インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」
――俺の部屋には、裸エプロン(偽)をした見知らぬ女生徒(?)がいた。
俺は冷静に思考を巡らせる。
この人物は一体誰で、俺は部屋を間違ってしまったのか、と。
俺が部屋を間違えた可能性は低い。一回だけでなく、二回も三回も部屋の番号を確認したからだ。それでも間違えている可能性を否定はできないが、多分合ってるはずだ。その根拠は山田先生の言葉にある。山田先生は『しばらくは相部屋で我慢してくださいね』と言っていた。その言葉から考えるに、この痴女らしき人物は俺の同居人ということになるのだろうな。
……まじかよ。もう一度言うが、まじかよ。
もしかして、俺って結構ヤバい状況か。他国が仕掛けてきたハニートラップ的なやつなのか?
だとすれば、俺が慌てて取り乱すのは非常にヤバい。会話を成立させながら、不用意な発言は控える。そういった高等テクニックが必要な場面というわけだ。……ああ、もう面倒くさい。
ここまで要した時間はおおよそ一秒前後。
「じゃあご飯で」
この返事は間違っていただろうか? もしかしたら既に俺は冷静な判断を下せていないのかもしれない。状況は思ったよりも深刻かもしれない。だって、そうだろう? 部屋には裸エプロンの格好をした人物が出迎えていたのだから。
「あら、思ってたより淡白な反応ね」
「……すいませんね。それで、貴方は誰ですか?」
部屋の中へ入り、制服の上着をベッドに放り投げる。
制服は地味に重いので、身体が軽くなったように感じた。
「私の名前は更識楯無よ。よろしくね、深見静馬くん」
「ああ、よろしく……」
どうやら更識楯無は俺の名前を事前に知っていたようだ。そりゃあそうか。男と相部屋なんて女子からすれば最悪のパターンだろう、と思う。
……いや、裸エプロンで出迎える女子が男との相部屋を嫌がるわけがないだろう。というか、普通にハニートラップの可能性が……。
「それで更識楯無さんが俺の同居人って認識でいいんですか?」
「ん? 何か警戒してる?」
「……実はハニートラップを疑ってます。更識楯無さんが男受けしそうな格好をしてるので」
「あは。実に素直な子ね。別に私はハニートラップなんかじゃないわよ。むしろ、逆」
「ああ、なるほど」
完全に理解した。この人は俺の護衛として同居人に選ばれたのだろう。それが一夏と相部屋でない理由ではないだろうか? そう考えると辻褄が合う。まあ、ハニートラップの可能性が潰えたわけではないが……たぶん、大丈夫だ。
「ってことは更識楯無さんって先輩ですか」
「そそ。二年生だから貴方と同年代よ」
軽くウィンクをする更識楯無。
……同年代か。もしかしたら、その辺の配慮を学園側がしてくれたのかもしれない。
「じゃあ敬語とかいらなかったり?」
「別にいいわよ? 敬語のつもりだったのかしら」
「最初から軽い感じで話すのは面倒だからな」
「それにしても、静馬くん反応が薄いわねぇ……お姉さんガッカリだなー」
……いや、もっとマシな格好をしてたら反応してたと思う。
例えば、裸ワイシャツとか。水着姿だとか。
別に俺の趣味ではないからな? ただ、裸エプロンは流石に現実味がなさすぎるんだよ。
どこの世界に初対面の男を出迎えるために裸エプロンをする女子がいるんだよ。
あ、ここにいたわ……。
「別に。ハニートラップを疑ってたので反応しなかっただけですよ」
「あら、そうなの? じゃあ、今は……?」
俺の片腕を掴み、ベッドの上で身体を押し付けてくる。その際、先輩の胸が腕に軽く押し付けられていた。やはり、この女は痴女なのではないだろうか。
僅かに身の危険を感じたので、軽く振り解く。
「むぅ、静馬くんそっけなーい」
悪かったな。でも、俺が反応したら意地でもからかうだろ? そういうのは面倒なんだ。
「まあ、いいわ。私のことは楯無って呼んでちょうだい。たっちゃんでも可」
俺が反応しないとわかるや否やコロっと普通に戻るたっちゃん。
「わかったよ、たっちゃん」
…………沈黙。
「あ? どうかしたか?」
「いっ、いやー、まさかそっちを選ぶとはね」
少し照れたように目を逸らすたっちゃん。
なるほど、自分から攻めに行くタイプは自分が攻められると弱いのか。
弱点を初対面初日に見抜いてしまう俺だった。
ちなみに俺は羞恥心がないわけではない。ただ、恥ずかしいという理由で取り乱すのが面倒なだけだ。だから、余程のことでなければ取り乱すこともない。まあ、流石にたっちゃんが全裸で現れたらその限りではないが。そんなことはありえないので、問題ない……はずだ。
「で、たっちゃん」
「ん、なにかな静馬くん」
「この部屋で過ごしていくためにルールを決めた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね。むふふ、私は別にシャワーとか一緒でもいいんだけど?」
「うるさい、茶化すな」
「はーい、ごめんなさい。学校終わったら先にシャワー浴びてなさいな。私は今日みたいに早く帰ってこれないだろうし」
「そうか」
さっさとシャワーを浴びてしまえるのはいいが、たっちゃんが覗きに来たりはしないだろうか? つか立場が完全に逆だが大丈夫なのか。全然大丈夫じゃない……。
まあ、そうなったら全力で追い出せばいいか……面倒だけど。
それにしても、と考える。たっちゃんは隙が全くなかった。会話で茶化してはいるが、常に俺を意識して警戒しているのがわかるのだ。あくまで友好的に振る舞いながらだ。それは並大抵のことじゃないし、自分の実力に自信を持っているということに他ならない。だって、そうだろ? 俺が調子に乗って襲いかかってきたらどうする? って話だ。
(くそ、面倒なことにならなければいいが)
「気になったんだが聞いてもいいか?」
「お姉さんのことが気になるの?」
「そうだな」
「スリーサイズ?」
「はぁ……やっぱ聞くのやめようかな」
もう既に俺はたっちゃんと会話する気力を失いかけていた。だって、この人毎回茶化して変な方向に持っていくんだもん。なに? たっちゃんって元引きこもりとか、周りに同年代がいなかったパターンなのか? はあ、もう少しまともに会話しようぜ、たっちゃん。
「ごめんごめん。それで聞きたいことって何かな?」
「あー、たっちゃんってISコーチとかできるか?」
「そうねー、普通の人よりはできると思うわよ?」
「普通の人より?」
この人もセシリア・オルコットのように、どこかの国の代表候補生だったりするのだろうか。
見た目からして、日本の代表候補生……とか? 日本では珍しい水色の髪のたっちゃんは、日本人にはあまり見えない。かといって他国の人にも見えない。なんとなくだが、日本人のように思えるのだ。だからなんだって話だが。
「ううん、知らないようだから教えてあげましょう。IS学園において、生徒会長はある一つの事実を証明するものなのよね。それは――」
その場から立ち上がり、胸元から扇子を取り出す。(おいどこから出した)。
そして、ポーズをつくりながら決めの言葉を発する。
「最強の称号なのよん」
広げた扇子には、『最強』という文字が描かれている。
……準備がいいな、おい。
「こんな痴女が生徒会長で最強を冠するとかIS学園って……」
「ち、ちょっと!? 別に私は痴女じゃないけど!」
(裸エプロンのクセに)
と、心の中で口にする。
しかし、最強か。俺は当たりクジを引いてしまったのではないだろうか。内面は問題ありまくりのたっちゃんだが、実力は兼ね備えているらしい。俺が危険なことに巻き込まれても、この人がいれば何とかなるのかもしれない。
「で、俺のコーチって出来るのか?」
「もちろん。と言いたいところだけど、私はまだ貴方の実力がわかっていないわ」
「そりゃそうね」
「だから、暇な時でも勝負しましょう」
「……俺、勝てる見込みない試合はしない主義なんですが」
だから一週間後の決闘もやりたくないんだ。当たり前だが、負けるとわかっている試合を誰がやろうと思うのだろうか。相手はイギリス代表候補生だ。つまり、相応の実力を兼ね備えているのは当然だ。そんな人間に俺が勝てるわけもないし、まだ搭乗時間数十秒の俺には荷が重すぎる。
だから、俺は誰かにある程度の力をつけてもらう必要がある。
他にもメリットは色々あるが、一番はただ負けたくないという理由。ああ、我ながらなんて小さい人間なんだろうか。
「まあ、俺から言い出したことだし……いいですよ。たぶん、明日は空いてる」
「ん、じゃあ明日の放課後に生徒会室に来てちょうだい」
「わかったよ」
そこで会話が途切れる。
俺から話しかけることもないし、別に会話がなくたって困ることはない。
まあ、少し居心地が悪いけどな。
「あー……シャワー浴びるわ」
「いってらっしゃーい♪」
笑顔は満面の笑みで見送るたっちゃん。
俺は素早く衣服をその場で脱ぎ去る。その時、少しだけたっちゃんが慌てていたが気にしない。……いや、別にその場で全裸になったわけではない。シャツとズボンだけを脱いでパンイチになっただけだ。
……パンツはシャワー室で脱いだからな。これだけは言っておく。
案の定たっちゃんはシャワー室に乱入してきた。鍵はきちんと掛けたはずなのに。
もちろん、追い出した。
生徒会長であり、人たらしである生徒会長の更識楯無の登場です!
静馬に楯無のことを何て呼ばせようかなって悩んでいたら、たっちゃんなんて素敵ネームがあったなあ……と。
てなわけで、楯無の呼び名はたっちゃんに決定しました。
……あと、思ったよりたっちゃんの台詞に悩んだ。ひたすらに悩んだ。
そして、その結果がこれである。なんか楯無っぽくないな~と思いますが……ご容赦ください。登場回数を増やしつつ、経験を増やしていきたいと思います。
*静馬は大の負けず嫌いである。ただし、自分から負けを認めるのは問題ない。
要は敗北という事実を突きつけられるのが嫌なのです。だから、たっちゃんにコーチを頼んだ次第
*静馬は何か約束を忘れている様子……?