インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者 作:白崎くろね
「特務任務レベルA、現時刻を以って対策を始められたし……」
「そ、それが、そ、その……っ! ハワイ沖で試験稼働をしていた例の――」
「しっ。機密情報を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみません……っ」
「専用機持ちは?」
「ぜ、全員いますっ!」
……何やら不穏な言葉が聞こえてくる。しかも、俺たち生徒の視線が集まりだしてからは声には出さずに手による合図だけでやりとりを始めていた。
流石に手話の知識はないので、二人が何を話しているのかはわからない。
「――全員、注目!」
山田先生が何処かへ走っていった後、織斑先生が手を大きく叩きながら俺たちの目の前に立った。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと映る。今日の作業は全中止。各班、ISを速やかに片付け旅館にもどれ。そして連絡があるまでは各自室内待機とする。以上だ。行動を開始しろ!」
いつも以上に張り上げられた声と、緊張感のある表情を前に戸惑いの声が各生徒から漏れる。
「ち、中止……? え、なんで? 特殊任務って?」
「ど、どういうことなの?」
「もしかして危ない状況……とか?」
当然の反応だ。俺も似たような事を考えていた。
……しかし、それを織斑先生はより一層と張り上げた声で一喝する。
「いいから戻れ! 速やかに行動の出来ぬ者は我々教員の手で強制的に身柄を拘束する! いいな! これは遊びではない! 訓練だと思って行動しろッ!」
「「「は、はいっ……!!」」」
全員が慌てながらも急いでISを片付け始める。俺もとりあえずISを解除して……。
「――専用機持ちはこっちだ! 織斑、深見、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識……そして、篠ノ之も来い!」
どうやら、俺たち専用機持ちは別にすることがあるらしい。
◇ ◇ ◇
「では、現状を簡単に説明する」
――旅館の一番奥にある大座敷・風花の間。
そこに俺たち専用機持ちは集められた。
薄暗い部屋に展開されているのは、大型の空中投影ディスプレイ。そこには一つのISが表示されている。
「今より二時間前、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル・ドイツ共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れ、暴走中であるとの連絡があった。以後、当機を
――軍用IS、
その名前は何故か聞き覚えがあった。
軍用ISとは、俺たちが扱っているような競技の範疇に収まるような代物ではなく、音速下での活動が可能な戦争専用のIS。
俺たちの持つような専用機とは性能がまるで違い、軍事ISの名に違わぬ圧倒的な力を有しているのが特徴だ。
(それと専用機持ちがどう関係しているって言うんだ……?)
他のメンバーの反応が気になって視線を隣に移してみると、皆一様に厳しい表情を浮かべていた。ラウラに関してはこれが織斑先生に与えられた任務であるかのような面持ちで言葉を受け止めていた。
(……まさか、俺たちで軍用ISを止めろとでも言うのか?)
まさか、な。
「……その後、衛星による追跡の結果、通称『福音』はここからニキロ先の空域を通過することがわかった。時間にして約五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
「――――」
淡々と告げる織斑先生だったが、俺の頭の中は一瞬で真っ白になった。
その先の言葉は容易に想像が付いてしまう。
「教員は学園の訓練機を使用し、空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに対応してもらう」
「――――――」
言葉が出てこない。それも当然だ。
学園上層部は俺たち八人でもって軍用ISを鎮圧しろと言っているのだ。
――正気じゃない。無理に決まっている。
軍事ISは一般的なISの
それが専用機であろうと、学生の領域にしかないISでは勝てるわけがない。
「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい」
最初に手を挙げたのは、セシリアだった。
彼女も俺と同じ感想を抱いているらしい。
「目標IS『福音』の詳細なスペックデータを要求します」
いや、そうじゃないだろ。こんな作戦は無茶苦茶だって言うんじゃないのか?
どう考えても俺たち学生が対応出来るような案件じゃない。セシリアが国家代表候補生だとはいえ、相手は軍従事者だ。技量も、機体性能も、何もかもが違うんだ。下手をすれば撃墜されるのは俺たちの方だ。
それを理解できないセシリアじゃないはずだが……
「当然の要求だな。ただし、これらは三カ国の最重要軍事機密だ。決して口外しないとこの場で誓え。もしも情報が漏洩した場合、諸君には連帯責任として査問委員による裁判などの問題が発生する」
「もちろんです。了解しました」
セシリアの覚悟は既に決まっているらしい。
……そういえば、国家代表候補生はISを勉強する一環として軍事関係のことも一通り叩き込まれているんだったか。そりゃそうだよな、人を殺すことが可能な兵器を扱うのにライセンスが必要ないなんて、普通じゃない。異端なのは俺たち男子だけであって、彼女たちは軍人と言って差し支えないのか。
空中投影ディスプレイに『
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃が可能な機体のようですわね」
「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を遥かに上回ってるから、向こうの方が圧倒的有利……」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、それだって連続で被弾したら厳しい気がするよ」
「しかも、このデータでは近接時の性能……つまり格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからなければ、操縦者の技量だってわからん。偵察は行えないのですか……」
「……む、難しいと、思う。福音は音速で飛行できるから……も、目視やハイパーセンサーに引っ掛からないで偵察は不可能に近い……」
……セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪が真剣に意見を交わし合っているが、それを俺はただ黙って見ているだけしかできないでいた。正直な話、俺はこれを辞退すべきだと考えている。
こういうのは教師陣に任せるのが最も最適な答えだろう。
「そうだな。現在は音速での活動していないが、下手な偵察は撒かれてしまうだろう。もしも交戦するのであれば一撃でもって堕とすしかないだろう」
「ということは、軍用ISでさえ一撃で堕とすほどの攻撃力を持った機体で当たるしかないでしょうね」
ということは、だ。
当然ながら一人の人物に視線が集まることになる。
「え……?」
そう、一夏だ。
一夏の専用機である『白式』には《零落白夜》という一撃必殺の兵装があるからだ。
当てなければ意味のない兵装だとしても、当てさえすれば軍用ISであろうと堕とすことができる。
だが、それは理論上の話だ。
俺たちが日常的に行っている模擬戦では精度が上がってきているとはいえ、必中の攻撃とはいかない。それも音速戦闘ともなれば余計に命中精度は落ち、一瞬の隙が致命的となる。
もしも、そのチャンスを逃してしまうようなことになれば……
「あんたの零落白夜で堕とすのよ」
「ええ、それしかありませんわね。ですが、問題は――」
「も、問題は……どうやって、福音に攻撃を当てるか……」
「それもあるけど、一夏をどうやって福音まで移動させるかだね。全エネルギーを零落白夜に注がないと効果は薄いだろうから、移動に無駄なエネルギーは使えないよね」
「うむ。それには一夏と随伴する機体が音速で活動できなければいけないな。そうなれば超高感度ハイパーセンサーも必要になってくるだろう」
当の本人が突然の状況に付いてこれていないにも関わらず、各国の代表候補生たちは会話を進めていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が行くのは確定なのか!?」
「「「「もちろん」」」」
いつものメンバー、簪を除いた四人の声が重なった。
「織斑。これは避難訓練のような安全なモノではない。命を落とす可能性だって否定できない実戦だ。もしも、覚悟がないのなら、辞退しても構わない」
いつもは厳しい織斑先生だったが、優しげな声色で弟である一夏に声をかける。
……それも当然か。実の弟が自分の領域ではない戦場へ行くというのだから。
だが、その言葉は一夏にとっては最後の言葉であり、決断の言葉でもあった。
「――やります。俺が、他でもない俺がやってみせます」
覚悟を決めた顔で、一夏はそう言った。
「……よし。では肝心の作戦内容へと入る。現在、専用機持ちの中で最も速度の出る機体はどれだ」
「それならば、わたくしのブルー・ティアーズがそうですわ。丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』がテスト用で送られてきていますし、都合の良いことに超高感度ハイパーセンサーも付属しています」
セシリアが言う『パッケージ』とは、全てのISが持っている換装装備のこと。
通常の兵装だけではなく、追加の重装備や増設スラスターに拡張エネルギーなどを搭載した物を指し、そのバリエーションは無数に存在している。かく言う俺のシルヴァリオ・ヴォルフにも『オートクチュール』などと呼ばれる機能特化専用パッケージが存在しているらしい。らしいというのは、情報でしか見たことがないからだ。
そして、そのパッケージを追加装備することで機体の性能や性質を変化させることで戦闘スタイルを大きく変化させ、様々な行動を可能になる。まあ、学園内ではほとんどの生徒が
しかし、それにしても……絶妙なタイミングでのパッケージ支給だな。
まさかとは思うが、イギリスの仕込みだったりはしないよな?
いや、それはないか。する理由が見当たらない。
仮にこれが仕組まれたものだとすれば、そいつは何がしたいのか。
「……超音速下での戦闘訓練時間は?」
「20時間です」
「適任、か。では――」
決まりだ、と織斑先生が言おうとした時――
「待った待った待ったー! その作戦、ちょーっと待った~!」
その声は、天井から聞こえてきた。
幻聴でなければ、この声は……
「……はあ。山田先生、部外者を強制排除してください」
みんなが天井を見上げる中、織斑先生だけは見上げようともせずに頭を押さえながら心底嫌そうな声で山田先生に命じた。
「は、はいっ。あ、あの、篠ノ之博士? と、とりあえず天井から……」
「ほいっ♪」
くるくるっと、体重を感じさせない軽やかさで降りてきた。
その身のこなしは常人の域を軽く越えている。天才の名は伊達ではないということか。
「ちーちゃん、その作戦に待ったを掛けるよ~! 意義ありっ! ってやつだねっ!」
「……いいから出て行け、邪魔だ」
まともに取り合おうとはせず、別の方へと歩いていこうとする織斑先生だったが……
「ちゃんと聞いてよちーちゃん! ここは断然っ! 紅椿の出番なんだよっ!」
「…………」
その言葉に織斑先生は足を止める。
「紅椿のスペックデータをよく見て! パッケージなんか用意しなくても簡単に超高速機動戦闘ができるんだから!」
俺たちを囲むようにして無数の空中投影ディスプレイが現れ、そこには紅椿の詳細なスペックデータが事細かく表示されている。一般人が見ても意味不明な情報の羅列にしか見えないが、ある程度の知識を有する人からしてみればまるで宝のような情報群だろう。立っている簪が食い入るようにして見ているのがその証拠だ。
「ふふん、この束さんの手に掛かればお茶の子さいさい~っと。この通り、ホラ! これで速度の問題は解決だよ?」
この通り……って言われても、この場にいる人のほとんどが理解出来てないと思うんだが。
この展開装甲ってのはなんだ? 紅椿の固有兵装か何かか?
というか、いつの間にか福音の情報を表示していたディスプレイも掌握してるし……
「そこのしーくん! よ~く気が付いたね! 展開装甲が気になるのかな~?」
「え、あ……まあ、はい」
「そっかそっか~! じゃあ説明してあげましょ~う! 展開装甲というのは端的に言うとだね、この天才にして最強な束さんが作った第四世代型ISの装備だよーん」
……第四世代型、IS。
そういえば、ヴォルフがそう言っていたな。
先に知っていた影響で驚きは少なかったが、他の面々は違ったらしい。
皆一様に驚きの表情を浮かべている。
「はーい、ぽか~んとしているいっくんのために解説始めちゃうよ! 嬉しいかい? 嬉しいよね! まず、第一世代というのは『ISの完成』を目標とした機体というのは知ってるかな? その次に作ったのが『後付武装による
……いや、これは。
「は、はあ……。え、いや……えっと?」
こういう反応が正しい反応というヤツだよな……
だって世間的には第三世代が最新作であり、その第三世代でさえ試作機が出来たばかりの段階なのだ。それをこの人は一段回ほどすっ飛ばして実現させたということになる。
「つまり、要約すると『束博士は天才』ってことですよね……?」
「そう! それだよしーくんっ! いやあ、しーくんは見る目があるね!」
「いえ、恐縮です……」
………………うっわ、この人めっちゃチョロい。
「ん? 何か言った?」
「な、何でもないですよ」
おっと、危ない。
危うく口から溢れるところだった。
「これぐらいのことは束さんにとっては朝飯前。いや、三時のおやつ前って感じかな!」
別に上手くないですからね、それ。
「具体的に言うとだね、白式の《雪片弐型》に使用されていまーす! 謂わば試験的運用ってやつだねっ」
『えっ』
この場にいる織斑先生を除いた全員の声が重なった。
言葉通りに受け取るなら、一夏の専用機である『白式』も部分的に第四世代型ISということになる。
それを驚かずにスルーするのはムリだ。
「それで、不具合が出なかったので紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼働時のスペックは表記上の倍ってとこかなっ」
「えっ、ちょっ、え、は? 全身が、雪片弐型と同じ強度? それって……」
うん。それって、もしかしなくても……
「うん。無茶苦茶強いね。もうサイキョーって感じだね」
……で、ですよね。
「ち・な・み・に★ 紅椿の展開装甲は通常のモノよりも更に魔改造を加えたタイプだから、攻撃・防御・機動といったありとあらゆる部分を切り替え可能。これぞ第四世代型の目標地点である
その言葉に全員が絶句。
何かを言おうという気すらも起きず、言葉すら出てこない。
まさに絶句。まさかこの歳でこんな状況に遭遇するとは思わなかった。
――リアルタイム・マルチロール・アクトレス。
それの意味するところは、実に簡単だ。
既存の戦車や戦艦に戦闘機には向き不向きというものが存在している。
が、この機体にはそれが当てはまらないのだ。
戦車は陸では戦えるが上空で制空権を取ることは出来ないし、海に潜水して攻撃することはできない。それが常識であり戦車としての正しき姿だ。
……だが、彼女が言っているのはこういうことだ。
戦車であろうとも、
こんなのは、滅茶苦茶な発想だ。
これ一つあれば世界を掌握できるといっても過言ではない。いやマジで。
(勝てるのか? この化物に俺たち人類は勝てるのか?)
もしも、目の前にいる篠ノ之博士が世界に反旗を翻したら。
今の世界では間違いなく勝てないだろう。
それはとても怖いことだ。だって、今この瞬間でさえ彼女に心臓を握られているのと同義なのだから。
《――勝てますよ》
今まで黙っていたヴォルフが口を開く。
《貴方と、私の力があれば何者にでも勝てます。相手が第四世代であろうとも、
……ああ、ヴォルフがそう言うのなら、勝てる気がするよ。
もしも、その時が来たら頼む。
《
まさか、ISに励まされるなんてね。
「あれ? 何でみんなお通夜みたいな顔してるの? 誰か死んだ? 変なの」
……変なのは貴方ですよ、とみんなが言いたげな顔していた。
俺だって言ってやりたいくらいだ。
「――束。前にも言ったはずだぞ。やり過ぎるな、と」
「そうだっけ? えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」
てへっ、と舌を出しながら織斑先生に弁解する束。
「あ、でもほら。まだまだ不完全だからさ! そんな顔しないでよ、いっくん。いっくんがそんなだと束さんはイタズラしたくなったちゃうよ~」
何を思ったのか束はと可愛らしくウィンクを一夏にしてみせた。
非常に残念なことなのだが、このように頭のおかしい言動を取っているが彼女だが……
いや、本当に不本意な話なのだけど……束は普通に可愛いのだ。うっかり一目惚れしてしまっても不思議ではないくらいには整った容姿をしている。胸も大きいし。
「まー、今までの話は紅椿をフルスロットルでぶっ放したらって話だからね。でもまあ、これくらいの作戦をこなすのは夕食前だよん」
いや、だから別に上手い表現でもないからね?
「いや~、それにしてもアレだね? 海での暴走事件といえば、十年前の事件を思い出すねー」
……十年前?
十年前に何かあっただろうか?
《――白騎士事件。私たちが生まれ落ちるキッカケとなった最初の事件です》
思い出した。そんな事件が十年前にあったことを。
そして、その事件で俺は――俺は、俺はどうしたんだっけ?
確か、俺は――くそ、思い出せない。
まるで記憶に霧が掛かったようにして上手く思い出せない。
くそ、くそっ……あと、もう少しで思い出せそうなのに。
「いやー、世界があんなにバカだとは思わなかったね。うふふ、私の才能を信じないクセに神様を信じてるなんて、偶像崇拝もいいところだよ。束さんは実像なのにね」
白騎士事件、篠ノ之束、IS、ニ三四一発のミサイル、ハッキング、降り注ぐミサイルの雨……
「ぶった斬ったんだよねぇ。ミサイルの約半数である一ニニ一発を。あれはかっこよかったな~」
では、残りのミサイルはどうなったんだ?
いや、それよりも……あのISは何者だったんだ?
その時、俺は――――
「いやあ、あれがあったからこそ私のらぶりぃISはあっという間に広まっていったんだよね。女性優遇は、まあ、どうでもいいことだけど。いやー、暗殺に誘拐っていうスリリングな状況はなかなかに楽しかったけどね、うふふ♪」
やけに楽しそうに語る束の横で、俺は頭を押さえながら必死に記憶を辿る。
過去へ、過去へ、過去へと記憶を辿っていく。
そして、最初の記憶を――
(……俺は、誰だ?)
思い出せない。白騎士事件のことだけではない。
俺がどこで生まれ、俺がどのように成長し、どのような家族構成だったかを。
いや、姉がいるのは思い出せる。だが、両親のことが思い出せない。
俺という人間が生まれているからには両親は存在しているはずだ。
思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ……ッ!
イヤな汗が鼻頭を伝い、落ちた時――。
誰かが俺の裾を引っ張った。
「だ、大丈夫……? すごい、汗だけど」
「あ、ああ……?」
簪が心配そうな顔で俺を見上げていた。
気が付けば、既に話は終わっていたようだ。
「……ご、ごめん。ちょっと気分が悪くて」
辺りを見渡せば、肝心の束は鼻歌交じりでISを弄っていた。
肝心の作戦はどうやら紅椿で決まったらしい。
「織斑先生」
「どうした」
荒い息を深呼吸で整えてから、俺は言葉を口にした。
「すいません、今回の作戦を辞退します」
そう言って、俺は言葉を待たずに部屋を後にした。
◆ ◆ ◆
「いつまで待てばいい」
「さあな」
「おい」
「まあ、落ち着けや。物事には最高のタイミングってのが存在してんだ。それを待つだけだ」
「……わかった」
炎天下の中、浜辺に立てられたビーチパラソルの中に二人の男女はいた。
青年の方は真っ赤なアロハシャツにタクティカルサングラスを着用しており、少女の方はまるで
「なあ、それ暑くねェか?」
「そうでもない」
「ふぅん。お前が暑いってんならかき氷でも買ってやろうと思ったんだがな……」
「……なに?」
「オレがかき氷を奢ってやろうと思ったんだがまァ、暑くないってならいらねェか」
「……いる」
「あ?」
「いると言っているんだ。行くぞ」
少女はその場から立ち上がり、早足ですたすたと海の家へと向かっていく。
「……待てって。そっちにかき氷の店はねェぞ」
「…………」
少女はその場で足を止め、振り返ろうとして――
「まあ、冗談だがな」
「――殺すぞ」
振り向きざまに少女が鋭い蹴りを放つが、男はまるで予想できていたかのように少女の足を軽々と受け止める。
「あ、っぶねェな」
「……ふん」
「そうむくれるなよ。でっけえ焼きそばも追加で買ってやっからよ」
「別にそんなのはどうでもいい」
「そうか? オレにはお前が――」
二人は何の気ない会話をしながら、海の家へとまるで兄妹ようにして歩いていった。
お久し振りです。長らくお待たせしましたことをお詫び申し上げます。
そして、作者である私自身も久しぶりの執筆だったこともあり、もしかしたら作品に矛盾点が生じてる可能性が高いですが……ご容赦ください。
とはいえ、流石に物語が進行不能になるほど齟齬は御座いません。
基本はプロット通りなので、設定には問題はないはずです。
次の更新は早めにしたいと思います……。
では、次回にお会いしましょう。