インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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3.妹攻略作戦 後編

 シュ――――ッ!

 

 空気を裂く鋭い音と共に、蛇のような手刀が振り下ろされる。

 最速の一撃。ただひたすらに疾く、常人であれば回避という思考にすら辿り着くことすら不可能なほどの手刀。食らえば気付かぬ間に昇天していた、なんてことも十分にあり得るほどだ。

 だがしかし、振り下ろされる側であるオレは既に常人とは言えない領域に踏み入れている。

 

 故に――

 

 軽く上体を逸らすことで回避し、振り下ろされる手首を掴み上げ、そのまま流れるように地面へと投げ落とした。

 

「まだ、やれるか?」

「――私の負けだ」

 

 オレとラウラは模擬戦をしていた。

 ルールは至って簡単。ISや武器の使用を禁止にした『何でもあり』の模擬試合だ。

 とはいえ、相手を殺せるような必殺に成り得る技は暗黙の了解として封じている。お互いに軍属の身であったことを考えれば至極当然の配慮と言えるだろう。

 

 そして、模擬戦の最初はラウラが圧倒的に優勢だった。

 

 ラウラは越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の使用に慣れるため、常に発動した状態で試合を行っていたのだ。対してオレの方は越界の瞳を使用していない。条件を合わせてもよかったのだが、オレの越界の瞳はまだ不完全な状態。もしかしたら、何にか予期せぬ暴走が起こる可能性を否定できない。

 だからこそ、不用意な使用はアレから控えていた。

 とはいえ……あまり使用する機会がないのも事実ではあるのだが。

 だって、そうだろ? ISを起動してしまえば同等の効果が得られるのだから。敢えて使うような状況に早々陥ってたまるかよって話。

 

 越界の瞳の力は圧倒的で、ありとあらゆる攻撃の初動を読み切ることが可能であり、それと同時に脳のリミッターが半分ほど外れかかっているような状態。所謂狂化状態と言うところだろうか。

 

 ――だが、越界の瞳にも明確な弱点が存在する。

 

 それはオレ自身がよく理解していることで、ラウラもそのことを理解しているはずだ。

 簡単に言ってしまえば、細かい動作に対しても反応してしまうのだ。

 些細な視線の動きでさえも、越界の瞳は見逃さない。

 それは素晴らしいことにも思えるが、同時に欠点でもあるのだ。些細な視線や力を込める度に隆起する筋肉の筋にまで注意が言ってしまっては邪魔でしかない。もちろん取捨選択ができないわけではないのだが……事実として意識に入ってくるものは容易に切り捨てることができないのが人間だ。

 一度意識してしまえば、そこから先に繋がる行動を予測できる。そうなれば視線誘導やフェイントに引っかかってしまう、というのが欠点。

 

 その欠点をラウラが頑張ってカバーしてはいたのだが……。わざと隙を作っていたところへ見事に攻撃を入れてきたので、そこを迎撃して終了。

 

「一つだけアドバイスしてやるとだな、お前はフェイントの類に弱すぎだ。素早い動きや力強い攻撃も結構だが、小手先の技術も磨いたらどうだ? それだけでかなり違ってくると思うんだがなあ……」

「う……」

 

 越界の瞳を使っている以上は仕方のないこととはいえ、ラウラが力任せな攻撃を好むきらいがある。それは悪いことではないんだが……露骨なフェイントが多かったり、そもそも簡単な隙に誘われたりし易いんだよなぁ……。

 

「ま、暇な時ならこうして付き合ってやるからさ」

 

 他のヤツになら絶対に言わないようなことを言いながら、ラウラにタオルを投げて渡してやる。

 

「話は変わるのだがな、静馬」

 

 ラウラは軽く咳払いをしてから、突拍子もないことを言ってきた。 

 

「最近、青髪の女にご執心のようだが、惚れているのか?」

「……は?」

「なんだ違うのか?」

 

 いやいやいや? コイツは何を言っているんだ?

 オレが、誰に、ご執心だって? 

 誰があの痴女に……って違うか。青髪の女ってのは簪のことか。

 

「お前が言ってるのは眼鏡を掛けている方か?」

「うむ。静馬が何やら付きまとっていたのでな。で、どうなのだ?」

「お前なあ……オレをストーカーみたいに言いやがって」

 

 ……確かに付きまとってはいたが、ストーカーってほどではないよな?

 他の連中にもそう思われていないよな? なんかすっごく不安になってきたんだが……。

 

「まあ、いいけどな。で、さっきの質問のことだが……別にご執心なわけじゃない。ただ、なんていうか、だな……そいつの姉に頼まれて仕方なく接触してただけだ。他意はない。本当だ」

「姉だと?」

「ああ……お前も名前くらいは聞いたことはあるだろ。学園最強にしてIS学園生徒会長更識楯無って言えばわかるだろ」

「知らん。有象無象のことなど一々覚える必要などあるまい」

 

 まじかよ。別にあいつの名前を覚えてないのはいいんだが、それは軍人としてどうなんだよ。潜入する時は事前に情報を収集するのが鉄則だろうが。織斑姉にしか目がないのか? ないんだろうな……。

 

「うむ、今覚えたぞ。静馬の知り合いはきちんと覚えておこう」

「別に覚える必要はないけどな……」

 

 どうせ会ったら碌でもない嫌がらせの一つや二つをラウラにけしかけることだろう。そんなのは容易に想像ができる。

 だからといって、あいつの危険性というか面倒臭さを態々教える必要もないだろう。というかそれこそ面倒極まりない。逆にオレが絡まれるまである。

 

「んじゃ、また後でな」

「了解した」

 

 そのままオレたちは別れる。

 シャワーを軽く浴びる程度の時間は余裕はある。女であるラウラはともかく、男であるオレは頭からシャワーを浴びるだけだしな。まあ、ラウラも同じようなことしていそうだが。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 シャワーで汗を流し、着心地の悪くなったシャツは脱ぎ捨て、真新しいシャツと制服に袖を通す。軽く髪型を整えてから、オレは食堂へと向かう。

 少しばかり遅めの時間ではあるが、遅すぎるということもない。実際、他のクラスの女生徒たちがゆっくりと朝食を摂っている姿があった。

 オレの右隣にはラウラ。左隣にはティナ。そして、正面にはセシリアが座っている。少し自分が特別な人間になったかのように思えそうな光景だが、別にそうではない。なぜならば、少し離れた席に座っている男子生徒の周りには女生徒が二人。それも男子生徒を引っ張り合うような形で啀み合っている。その点で言えば、オレの周りはとても落ち着いた空気だ。

 

「静馬もああいうのに憧れたりするの?」

 

 優雅に紅茶を飲んでいたティナが、件の男子生徒――一夏のハーレムっぷりを見ながら言う。

 

「静馬も年頃の男子ということか?」

 

 フランスパンを小リスのように齧っていたラウラ。

 

「まあ静馬さんにもそういう願望がありましたのね」

 

 ティナに対抗するかのように紅茶を飲むセシリア。

 

「……まだ何も言ってないだろ」

 

 一夏の方をチラっと見てから、ため息を吐いた。

 

「ああいうのに男が憧れるのは理解できるが、オレとしては興味ないな。逆にお前らはどうなんだ?」

「んー、私は別に気にしないかな? それに私の国では一夫多妻が認められてるしね」

 

 確か……ティナはアメリカの代表候補生だったか。世の中が女尊男卑に染まっているからといって、既存の宗教にまで大きな影響を及ぼしちゃいない。日本では女尊男卑の思想が濃いから思いがちだが、海外ではその限りではなかったりするのだ。特にアメリカでは女尊男卑というよりも、実力至上主義の一面が強い。実力のあるヤツは女尊男卑の世界であっても、上に立てるのだ。米軍のトップには男性の方が多かったはずだしな。そういう理由もあって、現在のアメリカでは未だに一夫多妻制度というのが存在してたりする。とはいえ、各州によってその制度はまちまちではあるが。

 

「私は別にどちらでも構わないぞ。両方を等しく愛せる器量があるならの話だがな」

「意外だな……ラウラなら『強ければ全てが許される!』って感じのを予想していたのだが」

「別にそういう想いもなくはないが、やはり大事なのは愛だろう」

「ラウラちゃんにも女の子っぽいところもあるのね」

「貴様、私を馬鹿にしているのか?」

「いやいや、素直に可愛いところあるんだなーって思っただけよ?」

「そ、そうか……それならいいのだ、うむ」

 

 あまりに直球な意見だったからか、少し照れたような顔をしてみせるラウラ。こういうのが可愛いらしい一面ということだろう。ティナの意見には同意する。

 

「そ、その……」

 

 セシリアは熱でも出したのかと勘違いするほどに顔を朱に染め、照れたようにもじもじとしながらゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「わたくしは、決断力のある殿方であれば文句ありませんわ。お、お恥ずかしながら、し、静馬さんのような方ならわたくしは……っ」

「む……」

「……ほう」

 

 オレみたいな? 流石にオレみたいな人間は趣味が悪いとしか言い様が無いな。決断力はある方だと自負しているが……流石にセシリアが求めるような人間性までないと思う。まあ、光栄ではあるけどな

 

「率直に聞くけど、セシリアって静馬のことが好きなんだよね?」

「な……っ!」

 

 お前はいきなり何を言っているんだ、ティナ。

 年頃の女子はすぐに色恋沙汰へと結びつける悪癖があるな。

 

「べ、べ、別にわたくしは……っ!」

「そうなの?」

「そうですわ! そういう貴方こそどうなんですの!」

「私? うーん、普通に好きだよ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、軽くウィンクしながら答えるティナ。

 ……いつからオレは修羅場に身を投じてしまったのだ。というかだな、ティナ。お前の言葉の後には友達としてって意味が付くんだろう。わかってる。うん。別に少しだけ騙されそうになったとかはない。

 

「ま、友達としてね」

「っ……!」

「怖いからそんなに睨まないでよ」

「ティナもあまりセシリアをからかうな……」

「はいはい。で、さっきの嬉しかった?」

「…………ごちそうさま。行くぞ、ラウラ」

了解(ヤー)!」

 

 既に食べ終わっていたラウラが、オレの言葉に敬礼をしながら席を立つ。

 

「感想ぐらい言ったらどうなのよー」

「そうだな……」

 

 トレーを片手に乗せ、オレはゆっくりとティナの方へ近づいていく。

 そして、至近距離まで近づいてから……顎をクイっと持ち上げ、強引に視線をあわせる。その瞬間、ティナの顔が沸騰したかのように真っ赤になった。そのまま吐息は感じられるような距離で、口を開く。

 

「――オレも、ティナが好きだ」

「ふゃいっ……」

 

 そのまま見詰めること数秒。時間にして十秒といったところだろうか。

 ゆっくりと顔を離し、したり顔で言ってやる。

 

「ま、友達としてだけどな」

 

 周囲は時が止まったかのような静けさで、誰もが息をせずにこちらを見ていた。それは先程まで一夏を取り合っていた二人や一夏も例外ではなく、皆が一様にこちらを見ていた。

 

「な、う……あ、……!」

 

 それは羞恥か怒りの色か。それはわからないが、ティナは口を開いては閉じてを繰り返していた。その所作はまるで壊れた玩具のようで、流石のオレもやり過ぎたのだと思うほどだ。そもそも、この悪戯はたっちゃん相手に考えていたもの。それをいざ本人の前でやって、余計に助長させてはかなわないので、試しの意味合いも含めて実行してみたのだが……結果はこれだ。

 

 まあ、効果の程は一目瞭然だが。

 

「――し、静馬」

 

 いや、なんだ。悪かったとは思っているぞ……?。だから、そんな真っ赤な顔で睨まないでくれ。元はと言えば、お前が先に冗談を言うからでだな……。

 

「べ、別に……私は、気にしてない、よ?」

「そ、そうか」

「う、うん。これは告白とかじゃない……ぅ、冗談を言い合っただけ、だから」

「お、おう……そうだな……」

 

 なんだこれは。こんな恥ずかしい展開を狙っていたわけではない。ただ、これでティナな怒るとかそういう反応を期待してだな……それはそれでどうなんだよ、っていうのはともかくだな……。

 あー、正直の言うとだな。うわ、めっちゃ恥ずかしい。ってやつだ。流石のオレでも恥ずかしいわ。これがお互い好き合っているわけでもないのだから、まだいいが……そうでなかったら、しばらくティナに会うのが不安になるレベルだったぞ。う

 

 とりあえず、これは封印だな。流石にたっちゃん相手でも使うのはキツい。

 

「ほう、冗談とはいえ、大胆だな静馬。本当に冗談で言っていたのか?」

「う……静馬さんが珍しく本気で言っているように見えましたわ……」

「朝からすごい場面に出会してしまったな……」

「バカなんじゃないの」

「…………」

 

 あー、もう。外野がうるさいな。

 どういう理由か理解できないが、ティナ絡みになるとままならない出来事が多い気がするな。気の所為か?

 

 とても微妙な空気に包まれていた食堂であったが、いつもの間にか朝食時間ギリギリということで織斑姉がやってきたことで、その場にいた全生徒は急かされることとなり解決した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 時間は放課後になり、オレは簪の下へ訪れていた。

 最初に会ってから欠かさず毎日訪れているせいか、オレと簪は4組の間でちょっとした噂になっていた。

 

「ねえ、聞いた? 深見くんって簪さんに惚れてるらしいわよ?」

「そうなの? 私は簪さんが深見くんに惚れてるパターンなのかとばかり……」

「それにしては簪さんの対応が素っ気ないじゃない。せっかく男の子に話しかけられているんだからもっと愛想良くしたらいいのに」

「だから友達いないのかな?」

「実は織斑くんを取り合う三角関係で……」

「「それはない」」

「えぇ……」

 

 ……今日も女子は平和だ。

 しかし、簪は4組に友達がいないのか。実はそうなんじゃないかとは思ってはいたけど……。もしかしたらオレがこうして訪れているだけで精神的なストレスに繋がっているんじゃないだろうか。だったら、どこか落ち着けるような場所で話をするべきか。

 

 まあ、とりあえず。

 

「……簪。昨日は悪かった」

 

 スパっと頭を下げ、オレは謝罪をした。

 もちろん、昨日の件でだ。

 今のオレからは簪の顔は見えないが、きっと驚いているはずだ。簪が謝ることはあれども、オレの方から謝ることはないからだ。いや、オレは自分が悪いと思って謝っているが、客観的に見れば殴ったであろう簪が謝る所だろう。だから、きっと、驚いている。

 

 そして、案の定……。

 

「……いい。私も、悪いと思ってたから……」

「許してくれるのか?」

「許すも何も……私が殴った……から……謝るとしたら私の方……」」

 

 ……誘導したのはオレなわけだが。

 

「頭を上げてもいいか?」

「……うん」

 

 簪から許可貰ったことで、ようやくオレは頭を上げる。

 そこでオレは簪の顔を見るが、やや頬が赤いように見えた。

 緊張か、羞恥か、怒りか。いや、たぶん緊張の面が強い。

 

「それで、だ」

 

 そこでようやくオレは本題に入る。

 それに対して簪はやや怯えていた。

 ……別に無茶振りはしないぞ。

 

「オレと飯に付き合ってくれ」

「……それはいや」

「何でも奢るから」

「い、いや……」

 

 うーん、困ったな。

 今の時間は5時過ぎと晩御飯にはやや早い時間帯だ。

 しかし、約束を取り付けたとしても、間違いなく来てくれないだろう。

 仕方ない。少しばかり強引に行くか。

 

「まあ、そう言うなって。教室だと落ち着いて会話できないだろ?」

 

 そう言って、オレは簪の手を軽く取る。

 そのままもう片方の手を簪の膝裏に入れ、そのまま横に抱き上げる。

 

「っ!?」

 

 我ながら悲鳴一つとて漏らさぬ華麗な手際だったと思う。

 

「お前、ちゃんと食べてるのか?」

「お、下ろして……っ!」

「んじゃま、食堂まで行きますか。しっかりしがみついてな」」

「っ!」

 

 何やら抗議の声を入れようとしたようだが、その口は舌を噛んだかのように塞がった。

 なぜなら、オレは4組の生徒たちの間を縫うようにして駆け、素早く教室を飛び出たからだ。

 

「更識さんが深見くんにお姫様抱っこされてるーっ!」

「いいなあ……!」

 

 なんて声が遠くから聞こえてきたが、スルー。

 渡り廊下を滑るように走り抜け、一階へと下りる階段を一気にショートカット!

 

「!?」

 

 常識外れな移動方法に簪が力強く抱き付いてくる。

 最初は恥じらいがあったようだが、もはやそんな余裕はないようだった。

 

 学生呂へと続く道を抜け、食堂のドアを蹴破る勢いで開け放つ。

 

「もう着いたよ」

 

 普通に歩けば数分は掛かる距離を一分未満で踏破してみせた。

 我ながら異常な身体能力だ。とはいえ、これでもまだ未完成なのだから自分が恐ろしい。

 

「離し……てっ!」

 

 簪が腕の中で暴れだしたがが、オレは器用にバランスを維持する。

 

「落ち着けよって。スカートが捲れるぞ」

「っ!!」

 

 動きを止め、スカートの裾を開いている手でもって抑える簪。

 

「……っ! 許さなければ……よかった……」

「それは困る」

 

 ゆっくりとその場に下ろしてやる。だが、逃げられないように手首は捕まえたままで。

 他に数人ほど生徒の姿が見え、オレたちを何事かと凝視していたが、特に気にせず歩き出す。

 

「んー、今日の日替わりはフィッシュアンドチップス定食か」

 

 イギリス名物と名高い定番のアレである。

 

「…………」

「簪は日替わり定食でいいか?」

「……いや」

「カツ丼とかどうだ? ボリュームたっぷりだが」

「肉は、きらいだから……」

「好き嫌いはよくないぞ」

 

 カツ丼をガツガツと食べている姿は全く想像できない。

 

「……どんが、いい……」

「うどんか。まあ、いいんじゃないか?」

「あと……かき揚げは、ほしいかも……」

「オレは油揚げのが好きだな」

「う、うん……。それも嫌いじゃない……」

 

 ピッ、ピッ……と、スムーズに券売機のボタンを押していく。

 実はお財布事情が寂しいのだが、仕方のないことだ。

 後でたっちゃんに要求してやろう。ついでにオレの分も。

 

「あー、っと……って流石にガラガラだな」

「……うん」

「そういえば、簪のそれって度が入ってないよな……ファッションで掛けてるのか?」

「……携帯用ディスプレイ」

「ああ、なるほど。オレも似たようなタイプを持ってるよ」

 

 お姉ちゃんにプレゼントされたやつだ。

 

「ほんとは……空中投影ディスプレイがほしいけど、高いから……」

「まあ、な」

 

 プレゼントされたヤツも相当に高いモノだ。

 本人から値段は聞かなかったが、軽くネットで調べてみたところ……軽く卒倒しそうな値段だった。

 その倍は下らないのが、投影タイプのディスプレイだ。

 まあ、それもISで全て代用が利くんだがな。

 

「買う予定なのか?」

「……そのうち」

 

 食堂のおばちゃんからうどんとラーメンを受け取り、適当な席に運ぶ。

 早い時間ということもあって、席は完全に好きな場所を選ぶことができる。せっかくなので、オレは海が一望できる窓際を選んだ。もう少し遅ければ、夕日で綺麗な海が拝めるんだが……。

 

「んじゃ、食べますか」

「い、い……いただきます……」

「いただきます」

 

 オレが選んだのは背脂とんこつ正油チャーシュー。

 久し振りに濃くてクドいのが食べたくなり、贅沢にチャーシューまでトッピングした。 

 人のお金で食べる予定のラーメンは旨いな!

 

 ……ズルルル、ズルル……

 何か視線を感じ、顔を上げる。

 すると、簪と目が合った。しかし、すぐに逸らされてしまう

 

「んあ? ラーメン食べたいのか?」

「え?」

「少しならいいぞ。流石に全部は勘弁してくれよ?」

 

 レンゲの上に麺を少しだけ乗せ、チャーシューも小さく切って上に乗せる。

 そして、そのままレンゲを差し出すのだが……。なぜか、呆然としている。

 もしかして、欲しかったわけではないのか? 

 

「……そう、やって……女の子を落としてるの……?」

「は?」

 

 どうしてそうなる。こんなんで落ちる女の子がいるのか? 

 いや、いないだろ。流石にチョロすぎる。

 

「で、食べないのか? チャーシューがダメなら抜くけど。ちなみに鶏肉な」

 

 このチャーシューは驚いたことに鶏肉だったのだ。普通に美味しいので文句はないが。

 

「う、うん……鶏肉は、だいじょうぶ……」

「はい、あーん」

「あー、……ん」

 

 恐る恐るといった感じで口を開け、ゆっくりと口へ入れた。

 レンゲを咥え、もぐもぐとして噛んでから、レンゲを離す。その際、レンゲと口の間で唾液が糸を引き、若干ながらいかがわしい感じが出ていた。

 

 口の中の食べ物がなくなったのを確認してから、味の感想聞いてみる。

 

「どうだ?」

「………少し、クドい……かも」

「あー、どうせなら普通のすればよかったか」

 

 口直しするかのように、簪はうどんをちゅるちゅると控えめな音を立てながら、啜っていた。

 オレもそれに習うように、水を一気に呷る。……ふう。

 

「なあ、オレに簪のIS製作を手伝わせてくれないか?」

 

 何を思ったのか、オレの口からスルっとそんな言葉が飛び出した。 

 オレも驚いたし、簪も驚いていた。

 

「え……?」

「いや、今のは冗談だ。気にしないでくれ」

 

 また変なことを言って、せっかく自然に会話が出来てたのにややこしくなるところだった。

 しかし、まあ……簪さえよければ、手伝うのも悪くはないのかもしれない。罪滅ぼしというか、元はと言えばオレたちのせいなわけだから」

 

「なんだ、その……完全に冗談ってわけじゃないんだが……」

「…………どうして、私に構うの?」

「怒らないで聞いて欲しいんだが、最初がコアは所持してるけど、肝心の機体を持っていないヤツがいるって話を聞いてな。それで少しばかり興味が沸いてな。つまり、好奇心ってわけだ」

「…………」

「で、勘違いしないでほしいんだが……仲良くなりたいってのは本気だ。それは誓って本当だ」

 

 オレは相手の目をじっと見ながら、自分の気持ちを言う。

 真っ直ぐな視線が恥ずかしかったのか、頬を赤く染めて目を逸してから、うどんをまたしてもちゅるちゅると啜りだした。

 オレもラーメンを食べないと……。

 

「う、うん……考え、とく……」

 

 言葉はやや拙かったが、そう言った簪の顔に嫌悪感などはなく……そこには少しばかりの笑みが浮かんでおり、オレは妙に安心してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。最後の更新から二ヶ月以上も経ってしまい、非常に申し訳ないです。
私自身としても、加筆や修正などを期間が空いてからすると設定や口調が綾ふやになってしまうわけでして……。

特にティナとかが顕著かな? 
簪はまだやりやすいですけどね。あとはラウラも口調が静馬と被ったり、千冬と口調そっくりじゃね? とか思いながら修正を……。

そんな話はどうでもいいですね。

今回の話は前回の続きですが、原作の内容とほぼ似ています。簪の流れとかね。
ネタバレにならない程度にいいますと、第四章から原作と大幅にかけ離れていきます。オリジナル設定とか多く出てくるかな、と思います。

……まあ、楽しみに待っていてください。
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