インフィニット・ストラトス - 二人の男性操縦者   作:白崎くろね

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5.授業その2

「朝ご飯が食べれるって幸せだ」

 

 食堂でラーメンを啜りながら、幸せを噛み締めていた。

 今は朝の七時で、一年生寮の食堂で食事をしている。

 当然、周りには女子ばかりの状況だが……少し離れた位置に一夏と篠ノ之箒が座っている。昨日の夜に何かあったのか、その雰囲気は険悪だ。当然、近寄りたくもないので少し離れた位置で食事をしている。ああ、それにしても朝からラーメンを食べれるというのは最高だ……。学校の食堂などのラーメンはそんなに美味しくないと決まっているが、この食堂は違う。店で食べるラーメンと遜色ないのだ。

 

 ――ほんと、素晴らしい。

 

「静馬くん、隣いいかな?」

 

 気が付けば、一人の女生徒がトレーを持って立っていた。

 金髪碧眼の美少女。一瞬、セシリアを想像したが目の前にいる女生徒はタレ目ではないし、青のヘアバンドもしていない。しかも、高飛車な雰囲気を全く感じさせない女生徒は接しやすいように思える。まあ、とにかく面倒くさくなさそうな人だ。

 

「ああ、いいよ。ラーメンの臭いが気にならないのであれば」

 

 俺はラーメンのトッピングとして少量のニンニクを使用している。女子にとっては嫌な臭いになるかもしれないので、あらかじめ伝えておく。後で文句言われても困るし。

 

「大丈夫だよ」

「そうか。じゃあ適当に座ってくれ……って朝はそれしか食べないのか?」

 

 朝からラーメンなんて食べてる俺に言われたくないかもしれないが、目の前の女生徒のトレーに乗っている朝ご飯は少なかった。飲み物とパン一枚にサラダが少し。とてもじゃないが朝の活動エネルギーとしては不足していた。

 

「昨日の夜に少し食べすぎてねー」

「ああ、間食ってやつか……?」

「そうなのよ、だから朝は少しだけ」

「そうか……間食はオススメしないな」

 

 なぜ、そんな余計なことを言ってしまったのか。もしかして、俺はこの女生徒に一目惚れでもしてしまっているのではないだろうか。……ないわー。それだけはないって言えるわ。

 朝だからかうまく思考が働いていない影響だと思われる。……昨日の夜はたっちゃんに夜這いされないかの警戒をしていたら、あんまり寝れなかった。

 

「あはは、気をつけまーす」

「おう」

 

 ラーメンを啜り、やっぱりラーメンは最高の料理だと改めて認識する。麺の絶妙な硬さ、スープの濃さ、食べ応えのある大きなチャーシュー。そのどれを取っても素晴らしい。これから毎日ラーメンにしよう。

 

「あ、そうだ。私の名前はティナ・ハミルトン。ティナって呼んでね」

「そうか。必要はないかもしれないが、俺の名前は深見静馬だ……よろしく、ティナ」

 

 ティナ・ハミルトンか。珍しく女尊男卑に染まっていないタイプの女子らしい。というか、セシリア・オルコット以外は普通なのではないだろうか? 篠ノ之箒然りたっちゃん然り(内面は置いておくとして)

 

 そんなことを考えていると、食堂全体に声が響き渡る。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率的に速やかに摂れ! 遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

 ……だからさあ、この学園は士官学校かよ。それと迅速と速やかにって意味被ってんぞ。

 今すぐに食べ終わる予定の俺には関係ないことだが、グラウンド一周五キロであるからして、十周は五十キロも走ることになる。ふざけんな、朝からそんなに走れるわけないだろ。てか朝じゃなくても無理だわボケ。

 

 ラーメンのスープを一気に胃へ流し込み、飲み干す。

 

「じゃあ、俺は行くわ」

「うん、またね」

 

 平静を装ったが、流石に一気飲みはキツい……腹から飛び出しそうだ。うっ……。

 吐き気と熱をもった胃の痛みに耐えながら、教室へと向かった。

 

 

 ◇

 

 ■休み時間

 

 ――助けてくれ、誰か。

 

 この状況をつくったのは俺だ。悪いのも俺だ。言い訳のしようがないまでに俺が悪い。

 ああ、間違いなく全て俺が悪いのだ。……だが、言い訳の用意をさせてくれ。

 

 そして、この状況を説明するのは非常に簡単だ。

 

 ――俺は、セシリア・オルコットとの約束を完全に忘れていた。

 

 さて。この件に関しての言い訳は簡単だ。決闘が決まった時点で、この約束はなくなったものとばかり考えていた(実際は忘れていた)という言い訳が考えられる。うーん、完全に俺が悪いのに言い訳なんて更に俺って奴は最悪じゃん。

 

「わたくしの話を聞いていますの!?」

「あ、ああ……聞いてるよ……アレ、だろ? 俺が放課後の約束を忘れてたって話」

「ええ、そうですわ! 日本の殿方は人との約束も守れないんですの!?」

「本当に悪かったってば……」

 

 俺は席に座りながら、必死に謝っていた。

 ……いや、少し語弊があるな。俺は席に座りながら、立っているセシリアに謝っているのである。

 どう見ても悪いと思っている人間の態度ではない。

 

(……マジで面倒なことになったな。人との約束は破るべきではない、ほんと)

 

 だから、俺はこの面倒なことを終わらせることにしよう。

 俺は席から立ち上がり、用意していた言い訳を言う。

 

「えっと、悪かったよ……本当に悪かったって思ってる。セシリア・オルコットさんに不満がなければ、今日の放課後にでも約束を果たしたいって思ってる……でも、ごめん。今日はちょっと約束があるんだ」

「……っ。わ、わたくしとの約束は反故にして他の人の約束は守るんですの!」

「ぐっ……ごもっともで。これは言い訳になるんだけど、俺と君は一週間後に決闘するわけだろ? だったらお互いに教え合う立場ってのは違うんじゃないかな」

 

 ……うっ、我ながら酷い言い訳だ。もっと酷いのは俺だ。この言い訳を考えるのに罪悪感なんて一切出てこなかった。この面倒事を回避できるなら、騙すようなことになってもいいとさえ思っていた。

 それに、彼女に教えてもらうのも面倒だったし……。だってセシリア・オルコットって男性嫌いでしょ。

 

「ふん。ええ、それは言い訳ですわね。ですが、きちんと謝ったあなたに免じて許して差し上げますわ……ただし! 決闘はきちんとやってもらいますわよ!」

「あ、ああ……本当に悪かったな」

「いえ……わたくしも昨日は言い過ぎたと思っていたんですのよ」

 

 なんだろう、この人が素直だと調子が狂うなあ……。これじゃあ本当に俺が悪いみたいじゃないか。

 どう考えても俺が悪いんだけどさ。

 

 無事に休み時間は潰れたのだった。

 

 ――今日の教訓その一。人との約束は守ろう、だ。

 

 

 ◇

 

 

「――というわけで、ISは宇宙での活動を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸酸素量、発汗量、血圧、脳内エンドルフィンなどが挙げられ――」

「センセ、それって大丈夫なんですか? なんか、身体の中をいじくられてるみたいでちょっと怖いんですけど」

 

 もっともな質問だが、その心配はない。高度な安全装置であると考えればいいのではないだろうか。操縦者の状態を管理し、危険が及ばないように機体の調整を行う。そういうことだと俺は考える。

 まあ、あの奇妙な一体感というか、シンクロ現象的なアレは慣れないかもしれないが。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、みなさんはブラジャーをしてますね? あれはサポートこそすれ、自身にあったサイズのものを着用しないと、形が――」

 

 山田先生がそこまで言い掛けたところで、顔を赤くさせた。

 きっと俺たちのことを考慮していなかったのだろう。

 

「え、いや、その、お、お……織斑くんたちはしていませんよね! ご、ごめんなさい……あは、ははは」

 

 ……それ以前にブラジャーの例えはあまり上手くないと思うんだが?

 どっちかって言うと、スク水とかの方が近いんじゃねーの。 

 その雰囲気に流されたのか、周りの女生徒たちは一斉に腕組むように胸を隠し始めていた。

 隣の席のセシリア・オルコットも、キッと俺を睨んでいる。

 

 ――ああ、これが正常な判断だ。

 

 たっちゃんの痴女的行動を思い出し、心の中で苦笑する。

 

 なぜか急に心が穏やかな気持ちになり、隣のセシリア・オルコットに微笑みを返す。

 すると、更に睨まれてしまった。解せぬ。

 

 ちなみに俺は下着がどうので騒いだりはしない。

 だって、絶対に面倒なことになるじゃん。それなら騒がず慌てずが一番だ。

 敢えて言っておくと、別に興味がないわけでもないし、俺だって健全な男子高校生だ。少しくらい嬉しい気持ちになったりぐらいはする。

 

「ん、んんっ……! 山田先生、授業を」

「は、はいっ!」

 

 そういえば、なんで織斑姉はずっと黙って見ているんだ? 新人教育?

 

「もう一つ大事なことがありますっ。ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話……つ、つまり共に過ごした時間によって分かり合うことが、ええと、操縦時間によっては、IS側も操縦に理解を深めようとする特性が……」

 

 しどろもどろだったが、要はISに乗ることで適正ランクが上がったり、熟練度が上昇しますよーってことだ。もちろん、夜中に予習していた俺に隙はない。

 そんな山田先生の説明に、いかにも女子高生的な質問が飛んでくる。

 

「せんせー、それって恋人のような感じですかねー?」

「そ、そっれは……どうでしょうか……私には経験がないので……」

 

 ……え。山田先生って彼氏いない歴イコール年齢の人種なのか。

 うーん、なんかモテそうなんだけど。普通に庇護欲的なやつが働きそうだけどなあ……。

 

 赤面し、俯く山田先生を尻目に、クラスの雰囲気はどんどん糖度が増していく。なんだろうな、これが女子校的ノリってやつだろうか。知らないが、男である俺には少々居心地が悪い。

 

 そんな時、終了の鐘の音が鳴った。

 

「次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからねっ」

 

 ふむ……割りと楽しみではあるな。普通の男子であれば、ようやく踏み込んだ内容に入るのかー! って感じだ。まあ、俺も椅子に座って授業を受けるよりは実技の方が好みだし。

 

「あのあのあの、深見くんっ」

「ん?」

 

 授業が終わるや否や女子が近寄ってきた。

 どうやら一夏のところでは三、四人程度の女子が質問を投げかけている。

 ……ああ、そういうことね。

 一夏に質問できる人数は、現実的に考えても五、六人程度。それに全ての女子が一夏に興味を持っているわけでもないだろう。そこで、俺の存在が目立つわけだ。俺だって男性操縦者なわけだから、女子も多少の興味があるはず。一夏のようなネームバリューがなくとも。

 

「質問か?」

「うんっ、深見くんってお姉ちゃんがいるって言ってたよね?」

「ああ、よく聞いてたな」

「忘れるわけないよー」

「そりゃそうだよなあ」

 

 うん、一夏が馬鹿なだけだった。

 

「それで、お姉ちゃんがどうかした?」

「千冬様みたいにISで有名なのかなーって」

 

 気になるよなあ、そりゃ。

 男がISに乗れる可能性として真っ先に考えられるのが、遺伝子の似た姉弟か両親の存在だろう。

 一夏の姉はブリュンヒルデと呼ばれる元チャンピオンなのだから。

 

「期待してるところ悪いけど、俺のお姉ちゃんはIS関係者じゃないよ」

「そうなの?」

「あー、でもお姉ちゃんの写真ならあるけど」

「えっ、見たい見たい!」

 

 ちょっと待ってね。と返事を返し、携帯端末をポケットから取り出す。

 たしか、旅行の時に撮った写真があったはず。

 ……っとと、これだ。

 俺はお姉ちゃんの写真を画面に表示させ、目の前の女子に見せる。

 

「ほれ、これ俺のお姉ちゃん」

「どれどれ……ってすごーい美人っ!」

 

 雪原を思わせるような白い髪に、血の一滴みたいな赤い瞳。儚げな印象のある女性だが、写真に映っている俺の隣で満面の笑みを浮かべているのがお姉ちゃん。

 名前は深見神夜。年齢は十九歳で、現在は大学に通っている。ただ、最近は政府の保護プログラムかなにかでお姉ちゃんは政府の用意した家で暮らしているらしい。というのは、俺にも情報があまり回ってこないからだ。

 お姉ちゃんが無事に暮らしているのなら、心配はない。たまに連絡もくるしな。

 

「家では一緒に暮らしてたの?」

「あー、まあな。俺がISに乗れるって決まってからは会ってないけど」

「ぁ、そ、それは」

「いいや、連絡取ってるし。気にしないで」

 

 思うところがないわけでもないが、別に過ぎたことをあれこれ言うのはな。

 それに、同じクラスの女子に不満を漏らしたとして、俺にメリットが全くない。

 

「織斑、お前のISだが準備に少し手間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから、待て。学園が専用機を用意するそうだ」

 

 そんな声が聞こえてくる。

 一夏には専用機が用意されるのか。なんて他人事のように思っていたら、織斑姉が俺にも声を掛けてきた。

 

「あー、深見。お前にも専用機が用意されることになった」

「……あ?」

 

 その事実に、周囲の女子は色めき立った。

 

「せ、専用機!?」

「つまりそれって政府の支援よね……」

「私も欲しいな~、織斑くんが羨ましい~」

 

 女子はそんな感じで騒いでいる。

 そして、一夏は何故か顔に疑問符をたくさん貼り付けていた。

 

(まさか、専用機のことを知らないのか?)

 

 あ、ありえる。あの一夏ならばありえる。

 

 そんな一夏の様子に、織斑姉はうんざりとした表情をしていた。

 

「……教科書、六ページ。音読してみろ」

「え、えーと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中枢たるコアを作る技術は篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外の人物はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』……」

「そういことだ。本来なら、IS専用機は企業などに所属する人間にしか与えられない。が、お前らの場合は稀有なケースとして、専用機が用意されることになった。とどのつまりデータ収集が目的だ。理解したか?」

「な、なんとなく」

 

 ……え? ここまで説明されて、なんとなく? 

 お前は馬鹿なのか……絶対に馬鹿だ……。

 要はコアの数に限りがあって、そのコアも篠ノ之博士にしか作れない。しかも博士は新たなコアの製造を頑なに拒絶。そして、俺たちは政府のモルモットってわけだ。

 

 そんな中で、クラスに一つの疑問が生まれた

 

「あのぉ、せんせー。篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者ですか?」

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

 ……あいつ。今、織斑姉はあいつって言ったな。

 もしかして、織斑姉は篠ノ之博士と関係があるのだろうか? 

 まあ、だからなんだって話だが。

 

「ええええ~! このクラスには有名人の身内がふたりもいる!?」

「わたし、このクラスになって良かったよぉ~」

「篠ノ之さんも天才なのかなぁ……今度、指南してもらっちゃおうかな」

「も、もしかして……深見くんも関係者の一人!?」

「あ、深見くんは関係ないみたいだよ」

 

 などなど。周りの女子はキャッキャと騒ぎ立てる。

 

「あの人は関係ない!!」

 

 突然の大声に、俺は身体をビクッとさせた。

 

「すまない……だが、これだけは言っておく。私はあの人じゃないし、教えられるようなことは何もない」

 

 そう言ってから、篠ノ之箒は窓の外へそっぽ向いた。

 あの天才の妹とあっては、色々と気苦労が絶えず姉の存在がコンプレックスに感じているんだろう。

 俺にも、そんな時期が――

 

「さ、授業を始めるぞ」

 

 山田先生は慌てながらも、授業をはじめたのだった。




うーん、少し展開が遅いですかね?
でも、1巻部分は導入的な感じでやっていきたいのでご容赦ください。
それに変に原作部分を飛ばすと、話の展開がよくわからなくなるんじゃないか?
って考えもありますので。

ちなみに、この作品では原作で空気のようなキャラにも活躍してもらう予定です。
その際にオリジナルの設定をぶっ込むかもしれませんが、頑張ります。

*静馬はラーメンが大好物

*実は静馬も一夏同様にシスコン

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