていたので、今度は恥ずかしい思いをしないように牛乳を素直に受け取った

 

「…………ありがとう」

「……おう」

 

 そのまま整備室を出る簪。それにゆっくりと追いかけてくる静馬。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 声をかけてくることもなく、かといって離れるわけでもない静馬に簪は居心地の悪さを感じ、足を止める。

 

「……なにか用」

「……この後、暇か?」

「……忙しい」

 

 そう、忙しいのだ。唯一の癒やしであるアニメ観賞が待っている。それをあんパンと牛乳を飲みながら見るのはなんて素敵な癒やしだろうか。

 まさに楽園だ。

 

「……それなら仕方がないな。じゃ、また暇な時にでも」

「……いったい、何がしたいの」

「オレはキミと仲良くなりたいだけだ」

「どうして、私と仲良くなりたいの……?」

 

 一瞬。ほんの一瞬だけ静馬は答えに窮した、そう思った簪だったが飛び出してきた言葉のせいで飛んでしまう。

 

「……IS学園生徒会長である更識楯無の妹がどんな天才かな、ってな具合に」

「――――っ」

 

 衝動的に手が出ていた。まずい、と思った時には既に遅く、静馬の頬に自分の平手が吸い込まれるように命中してしまう

 理由は説明できないが、わざと避けなかったようにも見えた。

 

「………………」

「………………」

 

 そして、簪はその場の雰囲気に耐えられずに逃げ出してしまった。

 ◆

 

 

 

 

 簪に素気無く断られてしまったオレは、頬を軽く撫でる。

 衝動的に叩かれたとはいえ、手加減されていた上に細い腕から繰り出された攻撃は痛くない。

 

「やはり怒られたか」

 

 半ばわかっていたこととはいえ、攻略前に敵意を持たれてしまうのは面倒なことだ。

 これが任務であれば、難易度がグッと上昇すること間違いない。

 

(さて、本当にどうしたものか)

 

 そんなことを考えながら、オレは部屋へ戻る。

 

「そんなに抱えてどうしたの?」

「妹さんと仲良くなるために買ったんだが、素気無く断られてな……」

「うーん、簪ちゃんは餌付けで仲良くなれるほどチョロくないんじゃないかしら」

「そうか、チョロそうなのは姉の方だったか」

「それどういう意味よ!」

 

 どうもこうもない。餌付けで簡単に釣れそうだな、と思っただけだ。

 これとかどうだ? 一個600円以上もするココナッツカシュークリームを上げれば釣れそうじゃないか?

 ……よく考えれば、ラーメン一杯に近い値段ではないか。店によってはラーメンよりも高い出費だ。

 財布がピンチなのにも関わらず、オレはいったい何をやってるんだ……。

 

「このココナッツカシュークリームはいらない、と」

「べ、別にいらないとは言ってないわよ?」

「欲しいとも言ってないな」

 

 箱から取り出し、たっちゃんの目の前に出す。

 それを使い捨てのスプーンを使って食べようとする。

 

「……っ。私にはくれないの?」

「やっぱりチョロいじゃねえか」

「女の子はスイーツに甘いのよ」

「妹は釣れなかったけどな」

 

 オレが差し出すと、口を突っ張らせながら、オレに奪われないように強奪するたっちゃん。

 うわあ、めっちゃ嫌がらせしたい。具体的にはクリームの部分を山葵とマスタードのダブルにしてやりたい。

 うーむ、今度試してみよう。さぞ良いリアクションをしてくれるに違いない。クククッ……。

 

「むー。静馬くんが超絶悪そうな顔してるわね……」

「失礼な」

 

 どうやら、オレの思っていることが顔に出ていたらしい。

 ポーカーフェイスは得意なはずなんだがなあ。

 

「それで簪ちゃんどうだった?」

「平手打ちされた」

「んんっ、ごほっ、げほっ……ッ」

「おいおい、大丈夫かよ。水飲めよ」

 

 昔に流行っていた水素水の缶を開けて、飲むように勧める。

 

「ん、んっく……し、死ぬかと思ったわ……」

「ゆっくり食べないからだろ」

「違うわよ! 静馬くんが平手打ちされたなんて言うからよ……。 えっ、え? なんで平手打ちされちゃったのよ。あの子、そういう非生産的な行動はしないはずなんだけど……」

「一回目は耐えたようだが、二回目はダメだったみたいだな」

 

 一回目は完全に逆恨み的なところがあるから殴るには至らなかったんだろう。

 しかし、二回目の時は敢えて挑発するような言動を取ったから仕方ないとも言える。

 

「セクハラでもしたの? 胸を触ったとか」

「……違うな」

「じゃあお尻とか?」

「……はあ。どうして姉の方は人格に問題があるんだろうな。妹さんが可哀想だわ」

「ちょ、冗談に決まってるじゃない!」

 

 まあ、知ってたけど。

 なんか、最近たっちゃんの操縦方法がわかってきた気がする。

 これはこれで面白いと思えるようになってしまったことに関しては、良いことなのか判断に困るけど。

 

「……それにしても、あの簪ちゃんが行動を起こすなんてねぇ。本当は何したの?」

「ああ、それなら――『IS学園生徒会長である更識楯無の妹がどんな天才かな』ってな具合に煽ったらこのザマだ」

 

 痛くもない頬を擦りながら、さっきの再現をしてみる。

 こう、どういう反応をするのか。姉妹間の拗れ具合はどの程度なのか。どの程度であれば感情を剥き出しにしてくれるのか、というのが知りたかったからだ。

 

「うわあ……静馬くんの顔が悪党にしか見えないんだけど……」

「そうか? これでもマイルドに笑ってみたんだがな」

「少なくともこれから仲良くなろうって人の顔には見えないのは間違いないわね」

 

 それは、失敗だったか。

 次の機会があれば改善させてもらうか。

 そんな機会はもうだろうけど。 

 

「まあ、諦めたわけではないさ。約束は守るし、悪いようにはしない」

「そこら辺は信用してるわよ。……カシュークリームごちそうさま」

 

 信用していなければ、他人に自分の妹を頼むことなんて出来ない。

 それは純粋に嬉しいのだが、どうしてオレのようなヤツを信用することができるのだろうか。

 ――わからない。わからないが、その信用を裏切るようなことだけはできない、何故だかそう思う……。

 

(明日からは別のアプローチも考えないとな……)

 

 頭の中で様々なアプローチ方法を考えながら、寝る前にシャワーを浴びることにした。

 

 

 ◆

 

 

 

 

「………………」

 

 簪は布団に篭りながら、その中で携帯端末の映像を見ていた。

 そこから投影されるディスプレイには、ヒーローが無双しているシーン。

 それが唯一の癒やしであり、溜まったストレスを発散できる瞬間だ。

 

 そう、いつもなら。

 

 今日、この時だけは違った。

 

(殴っちゃったよ……)

 

 最初は我慢した。

 だって、自分の専用機が未完成なのは間接的には静馬のせいであっても、本質的には静馬のせいではない。

 

 だから、一回目は耐えた。

 

 問題なのは二回目の時だ。

 姉と自分を比較され、思わず感情が昂ぶってしまい、手を出してしまった。

 

(…………コンプレックス)

 

 更識家に生まれた簪は、物心ついた頃から既に自分と姉の間に大きな差があることを自覚した。

 当然、そこから生まれる親からの期待。それに応えようとする度、思い知らされる歴然たる差。

 常に比較される鬱屈とした日々……だが、今まで誰かに泣き言を言ったことはない。

 そうして、これまで生きてきたのだ。

 

 それなのに、これからもそうして生きていくはずなのに。

 

(……深見……静馬……)

 

 思い浮かべるのは、殴ってしまった男子生徒のこと。

 不器用そうで、口下手そうな。それでいて周りをきちんと見ている。

 まるで自分よりも年上のような。

 

 そんな彼のことを思うと、よくわからない気持ちになる。

 そんなことを考えていると、アニメはとっくに終わっていた。

 ノスタルジックなエンディングテーマを聞きながら、簪は眠気に身を委ねていく……。

 




面倒なことを嫌いながらも、興味のあることには逆らえない。
それが本作の主人公です。
他にも面倒なことに首を突っ込んでるのには色々な原因があるのですが、
そこら辺は1話から読み直したらわかりやすいかな?
(わからなかったらごめんなさい)

残り2話くらい簪メインの話が続きます。
が、セシリアやラウラも登場させますので安心を。
次の話ではティナやエミリーなども。

ところで、静馬の財布事情はどうなっているんですかね。
…………まあ、何とかなってるでしょう。

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