インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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5.打鉄弐式

「流石に二人だと人手不足だってのはわかるよな?」

 

 あんパンを食べ、パック牛乳を吸いながら言う。

 

「そ、そうだね……」

 

 オレの言うことを理解しているのか、オレと同じものを食べ飲みしながら簪が頷く。

 

「だからメンバーを適当に集めようか」

 

 制服の内ポケットからスマホを取り出し、アドレス帳から適当に人選して見せる。

 ここで言う「適当」は適切な、という意味を持つ。

 こうして簪にわざわざ見せるのは、このメンバーで不満はないかの確認するためだ。

 目的は簪のIS完成なのだから簪にとって不満のない連中にしてやらねばな。

 

(……まあ、流石にたっちゃんは敢えて省いてるけどな)

 

 姉の方は喜んで手伝いそうだが、妹の方はそうはいかないだろう。

 当初の目的は妹のことを心配した姉がオレに頼むくらいには仲が拗れてるらしい。

 

「…………ん、問題、ない」

 

 ぐっと親指を立ててサムズアップしてみせる簪。

 言葉は未だにぎこちなさはあるものの、昨日の今日で大きく仲良くなれたような気がする。

 やはり、お茶会というのはいいものだな。

 

「そう言うと思って既に話は通してある」

 

 我ながら早い仕事だと思う。

 

「というわけで入ってきてください」

 

 スマホの角でテーブルをコンコンと二回ほど叩いてから、外で待機しているであろうメンバーに声を掛ける。それを待っていたかのように中に入ってくる。

 オレたちがいる場所は生徒会室だ。朝のうちに生徒会長であるたっちゃんに言って貸し切りにさせてもらった。ちなみにたっちゃんは話が拗れると困るので生徒会室とは別の場所で飯を食べるように言ってある。

 

『ちょっと、私だけ仲間外れってひどくない!?』

 

 うるさいわ、ばか。どうせ生徒会長の業務もサボりにサボりまくってんだから生徒会室なんていらんだろ。それにお前が妹に苦手意識を持たれてるのが悪い。

 そこら辺の機会は設けようとは思っているが、今はその時ではないだろう。

 

「ふかみーん。かーんちゃーん!」

 

 長い袖をぱたぱたを振りながら、真っ先に駆け寄ってきたのは生徒会書記の布仏本音。彼女は更識家に仕えている家系生まれのクラスメイトだ。常に眠たげな表情の彼女だが、身体運びや気配は只者ではない。更識家に仕えている家系なだけはある。

 

 オレが彼女を選んだ理由は簪への理解があるという一点のみ。だから本音がISについて詳しいのかどうかすら把握はしていない。

 

「本音……」

 

 そんな本音に対して、簪はどこか困ったような笑みを浮かべる。この自由奔放な幼馴染(たぶん)が苦手なのかもしれない。

 

「本音、少しは落ち着きなさい」

 

 その後ろを付いてきたのは、オレの茶飲み友達でもある布仏虚。元気一杯な本音に反して、彼女はどちらかと言えば簪に近い気質を持っている。先輩ということもあって、口調も態度も非常に落ち着いていてザ・先輩って感じの人だ。

 

 オレが虚さんを選んだ理由は、簪の姉であるたっちゃんと仲が良いからというのもあるが、彼女が整備科の三年生で学年主席という理由も大いにある。そんな彼女を活用しない手はないだろう。流石に虚さんにも用事があるだろうからそっち優先で構わないという条件で手伝いに応じてもらうことになっている。

 

「深見くんを手伝ったら学園一の特ダネを用意してくれるって本当ぉ?」

 

 次にやってきたのは、整備科のエース中のエースである黛薫子。どうせなら整備科の手伝いもあった方が完成に近づくだろう。

 

「ええ、本当ですよ。どんな特ダネがいいですか?」

「うーん……私とデート一回ね! それでどう?」

「……まあ、手伝ってくれるなら何でもいいですけどね」

「やったぁ。ふっふっふ、たっちゃんに自慢しちゃおうっと」

 

 何でそこでたっちゃんが?

 

「はいはいはーい!、私もデート一回がいいなぁー」

 

 もう勝手にしてくれ……女子のノリに付いていくのは正直しんどい。

 というか、本音の好みはオレではなく一夏の方じゃないのか?

 

「別にオレじゃなくても一夏に頼んでみるってのもあるが?」

「ほほぉ、それはそれは」

 

 あ、食い付いたな。

 

「でも確実じゃないんだよねー? だったらふかみんでいいかなぁ」

 

 デートができれば誰でもいいのかよ。

 ちなみにこれでオレが呼んだメンバー全員だ。しかし、これだけでは目標の時期までに完成させることは難しいだろう。

 

「黛先輩。他の整備科メンバーを誘うことってできますか? 手が空いてるような暇人であれば都合がいいです」

「ふーむ? 確約はできないけど心当たりならあるよ」

「じゃあそれで。その人たちにも何か報酬とか必要です?」

「私と同じ条件でなら付き合ってくれるかなぁ」

 

 またか。女子はデートというものができれば何でもいいのか?

 

「予定が重ならない範囲でなら構いませんよ」

「はいきたぁ! じゃあさっそく電話するわね」

 

 あ、簪に聞くの忘れた。

 

「事後承諾みたいになるけど、簪もそれでいいか?」

「う、うん……い、いいよ……で、でも……」

「なんだ?」

「…………やっぱ、何でもない」

 

 気のせいか、簪は何か納得のいかないような顔をしている。

 事後承諾だったから不満に感じているのだろうか。簪のことだから断りづらいのか?

 

「別に簪が気に入らないなら増やすのはやめてもいいんだぞ?」

「ち、違くて……。…………わ、わ……わたしも……」

 

 わたしも? 私も何なんだ? 

 

「……………………私も、デート、一回……」

 

 ……まさか、簪がそんなことを言ってくるとは思わなかった。

 ついこないだまでは避けられてたんじゃなかったか? 女子はわからんな。

 

「はいはい。手伝ってくれた奴は俺とデート一回な。はあ、デートってこんな安売りされるようなもんだったか……?」

 

 たぶん違うはずだ。俺がおかしいわけではないと証明したいが、この場に男は俺しかいないのが悲しいところだな……。

 

「追加の助っ人もオッケーだよ。この後来てくれるって」

 

 どうやら、俺と簪が話している間に整備メンバーの了承も得たみたいだった。

 

「追加のメンバーは後で来るとして、最初に想定していたメンバーはこれで全員だ。このメンバーで簪のIS製作をしていくことになる。改めてだが、よろしくな」

「よっろしくー!」

「よろしくお願いしますね」

「ふふっ、深見くんとのデートのために頑張ろっか」

「……よろしく」

 

 簪、黛先輩、虚さん、本音、整備科のメンバー――そして、俺が『IS製作』メンバーだ。

 俺が役に立たないのは間違いないが、このメンバーなら期間内に製作することだって不可能じゃない。

 

「さて、肝心の製作期間だが――俺たちの臨海学校まで、だ」

「え、っ……?」

 

 俺がそう言った瞬間、皆が一様に同じ声を漏らした。

 ん? 何か失言でもしたか?」

 

「ほ、本気?」

「何か問題でも?」

「深見くんってISに関しての知識は?」

「初心者同然の知識だが?」

「…………流石に一週間未満じゃ無茶だよ」

 

 そうなのか?

 そう思って簪の方を見るが……。

 

「…………う、うん」

 

 目を逸らしながら頷く。

 どうやらオレが思ってたよりもIS製作は難しいみたいだ。

 だが、まあ……臨海学校まで時間がないんだ。多少の無茶でも通すしかない」

 

「あー、仕方ない。これを見てくれ」

 

 オレが取り出したのは、投影型タブレット。

 これは学園に借りたもので、行事やプレゼンテーションなどで使うものだ。

 

 そして、オレが宙に投影させたのは『稼働データ』や『武装データ』などグラフや基本システムデータ。『稼働データ』はオレの『シルヴァリオ・ヴォルフ』から抽出したもので、『武装データ』はとある人物から貰ったもの。基本システムもまた自分の機体を流用したものだ。それに加えて簪が作っているデータを加えれば、更に作業効率が上がるのではないだろうか。

 

 色々とテストデータは取る必要もあるだろうが、時間はそこまで掛からないだろう。

 

 と、そこまで口頭で説明したのだが……。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 何故かオレのデータを見て目をパチパチとさせて驚いている。

 もしかして、この程度は基本中の基本だったとか……? 

 

「すごいな、キミは」

「あ?」

「これを電話のくれた時から今日までの間に準備してたの?」

「少し寝不足だが問題はない」

 

 朝の四時まで作業していたわけだが、元々ショートスリーパーのオレにとって睡眠は二時間もあれば十分問題ないレベルだ。

 

「で、これでもまだ来週の臨海学校までに完成させるのは難しいか?」

「うーん、結構慌ただしくなるけど、これだけあれば結構短縮できると思う」

「…………うん、これなら……」

 

 よかった。オレがわざわざ面倒臭いことを朝方までやって、しかもIS製作なんてものに関わったのに『できません』ってのは流石に辛い。それが勝手に始めたことだったとしても、だ。

 

「じゃあ早速始めるか」

 

 そうして、オレたちのIS製作は始まった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 ――そのはずだったのだが、

 

「青いケーブル用意して! そんな少しじゃなくてもっとだよ!」

「レンチとカッター。ついでに工具一式持ってきて頂戴」

「ディスプレイが足りないんだけど!」

「ふにゅ。電力が足りてないから追加電力と発電機を用意してくださいなぁ。あ、その牛乳飲ませてください」

「深見くんってプログラムできる?」

「……いや、無理だから」

 

 そんな感じでオレは雑用係と化していたのだった。

 第二整備室へと移動したオレたちだったのだが、何故かそこには整備科の生徒がほぼ全員揃っていた。それも一年、二年、三年と見境ないレベルで。どうしてこうなった。手伝ってくれるのは数人程度ではなかったのか? もはやちょっとした行事だって説明されても否定はできないだろう。

 

 今行っている作業は簪の機体である『打鉄弐式』のハードウェアチェック。ブースタやスラスターに装甲から武装などISを構成するパーツの基礎となる部分を整備科の生徒たちが慌ただしく一からチェックしている。オレがデータを抽出してきたとはいえ、それはオレの機体に調整されたデータなのだから『打鉄弐式』にフィットするように整えなければいけない。だが、何もデータがないよりあるのでは格段に作業効率が違うらしい。

 

 だからといって、オレがハードウェアチェックをできるわけもなく、整備科の生徒をサポートする形で雑用をこなしていたのだった。

 

「プログラム、ねぇ……」

 

 オレも少しは出来た方がいいのだろうか。面倒くさがり屋であることは自覚しているものの、黙って何かを見ているのは性に合わない。いや、雑用も大事な仕事なのだが……。

 

「あふぅ。つまらないですかぁ?」

 

 そんなオレに目敏く気付いた生徒――フィー(整備科の助っ人)が話し掛けてくる。

 

「いや、そんなことはないが……」

「そぉ?」

「そうだ。ただ、こんな大事になったのにオレだけ蚊帳の外だな、と」

「うふぅ。じゃあじゃあ、少しやってみますかぁ?」

「いいのか?」

 

 真剣にモニターと向き合っていた顔をこちらへ向け、手招きしてきたので素直に近寄る。

 

「プログラムに関してはぁ、どれくらい知ってるぅ?」

「全く知らないな」

「ふにぃ。じゃあ軽く説明するから聞いてぇ」

 

 そう言って、フィーはオレに初歩の初歩から説明してくれる。

 最初は難解な数字の羅列に頭が抵抗していたが、独特な喋り方であるにも関わらず、フィーの教え方はとてもわかりやすかった。とりあえず一通りの手順と基礎は把握した。

 

「大丈夫ぅ?」

「まあな。こうなって……こう……で……ここがエラーを吐いている原因で……これがスラスターの出力と繋がってるのか…………ふむ、なるほど。ほう……」

 

 慣れない入力機器 (デバイス)だったが、何故か手に馴染むようで意外と早く使いこなすことができた。もしかしたら、以前にも入力機器 (デバイス)に触れたことがあるのかもしれない。

 

「……こんな感じか?」

「ふゆぅ。パーフェクトですよぉ。本当は整備科志望だったりぃ」

「そもそもオレは強制的に入学することになったんだが」

「そうだったにぃ」

 

 ……しかし、首が痛いな。慣れない作業だというのもあるが、モニターを凝視していただけでこんなに首が痛くなるなんて知らなかった。

 

「悪いな、作業の邪魔をして」

「そんなことないよぉ。次もよろしくねぇ」

 

 次ってなんだ。オレは整備科に転科したりはしないぞ。

 

「はあ、まあいいや。他のところ見てくる」

「いってらっしゃいー」

 

 作業は昼休みが終わってから、放課後になっても続いた。

 初日の作業だけでかなりの部分が急ピッチで進み、これなら来週に入った時点で作業が終わってしまいそうな勢いだ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「うーーん、今日の作業はここまでね。更識さん、自分の思ってる感じに進行してる?」

「大丈夫、です」

 

 流石に全員が最初から最後まで作業していたわけではないが、それでも初期構成メンバーや数人の生徒は最後まで残ってくれていた。

 

「マルチ・ロックオン・システムは面白いと思うな。だが、その反面かなりの難易度だと思うな」

「……さ、最悪の場合……通常のロックオン・システムを採用、します……」

 

 武器開発の方で進路を考えている整備科の生徒である京子は、簪が言った『マルチ・ロックオン・システム』に関心を抱いている様子だった。

『マルチ・ロックオン・システム』とは簡単に言ってしまえば、四八基のミサイルを独立稼働させるための基盤なのだが、このシステムは第三世代の技術に匹敵する。それは最高級の技術ということもあり、一学生が簡単に組み上げられるようなものではないのだ。

 

「諦めるのか? それが完成すれば簪にとって唯一無二の機体なるだろ?」

 

 オレは言う。

 

「で、でも……」

「どうせなら最高級の機体に仕上げるべきだとは思わないのか? それに……これが簪の手によって完成させたとすれば、お前が……お前の姉に並び立てるチャンスなんじゃないのか?」

「……姉さんは、」

「別にお前なら絶対に完成させられるって言ってるわけじゃねえ。ただ、最初から諦めてたら勝てるもんも勝てないんじゃないか?」

 

 たぶん、簪は姉に敵わないと思っているのだろう。

 たぶん、その後を追うのを諦めてしまったのだろう。

 たぶん、姉に並び立つ自信がないのだろう。

 

 しかし、諦めてしまったらそこで終わりだ。

 

 昔は敵わなくても、今は敵わなくても、今よりも後のことはわからない。

 諦めない限り道はあるはずだ。確かに更識楯無は天才だ。

 

 ――だからって、更識簪が劣っているということにはならない。

 

「だから、始めようぜ」

 

 諦めなければ天才にだって勝てるんだってことを証明しよう。

 

「当初のコンセプトのまま一週間で完成させて、お前も更識としてすごいんだってこと証明してやろうぜ!」

 

 オレは握り拳を上げて、力強く宣言してやる。

 それを呆気に取られたような顔で見ていた簪だったが、

 

「……う、うん……うん!」

 

 満面の笑みを浮かべて、オレの言葉に頷いて見せたのだった。

 

 ――この子と友達になってよかったな、と心の底からオレは思う。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「てなわけで打倒更識楯無ってことで簪は頑張り中ですよお姉さん?」

「ええっ!? いったい何がどうなったらそんなことになるのよっ!? あの簪ちゃんが……あの簪ちゃんが……」

 

 

 そんなやり取りが『1030号室』の部屋であったとかなかったとか。 




お久しぶりです。

久しぶりすぎてまたキャラの掴みがわからなくなりました。
新しく出てきたフィーちゃんが個人的にお気に入りなのですが、原作での出番が圧倒的に少ないの何の。

あと、他キャラの出番が少ないですよ……
でも安心してください! あとすこしで臨海学校編です!
この章では重要なお話になると思うのでもう少しお待ちを……

ところで、マルチ・ロックオン・システムは完成するんですかねぇ?
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